サファイアブルーの空を飛んで
自然が生み出した音の中に、ノイズが混じり始める。
それは。
アルフレッドのしていることを馬鹿にする人達の声。
それは。
アルフレッドの失敗を笑いながら貶す人達の声。
それは。
アルフレッドとその父を比べ失望する人達の声。
物語なんて、始められない。
リツカと出会ったときから高鳴っていた胸。
込み上げてきた色んな感情。
それは多分、彼女の望み通りにしてあげられない自分への不甲斐なさを、知らず知らずのうちに感じ取っていたからかもしれない。
どんなに胸踊ることを言われても、どんなに知らないことがあったとしても。
今のアルフレッドは未知の世界へ一歩ーーたったの一歩も、怖くて踏み出せない。
(……何が冒険家だ。何も……目の前の女の子が、俺に救いを求め伸ばした手を、取ることもできないなんて)
答えを待つリツカは、沢山の希望が満ち溢れているように見える。
眼前に広がるサファイアブルーが、ひどく眩しくて痛かった。
大きく息を吸う。
声が出ない。
息をゆっくり吐いて、もう一度、吸う。
「ごめん。おれ、」
紡いだ言葉は震えていた。
「君の力になれない」
自分を守り、そしてもうこれ以上壊れてしまわないことで精一杯だ。
そんな人間が、誰かの助けになんてなれる訳ない。
「今、複葉機を修理に出していて……いつ直るのか見通しが立ってないんだ。……もうすぐ冬になるから、旅に出るのはおすすめしない。この辺りは結構雪が降るんだ」
ああーーこんなの、ただの言い訳だ。
「それで、春が来たら、おれはじっちゃんと旅に出る。だから、だから……何処へも、行けないんだ」
リツカとの旅のことなのか。
それとも、冒険家としてジョンと行く旅のことなのか。
この言葉がどちらのことに対しての「行けない」なのかはアルフレッド自身、よく分からなかった。
それでも断ったのは確かで、それを聞いたリツカがどんな顔をしているのか見るのが怖くて、目線をくたびれたスニーカーに落とした。