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サファイアブルーの空を飛んで

一階に降りると、ダイニングテーブルの上を様々な具材が詰め込まれたサンドイッチが占拠していた。
「おかえりジョン。随分早く帰って来てたんだね」
「ああ、ただいま。……彼女は目が覚めたのか?」
「うん、今さっきね。意識もはっきりしていて体調も悪くなさそう」
テーブル中央に置かれた一番大きな皿を手に取る。
「お腹が空いてるみたいだから、持っていってあげてもいいかな?」
もうちょっと話しもしたいし、と言いつつサンドイッチを一つつまみ食いした。
行儀が悪いぞ、とジョンから呆れたような声が飛んできた。それと同時に、ここ最近食欲を失っていたアルフレッドが自らの意思で食べ物を口へ運ぶ姿に、ジョンは安堵の表情を見せた。
「沢山作ったから、ついでにお前も食べてこい」
ミネラルウォーターのボトルを二本手渡される。
そして、あまり遅くなりすぎないように、と釘を刺された。
「了解」
「そういえば、あの子だったのか? 財布の持ち主は」
軽快に自室へ戻ろうとしたアルフレッドの動きが止まる。
あの時、どうしたっけ。財布を渡そうとしたとき蹴りが飛んできて、それから。
ーー落としたままだと気づいた瞬間、さあっと血の気が引いていく。
「実はあの子道端で倒れてて、そのまま連れて帰ってきたから、まだ」
気取られないように振る舞うが、ジョンなら何か感づきそうなので急いで階段を掛け上がった。
自分の部屋だが、一応ノックをしてからドアを開けた。
「お待たせ! あのっ」
財布の事を言わなければとはやる気持ちをベッドに向けたが、リツカはそこに居なかった。こちらに背を向けていたから分からなかったが、察するに壁に貼られた写真を見ているようだ。
「リツカ、さん」
呼び捨てしていいものか戸惑い、しばし悩んだのち、こう声を掛けた。
「……あっごめんなさい勝手に」
「いいよ。……これ、俺の父親」
アルフレッド自身、久々にそれを見た。自分の無様さをありありと見せつけられてしまいそうで、目を逸らし続けていたもの。
追い掛けても追い掛けても、手が届かない存在。
「格好良いね。パイロット?」
その疑問にほっとした。この子は何も知らないのだと。何も知らないのであれば、教えない限り父親と比較されないで済む。非難の視線も、同情の眼差しも今は要らない。
「複葉機乗りの冒険家さ」
あまり詳しく語らないことを察してくれたのか、少女は感嘆の声をあげるばかりだった。
「もしかして貴方もそうなの?」
好奇心の眼差しは今のアルフレッドには針のように鋭く、心にチクリと刺さる。
「……まあ、ね」
曖昧な返答でも彼女の瞳は益々輝くばかりだ。
「こっちの人は?」若かりし頃のジョンを指差す。
これを作ってくれた俺も父親も世話になってるじいさんだよ、とリツカにサンドウィッチの皿を見せ、ベッド横の小さなテーブルに載せた。
アルフレッドはベッドに腰掛け、リツカには傍らの椅子に座るよう促した。
「さ。食べようか。俺も腹減った」
「いただきます!」
リツカは両手を合わせ、笑顔で食べ始めた。
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