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サファイアブルーの空を飛んで




風で散った雲は暗闇を纏い、雷を連れ立って再び空を覆い始める。
突然の冷たさと不快感。
ぽつ、と一滴の雨が頭に落ちた。
リツカには落ちていないか気になり彼女を見た。どうやらアルフレッドより先に雨粒を受けていたようで、顔を拭いながら空を見上げている。
「……本降りになる前に雨宿りしない?」
「あ、ああ」
躊躇いがちに了承すると、リツカは花が咲いたかのような笑顔をアルフレッドに見せ、手早くブランケットの上に広げていた物ーーおにぎりやペットボトル、日本語の書かれた見慣れぬお菓子ーーをピクニックバスケットに仕舞った。

お願いを断ったのに、何故リツカはそんなにも楽しそうにしていられるのだろうか。アルフレッドには理解できなかった。


建設跡地を去り、最近この街に来たリツカでも分かりそうな場所まで案内した。
それからはこっちこっちと言われるがまま、とにかく歩みを進めた。
本降りでは無いが雨足は少しずつ強まっており、濡れた服がじわじわと熱を奪っていく。
ふう、と吐いた息は一瞬だけ白を空に描き姿を消す。

その時、調子が良かったはずの左足首がズキンと強く痛んだ。あまりにも突然のことだったので思わず「うっ」と声が漏れ出た。
それは大きな声ではなかったと思うが、リツカの耳に入っていたようだ。歩を止めすぐさま振り返り、不安げな表情でアルフレッドを見つめてきた。
「どうかした?」
「いや……なんでもないよ」
ズキズキと痛むのは、足か、それとも心か。
その痛みと共に墜落した時の情景がフラッシュバックしそうになる。
(もう過ぎたことだ。思い出して、ただ後悔したってなんにもならないのは分かってる。それでも、……)


ぼんやりと霞んだ世界に、父の背中が見えた気がした。





父さんは最高の冒険家だった。
複葉機を乗りこなし、相棒であるジョンと共にアメリカ中を旅していた。

そう言えば、ジョンが何度も話してくれたっけ。

ーーアル。
お前の父さんは、一晩中飛び続けていた日も、華麗な曲芸飛行で人々を魅了したときも、どんなときも楽しそうにしていた。
笑顔を絶やさず、臆せず何処へでも飛び回っていた。
お前が空の魅力に取り憑かれたように、あいつの勇姿に魅了された人達が多く、同じように冒険家を志す者も少なくなかった。

本当にーー凄い奴だった。
もっと一緒に旅をしたかったーー。


思い返せば、父さんの遺した手記には、どんな困難でもひたむきに乗り越えていく姿しかなかった。
そんな父さんにも、こんな風に思い悩むことがあったんだろうか。
こんな時どうしたんだろうか。

どうしたら、おれは、父さんみたいな……。





雨が降っていて良かった。
零れ落ち、止まらない涙を隠せるから。

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