サファイアブルーの空を飛んで
しばらく無言で空を眺めていたが、くしゅん、と小さなくしゃみで現実に引き戻される。
ゆっくりと夜が迫ってきている。
今度はアルフレッドがリツカの袖を引っ張った。そろそろ、と。
またふたり歩き出した。
弾む足取りの彼女に「機嫌直った?」と聞く。
「元々悪くないもん」そう言ってくすくすと笑う姿につられて、ふっと笑みが零れる。
「ね、明日も会おうよ」
気が緩んだか、まるでデートに誘っているようなことを口走ってしまった。きょとんとした顔のままでいてくれと願いながら慌ててその誘いの本意を付け足す。
「ほら! どうしてここに来たのかとか……ステラのこととか! まだ教えてもらってないし」
ああ、と納得の顔。良かった、変な風に捉えられなくて。
「俺が君の家に行くよ。朝の九時とかどうかな」
「うん、いいよ」
約束ね、とリツカは嬉しそうに笑ってスキップし始めた。
ふと先程見ていた方角の空を見る。
あの色はもうそこには無く、深い闇の中に星々がひそひそと輝いているだけだった。
彼女の家に着いた。
何よりもまず先に財布を落とした辺りへ行く。
すぐ見つかったようで、リツカはそれを拾い上げ「すっかり冷たくなってるけど、ちゃんとあったよ」と教えてくれた。中身もそのままだと言われアルフレッドは胸を撫で下ろした。
じゃあ、と別れの挨拶を告げようとしたがリツカの声に遮られる。
「のんびり歩いてたらすっかり暗くなっちゃった、ごめんね」
ジョンさんの言ってた通りこれじゃ危ないな、と言いながら庭に向かったと思いきや、すぐこちらに駆け寄ってきた。
手には一輪の赤いガーベラ。リツカは花弁にそっと唇を落とす。
その瞬間、花びら一枚一枚にゆっくり、じわじわと染み渡るように柔らかい光が灯る。
「今の魔力だとこれが精一杯かな……。でも、帰る頃までは光ってると思うよ」
はい、と差し出された花に目が奪われて逸らせない。心臓が周りの音をかき消すぐらい高鳴る。
ガーベラを手に取る。
魔法。魔力さえあれば何でも出来てしまうのではないかという恐ろしさ。それと少し……本当に、ほんの少しばかりあやかりたいと、願えば今の自分を救ってくれるんじゃないかと、一瞬でも思ってしまった自分の醜い欲求。それに対する嫌悪。
そして、そしてーー
(くる、しい)
いくつもの込み上げてきた感情が一つの塊となって喉を封じる。息が吸えない。目の奥がちかちかする。
黙り込み、浅い呼吸を繰り返す。
「……大丈夫?」
リツカは心配そうな顔で、先程貸したマフラーをアルフレッドの首に巻いた。
知らない甘い香りがする。その甘さに心の内を見透かされそうで、早くその匂いを外へ出そうと、肺の中を空っぽにしようと大きく息を吸う。
ーー吸える。喉のつかえが消えていく。
「じゃ、あ、また。あした」
ふわふわと揺らぐ大地を蹴り上げてその場を後にした。
ゆっくりと夜が迫ってきている。
今度はアルフレッドがリツカの袖を引っ張った。そろそろ、と。
またふたり歩き出した。
弾む足取りの彼女に「機嫌直った?」と聞く。
「元々悪くないもん」そう言ってくすくすと笑う姿につられて、ふっと笑みが零れる。
「ね、明日も会おうよ」
気が緩んだか、まるでデートに誘っているようなことを口走ってしまった。きょとんとした顔のままでいてくれと願いながら慌ててその誘いの本意を付け足す。
「ほら! どうしてここに来たのかとか……ステラのこととか! まだ教えてもらってないし」
ああ、と納得の顔。良かった、変な風に捉えられなくて。
「俺が君の家に行くよ。朝の九時とかどうかな」
「うん、いいよ」
約束ね、とリツカは嬉しそうに笑ってスキップし始めた。
ふと先程見ていた方角の空を見る。
あの色はもうそこには無く、深い闇の中に星々がひそひそと輝いているだけだった。
彼女の家に着いた。
何よりもまず先に財布を落とした辺りへ行く。
すぐ見つかったようで、リツカはそれを拾い上げ「すっかり冷たくなってるけど、ちゃんとあったよ」と教えてくれた。中身もそのままだと言われアルフレッドは胸を撫で下ろした。
じゃあ、と別れの挨拶を告げようとしたがリツカの声に遮られる。
「のんびり歩いてたらすっかり暗くなっちゃった、ごめんね」
ジョンさんの言ってた通りこれじゃ危ないな、と言いながら庭に向かったと思いきや、すぐこちらに駆け寄ってきた。
手には一輪の赤いガーベラ。リツカは花弁にそっと唇を落とす。
その瞬間、花びら一枚一枚にゆっくり、じわじわと染み渡るように柔らかい光が灯る。
「今の魔力だとこれが精一杯かな……。でも、帰る頃までは光ってると思うよ」
はい、と差し出された花に目が奪われて逸らせない。心臓が周りの音をかき消すぐらい高鳴る。
ガーベラを手に取る。
魔法。魔力さえあれば何でも出来てしまうのではないかという恐ろしさ。それと少し……本当に、ほんの少しばかりあやかりたいと、願えば今の自分を救ってくれるんじゃないかと、一瞬でも思ってしまった自分の醜い欲求。それに対する嫌悪。
そして、そしてーー
(くる、しい)
いくつもの込み上げてきた感情が一つの塊となって喉を封じる。息が吸えない。目の奥がちかちかする。
黙り込み、浅い呼吸を繰り返す。
「……大丈夫?」
リツカは心配そうな顔で、先程貸したマフラーをアルフレッドの首に巻いた。
知らない甘い香りがする。その甘さに心の内を見透かされそうで、早くその匂いを外へ出そうと、肺の中を空っぽにしようと大きく息を吸う。
ーー吸える。喉のつかえが消えていく。
「じゃ、あ、また。あした」
ふわふわと揺らぐ大地を蹴り上げてその場を後にした。