彼女の体温
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少しだけ肌寒さを感じて、身を震わせた。
重いまぶたを持ち上げれば、暗い部屋に小さなロウソクが灯っているのが見える。自分の部屋じゃない、それだけはすぐにわかった。
どこなのか確認しようと上半身を起こすと、バサリと布が落ちた。黒く大きなそれは、見間違うはずもない。寝起きの呆けた頭でありながら、心臓は大きく高鳴った。
「これは、スネイーー」
「目が覚めたのなら、早く出て行きたまえ」
低く心地良い声に、また心臓が跳ね上がる。振り向いた先にいたスネイプ教授は、大鍋を魔法で洗っている最中だった。
今の状況がまったく理解できない。教授の部屋にプレゼントを渡しに来たところまでしか覚えていない。
「まさか、自分が何故ここにいるのかわからない、とでも言うつもりかね?」
作業を終えた教授が、私の顔を見てわずかに眉根を寄せる。
その通りです、と私の表情が語っていたのか、ため息をつかれた。
「廊下で倒れていたのだ。自己管理もできず風邪を引くとは、情けないな」
「す、すみません……」
きっと、雪の中を歩いて教授のプレゼントを買いに行ったせいだ。
それを素直に言ってしまえば、人のせいにするなと怒るかもしれない。黙っている方がいい。
誤魔化すために苦笑いをすると、教授は呆れたと言わんばかりに再びため息をついた。
「勘違いせぬよう先に言っておくが、病棟へ連れて行けば多くの生徒に噂をまかれる危険があったのでな。安全策として、ここに置いていただけだ」
落ちかけたローブを素早く持って行く姿が、早く出て行けと言っているように見えた。
ローブがかかっていた足下が肌寒くて寂しさを覚えたけれど、それは逆に今まで教授の温もりに守られていた、ということになるかもしれない。凍えるような廊下に出ても、その事実が私の心を温めてくれた。
やけに甘い口内にも気付かず、私は軽やかな足取りで寮へと戻った。
* * *
後日。
魔法薬の授業を終えたあと、教授の卓上に置いてある鍋が目についた。
「あ、スネイプ教授、その小鍋……」
「これか。これは汚れがつかない特殊な鍋だ。焦げ付きやすい魔法薬を調合するのに重宝している。小さいが、使い勝手が良い」
「そうですか、良かった。あの、言い忘れていたんですけど」
「何かね」
「お誕生日、おめでとうございます。スネイプ教授」
「その言葉、ありがたく頂戴しよう。だが今回だけだ」
教授は顔をしかめているけれど、満足そうな口振りに私も嬉しくなって笑みをこぼした。
私のプレゼントは、スネイプ教授の役に立ってくれているらしい。良かった、本当に。
頬の緩みが抑えられず嬉しさの余韻に浸っていると、スネイプ教授が何かを呟いた気がした。
「え、今何かおっしゃいました?」
「今夜は、月がきれいだな」
「月? ええ、そうですね」
「ハァ……。ミス・フラム、お前はもう少し勉学に励む必要がある。特に東洋の文化について学んではいかがかな」
「……え?」
私がその言葉の意味を知って教授の元へと走るのは、また数日後の話。
end