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審神者&特務司書inTwistedWonderland

エースが最初に話しかけ、からかい馬鹿にした純恋は、おかしな人物だった。萌愛という人物もある意味では何処か変だったが、エースは純恋が一番に変な人物だと思っていた。まるで、人の心なんて持っていないのではないか、と思っていた。
入学式の翌日、雑用係としてメインストリートで石像の水拭きをしていた純恋、萌愛、グリムに話しかけたエースは、グリムの疑問を解くように話しかけたのだ。

結果としてエースは未就学児でも分かる、寝物語にもされているであろうグレート・セブンの話をして、グリムたちを貶めるような発言をメインストリートという多数の人が行き交う場所で放った。エースの最大の誤算は、この点であった。
「で、話はそれだけ?」
「は…………?」
純恋はエースに答えることなく、純粋に聞いていた。ただ珍しいものを見るように、幼い子どものように笑ってみせる。
「ん?いや、話すこともうないのかな〜って気になったの」
「ス、スミレ…………?」
グリムも怒りで高まっていた頭が冷えたのか、水拭き用に持っていた雑巾を握りしめる。
「え、っと……エースさん、だっけ?最初はオリエンテーションがほとんどかもしれないけど、授業に遅れるよ?君は新一年生だろうから、今こうして私たちに構うのは時間の無駄だよ」
純恋の畳み掛けるような言葉に、エースが口を出す隙は無かった。一方で萌愛はやり取りそのものに飽きてしまったのか、鼻歌を歌いながら海の魔女の石像を拭きに戻っていた。
「そういうわけだから、私は君たちが勉学に励めるよう仕事に戻るね」
「…………っ!待てよ!」
素っ気ない態度を取られたことに腹を立てたエースは、ハートの女王の石像前へ向かおうとする純恋の腕を掴もうとする。だがその前に青い炎が二人の間を引き裂いた。
「オマエ、スミレに何するんだゾ!」
「はぁ!?そっちこそ何してくれんだよ!」
グリムは再びエースに向けて炎を吐き出す。攻撃を弾くようにエースはマジカルペンを手に、風魔法を放つ。
………それは騒ぎを聞きつけた学園長が突撃してくるまで続き、三人と一匹は窓拭き百枚を命じられたのだった。



____…………全てを話し終えたエースは、哀れなほど憔悴していた。途切れ途切れではあったが、エースが話すその都度、刀剣男士の表情は曇っていったからだ。文豪の方はというと、萌愛の話が出てきてないことからそこまで怒りを感じていない。詳細まで知らなかったリドルは叱ろうとしたが、エースの疲れきった姿を見て同情し止めた。これから自分もああなることが予想出来たからだ。知らなかったとはいえ女性を害そうとしたのは、この場に連れて来られた者全員がそうなのだから。

「………っ、ははははっ!!」
静寂を断ち切ったのは、鶴丸の豪快な笑い声だ。続くように刀剣も文豪も様々に笑いだし、カレッジ側は頭に疑問符を浮かべた。
「…………全く、やっぱり主だな。俺たちに予想もしない驚きを与えてくれる」
「当然でしょう、鶴丸さん。その程度で逆上するほど、お二人は伊達に生きておりません」
「それもそうだな、夏目。まして歳下の若造に言われたところで、俺たちの姫ならその程度可愛いもんじゃないか」
「こういった仕事をしている以上、周囲から悪意を向けられることには人一倍敏感な彼女たちのことです。それに比べれば、トラッポラくんの言動は幼すぎたのでしょう」
鶴丸と夏目の会話に頷く者と、苦笑を浮かべる者がいた。そんな中、声を出したのはクロウリーだけだ。
「………今、なんて?」
「ん?」
クロウリーの様子に首を傾げた鶴丸だったが、すぐ自身の発言を思い出し「なるほどな」と手を叩いた。
「主も司書も、既に数年前に成人した女性だぞ」

「………………ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

____………談話室に、叫び声が木霊した。



「そんなの、もうどうでも良いんじゃねぇか?」
突然後ろから聞こえた声に驚き振り返ると、黒い髪の男が二人いた。長い髪をポニーテールにして、浅葱色と紅が目立つ服装の男。白いマフラーが特徴的な、碧い瞳の少年。和泉守兼定と堀川国広だ。さらに堀川の腕の中には、見慣れた蒼い炎の耳に黒い獣が心地良さそうに撫でられていた。
「グリム!?」
「ふなっ?オマエら、全員集まってどうしたんだゾ?」
グリムは親交がある生徒は当然ながら、学園長をはじめとした教師が談話室にいることに目を丸くしていた。
「あっそうだ!オレ様、報告するんだゾ!」
堀川の腕の中のまま、グリムは元気よく手を挙げる。微笑む夏目から了承を得たグリムは、嬉々として報告とやらを始めた。
「えっと、スミレとメアはまだ眠ったままで、今は変わりないらしいゾ」
最初こそ、寝室の護衛をしていたのは芥川だったが、夏目に呼び出された今は横光と交代している。後の護衛と警備は変わりないままだ。一つ追記しておくならば、オンボロ寮のゴーストたちが同意のもとで見回りをしているくらいだろうか。
「でも、マエダが言うには数日経てば起きるらしいんだゾ!」
「グリムくん、素晴らしい報告をありがとうございます。文句なしの百点です」
夏目からの評価に「やった〜!」と喜ぶグリムの頭を、堀川は優しく撫でる。和泉守も「よかったな」と言ってグリムに小さなキャンディを与えた。
「………さて、今の報告で分かったでしょう」
先ほどまでの柔らかい雰囲気から一転し、夏目の声色は低くなる。
「彼女たちの目覚めには時間が掛かります」
「数日………短くて明後日、長くて一週間後だろうな」
鶴丸も夏目と同じく、考える素振りを見せる。二人の宝石のような瞳が、怪しいほど光り輝いた錯覚を思わせる。
「少なくとも、今日は会えると思わないことです」
「聞きたいことはたくさんあるんだ。君たちと、主や司書の出来事を全て話してもらおうじゃないか」
解放される時が、本当に訪れるのだろうか。最初のエースのような話を嘘偽りなく話さなければならないのか、と気が重くなっていた。
「なんか、空気が重いんだゾ………何かあったのか?」
「そういえば、グリムくんには言ってなかったよね。今は主と司書さんについて聞き込みしているんだ」
「ふなっ!じ、じゃあ………アイツらのこと、全部…………」
「うん、あの子たちの正体は全部話したよ」
グリムは今日のことを知らなかったのか、堀川を見上げた。その疑問に答えたのは燭台切で、グリムはピクリと毛並みを少し逆立てると、碧い瞳から大粒の涙を溢れさせた。堀川に「ふ゛なあぁぁぁぁ!!」と泣きつくグリムは、何かの糸が切れたようだ。
「ス、スミレにも、メアにも、黙ってるように言われて…………」
「うん、それで?」
「オレさまがいるときは、絶対、守らないと、って………」
ぐずぐずと子どものように泣いているグリムの後ろ姿は、普段より小さく見えた。グリムは、誰よりも監督生と関わっている。それは今いるオンボロ寮のゴーストたちも同じで、彼らは最初から純恋と萌愛が女性であることを知っていた。グリムには、着替えの時に知られてしまった。しかしゴーストたちは長年の経験からか、彼女たちの顔立ちと体型ですぐに分かったらしい。グリムはそれも涙声で訴えるように叫んだ。
「な、なら、監督生さんたちが女性であることを、君は知っていたんですか!?」
クロウリーは仮面から汗を流している。まるで責め立てるような口調に、堀川はグリムを守るように後頭部を優しく支え、和泉守は鞘に手をかける。
「………そ、そうだ!」
「では、どうして、私たちに黙っていたのですか!?」
___………最初から女性だと知っていれば、今こうして異世界とはいえ神様や偉人から事情聴取されることもなかったかもしれない。オンボロ寮なんかに放り込むこともなく、快適な部屋を提供する準備だってしていた。
クロウリーも、ツイステッドワンダーランドという世界で長く生きている存在だ。女性を大切にしなければ天罰が下るぞ、と親から口酸っぱく言われて育った鴉だ。もしグリムやゴーストたちが伝えてくれていたら、ここまで糾弾されることもなかったはずなのに。

その天罰が、今まさに下されようとしているというのは、何とも救えないほど滑稽である。

「今度は責任転嫁か」
また知らない声がする。心地良い低い声は、まるでこちらを嘲笑っているようにも聞こえる。声の主はハーフアップの短い茶髪の男、菊池寛だ。廊下からこっそり聞いていただけの菊池だったが、クロウリーを含む生徒らの態度に怒りを覚えたのだろう。顔に青筋が浮かんでいるのが証拠だ。
「やらかしてるとはいえ、未成年のガキどもがいる前でこんなことはしたくなかったが………」
吐き捨てるように言う菊池の眼差しは、憎悪で満ち溢れていた。
菊池は、萌愛の図書館で三番目に転生した文豪だ。当時はまだ未成年の萌愛を、徳田や中野とともに支えてきた一人。そして原石の彼女を、魅惑に光り輝く宝石に磨き上げたのも菊池だった。つまり菊池は萌愛の父親のような存在なのだ。当然だが血の繋がりがない萌愛を、菊池は娘のように可愛がっていた。
図書館での菊池の手は己の武器を握り、萌愛の頭を優しく撫でるもの。それが今、クロウリーの胸倉を掴み上げた。
「おい、誘拐犯…………お前、俺たちの女を攫っておいて、その発言は何様のつもりだ」
クロウリーが何も答えないで口を開閉させていると、菊池は手に力を加えて圧をかける。
「寛ってば我慢出来なかったんだ」
「当然だろ。特にそこの鴉………学園長は自業自得だと思いますよ」
懐から取り出した煙草に火を付けようとする芥川を阻止しながら、久米が眼鏡をかけ直す。
「芥川くん、何煙草を吸おうとしているんだ………やるなら外でしてくれよ」
「仕方ないじゃないか久米、僕はこれでもかなり苛々しているんだよ」
「………これが終わったら、僕が付き添うから我慢してくれよ」
新しい玩具を買ってあげると言われた幼子のように、機嫌を好くした芥川は感謝の言葉を述べながら煙草を仕舞う。
そんなやり取りが終わった頃に、クロウリーは漸く解放された。菊池はいつの間にか後ろにいた和泉守に諭されて、幾分か落ち着きを取り戻したようだ。
「すまない………迷惑かけちまったな」
「謝ることはねえよ、旦那。オレもアンタの気持ちは理解出来るぜ」
目を伏せた和泉守は、純恋の本丸に顕現したのは割と遅い方だった。しかし、所有者を同じくする堀川が片手で数えられるくらいの鍛刀で来たことが関係して、必然的に審神者である純恋との仲が深まっていた。
少なからず今では、本丸の大黒柱と言われる鶴丸国永の次に頼りにされている、純恋だけの格好良くて強い刀剣男士だ。和泉守が純恋に抱く感情の名前は、父性。
「アンタが言わなきゃオレが言ってたから、寧ろ感謝してるぜ」
「…………そうか、そりゃ有難いな」
和泉守と菊池の対話はそこで終わり、二人はオンボロ寮の見回りへ戻って行った。堀川だけが、談話室に残っていた。グリムは和泉守に抱えられて、一度寝室へ向かった。
「この度は、兼さんたちが申し訳ありません」
堀川は深く一礼すると、人当たりが良さそうな顔を見せる。生徒たちと同年代にも見える堀川は、なかなかの好青年だった。反対側に存在するロイヤルソードアカデミーにいるような、プリンスの顔立ちだ。
しかし、そんな彼から吐き出されたものは、正反対の言葉だった。
「でも、性別関係なく子を預かる教師という身分でありながら、こんな荒屋に人を住まわせたことや雑用を押し付けたことは後悔してくださいね」
堀川の説教とも読み取れる口ぶりに、教師一同は息を呑んだ。
「………けど、おかしくねぇか?」
空気を打ち破ったのはレオナの声だった。
「さっきから考えていたが、あいつらが女なら、なんで匂いがしなかった?」
「! そ、そういえば………」
レオナの疑問に同じく獣人のジャックやラギーをはじめ、人魚であるアズールたちが同意する。
獣人や人魚は、血の匂いに敏感だ。女性にだけあるものの匂いが、何故かなかった。監督生からは、女性ならばするはずの匂いがしなかったことが気にかかっていたのだ。


「それについては、この俺が答えよう!」
「!?」
扉を勢いよく開けて出てきたのは、購買部もといミステリーショップのサムだ。左の手には綺麗に包装されたプレゼントのようなものが抱えられている。
「サム!?お前、なんで………」
「今日は俺自ら、商品を届けに来たのさ」
クルーウェルに対してそう答えたサムは、持っていた荷物を近付いてきた燭台切と鈴木に手渡した。
「これはこれは、トウケンダンシにブンゴウの皆様。こちら、ご希望通りの品物でございます」
「ありがとう、サムくん!」
燭台切は遠慮なく包装を剥ぎ取ると、白い紙とインク、そして万年筆が大量に入っていた。そして鈴木の持っていた箱の中には、禍々しい気配を感じる様々な色の宝石が所狭しと並べられている。
「そ、それって、極東の島の鉱山でしか採れない鉱石や宝石じゃないか………!」
「なっ………!極東で採取される宝石は、どれも高級品とされているはず………!一体、そんな量をどこで…………!」
富豪とその従者であるカリムとジャミルの驚愕で、他の生徒は只事ではないと感じたのだろう。
極東の島国はほとんど閉鎖的なこともあり、貿易もそれほど盛んに行われていない。そのためか、極東からの物品の多くが高価で取引されているのだ。そんな高価な宝石が、デリバリーの気軽さで届けられていた。
「漱石先生!これだけあれば、大丈夫そうですか?」
「どれどれ………」
夏目は鈴木が差し出した箱から、一つの宝石を取り出した。黄緑色に輝くペリドットのような宝石を見てから、近くで待機していた松岡を呼びつけた。
「お呼びでしょうか、先生」
「松岡くん、この石だけで幾らの価値が付きますか?」
拝借いたしますと断りを入れてから、松岡は宝石を手に取った。宝石を目の前に持っていくと、彼の目付きは鋭いものへと変化した。
松岡の目利きは確かなものである。賢者の島に来てからツイステッドワンダーランドにおける価値観について調べ尽くしたので、マドル単位での鑑定も容易なものだ。
「………この石だけなら、百万マドルは下らないでしょう。三重吉さん、この中の石を幾つか手にしても?」
「いいぞ!」
「ありがとうございます」
明らかに自分よりも年下であろう子どもの鈴木に謙る松岡は、箱から数個の宝石を取り出した。それらも同じように見つめる。ブルーやピンクといった色とりどりの宝石を両手に取りながら、松岡は目利きしていく。
「これは少しばかり欠けてはいますが、それでも五十万マドルが最低値でしょうね。けれどこちらは保存方法が大変良いので、億は行くでしょう」
「……やはり、松岡くんの審美眼は頼りになりますね。今言ったものだけでも、十分な金額になりそうです。サムさん、ありがとうございます」
「お褒めに預かり、恐悦至極に御座います!」
サムは帽子を外し、優雅にお辞儀をする。この様子から見るに、サムは監督生である純恋と萌愛のことや、彼らのことを最初から知っていたのだろう。最初に刀剣男士と文豪という名称を言っていたのが、何よりの証拠だろう。
「サム………お前、知っていたのか?」
「小鬼ちゃんや彼らのことかい?それなら知っていたさ。秘密にしてほしいというお願いと一緒に、彼女たちに俺の店の手伝いを頼んでいてね。代わりに、性別を誤魔化す道具を持たせておいたのさ」
認識阻害の魔力がかけられたネックレスなら、制服の下に隠せる。魔力無しと言い渡された監督生でも効果があり、使用することは可能だ。
「誰にも口外せず、そしてこの世界に見聞の広く信頼のおける大人………なるほど、君がそうなんだな。主や司書殿のこと、感謝してもしきれないさ」
「なんと、勿体ないお言葉!」
末席とはいえ神格のある鶴丸が立ち上がり一礼すると、サムも驚いて深く真っ直ぐに礼をする。異世界とはいえ神という存在、そんな貴い者に頭を下げさせたのだから、サムが慌てるのも無理はない。落ちてしまった帽子を拾う動作も忘れてしまうほどだ。
「けれどディアソムニアの小鬼ちゃんたちが知っていたのは、少し意外だったね」
「僕が話すなと言えば、皆言う通りにしてくれる」
マレウスは監督生たちから打ち明けられた次の日の朝礼で、すぐに全寮生を集めて全てを話した。当然、他言無用だと釘を刺してからだ。
ディアソムニア寮は魂の資質から、茨の谷出身の妖精族が半数を占めている。自分たちの将来の国王の気分を害したくないという恐れもある。だが同時に、マレウスを慕っているのも事実だ。そしてこの世界で生まれ育った少年たちは、オンボロ寮の監督生が女性であることを知って、やはりかと納得したものが多かった。妖精族には魔法道具の効果を見破る妖精もいるのだ。中には知らずに既に悪戯を仕掛けたものが発狂していたが、マレウスの手によって静かにさせられたのは関係ない話だろうか。

「…………監督生は」
ジャックが口を開く。
「スミレは、メアは………俺たちを信じていなかったのか…………?」
「ジャックくん…………」
悔しいのか唸るジャックに、ラギーは何も言えなかった。
「………それは、違うだろ」
「え………」
「テメェを信じているから、言わなかったんだろ」
「………どういう、ことっスか………」
レオナの考えを理解するのに、時間がかかる。ジャックとラギーは当然だが、セベクを除いた一年も理解出来ていなかった。
「レ、レオナサン…………それって………」
「………アタシがあの子たちの立場だったら、絶対に言わないわ。言えない、と言った方が正しいかもしれないけど」
「ヴィル………」
俳優として芸能活動をしているヴィルは仕事柄、秘匿事項が多い。この日まで純恋や萌愛、そして彼女たちの秘密を共有してきたグリムやサム、ゴーストたちの苦労は計り知れない。どちらも国や政府お抱えの指揮官のような存在だ。下手をすれば、ヴィルよりも守秘義務が厳しい立場にある。
「片方は神で、もう片方は過去の人物…………どちらも喚び出すとしたら相当の対価が必要になるしなぁ………この方々の話を聞く限り、監督生コンビは何の対価もないみたいだし」
召喚術の成績が上位のイデアは、大きく溜息を吐きながら現実を受け入れていた。相手を敬うような口調になっているのは、異世界とはいえ曲がり形にも上位の存在だからである。そのイデアの言葉に反論したのは、大倶利伽羅と久米の二人だった。
「…………俺たちが、主から奪うものなど、何も無い」
「僕たちはかつての友人や憧れの師匠…………そして僕たちを尊敬してくれていた若者に会えて感謝しているんです。彼女を恨むことは一切ありませんよ」
文字通り命を削って積み上げてきた文明を、壊すことなど許されない。形は違えど、当時を生きていた立場であれば、尚更そう強く思うのは当然だろう。

感謝こそすれど、憎むことなど御門違いもいいところだ。

彼らの裁判は、始まったばかり。
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