サファイアブルーの空を飛んで
外の空気はひんやりしている。
自分用にと持ってきたマフラーを、パーカーの袖を丁度良い長さに捲っているリツカに巻き付けた。
至れり尽くせりされるがままの彼女は唇を尖らせている。
「私って子どもっぽく見えますか?」
「ごめんごめん、ジョンはお節介焼きでさ。子ども扱いしてる訳じゃない……と、思うよ」
曖昧な返事にリツカはむぅ、と頬を膨らませた。そんな仕草をするから子どもっぽく見えるのではないかと思ったがそっと飲み込む。
カサカサと枯葉が舞う。久しぶりの晴れが嬉しいのか小鳥の歌声が高らかに響いている。じゃり、と小石と靴が擦れる音がふたつ。
その心地良さを肌で感じている中、リツカが問い掛けてきた。
「そういえば、貴方は何歳?」
「十八だよ」
リツカの歩が止まる。
距離を詰めてずいっとこちらの顔を覗き込む。睫毛を一本一本見るかの如く。そして青い瞳にきらきらと光を泳がせ「おんなじ歳なんだ」と悪戯っぽく笑った。
だから、ほら。
そういう仕草を、そういう表情をするから。
「……同い年には見えないな」
つい本音が零れる。もちろん悪い意味でそう言ったつもりではない。が、リツカは一瞬ムッとした顔をし、しょんぼりと肩を落とす。そしてマフラーを靡かせながら再び歩き出した。さっきより少し早い速度で。
拗ねたり、笑ったり、落ち込んだり。短い時間の中でくるくると変わる様子は見ていて飽きないな、なんて思いながら彼女の後を追う。
「そうだ、かしこまった喋り方はナシでいこうよ」
ん、と小さな返事が聞こえたような気がした。
「……怒ってる?」
「ううん」
小走りで隣へ行き顔を覗き込もうとするが、ぷいっと逸らされる。どう考えてもその態度は怒っているとしか思えない。
どうしたものかと頭を掻こうとした腕をぐいっと引っ張られる。一体何を、とリツカを見る。
こちらを見ずに空を指さしている。
「ーー見て!」
見上げればブルーとピンクのグラデーションがそっと世界を包んでいる。
「ビーナスベルトだ」
「ビーナス……?」
初めて聞いた言葉だ。
「日本でだけそう言うのかな。私のお父さんがこの空の名前だよって教えてくれたんだ。……昔、ね」
「そうなんだ」
ビーナスベルト。柔らかくて優しい色。
何度も見ているはずなのにその名前を知ったからなのか、脳に焼き付いていく感覚。
でもその言葉は耳に馴染まなくて、きっとそう遠くない日に忘れてしまうだろう。
けれど。
(多分、ずっと忘れないんだろうな)
今日の空を。リツカと見たことを。
どうしてそう思ったのかは分からないが、そんな気がした。
自分用にと持ってきたマフラーを、パーカーの袖を丁度良い長さに捲っているリツカに巻き付けた。
至れり尽くせりされるがままの彼女は唇を尖らせている。
「私って子どもっぽく見えますか?」
「ごめんごめん、ジョンはお節介焼きでさ。子ども扱いしてる訳じゃない……と、思うよ」
曖昧な返事にリツカはむぅ、と頬を膨らませた。そんな仕草をするから子どもっぽく見えるのではないかと思ったがそっと飲み込む。
カサカサと枯葉が舞う。久しぶりの晴れが嬉しいのか小鳥の歌声が高らかに響いている。じゃり、と小石と靴が擦れる音がふたつ。
その心地良さを肌で感じている中、リツカが問い掛けてきた。
「そういえば、貴方は何歳?」
「十八だよ」
リツカの歩が止まる。
距離を詰めてずいっとこちらの顔を覗き込む。睫毛を一本一本見るかの如く。そして青い瞳にきらきらと光を泳がせ「おんなじ歳なんだ」と悪戯っぽく笑った。
だから、ほら。
そういう仕草を、そういう表情をするから。
「……同い年には見えないな」
つい本音が零れる。もちろん悪い意味でそう言ったつもりではない。が、リツカは一瞬ムッとした顔をし、しょんぼりと肩を落とす。そしてマフラーを靡かせながら再び歩き出した。さっきより少し早い速度で。
拗ねたり、笑ったり、落ち込んだり。短い時間の中でくるくると変わる様子は見ていて飽きないな、なんて思いながら彼女の後を追う。
「そうだ、かしこまった喋り方はナシでいこうよ」
ん、と小さな返事が聞こえたような気がした。
「……怒ってる?」
「ううん」
小走りで隣へ行き顔を覗き込もうとするが、ぷいっと逸らされる。どう考えてもその態度は怒っているとしか思えない。
どうしたものかと頭を掻こうとした腕をぐいっと引っ張られる。一体何を、とリツカを見る。
こちらを見ずに空を指さしている。
「ーー見て!」
見上げればブルーとピンクのグラデーションがそっと世界を包んでいる。
「ビーナスベルトだ」
「ビーナス……?」
初めて聞いた言葉だ。
「日本でだけそう言うのかな。私のお父さんがこの空の名前だよって教えてくれたんだ。……昔、ね」
「そうなんだ」
ビーナスベルト。柔らかくて優しい色。
何度も見ているはずなのにその名前を知ったからなのか、脳に焼き付いていく感覚。
でもその言葉は耳に馴染まなくて、きっとそう遠くない日に忘れてしまうだろう。
けれど。
(多分、ずっと忘れないんだろうな)
今日の空を。リツカと見たことを。
どうしてそう思ったのかは分からないが、そんな気がした。