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アオイとのオモテ祭りを楽しんだスグリは、林間学校の間だけ宿泊しているという公民館までアオイを送った後、真っ直ぐにアップルヒルズへと向かった。
夜中のお祭り時であるキタカミの里の果樹園に、スグリ以外の人間は殆ど居ない。祖母から貰った小遣いの残りをモンスターボール購入に使い果たして、目的地に足を運んだ。
カジッチュという林檎のような野生ポケモンが多く目撃されている果樹園に、スグリはオオタチだけを連れて来ていた。
ガラル地方では、片想いの相手にカジッチュを送ると恋が実る、なんて噂話があるらしい。アオイがアカデミーに入学する前はガラル地方で暮らしていた、という話を聞いたスグリはその話を思い出した。
アオイはスグリにとって、はじめて恋に落ちた女の子だった。
姉とは全く違った性格で、同じくらいの歳の女の子。故郷に伝わる話の中に出てくる鬼様の話にも、真剣に聞いてくれた。寧ろ、鬼様をかっこいいと言ってくれた人だった。
「……や、やった!」
カジッチュに当てたモンスターボールが大人しくなったのを見て、オオタチは嬉しそうに鳴いた。スグリもまた、感嘆の声をあげたのだった。
「ありがとな、オオタチ!」
「タチィ~!」
オオタチはスグリに撫でられて御満悦のようだ。なぜなら、このオオタチは進化前のオタチの時からスグリの傍に居る。スグリが喜ぶということは、オオタチの嬉しいことと同じことだった。
このカジッチュは明日の看板巡りの時に渡そう。
「………………」
そう思ったが何故か、今すぐ渡さなければ、という重そうな感情が溢れ出た。
スグリはスイリョクタウンにある実家ではなく、公民館付近を訪れた。公民館は林間学校で訪れているアカデミーの生徒が、宿泊している施設だ。そこには当然、アオイも寝泊まりしている。
もしかしたら、もう眠りについているかもしれない。それなら明日の朝、早起きしてでも渡そうと思考していたところ。
「………あ、あれ、スグリくん?」
自分の祖母が結った髪は既に解いていたものの、碧色の甚平はそのままのアオイがいた。スグリには見えないように、何かを隠す素振りをしていたが、緊張していた彼にはそれを気にする時間も無かった。
「アオイ………お、起きてたんだ………」
「う、うん!眠れなくて………」
「そっか………でも、よかった………」
「な、何が、よかったのかな………?」
アオイが聴けば、スグリは捕まえたばかりのカジッチュが入ったモンスターボールを差し出す。
「…………?」
「えっと、アオイって確か、ガラル出身なんだよな?」
「う、うん、そうだけど………?」
「んだば、このポケモンさ、見てほしい」
アオイはガラルで過ごした時間が僅かだったのか、スグリの想いが通じなかったのだろう。
何も考えず、スグリから差し出されたポケモンであるカジッチュを受け取ったのだ。
「カジッチュ!?こっちにもいるんだね!」
驚くアオイに、スグリは「アップルヒルズに行けば、わやいるべ」なんて答える。パルデアにもいるけど、なかなか捕まらないよ~なんて世間話をする。
「この子、スグリくんの新しいポケモン?可愛いね!」
「い、いや………ちっ、違う!」
「へ?」
「………アオイに、渡したいポケモンだべ」
「え!?」
どうやらスグリの意もガラルに伝わる噂も、アオイには伝わらなかったようだ。
スグリが詳しく説明して、ようやくアオイは自覚したようだ。渡されたカジッチュを抱きしめながら、頬を林檎のように真っ赤に染めていた。
「あ、あの………」
「ん」
「い、いいのかな……?」
「なして?」
「だ、だって………あぅ………」
そう言いながらアオイは、カジッチュが入ったモンスターボールを受け取る。
「え、えっと、あのね………」
「うん」
「おっ、男の子から、贈り物、もらうの………はじめて、なの」
「そうなんだ」
「そ、それに!おっ、贈り物が、か、カジッチュ、だから………っ!」
「それで?」
「……………うぅ~」
今回ばかりは、自分が意地悪いというのは理解している。それでも、彼女をどうにかしてやりたい気持ちはある。実の姉や学園で絡んでくる異性とは、正反対の、本当の意味で純新無垢な女の子。
スグリが好意を持つには、充分な女の子だった。
「…………え、へへ……ありがとう!大切に育てるね!」
照れながら、カジッチュを抱きしめていた女の子。彼女のことを、スグリが忘れた日は無かった。
………
………………
…………………………
そうだ、忘れた日なんて無かった。
如何にも「嘘が下手です」と言わんばかりのアオイが、優しさから付いた嘘。今にして思えば可愛らしいと思う。
林間学校から少し経った頃、アオイが交換留学の名目でブルーベリー学園を訪れた。
強さを追い求めていたスグリは、いつの間にかブルベリーグのチャンピオンになっていた。常日頃頼りきりだった、実の姉であるゼイユすら実力で打ち負かした。
前のチャンピオンを圧倒し、アオイに勝つためだけに強くなると予測できるようなポケモンのみを育てる。それが林間学校を終えた後のスグリの日常だった。
ブルベリーグ、チャンピオン戦。
少なくとも、林間学校の時よりも育成に時間を費やすことが出来た。そのため、アオイの手持ちに有利になるタイプのポケモンを揃えて挑むつもりだ。
………ブルーベリー学園の制服を身に付けたアオイは、可愛いのは当然ながら、凛々しくもあった。純新無垢なこの少女には、白い服装が良くも憎くも似合ってしまう。
ブルベリーグチャンピオン・スグリとパルデアのチャンピオンランク・アオイのバトルが、始まる。
(……………は?)
バトルコートに立ったスグリは、アオイが手持ち一匹のみで自身と同じ場所に踏み入ったことに気が付いた。
以前までのアオイは、パルデア地方で簡単に捕まるポケモンから、希少なポケモンまで手持ちに含めていた。
彼女は珍しいポケモンとか、珍しくないポケモンなんて関係ない。そんなものは人の勝手な考えだと、受け売りを持った両親から教わったのだ。
『好きなポケモンを大切に育てて、好きなポケモンで戦いなさい』
それが、アオイが両親から耳にオクタンやタタッコが出来るくらい聞かされた言葉だった。
「スグリくんっ!」
「!」
アオイの可愛らしい声がバトルコートに響く。
「………私、アオイ!パルデアのチャンピオンは!ブルベリーグのチャンピオン相手に、この子だけで戦います!」
そう宣言したアオイが投げたボールから現れたのは。
「ぽに~!」
碧色の羽織のようなポケモン、オーガポン。
あの時、アオイと同じ甚平の色をした鬼の。
………………おれが、ずっと、あこがれていた。
今じゃ、めんこいだけの鬼様………オーガポンが、碧の仮面を被っていて。
……………めんこいだけじゃなくて、バトルが大好きなだけの女の子に、勝負をしかけられた。
夜中のお祭り時であるキタカミの里の果樹園に、スグリ以外の人間は殆ど居ない。祖母から貰った小遣いの残りをモンスターボール購入に使い果たして、目的地に足を運んだ。
カジッチュという林檎のような野生ポケモンが多く目撃されている果樹園に、スグリはオオタチだけを連れて来ていた。
ガラル地方では、片想いの相手にカジッチュを送ると恋が実る、なんて噂話があるらしい。アオイがアカデミーに入学する前はガラル地方で暮らしていた、という話を聞いたスグリはその話を思い出した。
アオイはスグリにとって、はじめて恋に落ちた女の子だった。
姉とは全く違った性格で、同じくらいの歳の女の子。故郷に伝わる話の中に出てくる鬼様の話にも、真剣に聞いてくれた。寧ろ、鬼様をかっこいいと言ってくれた人だった。
「……や、やった!」
カジッチュに当てたモンスターボールが大人しくなったのを見て、オオタチは嬉しそうに鳴いた。スグリもまた、感嘆の声をあげたのだった。
「ありがとな、オオタチ!」
「タチィ~!」
オオタチはスグリに撫でられて御満悦のようだ。なぜなら、このオオタチは進化前のオタチの時からスグリの傍に居る。スグリが喜ぶということは、オオタチの嬉しいことと同じことだった。
このカジッチュは明日の看板巡りの時に渡そう。
「………………」
そう思ったが何故か、今すぐ渡さなければ、という重そうな感情が溢れ出た。
スグリはスイリョクタウンにある実家ではなく、公民館付近を訪れた。公民館は林間学校で訪れているアカデミーの生徒が、宿泊している施設だ。そこには当然、アオイも寝泊まりしている。
もしかしたら、もう眠りについているかもしれない。それなら明日の朝、早起きしてでも渡そうと思考していたところ。
「………あ、あれ、スグリくん?」
自分の祖母が結った髪は既に解いていたものの、碧色の甚平はそのままのアオイがいた。スグリには見えないように、何かを隠す素振りをしていたが、緊張していた彼にはそれを気にする時間も無かった。
「アオイ………お、起きてたんだ………」
「う、うん!眠れなくて………」
「そっか………でも、よかった………」
「な、何が、よかったのかな………?」
アオイが聴けば、スグリは捕まえたばかりのカジッチュが入ったモンスターボールを差し出す。
「…………?」
「えっと、アオイって確か、ガラル出身なんだよな?」
「う、うん、そうだけど………?」
「んだば、このポケモンさ、見てほしい」
アオイはガラルで過ごした時間が僅かだったのか、スグリの想いが通じなかったのだろう。
何も考えず、スグリから差し出されたポケモンであるカジッチュを受け取ったのだ。
「カジッチュ!?こっちにもいるんだね!」
驚くアオイに、スグリは「アップルヒルズに行けば、わやいるべ」なんて答える。パルデアにもいるけど、なかなか捕まらないよ~なんて世間話をする。
「この子、スグリくんの新しいポケモン?可愛いね!」
「い、いや………ちっ、違う!」
「へ?」
「………アオイに、渡したいポケモンだべ」
「え!?」
どうやらスグリの意もガラルに伝わる噂も、アオイには伝わらなかったようだ。
スグリが詳しく説明して、ようやくアオイは自覚したようだ。渡されたカジッチュを抱きしめながら、頬を林檎のように真っ赤に染めていた。
「あ、あの………」
「ん」
「い、いいのかな……?」
「なして?」
「だ、だって………あぅ………」
そう言いながらアオイは、カジッチュが入ったモンスターボールを受け取る。
「え、えっと、あのね………」
「うん」
「おっ、男の子から、贈り物、もらうの………はじめて、なの」
「そうなんだ」
「そ、それに!おっ、贈り物が、か、カジッチュ、だから………っ!」
「それで?」
「……………うぅ~」
今回ばかりは、自分が意地悪いというのは理解している。それでも、彼女をどうにかしてやりたい気持ちはある。実の姉や学園で絡んでくる異性とは、正反対の、本当の意味で純新無垢な女の子。
スグリが好意を持つには、充分な女の子だった。
「…………え、へへ……ありがとう!大切に育てるね!」
照れながら、カジッチュを抱きしめていた女の子。彼女のことを、スグリが忘れた日は無かった。
………
………………
…………………………
そうだ、忘れた日なんて無かった。
如何にも「嘘が下手です」と言わんばかりのアオイが、優しさから付いた嘘。今にして思えば可愛らしいと思う。
林間学校から少し経った頃、アオイが交換留学の名目でブルーベリー学園を訪れた。
強さを追い求めていたスグリは、いつの間にかブルベリーグのチャンピオンになっていた。常日頃頼りきりだった、実の姉であるゼイユすら実力で打ち負かした。
前のチャンピオンを圧倒し、アオイに勝つためだけに強くなると予測できるようなポケモンのみを育てる。それが林間学校を終えた後のスグリの日常だった。
ブルベリーグ、チャンピオン戦。
少なくとも、林間学校の時よりも育成に時間を費やすことが出来た。そのため、アオイの手持ちに有利になるタイプのポケモンを揃えて挑むつもりだ。
………ブルーベリー学園の制服を身に付けたアオイは、可愛いのは当然ながら、凛々しくもあった。純新無垢なこの少女には、白い服装が良くも憎くも似合ってしまう。
ブルベリーグチャンピオン・スグリとパルデアのチャンピオンランク・アオイのバトルが、始まる。
(……………は?)
バトルコートに立ったスグリは、アオイが手持ち一匹のみで自身と同じ場所に踏み入ったことに気が付いた。
以前までのアオイは、パルデア地方で簡単に捕まるポケモンから、希少なポケモンまで手持ちに含めていた。
彼女は珍しいポケモンとか、珍しくないポケモンなんて関係ない。そんなものは人の勝手な考えだと、受け売りを持った両親から教わったのだ。
『好きなポケモンを大切に育てて、好きなポケモンで戦いなさい』
それが、アオイが両親から耳にオクタンやタタッコが出来るくらい聞かされた言葉だった。
「スグリくんっ!」
「!」
アオイの可愛らしい声がバトルコートに響く。
「………私、アオイ!パルデアのチャンピオンは!ブルベリーグのチャンピオン相手に、この子だけで戦います!」
そう宣言したアオイが投げたボールから現れたのは。
「ぽに~!」
碧色の羽織のようなポケモン、オーガポン。
あの時、アオイと同じ甚平の色をした鬼の。
………………おれが、ずっと、あこがれていた。
今じゃ、めんこいだけの鬼様………オーガポンが、碧の仮面を被っていて。
……………めんこいだけじゃなくて、バトルが大好きなだけの女の子に、勝負をしかけられた。
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