ブルーロック夢
「ねえ青ちゃん、手が冷たいと心が暖かいって話、聞いた事ある?」
里穂子はそう言いながら隣を歩く男ーー時光青志の頬に手を伸ばした。
「えっ? あ、うん。聞いた事あるーーうっ、里穂ちゃんの手、冷たい」
青志の頬は、異常なまでに鍛えられた筋肉に覆われた体の何処よりも柔らかく、ムニムニすると癒されるため、里穂子はよくこうして触っている。
「ふふ、今日も柔らかいね」
「やめてよぉ」
そう言いながらも青志の頬はゆるんでいく。
「あ。じゃあ俺の手は……」
青志の大きな手が里穂子の方へ伸びてきた。大好きな彼氏の手だ、触らずにはいられない。名残惜しいが、頬をもうひとムニしてから青志の手を取った。
里穂子の手とは打って変わって、燃えるように暖かい。
「わぁ……部活してきたからかな? すごく暖かいね!」
「だよね、だから俺の心は冷たいんだろうなぁ……あー……俺、ホントにダメだなぁ……」
しまった。青志のネガティブが始まる。
付き合うよりもずっとずっと前から青志の傍にいた里穂子は、彼のネガティブな発言を聞いても得にマイナスの感情は抱かないのだがーー部活動で忙しい青志とゆっくり過ごせる大切な時間だ。
今日はなんとしても、この気持ちのまま帰りたい。
「あーあ!」
青志の独り言をかき消すかのように、里穂子は大声をあげた。青志の体はびくりと跳ね、八の字眉毛をさらに下げてこちらを見つめてきた。きっと里穂子が怒ったと思ったのだろう。謝ろうと口を開いた青志に、里穂子は右手を差し出した。
「手が冷たくて寒いなあ! このままじゃ私、風邪引いちゃうなあ」
「え……あ!」
少し経ってから里穂子の言葉の意味が伝わったようで、青志は里穂子の手をーー取ろうとして手を引っ込め、慌ててコートでゴシゴシと拭いてからーー取り、力強く握りしめてくれた。
「へへ。ほら、青ちゃんは手も心も暖かいよ」
里穂子も強く握り返す。途端に青志の頬は赤くなる。
「嬉しいけど……そう言ってくれるの、多分里穂ちゃんだけだよ」
「そんなことないと思うけど……まあ、青ちゃんのことは私だけが分かってればいいかな。さ、帰ろ帰ろっ!」
青志の熱が移ったのだろう、頬を撫でる風が冷たくて心地よい。でもずっとこの熱に浮かされていたいーーそんなことを思いながら、里穂子はもう一度青志の手を強く握りしめた。