サファイアブルーの空を飛んで
後ろを一切振り向かず、小さな光を抱き締めて。
ただひたすらに、がむしゃらに。走って、走って、自宅へ戻った。
あの花を見つめた時の強く鼓動した心臓が恐ろしかった。あの花を手にした時のあんな感情知らない。知らない、知らない……。
帰宅した頃には何もかも混ぜこぜな心拍数。汗と相まって気持ち悪くて、何か話しかけてきたジョンを適当に躱してシャワーを浴びた。
それから光が弱まってきたガーベラを持って、ベッドに飛び込んで、まどろむ暇も無いままーー。
♢
ひとり、見慣れぬ草原に立っている。
目の前に複葉機があるから乗ってここまで来たのだろう。
ならこれは夢だ。今、空を飛ぶ自信はないから。
ハッキリとそう思ってしまう自分が情けなくて、格好悪くて。目を手で覆って自虐気味に笑った。
風が吹き付ける。
甘い匂いがした。花か、果物か……記憶に新しい。この匂いは昨日のあの子のものと同じだ。
振り返るとそこにあの子ーーリツカが居た。優しくて、けれど何処か儚げな表情でこちらを見ている。
(どうしてそんな顔してるんだろう)
そもそも夢に見るまで彼女のことを強く思っていたのだろうか。確かに衝撃的で、色々なことが一度に起こりすぎてはいたが。
まあいいか。ここは夢の中なんだから色々考えなくても。と、リツカに手を振って瞬きをひとつ。
刹那、ガラリと景色が変わる。
見慣れた白い天井。そこに貼り付けられた星のウォールステッカー。カーテンの隙間から照りつけてくる日差しはやや暑く、自分を覗き込んでくる青い空は眩しい。
ーー覗き込んでくる?
パチリと目が合う。その青さは瞳。
リツカが居た。
「うわあぁぁぁ!」
ベッドから飛び起きて距離を取るーーつもりが、バランスを崩し思い切り頭から床に落下した。どすん、ごつんと喧しく。
「なんでここに!?」とアルフレッドが言うのと同時に「大丈夫!?」と血相を変えてリツカは問う。そこに「何の音だ!」と、音を聞き付けてかそれ以上の音を立てながらジョンがノックもせずに部屋へ入ってくる。
混乱した空間。まだ半分寝ぼけているような頭。ぶつけたからかもしれないが。
「じっちゃん! なんでリツカがここに居るんだよ!」
動転したままジョンに言葉を投げつける。その勢いのままリツカの方を見てもう一撃。
「どうして起こしてくれないんだよ!」
ジョンはため息をひとつ吐き出して何かを言おうとしたが、リツカが一足先に喋った。
「だって。気持ち良さそうに寝てたから、つい」
柔らかく笑うリツカは先程まで見ていた夢の中の彼女とは印象がまるで違って。
ひとり慌てて大きな声を上げていることがなんだか恥ずかしく思えてきて、目線を下げる。
あ、と思った瞬間血がぐんと巡る。
上着はきちんとパジャマを着ている。……ボタンを掛け違えてはいるが。
問題は下だ。
ボクサーパンツしか履いていない。
「……すぐ準備するからリビング行っててくれ!」
そう言って二人を押し、部屋から追い出す。
ああリツカに見られていませんように、と祈りながらパジャマのボタンを外した。
ただひたすらに、がむしゃらに。走って、走って、自宅へ戻った。
あの花を見つめた時の強く鼓動した心臓が恐ろしかった。あの花を手にした時のあんな感情知らない。知らない、知らない……。
帰宅した頃には何もかも混ぜこぜな心拍数。汗と相まって気持ち悪くて、何か話しかけてきたジョンを適当に躱してシャワーを浴びた。
それから光が弱まってきたガーベラを持って、ベッドに飛び込んで、まどろむ暇も無いままーー。
♢
ひとり、見慣れぬ草原に立っている。
目の前に複葉機があるから乗ってここまで来たのだろう。
ならこれは夢だ。今、空を飛ぶ自信はないから。
ハッキリとそう思ってしまう自分が情けなくて、格好悪くて。目を手で覆って自虐気味に笑った。
風が吹き付ける。
甘い匂いがした。花か、果物か……記憶に新しい。この匂いは昨日のあの子のものと同じだ。
振り返るとそこにあの子ーーリツカが居た。優しくて、けれど何処か儚げな表情でこちらを見ている。
(どうしてそんな顔してるんだろう)
そもそも夢に見るまで彼女のことを強く思っていたのだろうか。確かに衝撃的で、色々なことが一度に起こりすぎてはいたが。
まあいいか。ここは夢の中なんだから色々考えなくても。と、リツカに手を振って瞬きをひとつ。
刹那、ガラリと景色が変わる。
見慣れた白い天井。そこに貼り付けられた星のウォールステッカー。カーテンの隙間から照りつけてくる日差しはやや暑く、自分を覗き込んでくる青い空は眩しい。
ーー覗き込んでくる?
パチリと目が合う。その青さは瞳。
リツカが居た。
「うわあぁぁぁ!」
ベッドから飛び起きて距離を取るーーつもりが、バランスを崩し思い切り頭から床に落下した。どすん、ごつんと喧しく。
「なんでここに!?」とアルフレッドが言うのと同時に「大丈夫!?」と血相を変えてリツカは問う。そこに「何の音だ!」と、音を聞き付けてかそれ以上の音を立てながらジョンがノックもせずに部屋へ入ってくる。
混乱した空間。まだ半分寝ぼけているような頭。ぶつけたからかもしれないが。
「じっちゃん! なんでリツカがここに居るんだよ!」
動転したままジョンに言葉を投げつける。その勢いのままリツカの方を見てもう一撃。
「どうして起こしてくれないんだよ!」
ジョンはため息をひとつ吐き出して何かを言おうとしたが、リツカが一足先に喋った。
「だって。気持ち良さそうに寝てたから、つい」
柔らかく笑うリツカは先程まで見ていた夢の中の彼女とは印象がまるで違って。
ひとり慌てて大きな声を上げていることがなんだか恥ずかしく思えてきて、目線を下げる。
あ、と思った瞬間血がぐんと巡る。
上着はきちんとパジャマを着ている。……ボタンを掛け違えてはいるが。
問題は下だ。
ボクサーパンツしか履いていない。
「……すぐ準備するからリビング行っててくれ!」
そう言って二人を押し、部屋から追い出す。
ああリツカに見られていませんように、と祈りながらパジャマのボタンを外した。