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サファイアブルーの空を飛んで



宝石に向けられていたリツカの瞳が、アルフレッドを捉えた。
絡まる視線。
言葉はない。
部屋には雨音だけが響いている。

先に目を逸らしたのはリツカだった。
何も言わないアルフレッドから察したのだろう。
またしてもお願いを断られてしまった、と。何も言わなかったのではなく彼女の纏う雰囲気に飲まれ、何も言えなかっただけだが。
「……ありがとう。私のわがまま聞いてもらって、お茶まで付き合ってもらっちゃったね」
リツカは姿勢を正し、深く頭を下げた。
その直前の、悲しげな青を宿した瞳には、今にも零れ落ちそうな大粒の涙が浮かんでいたように見えた。
「魔法だとかステラだとか……ごめんね、色々訳わかんないこと、話しちゃってさ。……また、街のどこかで見かけたら気軽に話ーー」
「っ俺さ、」
今からリツカが口にしようとしている言葉が、別れを告げるものだと想像するのは容易だった。
彼女の願いを断ったアルフレッドと会う理由もーー必要も、ないから。
けれどアルフレッドは別れを遮るように声を出した。

まだ、さよならはしたくない。

彼女への好意ではない。
多分、同情でもない。
でもーーどうしてか分からないけれど、ここで終わるのは嫌だと思った。
けれどそれを素直に伝えるのはなんだか照れくさく、かといって照れを包み隠す言葉も、綺麗に飾る言葉も見つからない。
言葉を止められぽかんと口を開けたままアルフレッドを見るリツカに、まとまらない思いをぶつけた。

「……いつもしてるトレーニングは自己流で、メニューも適当に組んでる。だから、上手く教えられる自信はないし、リツカには合わないかもしれない。強くなれる保証もできない」
「……!」
リツカはゆっくり、アルフレッドの様子を伺うように頭を上げた。先程の悲しみが混じった涙は嬉しさの涙に変わったか、まるで星を浮かべたかのようにきらきらと輝く瞳。
今から口にする言葉を聞いたら、どんな顔をするのだろうか。

「……それでも、いいなら。一緒にするかい?」

ぱあ、とリツカの表情が明るくなる。
それから、うん! と頷きかけたが慌てて首を振った。
「でも本当にいいの? 無理に気を遣ってもらわなくても」
「これ、見て」
眉をへの字に曲げるリツカに、アルフレッドは包帯の巻かれた左足首を見せた。
「一ヶ月前に事故で足を怪我したんだ。そんなに酷くはなかったんだけど早く治すために安静にしてたから、体が鈍っちゃってて」
「私と戦ったときも? あれで? あんなに強かったのに……!」
「はは、ありがとう。……リツカのトレーニングに付き合うから、リツカも俺のリハビリに付き合ってよ。これならお互い様だろ?」
お互い様、の言葉にリツカの表情は和らいだ。そしてアルフレッドの提案に、とびきりの笑顔で返事をした。



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