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審神者&特務司書inTwistedWonderland

『では、司書補佐と審神者担当官が来るまで一旦休憩にしますか』
莉卯が画面越しから見た学生たちを哀れに思い、そう提案した。また尋問も区切りの良いところで終わっていたので、刀剣男士と文豪も許可を出した。

「んじゃ、煙草でも吸ってくか~」
「安吾、お前ここ学校なの忘れたのかよ」
「……って言いながら太宰くんも箱開けとるやないかい!」
「ちゃんと外で吸えよお前ら~!」
……先程、宣戦布告地味たことを言った者たちとは思えない。アズールは楽しげな無頼派四人の背中を見て、信じることは出来なかった。

「君たちは外出たりしなくていいの?」
「………こんな状態で、出られるわけなくない?」
換気のために窓を開けた桑名がそう聞けば、誰も何も言わない中、イデアのボソボソとした独り言だけが聞こえた。
「流石に羽を休めることくらいはさせますよ、私たちも鬼ではありませんから」
篭手切に至っては、個包装された煎餅や羊羮が詰められた籠を手にしている。
「こちらは私たちの国の甘味です。ご自由にどうぞ」
そこで漸く、全員が束の間の休息を取ることが出来たのだった。



緊張の糸が切れたとは言っても、外の空気を吸う気は起きず、用意された茶菓子を飲み食いするだけだ。
ふと何人か窓の外を見ると、刀剣男士と文豪の数名が周囲を見渡していた。危機察知能力に優れている獣人や人魚などは、それが見張りのための行為だと気が付いた。
「………本当に、大変なことになっちゃった」
刀剣男士たちから渡されたマグカップを手で抱えながら、エペルがそう零す。彼の近くに座っていたヴィルもルークも、その美しい表情を歪ませていた。
「スミレ氏に関しては神様が可愛がってる人間を拐った挙句こき使った、って感じですしなぁ………まだ話の通じる神様なだけ運が良いのでは?」
「それを言うなら、メアさんを大切にしているブンゴーの人たちは何になるのかな?」
「あー………なんかブンゴーって呼ばれてる人たちは皆揃ってハイスペ彼氏感凄いから、彼女取られたので殴り込みに来た!………的な?ハハハ、一番ワロエナイ………」
ツイステッドワンダーランドにも当然だが、神様は存在している。というのも、グレートセブンの一人である死者の国の王が神様だという説があるからだ。そんな彼をリスペクトするイグニハイド寮長にして、いくつかのゲームやアニメで神話に触れているイデアの脳内には終了の知らせが流れている。
「俺たちの情報は全て把握していた………余程の執念があると見て良いだろうな」
「ジャミルのユニーク魔法も知ってたもんなぁ………二人とも、大事にされてたんだな」
「………恐らく、ここにいる全員を無傷で返す気は無さそうですね」
「アズール、トーケンダンシにもブンゴーにも当たられてるもんね」
「えぇ………ブライハ、でしたか。彼らは特に怒りが凄まじかったですね」
「それならウミヘビくん一番ヤバいんじゃね?小エビちゃんたちにユニーク魔法使ったんでしょ」
フロイドのその一言で、その場にいた全員がジャミルを見る。一瞬にして、ジャミルの額からは大量の汗が流れ出す。今の休憩時間が終われば、次に尋問を受けるのは順番的にスカラビア寮の二人だ。
先程のビデオ通話で絃が言っていたことが本当ならば、此方側の魔法は汚染物質だ。微睡むような緩い口調で、冷淡に告げる深窓の令嬢のような美女の姿の、何とも残酷なことか。
「………それを言うなら、アタシだってユニーク魔法を使ったのよ。アンタだけが強く詰められることは無いはずよ」
VDCに向けた練習合宿の際、オンボロ寮を使ったことは未だに記憶に新しい。エースたちが持ち込んだタルトや菓子の入った寮の冷蔵庫に、ヴィルはユニーク魔法をかけた。その中には当然、純恋と萌愛、グリムの分の食料が沢山詰め込まれていた。
しかし、純恋も萌愛も、そのことを糾弾しなかった。倒れ込んだエースとデュース、それを見ているヴィルを、ただ黙って眺めていた。
「……………いやいやいや、どう考えたって一番詰め寄られるの拙者では!?」
結果として、イデアがオーバーブロットした嘆きの島での出来事。黒い石を食べなかったグリムの代わりに連れ去られたのは、純恋と萌愛の方だった。それまでに発生したナイトレイブンカレッジの生徒によるオーバーブロット事件を、魔法とは違った能力で解決してきた二人は研究対象として同意の上で嘆きの島へ連行されていったのだ。
「アズール氏だけであんなことになってるんだから、拙者なんてもっとヤバいって!!」
「だが、あの連中のことだ。テメェの家の事情も全部知ってるに決まってる」
「……………………た、確かに?」
レオナにそう言われると冷静になる。そして少しの間思考していると、イデアは何かを思い出したかのように顔を真っ青に染めた。
「………………あれ、じゃあ、この学園終わっちゃったりしない?大丈夫?」
ディアソムニア以外は、その発言に首を傾げた。しかしレオナだけは例外であり、眉間に皺を寄せた。
「チッ…………おいクロウリー、何て大事件起こしやがる」
「えっ私ですか!?」
「サニワもシショも国家機密だって言ってたの忘れたのか!トーケンダンシやブンゴーはこの際良いとして、そんな役人拐うなんざ何考えてんだ!」
「しっ、しかもあの二人、慕われてる通り越して愛されてる感するし…………もはや恋愛ゲームのヒロインじゃん………」
「………ほう、キングスカラーとシュラウドは理解が早いな」
優雅にその光景を眺めていたマレウスが、ようやく口を開いた。
「あ、当たり前でしょ………だって、よく考えたら、ここにいる全員が名前知られてるんだから………」
「流石シュラウドだな、神という存在を正しく分かっているようだ」
「えーっと、つまり………どういうことだ?」
「マレウス先輩、ボクたちにも分かるように説明をお願いします」
「そうね、アンタたちだけで納得しないでちょうだい」
「僕なんて今のところ一番被害を受けているので、手短に話してください」
レオナとイデア以外の寮長たちが急かすものの、マレウスは動じることなく妖艶に微笑んでいる。

「人の子らの世界では、人間が神に名を教えることは禁忌とされている。ここにおける禁術のようなものだろう、とスミレから教えてもらった………そして、知られることもまた危険だと」

マレウスの告白に、衝撃を受けなかった者は居ない。全員が揃って連行された際に、フルネームを呼ばれていたことを思い出したからだ。
名を名乗ることも、勝手に知られることも危ない神々。そんな存在と、純恋はずっと過ごしていたのか。
「………おい、トカゲ野郎」
「ふっ………貴様が何を聞きたいのか分かるぞ、キングスカラー」
「そうかよ」
「これはスミレから聞いただけの情報だが………名を知られた者の中には、神隠しされた人間もいたようだ」
「神隠し?」
「人間がある日突然、姿を消す様を『神の仕業』だと定義した言葉だそうじゃ」
特定の人間に固執する神もいるらしく、神域という場所へ閉じ込めるという。また、人間が神域から逃れる術はほとんど無いそうだ。
「………は?じゃあ、おかしくね?」
強ばった表情のフロイドがそう言えば、一部の者たちは何かを察したのか、顔を真っ青に染めた。
「だってトーケンダンシ、って白エビちゃんのこと名前で呼んでたじゃん」
今から思い返して見ると文豪たちは兎も角、刀剣男士たちは皆、純恋の名をそのまま呼んでいた。それでは何故、純恋はこのツイステッドワンダーランドに来ているのだろうか。



『………………は?何これ、画面真っ暗なんですけど』
『ご安心を、今私の方でハッキングして画面共有します』
『マジで?あざっす』
思考を巡らせていると、再び聞き覚えのない二人分の女性の声が、パソコンから聞こえだした。先程、遅れて合流すると言われていた純恋の担当官と、萌愛の補佐だろうか。
『………はい、繋がりました』
勝手に映った画面には、銀色の長い髪をポニーテールに纏めたアンニュイな女性と、明るいブロンドの髪を黒いリボンでツインテールにしている吊り目の女性が存在していた。どちらも、莉羽や絃とは系統の違った美女だということは確かだ。
「失礼………トーケンダンシとブンゴーの方々は揃って席を外しております」
『ふぅん、まぁ良いでしょう』
トレインが事情を説明すると、ツインテールの女性が返事をした。
『では、先に自己紹介しておきましょうか………私は審神者、紫陽花様の担当官を務める夜宵、真の名を時瀬さとりと申します。私のことは夜宵、とお呼びください』
『………初めまして、ナイトレイブンカレッジの皆さん!萌愛ちゃん………藤宮萌愛の補佐をしている烏丸音夢です!』
銀髪の女性、夜宵はまるで業務報告のような紹介をした。それに対して、音夢というブロンド髪の女性は愛想が良さそうな可憐な美少女とも言える表情を見せていた。
『……………ほら、これでいいだろ。面倒なんだよ、男のクソガキ共に自己紹介すんの』
………かと思えば、不機嫌そうにツインテールの片方を指で弄んでいた。可愛らしい外見とは反して、その目付きは鋭く、まるで汚物でも見ている眼差しだった。
「………今回のことは、大変申し訳ない。知らなかったとはいえ、其方の御役人を手酷く扱ったことは反省しております」
トレインが立ち上がり、画面上の二人に対して、直角の辞儀をする。そんな彼に、夜宵が最初に声をかけた。
『貴方が学園長ですか?』
「いえ、私の隣にいるこの男が学園長です。私はこの学校で文系科目を担当している一教師に過ぎません」
「えっ、あの、トレイン先生………?」
『なかなかのダンディーで、しかも文系科目教師………!お隣の不審者が学園長なのは気に食わないけど…………』
音夢はそこまで言うと、髪を弄っていた手を止めて姿勢を正した。間髪入れずに音夢の目がトレインに向けられる。そのアイスブルーの瞳に込められた感情は、興味や関心に近いものだろう。
『………っと、素敵なおじ様を見つけたのは兎も角として……………学園長先生、あなたに言いたいことがあります』
「は、はい………何でしょうか、ネムさん………」
クロウリーは音夢だけでなく、いつの間にか背後に立っていた四人の男たちにも怯えていた。その正体はアメリカが誇る文豪だ。


『よくもやってくれたな、クソ野郎』


この時の音舞の笑顔は、それはとても愛らしくありながら美しく、恐ろしいものだったらしい。後に美を重んじる寮長、ヴィル・シェーンハイトはそう語る。
それは、彼女の背後で無表情を貫いているフランシス・スコット・フィッツジェラルド、アーネスト・ミラー・ヘミングウェイ、エドガー・アラン・ポー、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの存在も強いのだろう。
親指だけ立てながら首を切る動作をしながら、先程の台詞を言い放った音夢は続けて発言する。
『…………私の可愛い親友を、こんな目に遭わせたんです。そこにいる萌愛ちゃんのことが大好きな文士の皆様に、酷いこと、されちゃってくださいねっ!』
うふふ、と妖しく笑う音舞だが、よく見れば彼女の瞳には光が入っていなかった。そこまで発言した後、徐にストローが刺さっている缶のエナジードリンクを手に取った。
「エナドリストロー飲みとか、テンプレ通りの地雷系女子じゃん………見た目裏切らなすぎて怖…………」
「笑ってはいるけれど………画面越しでも、カラスマ・ネムさんが怒っているのがよく分かるね」
『は?そこの髪燃えてるイケメンくん、何か言いたいことあるなら大声でお願い出来る?音声が拾えないのよね~』
「髪燃え………えっ、せ、拙者!?なっ、ななな何でもないです………!!」
『あっそう?なら何も言わなくて結構です』
音夢はおそらく癖なのだろうが、指で髪を遊ぶ手を止めない。

『はぁ、名門校に通う学生だからと期待した私が阿呆でしたか…………やはり、男子高校生なんて身分に期待するなんて莫迦をやらかしてしまいましたか』
銀色の髪を上で束ねた女性は、頭を片手で抱える。
夜宵、の名前で政府に登録されている時瀬さとりは、審神者・紫陽花の担当官だ。そして、紫陽花を審神者名としている雨崎純恋のことを、異常とも言えるほど敬愛していた。
その審神者を、歴史改変に関係も無い異世界に攫われたなど、さとりには耐え切れない屈辱だろう。実際、純恋の行方が分かるまで、さとりの睡眠時間は無いものと考えても良かったほどだ。それが分かるのは、彼女の目の下に僅かに残っている、治りかけている痕跡のある隈だった。
『あの人を都合よく扱う野郎共………うん、許す気が無くなって助かった。寧ろ、こっちの方が都合が良いかも』
さとりの品定めするような視線が突き刺さる。








































先に謝罪を述べさせてもらえるだろうか、なんて愚かな願いは届くのか。

貴女様が僅かに望んでいた完全無血の未来は、叶いそうにありません。どうやら、我々は想像よりも遥かに狂っていたのかもしれません。
やはり、この手は朱に染まるしか方法はないのでしょう。


籠の中の花鳥を引き裂いたことへの懺悔を、心のままに楽しむと良い。
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