月歌。
「郁!お願い!!付き合って!」
「うん?」
神無月郁は、如月恋からの申し出に驚いていた。時刻は十九時、ツキノ寮では夕食を済ませ、それぞれ入浴や共有ルームで話をしたりといった自由な時を過ごしている。郁が自室でシャワーを浴び終わった時に部屋のチャイムが鳴り、ドアを開けた先にいたのは恋だった。意外だな、と思いつつ相談があるという恋を部屋に上げて話を聞くことにした。
この時の郁は、密かに友情を越えた気持ちを向けている恋が、相方の師走駆ではなく、自分に相談をしてきたことを心の中で嬉しく思っていた。だから、恋から「付き合って」という言葉を聞いた今も、この場でガッツポーズをしたくなるくらい感情が昂っていた。
それも、その後の言葉で壊されることとなる。
「俺のトレーニングに、付き合って!!」
***
つい先日のこと。
師走駆と水無月涙による毎年恒例(?)のお腹の肉は硬い(安い)か柔らかい(高い)か。通称、安い肉チェックが行われていた。
郁と恋も、もちろん二人に見てもらっている。郁は、涙から昔から安い肉だという結果をもらった。対して恋は、駆から他より高めの肉と言われていた。どうやら、恋はその結果に納得していないようで、同じ歳で同じ身長にも関わらず逆の判定を受けた郁に相談をしに来たようだ。
「ありがとう郁!駆に頼むと一人でやってろーみたいに言われそうだから助かったよー!」
「駆なら言いそうだね」
少しだけ残念な気持ちだが、自分の部屋に恋がいるという事実は変わらない。ここは願い通り、恋のトレーニングを手伝おう。あわよくば、恋に触れられるかもしれない。そう思い始めたところで自分の煩悩に気付き、それ以上考えることをやめた。
(駄目だ……恋に変なことはしないように……なるべく恋に触れないように……)
「えっとまずは……やっぱり腹筋から!郁、足押さえてくれる?」
(嘘やん……)
早速、郁に難関が訪れる。この間も言っていたが、腹筋を頑張っている恋のことだから、予想はしていた。
(でも足だけ……足だけなら……)
「郁?どうしたの?」
ずっと動かず、何も言わない郁を不審に思った恋は、郁の顔を覗き込む。
「もしかして疲れてる?だったら俺帰……」
「大丈夫!ちょっとぼーっとしちゃっただけ!」
「本当に?」
「本当だよ。腹筋やるんだろ?押さえてるから、ちゃんとやるんだよ?」
「うん、もし疲れたらいつでも言っていいから」
たとえ疲れ果てたとしても、意地でも恋のトレーニングに付き合ってやろう。改めて思いながら、床に寝転がった恋の両足に触れた。
「あっ、そういえば郁は腹筋の時って手どうしてる?俺、肩にやってるんだけどさ」
「俺?……頭の後ろ、かな」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ俺もそれでやる!」
「え、何で?」
「ちょっとでも郁のお腹に近付きたいから!」
あくまで自分のお腹なのか……と少し残念に思うが、恋の無邪気さがそんな気持ちを掻き消した。
「はは……そのためにも、頑張らないとだね」
「うん!じゃ、行くね」
回数を数えながら、上体を起こす恋を見つめる。
十分が過ぎた頃、恋の顔に疲れが見え始める。手を頭の後ろに当てて、顔を赤くしながら歯を食いしばる恋の姿に釘付けになる。
「はぁ……はぁ……っ」
郁は思わず唾を飲み込む。普段からは想像できない色のある表情は、郁の理性を壊していくには充分と言えるほどだった。
「……?い、郁?」
突然、足から手を離した郁を不思議に思った恋は、心配そうな声色で郁の名前を呼ぶ。それが引き金となってしまったのか、郁は恋の肩を掴み、恋をそのまま床へと押し倒した。
「いった……郁、どうしたの……?」
「……恋」
「も、もしかしてもう疲れた?眠い……?」
「好き」
「…………はい?」
突拍子もない告白を受けて唖然とする恋。何の冗談かと問おうと郁を見上げると、鋭い眼光で恋をじっと見ていた。
「好き。大好き」
「えっと……あの」
「今だってすごくエロい顔してるの、可愛くて好き」
「えろ……っ!?」
郁から発せられた思いもよらない言葉に動揺する恋。脳内で郁の言葉を再生させては、羞恥で耳まで赤く染め、生理的な涙が恋の丸い瞳に浮かんだ。
「顔真っ赤だよ?」
「い、今腹筋してた……から……」
恋は両手で赤い顔を隠すように覆う。郁はその手首を掴んで、恋の頭の上で纏めあげる。涙混じりの熱っぽい恋の瞳が、郁の僅かに残っていた理性を吹き飛ばした。
「恋、ごめん。我慢出来ない」
「えっ……?」
「腹筋よりキツいし痛いと思うけど、優しくするから」
意味を理解出来ていない恋だったが、郁が恋の着ていたシャツを捲りあげた時にこれから何をされるのか、ようやく気付いたらしい。
「だ、駄目だって!俺男だよ!?」
「大丈夫。恋相手なら全然いけるよ、俺」
「そういう問題じゃなくて……!」
「嫌なら殴るなりして逃げてもいいよ」
恋の手首を片手で押さえ込み、さらに馬乗りになっているため、恋が郁から逃げ出せる可能性はほぼ無いに等しいだろう。
もっとも、されるがままに腹を撫でられて羞恥と困惑で戸惑いを隠せない恋は、郁のことを傷付けてまで逃げようなどと考えられないのかもしれない。
「それにほら、これも運動だろ?もしかしたらこっちの方が効果出るの早いかもしれないよ」
「う、運動って……」
顔を隠せる術がなくなった恋は郁の視線から逃げるように俯き目を閉じる。今、郁の目の前にいる恋の顔は沸騰したかのように赤く染まり、目を瞑ったせいで頬に涙が伝っていた。
「も、もうやめてってば……」
「…………」
「……郁?どうしたの?」
恋は静かになってしまった郁を心配して、顔を上げて話しかけた。すると、恋の顎を掴んで持ち上げたかと思えば、恋の唇に柔らかい感触が触れる。驚いた恋の目の前には郁の顔が間近にあった。
「んんっ!?」
生暖かくざらざらとした感覚が、状況を把握できていない恋の口内へと簡単に侵入していった。恋も自身の舌で追い出そうとしたが、それが歯茎をなぞって刺激した瞬間、恋の体が震えて舌の動きも鈍くなった。
「は……っ、はぁ、こ……い……」
口内を弄っていたのは郁の舌だった。吐息混じりに恋を呼びながら、自身の舌で口の中を犯している。
ようやく離れた頃には、蕩けた顔の恋が酸素を求めて呼吸をしていた。そんな恋の頬に手を添える。
「……ねぇ、恋」
ピクリと体を強ばらせる恋に、優しく耳元で囁く。
「この先、したい?」
既に脳内を郁からの熱いキスで塗り替えられた恋は、無意識に目を瞑り、小さく頷いた。
「うん?」
神無月郁は、如月恋からの申し出に驚いていた。時刻は十九時、ツキノ寮では夕食を済ませ、それぞれ入浴や共有ルームで話をしたりといった自由な時を過ごしている。郁が自室でシャワーを浴び終わった時に部屋のチャイムが鳴り、ドアを開けた先にいたのは恋だった。意外だな、と思いつつ相談があるという恋を部屋に上げて話を聞くことにした。
この時の郁は、密かに友情を越えた気持ちを向けている恋が、相方の師走駆ではなく、自分に相談をしてきたことを心の中で嬉しく思っていた。だから、恋から「付き合って」という言葉を聞いた今も、この場でガッツポーズをしたくなるくらい感情が昂っていた。
それも、その後の言葉で壊されることとなる。
「俺のトレーニングに、付き合って!!」
***
つい先日のこと。
師走駆と水無月涙による毎年恒例(?)のお腹の肉は硬い(安い)か柔らかい(高い)か。通称、安い肉チェックが行われていた。
郁と恋も、もちろん二人に見てもらっている。郁は、涙から昔から安い肉だという結果をもらった。対して恋は、駆から他より高めの肉と言われていた。どうやら、恋はその結果に納得していないようで、同じ歳で同じ身長にも関わらず逆の判定を受けた郁に相談をしに来たようだ。
「ありがとう郁!駆に頼むと一人でやってろーみたいに言われそうだから助かったよー!」
「駆なら言いそうだね」
少しだけ残念な気持ちだが、自分の部屋に恋がいるという事実は変わらない。ここは願い通り、恋のトレーニングを手伝おう。あわよくば、恋に触れられるかもしれない。そう思い始めたところで自分の煩悩に気付き、それ以上考えることをやめた。
(駄目だ……恋に変なことはしないように……なるべく恋に触れないように……)
「えっとまずは……やっぱり腹筋から!郁、足押さえてくれる?」
(嘘やん……)
早速、郁に難関が訪れる。この間も言っていたが、腹筋を頑張っている恋のことだから、予想はしていた。
(でも足だけ……足だけなら……)
「郁?どうしたの?」
ずっと動かず、何も言わない郁を不審に思った恋は、郁の顔を覗き込む。
「もしかして疲れてる?だったら俺帰……」
「大丈夫!ちょっとぼーっとしちゃっただけ!」
「本当に?」
「本当だよ。腹筋やるんだろ?押さえてるから、ちゃんとやるんだよ?」
「うん、もし疲れたらいつでも言っていいから」
たとえ疲れ果てたとしても、意地でも恋のトレーニングに付き合ってやろう。改めて思いながら、床に寝転がった恋の両足に触れた。
「あっ、そういえば郁は腹筋の時って手どうしてる?俺、肩にやってるんだけどさ」
「俺?……頭の後ろ、かな」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ俺もそれでやる!」
「え、何で?」
「ちょっとでも郁のお腹に近付きたいから!」
あくまで自分のお腹なのか……と少し残念に思うが、恋の無邪気さがそんな気持ちを掻き消した。
「はは……そのためにも、頑張らないとだね」
「うん!じゃ、行くね」
回数を数えながら、上体を起こす恋を見つめる。
十分が過ぎた頃、恋の顔に疲れが見え始める。手を頭の後ろに当てて、顔を赤くしながら歯を食いしばる恋の姿に釘付けになる。
「はぁ……はぁ……っ」
郁は思わず唾を飲み込む。普段からは想像できない色のある表情は、郁の理性を壊していくには充分と言えるほどだった。
「……?い、郁?」
突然、足から手を離した郁を不思議に思った恋は、心配そうな声色で郁の名前を呼ぶ。それが引き金となってしまったのか、郁は恋の肩を掴み、恋をそのまま床へと押し倒した。
「いった……郁、どうしたの……?」
「……恋」
「も、もしかしてもう疲れた?眠い……?」
「好き」
「…………はい?」
突拍子もない告白を受けて唖然とする恋。何の冗談かと問おうと郁を見上げると、鋭い眼光で恋をじっと見ていた。
「好き。大好き」
「えっと……あの」
「今だってすごくエロい顔してるの、可愛くて好き」
「えろ……っ!?」
郁から発せられた思いもよらない言葉に動揺する恋。脳内で郁の言葉を再生させては、羞恥で耳まで赤く染め、生理的な涙が恋の丸い瞳に浮かんだ。
「顔真っ赤だよ?」
「い、今腹筋してた……から……」
恋は両手で赤い顔を隠すように覆う。郁はその手首を掴んで、恋の頭の上で纏めあげる。涙混じりの熱っぽい恋の瞳が、郁の僅かに残っていた理性を吹き飛ばした。
「恋、ごめん。我慢出来ない」
「えっ……?」
「腹筋よりキツいし痛いと思うけど、優しくするから」
意味を理解出来ていない恋だったが、郁が恋の着ていたシャツを捲りあげた時にこれから何をされるのか、ようやく気付いたらしい。
「だ、駄目だって!俺男だよ!?」
「大丈夫。恋相手なら全然いけるよ、俺」
「そういう問題じゃなくて……!」
「嫌なら殴るなりして逃げてもいいよ」
恋の手首を片手で押さえ込み、さらに馬乗りになっているため、恋が郁から逃げ出せる可能性はほぼ無いに等しいだろう。
もっとも、されるがままに腹を撫でられて羞恥と困惑で戸惑いを隠せない恋は、郁のことを傷付けてまで逃げようなどと考えられないのかもしれない。
「それにほら、これも運動だろ?もしかしたらこっちの方が効果出るの早いかもしれないよ」
「う、運動って……」
顔を隠せる術がなくなった恋は郁の視線から逃げるように俯き目を閉じる。今、郁の目の前にいる恋の顔は沸騰したかのように赤く染まり、目を瞑ったせいで頬に涙が伝っていた。
「も、もうやめてってば……」
「…………」
「……郁?どうしたの?」
恋は静かになってしまった郁を心配して、顔を上げて話しかけた。すると、恋の顎を掴んで持ち上げたかと思えば、恋の唇に柔らかい感触が触れる。驚いた恋の目の前には郁の顔が間近にあった。
「んんっ!?」
生暖かくざらざらとした感覚が、状況を把握できていない恋の口内へと簡単に侵入していった。恋も自身の舌で追い出そうとしたが、それが歯茎をなぞって刺激した瞬間、恋の体が震えて舌の動きも鈍くなった。
「は……っ、はぁ、こ……い……」
口内を弄っていたのは郁の舌だった。吐息混じりに恋を呼びながら、自身の舌で口の中を犯している。
ようやく離れた頃には、蕩けた顔の恋が酸素を求めて呼吸をしていた。そんな恋の頬に手を添える。
「……ねぇ、恋」
ピクリと体を強ばらせる恋に、優しく耳元で囁く。
「この先、したい?」
既に脳内を郁からの熱いキスで塗り替えられた恋は、無意識に目を瞑り、小さく頷いた。