憧憬
(千石とも絡みます。三角関係苦手な方はご注意下さい)
人生早く終わりが来ないかな、なんてくだらない事を考えながら飴が溶けた熱い鍋の中に林檎を入れる。
いくら私が願った所で、もちろん時間が早まるわけでも今の現状が良くなるわけでもなかった。それは鍋の変わらない林檎の様子を見れば一目瞭然で、火傷しないよう気をつけ林檎をくるりと回し出して屋台に並べた。
売り切れてからもうすでに15個は作っただろう。小さいのを多めに、大きいのは少なめに。林檎飴と書かれたのれんの下で必死に一人で働く私はこの仕事に、人生に疲れている。この作業が一週間も続くと思うと憂鬱になり、思わず溜息をついた。
夕方をとうに過ぎて、暗くなった野外には沢山の屋台と沢山の人。よくこんな騒がしい人混みにわざわざ来るよな、馬鹿じゃないの。一服と私はガスボンベの上に置いた煙草を手に取り、簡易椅子に腰掛けて携帯をいじる。頼むから客来るなよ、話しかけるなよ、絡んで来るなよ、そんな雰囲気を醸し出して。
「おねーさん!小さいの三つちょーだい!」
私の醸し出したオーラが効かない人物が一人。友達らしき連れを数人連れて、それはそれは明るく、元気よく、私と正反対の人種のオレンジ頭の若い子。屋台の簡素な眩しすぎるライトが似合うような男の子だった。
はい、900円ね。こんなぼったくりの林檎飴を三つも買うならファミレスでも行った方が安上がりだよ。付け加えたくなった言葉を飲み込み、オレンジ頭の子の手から千円を受け取った。
オレンジ頭の子が屋台の前の林檎飴を三つ抜き取り友達らしき二人に、はい地味ーずの分!、そう呼んで飴を手渡した。どんなあだ名だよ、私は百円を渡すついでに地味ーずとやらをちらりと拝見した。あだ名について文句を言いながらも林檎飴を受け取り嬉しそうな地味な彼らは、キラキラとした青春を謳歌している真っ最中だった。
「お姉さんさ、今いくつ?」
俺と同じくらいだよね?、オレンジ頭の子はセンゴクキヨスミ、山吹中三年まだ14歳!と笑顔で名乗って私の返答を待った。地味ーずの二人は迷惑だからやめろと後ろで焦っていて、かわいい彼らに免じて口を開いた。
「高1の16」
「どこの高校行ってるの?」
「すぐそこの高校だけど今休学してる」
あらら。センゴクキヨスミは整った顔を少し崩して困ったように笑った。そのうちに大きい音と共に綺麗な花火が空に上がって、彼らは空を見上げた。ほら早くあっちいきなよ邪魔だから、私は一人で座っていたいから。再度宜しくない雰囲気を醸し出して座り、半分近くまで火が灯った煙草にやっと手をつけた。
「お姉さんさ、俺の友達に似てるよ」
明日もこのお店?連れてきてあげるね!センゴクキヨスミはバイバイと私に手を振り、地味ーずを連れて花火の方へと去って行った。
いや、いらねーよ友達の紹介とか。きっとああいう子は口だけで来ない。こんなつまんない人生早く終わらないかな、私は空の花火に目もくれずにまた携帯に視線を落とす。
先に高校を中退した友達のラインの名前がアルファベット1文字になった。この子もか、友達の欄を見ればアルファベット1文字とハートマークばかりで埋まっている。キャバかなバーかな、本名を知られたくないからと名前変更した友達の顔が浮かぶ。私もきっともうすぐ彼女達の仲間になるだろう。
鬱陶しい高校を辞めて、今のテキ屋だとか夜の仕事で食っていく。今更勉強だとか色んな努力したところで、今の私に残るのは若さだけだ。今日も嫌々、やる気もなしに林檎飴を売る。
こんばんはお姉さん。語尾にハートマークが付きそうなテンションの声、昨日聞いた気がする。顔を上げれば相変わらずの笑顔のセンゴクキヨスミ。
「本当に来たんだ」
「来たよ!お姉さんに似た友達連れてきたから!あっ、小さいの一個ちょうだい!」
にこにこにこにこ、やはり彼は明るくて私には眩しすぎる。そんな彼から300円受け取って、小さい林檎飴を2つ渡した。
「2つももらっていいの?」
「いいよそれ昨日作った残りだけど。まだ食べれるから」
2つも貰えるなんてラッキー、彼は笑顔で私には似合わない言葉を吐いた。アクツにもあげる、彼は後ろから現れた銀髪の柄の悪い男に林檎飴を渡そうとして、そんなもんいらねぇよ。そう断られていた。
彼はアクツと言うのか、地味ーずと人相違いすぎるでしょ。私は心の中でやけに無愛想な男をアクツと呼んだ。
「大体そんなもんぼったくりだろ」
アクツは店側の私が絶対に口に出せない言葉を堂々と店の私に聞こえるボリュームで言って、キヨスミは笑って彼を宥 めた。なるほど、彼らはいいバランスを保っている。明るいキヨスミと怖いアクツ、彼らはきっと女の子からモテるだろう。
「そうだよぼったくりだよ。儲けてるから君達に2つあげたの」
煙草に火をつけて紫煙を吐いた。なんならもう2つあげようか、捨てるような昨日の残りだけど。私はキヨスミとアクツに笑って問いかけた。
「えー新しい林檎飴ちょうだいよ!ついでにお姉さんのラインも!」
「うるさい、ラインも教えないし新しいのもあげないよ。私に命令しないで」
私の言葉を聞いたキヨスミは一瞬ぽかんとした顔をして、次には大笑いしていた。アクツと似すぎ、そう笑った。
いや知らねーよアクツとか。今初めて見たし会ったし。私は自然と怪訝な顔をしただろう、アクツの顔を見ると彼もまた怪訝な顔をしていてそれがまた私の癪に触った。彼もまた私の対応が気に食わなかったのだろう、後ろを向きさっさと歩き出して行った。
「ごめんね、アクツってああいう奴だから」
キヨスミは笑いながら私に謝罪をした。彼がアクツ、亜細亜の亜にー、…
一文字一文字漢字までご丁寧に説明した彼は、次に自分の名前も同じように私に説明した。別に聞いてないのに。
また来るね、お姉さん!清純は昨日と同じ笑顔で去っていった。
若いなぁ、楽しそうだなぁ。荒んだ私と違って彼らはキラキラとした青春の中で生きるのだろう。一生懸命勉強して、思いっきり友達と喧嘩をして、素敵な恋をして、全てを中途半端に投げ出した私とは違って立派な大人になるのだろう。
彼らが少し羨ましい。でも私は16歳という若さで自分の人生を諦めている。勉強もしない、友達も少ない、適当な恋しかしない、そんな私が立派な大人になれるわけないと自分で理解している。私は彼らとは違う、何もかもが半端なのだ。
21時を回る頃、上の人がわざわざ屋台まで来た。売上金の目標は超えた、誰とも喧嘩していない、何も問題はない。明日も宜しく、一目見て一般人ではないだろう。そう分かる上の人は私に今日の取り分を渡した。お礼を言って、私はこの場を去る。屋台の片付けは彼らの仕事で私は帰される。私はまだガキだから色々と都合が悪いのだろう。私の取り分が他の人より少ない事知ってるんだからね、いかついのだけが頼りのおっさん。
「おねーさんっ」
相変わらず語尾にハートマークがつきそうなテンションの声。一斉に帰る人混みの中で私を呼んでいるであろう声の主を探して周りを見渡せば、背の高い銀髪が見えた。清純はきっとあの銀髪頭の亜久津だとかいう無愛想な男といるだろう。それは大当たりで、清純のオレンジ頭が隣で揺れたのが見えた。そのうちにどんどんオレンジ頭が近づいてきて、お疲れ様!、私に水滴のついた冷たいジュースを手渡した。
「いやぁ帰ろうとしたらさぁ、お姉さんいるから!」
これは話しかけなきゃダメだと思ったんだよねぇ。清純は人混みも気にせずに一人でうんうん頷いて笑った。
わざわざ追いかけて来てくだらない。でも嬉しいしこの子可愛い。でもそれが素直に顔と口に出ない、私の無愛想な顔面は。
「くだらねぇ」
私がちょうど思っていた事を亜久津は煙草に火をつけて煙と共に吐いた。驚いた、私の台詞取んなよ。まぁそれも言わないけど。
「まぁまぁ亜久津、明日もお祭り来ようね。中学最後のお祭りなんだから」
にこにこにこ。清純の笑顔は亜久津に対しても整っている。柔軟な男だ、まだ中学生のくせに。
「誰が行くかよ、勝手に行ってろ」
亜久津は先に去るわけでもなく、人混みの中立ち止まって私達と会話をする。周りがみんな私達を避けて行く。きっと亜久津のせいだな威圧感凄いから。
「じゃあお姉さんの所、明日も行くね」
清純の笑顔を見て、私も煙草を取り出して安物のライターで火をつけた。
「別に来なくていいよ、まぁ来てもいいけど」
お姉さんと亜久津似すぎじゃない?
清純は整った笑顔を少し崩して笑った。
人生早く終わりが来ないかな、なんてくだらない事を考えながら飴が溶けた熱い鍋の中に林檎を入れる。
いくら私が願った所で、もちろん時間が早まるわけでも今の現状が良くなるわけでもなかった。それは鍋の変わらない林檎の様子を見れば一目瞭然で、火傷しないよう気をつけ林檎をくるりと回し出して屋台に並べた。
売り切れてからもうすでに15個は作っただろう。小さいのを多めに、大きいのは少なめに。林檎飴と書かれたのれんの下で必死に一人で働く私はこの仕事に、人生に疲れている。この作業が一週間も続くと思うと憂鬱になり、思わず溜息をついた。
夕方をとうに過ぎて、暗くなった野外には沢山の屋台と沢山の人。よくこんな騒がしい人混みにわざわざ来るよな、馬鹿じゃないの。一服と私はガスボンベの上に置いた煙草を手に取り、簡易椅子に腰掛けて携帯をいじる。頼むから客来るなよ、話しかけるなよ、絡んで来るなよ、そんな雰囲気を醸し出して。
「おねーさん!小さいの三つちょーだい!」
私の醸し出したオーラが効かない人物が一人。友達らしき連れを数人連れて、それはそれは明るく、元気よく、私と正反対の人種のオレンジ頭の若い子。屋台の簡素な眩しすぎるライトが似合うような男の子だった。
はい、900円ね。こんなぼったくりの林檎飴を三つも買うならファミレスでも行った方が安上がりだよ。付け加えたくなった言葉を飲み込み、オレンジ頭の子の手から千円を受け取った。
オレンジ頭の子が屋台の前の林檎飴を三つ抜き取り友達らしき二人に、はい地味ーずの分!、そう呼んで飴を手渡した。どんなあだ名だよ、私は百円を渡すついでに地味ーずとやらをちらりと拝見した。あだ名について文句を言いながらも林檎飴を受け取り嬉しそうな地味な彼らは、キラキラとした青春を謳歌している真っ最中だった。
「お姉さんさ、今いくつ?」
俺と同じくらいだよね?、オレンジ頭の子はセンゴクキヨスミ、山吹中三年まだ14歳!と笑顔で名乗って私の返答を待った。地味ーずの二人は迷惑だからやめろと後ろで焦っていて、かわいい彼らに免じて口を開いた。
「高1の16」
「どこの高校行ってるの?」
「すぐそこの高校だけど今休学してる」
あらら。センゴクキヨスミは整った顔を少し崩して困ったように笑った。そのうちに大きい音と共に綺麗な花火が空に上がって、彼らは空を見上げた。ほら早くあっちいきなよ邪魔だから、私は一人で座っていたいから。再度宜しくない雰囲気を醸し出して座り、半分近くまで火が灯った煙草にやっと手をつけた。
「お姉さんさ、俺の友達に似てるよ」
明日もこのお店?連れてきてあげるね!センゴクキヨスミはバイバイと私に手を振り、地味ーずを連れて花火の方へと去って行った。
いや、いらねーよ友達の紹介とか。きっとああいう子は口だけで来ない。こんなつまんない人生早く終わらないかな、私は空の花火に目もくれずにまた携帯に視線を落とす。
先に高校を中退した友達のラインの名前がアルファベット1文字になった。この子もか、友達の欄を見ればアルファベット1文字とハートマークばかりで埋まっている。キャバかなバーかな、本名を知られたくないからと名前変更した友達の顔が浮かぶ。私もきっともうすぐ彼女達の仲間になるだろう。
鬱陶しい高校を辞めて、今のテキ屋だとか夜の仕事で食っていく。今更勉強だとか色んな努力したところで、今の私に残るのは若さだけだ。今日も嫌々、やる気もなしに林檎飴を売る。
こんばんはお姉さん。語尾にハートマークが付きそうなテンションの声、昨日聞いた気がする。顔を上げれば相変わらずの笑顔のセンゴクキヨスミ。
「本当に来たんだ」
「来たよ!お姉さんに似た友達連れてきたから!あっ、小さいの一個ちょうだい!」
にこにこにこにこ、やはり彼は明るくて私には眩しすぎる。そんな彼から300円受け取って、小さい林檎飴を2つ渡した。
「2つももらっていいの?」
「いいよそれ昨日作った残りだけど。まだ食べれるから」
2つも貰えるなんてラッキー、彼は笑顔で私には似合わない言葉を吐いた。アクツにもあげる、彼は後ろから現れた銀髪の柄の悪い男に林檎飴を渡そうとして、そんなもんいらねぇよ。そう断られていた。
彼はアクツと言うのか、地味ーずと人相違いすぎるでしょ。私は心の中でやけに無愛想な男をアクツと呼んだ。
「大体そんなもんぼったくりだろ」
アクツは店側の私が絶対に口に出せない言葉を堂々と店の私に聞こえるボリュームで言って、キヨスミは笑って彼を
「そうだよぼったくりだよ。儲けてるから君達に2つあげたの」
煙草に火をつけて紫煙を吐いた。なんならもう2つあげようか、捨てるような昨日の残りだけど。私はキヨスミとアクツに笑って問いかけた。
「えー新しい林檎飴ちょうだいよ!ついでにお姉さんのラインも!」
「うるさい、ラインも教えないし新しいのもあげないよ。私に命令しないで」
私の言葉を聞いたキヨスミは一瞬ぽかんとした顔をして、次には大笑いしていた。アクツと似すぎ、そう笑った。
いや知らねーよアクツとか。今初めて見たし会ったし。私は自然と怪訝な顔をしただろう、アクツの顔を見ると彼もまた怪訝な顔をしていてそれがまた私の癪に触った。彼もまた私の対応が気に食わなかったのだろう、後ろを向きさっさと歩き出して行った。
「ごめんね、アクツってああいう奴だから」
キヨスミは笑いながら私に謝罪をした。彼がアクツ、亜細亜の亜にー、…
一文字一文字漢字までご丁寧に説明した彼は、次に自分の名前も同じように私に説明した。別に聞いてないのに。
また来るね、お姉さん!清純は昨日と同じ笑顔で去っていった。
若いなぁ、楽しそうだなぁ。荒んだ私と違って彼らはキラキラとした青春の中で生きるのだろう。一生懸命勉強して、思いっきり友達と喧嘩をして、素敵な恋をして、全てを中途半端に投げ出した私とは違って立派な大人になるのだろう。
彼らが少し羨ましい。でも私は16歳という若さで自分の人生を諦めている。勉強もしない、友達も少ない、適当な恋しかしない、そんな私が立派な大人になれるわけないと自分で理解している。私は彼らとは違う、何もかもが半端なのだ。
21時を回る頃、上の人がわざわざ屋台まで来た。売上金の目標は超えた、誰とも喧嘩していない、何も問題はない。明日も宜しく、一目見て一般人ではないだろう。そう分かる上の人は私に今日の取り分を渡した。お礼を言って、私はこの場を去る。屋台の片付けは彼らの仕事で私は帰される。私はまだガキだから色々と都合が悪いのだろう。私の取り分が他の人より少ない事知ってるんだからね、いかついのだけが頼りのおっさん。
「おねーさんっ」
相変わらず語尾にハートマークがつきそうなテンションの声。一斉に帰る人混みの中で私を呼んでいるであろう声の主を探して周りを見渡せば、背の高い銀髪が見えた。清純はきっとあの銀髪頭の亜久津だとかいう無愛想な男といるだろう。それは大当たりで、清純のオレンジ頭が隣で揺れたのが見えた。そのうちにどんどんオレンジ頭が近づいてきて、お疲れ様!、私に水滴のついた冷たいジュースを手渡した。
「いやぁ帰ろうとしたらさぁ、お姉さんいるから!」
これは話しかけなきゃダメだと思ったんだよねぇ。清純は人混みも気にせずに一人でうんうん頷いて笑った。
わざわざ追いかけて来てくだらない。でも嬉しいしこの子可愛い。でもそれが素直に顔と口に出ない、私の無愛想な顔面は。
「くだらねぇ」
私がちょうど思っていた事を亜久津は煙草に火をつけて煙と共に吐いた。驚いた、私の台詞取んなよ。まぁそれも言わないけど。
「まぁまぁ亜久津、明日もお祭り来ようね。中学最後のお祭りなんだから」
にこにこにこ。清純の笑顔は亜久津に対しても整っている。柔軟な男だ、まだ中学生のくせに。
「誰が行くかよ、勝手に行ってろ」
亜久津は先に去るわけでもなく、人混みの中立ち止まって私達と会話をする。周りがみんな私達を避けて行く。きっと亜久津のせいだな威圧感凄いから。
「じゃあお姉さんの所、明日も行くね」
清純の笑顔を見て、私も煙草を取り出して安物のライターで火をつけた。
「別に来なくていいよ、まぁ来てもいいけど」
お姉さんと亜久津似すぎじゃない?
清純は整った笑顔を少し崩して笑った。
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