このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

bnyr!

エデンの常連バンドであるBLAST、OSIRIS、FairyApril、cure2tronは一つの楽屋に集まっていた。今日は四つのバンドのスペシャルライブがあり、今は楽屋で小さな打ち上げをしていた。だが、その雰囲気は盛り上がるようなものではなく、何故かこの場にいる全員が暗い顔をしていた。
「葵陽の様子がおかしい」
最初に口を開いたのはFairyAprilのドラム、藤堂美郷。彼の言う葵陽とは、同じくFairyAprilのボーカルであり幼馴染の鳳葵陽のことである。今集まっているのは、その葵陽に聞かれないための秘密会議である。
「二ヶ月前から遊びに誘っても断られるし、何故かここ最近の葵陽のお昼が持参の手作りお弁当だし。まぁそれが肉とかだったら別にいいんだけど明らかに彼氏のために料理を頑張ってる彼女かよって感じのメニューだし」
「遊びに誘って断られるのは俺が来てから変わってねえだろ」
「うるさい」
美郷の言葉に反応したのはギターの七瀬一真だ。余裕ある態度だが、内心は焦っている。その証拠に、紙コップを持つ手が震えている。
「葵陽、最近になってよくボク達におすすめスポットってある?って聞いてくるんだよ!冗談でデートスポットとかおすすめしたらすごく顔赤くして嬉しそうに楽しかったとか言ってたし、あれは絶対恋人だよ!」
cure2tronのドラム、ミントが半分怒り口調でそう言う。他のcure2tronのメンバーも力強く頷く。
「あの時の葵陽さんの顔は間違いなく恋する乙女の顔です。何処の馬の骨とも知れない男に穢される葵陽さん……ああ可哀想に」
「え?葵陽の恋人って男で固定なの?」
「間違いないわ。誰と行くのか聞いたら、男だって言っていたもの」
両手で顔を覆い泣き真似をするcure2tronのベース、ユキホに対して、FairyAprilのベースである徳田吉宗が疑問を持つ。その疑問にcure2tronのギター、シェリーが答えた。
「そう言われると怪しいな……確かに週末になってアサっちゃんのことよく見かけるし、その時は必ずオシャレしてるしな」
「えっ、あの葵陽が!?」
OSIRISのギター、レイ・セファートが唸るように言うと、美郷が驚く。
「ファッションにそこまで興味のない葵陽が……僕の幼馴染を誑かしやがってその恋人とかいうクソ男」
美郷の垣間見えた怒りに、皆息を呑んだ。心の中で、この人だけは怒らせてはいけないと誓ったのだった。
「なるほど……そうなると葵陽さんが僕に相談してきたことについても辻褄が合いますね」
「どういうことだ真琴?」
OSIRISのベース、来栖真琴は全てが分かったとでも言うように呟いた。すかさずその言葉を拾ったのは同じくOSIRISのドラム、小金井進だ。
「これは二ヶ月よりももっと前の話ですが、葵陽さんが胸が痛いというので診ることにしたんです」
「あっ、それ予想出来ますね」
真琴が話し始めてすぐに何かを察したcure2tronのボーカル、マイリー。
「マイリーさんの言う通り。葵陽さんはある人を見ると鼓動が急に早くなり、その人と話すのも緊張してしまうと」
「……まさに恋、だな」
「なんか、初まりが可愛らしいっすね」
少し安心したのか、優しく微笑みながら感想を残したのはOSIRISのボーカルである高良京とBLASTのドラム、白雪徹平だ。
「でもそんな想ってもらえるような相手なら葵陽を任せても大丈夫だと思うんすけど」
「ふん、甘いな」
「うおっ!?」
葵陽の恋人(仮)の肩を持った徹平を睨む一真。今まで何も言わなかったので、徹平は吃驚していた。
「葵陽に想ってもらえてるから大丈夫だと?そう決めつけるのは早いだろ!その葵陽の恋人だとかいう奴は葵陽の可愛さと優しさと可愛さと天然可愛い性格を知っていて騙しているかもしれないだろ!!」
「そんなことな……いや、あるかも」
「そうだろう!?」
噛み締めるように葵陽は可愛いからな、と付け足す一真。何故か納得してしまった徹平に対して、皆仕方ないと諦めたのだった。
「ならもう葵陽に直接聞いてみるか?」
そこに爆弾を落としたのはBLASTのボーカル、東雲大和だ。全員が一斉に大和を見る。
「いやいや、大和正気?」
呆れた顔で聞き出すBLASTのベース、佐伯翼。対する大和は勿論だと言わんばかりに笑いながら楽屋のテーブルの上に置かれたお菓子の袋を開けている。
「聞かなきゃどうしようもないだろ?こんな所で悩んでたって解決しない、そうだろ?」
大和の言葉に殆ど納得した。中には否定的な意見もあったが、大和の真剣な表情と視線に黙ってしまった。
「そういうことなら誰かに葵陽くんを呼んできてもらおうか、じゃあ今まで喋ってない宗介に………あれ?」
翼は同じBLASTのギターである巻宗介の名前を呼ぶ。が、この部屋に宗介の姿は見当たらなかった。
「え、宗介がいない?」
「……俺達が話してる途中で、こっそりと抜けていたな」
トイレにでも行ったのかと思っていたと話す京に、その場が凍り付く。最初に話し出したのは翼だった。
「………ねぇ徹平、この会議のために葵陽くんを楽屋に入れないようにって言わせてたの誰だったっけ」
「宗介先輩っすね」
「……それじゃあ今葵陽くんの居場所知ってるのって」
「それも宗介先輩……あっ」
楽屋に緊張感が走る。そして、全員が軍隊のように一斉に椅子から立ち上がった。
「………葵陽と宗介を探すぞ!!」
大和の掛け声に、皆が楽屋から飛び出した。その目は全て血走っていた。


***


話に上がっていることなど知らず、あるドアの前で辺りを見回す宗介。誰もいないことを確認しドアを開けると、ダンボールや機材などが詰め込まれた薄暗い部屋に人を見つける。
「あっ、宗介くん!」
その人、話題に上がっている葵陽は宗介に気付くと不安そうな顔から一転して笑顔になった。宗介はドアの鍵を閉めながら、近付いてくる葵陽に対して自然と微笑みを浮かべる。おそらく宗介が来るまで、薄暗い部屋で孤独を感じていたのだろう。宗介はそのことに少し罪悪感を覚え、葵陽の丸い頭を撫でた。
「悪いな、こんな所で一人にさせて」
「全然平気だったよ!宗介くんは、大丈夫だったの?」
「まぁな……アイツらの会話面白かったぜ、お前にも聞かせてやりたかったな」
思い出しながら笑う宗介に、葵陽は頬を膨らませる。
「もう宗介くん!オレ達の関係はバレたら駄目なんだよ?絶対誰にも言うなって言ったの宗介くんなんだからね!」
「テメェだってキュアトロの奴らからデートスポット聞き出したりしたんだろ」
「だ、だって……っ!!」
葵陽の言葉を遮るように、宗介は葵陽と唇を合わせる。触れるだけのキスだが、二人は幸せに感じていた。約一分経ったところで名残惜しく離れた。
「そ、宗介くん……」
「今日のアイツらの話聞いてて分かった……お前、色んな男誘い過ぎだろ」
「え、えっ!?誘ってないよ!向こうから遊ぼうとか誘ってくることの方が多いよ!」
宗介は的外れの葵陽の回答に笑い、何で笑ってるの!と葵陽に叱られたのだった。
「早く戻らねぇとアイツら煩いだろうな……」
「オレは大丈夫だから、いってらっしゃい」
「本当に悪いな」
宗介が葵陽に背を向けた。その瞬間、ドアノブを回す乱暴な音が部屋に響く。
「えっ、何!?」
「まさか……」
「葵陽!!ここにいるのか!!?」
「か、一真くん……?」
「チッ……フェアエプのクソギターか……」
この場所を突き止めたらしい一真が葵陽を呼んでいた。外の騒がしさから、おそらく全員がドアの前にいるのだろう。
「宗介!いるなら鍵開けて出てこい!!今ならもやし抜きの刑だけで許してやるから!」
「宗介先輩今のうちに出てきてください!!大和先輩の顔が笑ってないっす!!」
「葵陽もそこにいるんでしょ!?返事して!!」
翼と徹平が宗介に出てくるよう促し、美郷が葵陽に返事を求める。
「ど、どうしたら……」
「……仕方ねえ」
「え?宗介くん……?」
宗介がドアの前まで近付き、鍵を開ける。ドアノブを持っていた一真が勢いよく部屋に滑り込み、その後から全員がぞろぞろと入って来た。


***


「さて、一から話してもらうぞ宗介」
楽屋に戻された宗介と葵陽。宗介は葵陽以外に囲まれ、正座させられていた。一方葵陽は宗介から隔離され、何故自分だけ怒られないのかと頭の中に疑問符を浮かべていた。
「あ、あの……」
「まず僕の愛しの幼馴染と付き合ってるのは宗介くんだよね」
「あぁ」
「葵陽に告白したのもお前か」
「それは違ぇけど」
「そうだよ!告白したのはオレからで……」
「な、何だって!?」
葵陽から告白したという事実を知り全員が葵陽の方に振り返る。
「葵陽は宗介みたいな男のどこがいいんだ?確かに宗介は葵陽のところのギターよりは器用だと思う。だけど、それだけで宗介を選ぶのは宗介に失礼だぞ!」
「喧嘩売ってんのか、それは俺にも失礼だろ」
「そうだよ葵陽くん、せめてどうして宗介を選んだのか聞かせてよ」
「え?えっと……」
戸惑いつつ、葵陽は話し始めた。
「初めて出会ったのはセカンドDフェスの時だったんだけど、その後四つのバンドで交流会みたいなのやった時に改めて話したんだ」
「あぁやったね」
「そこで番号とか交換して、その日から二人だけで他のバンドのライブ観戦したり楽器屋に行ったりしてたんだ」
「おい、そんなの聞いてないぞ」
「い、言ってないし……それで、気付いたら宗介くんと遊園地とか遊びに行く仲になって」
「ゆ、遊園地!?」
「うん、そしたらいつの間にかオレの方が宗介くんのこと好きになってて……真琴さんに相談したら恋だって言うからその日の夜勢いで告白しちゃったんだ」
「そういう訳だ」
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
全員の声が楽屋に響いた。それに対し宗介は「うるせぇ」と一喝しただけだった。
「俺もその時にはもう葵陽のこと好きだったしな、それにあんな泣きそうな顔で好きだとか言われて振るほど冷たくねぇ。俺はそこのツンデレクソギターと違ぇんだよ」
「俺が酷いみたいに言うな」
全ての真実を話した葵陽はバツが悪そうに何も言わなくなり、宗介はそんな葵陽の肩を抱いた。
「ごめんなさい……宗介くん、オレに迷惑かかるから誰にも言わないでほしいって……」
「そうだ、だから責め立てるなら俺だけにしろ。まぁテメェらのことだから最初からそうするつもりだろうが」
その言葉に、全員が沈黙した。そんな中、口を開いたのは美郷だった。
「……葵陽」
「み、美郷……」
「幸せにならないと、容赦なく二人の間を引き裂くからね」
「えっ……」
物騒なことを言う美郷だが、その顔は葵陽を案じるかのように優しかった。
「これが僕達も知らない奴だったら違うけど、宗介くんなら全然安心だよ。宗介くん、葵陽のこと泣かせたら殴るから」
「フン、上等だ」
宗介は口角を上げ、葵陽の顔を隠すように抱き締める。
「テメェらの方こそ、俺の可愛い彼女泣かすんじゃねえぞ」
「ち、ちょっと宗介くん!?」
宗介の腕の中で葵陽が頬を紅く染める。全員、声になり損ねた母音を吐き出す葵陽に興奮すると同時に、その原因を作っている宗介に少しばかり嫉妬するのだった。
8/9ページ
スキ