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ブルーロック夢



ねえ りほちゃん おおきくなったら ぜったい けっこんしようね!
うん! わたし あおちゃんのおよめさんになる!
やくそくだよ はなればなれになっても わすれないでねーー。

ひどく、懐かしい夢を見た。
これはーー幼稚園のころの記憶だ。
今、夢に見るまですっかり忘れていた記憶。
「……里穂ちゃん、忘れてくれてたらいいなあ」
時光青志は寝ぼけ眼でカーテンを開け、すっかり寝静まった住宅街に目をやった。

テレビの向こうで華麗なプレーを魅せる沢山のサッカー選手に憧れ、自分も同じようになりたいと幼稚園の頃から始めたサッカー。
当然だが、憧れの選手たちのようにシュートを決めることは容易ではなかった。
パスもカットもドリブルもーー上手くできない自分が、嫌だった。自分ができないことを軽々とやってのける周りの子達が羨ましかった。だから沢山練習をした。けれど時間に見合った結果は、すぐにはついてこなかった。
練習すればするほど、自分を肯定し認めることも上手くできなくなっていった。残ったのは底なしのネガティブ思考と、爪を噛んで心を落ち着かせる行為。そして自信のなさから生まれた、みっともなく背中を丸める癖。
それでも幼稚園のときから小・中そして高校生になった今でも、里穂子は青志の傍にいてくれる。時に励まし、時に強い口調でアドバイスをしてくれる。どんなことがあっても決して青志を否定しなかった。
一つ学年は下だが、青志のことになると誰に対しても対等かつ物怖じせず行動する里穂子に対し、幼少の頃よりもっと強い好意を抱くのにそう時間はかからなかった。
そして成績優秀な彼女が進学校ではなく、スポーツ……特にサッカー部で有名な達磨東高校へ進学を決めたことも、自分が居たからだろう。
それがとても嬉しくて、同時にひどくーー嫌で。

もし、里穂子がまだ幼稚園の頃の約束を覚えていて、『けっこんしようね』……それが彼女の枷になっていたら?
もういっそ青ちゃんなんて嫌いだと言って、里穂子のことを一番に想ってくれる人と結ばれてくれたら。自分以外の誰かの隣で、幸せそうに笑ってくれていたら。
それが一番、良いんじゃないか。
こんな自分なんかよりもずっとずっと。
「……いや、だ。嫌だ、嫌だ、そんなの嫌だぁ……」
自分で想像しておいて勝手に傷ついているだなんて、なんて惨めで滑稽だろう。それでも里穂子ならきっと「色々悩むってことは、それだけ青ちゃんが優しいってことなんだよ」と笑ってくれるだろう。
どんな自分でも受け入れてくれる。
ーーそんな里穂子に今自分ができることは?
「いま俺が……しなきゃいけないこと、は」
足元に転がるダンベルを拾って、ただそれを上下することだけに意識を向けた。
どうかこの暗くて孤独に包まれた終わりのない夜が、一刻も早く明けますようにと願いながら。


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