彼女の体温
夢小説設定
夢処にて使用される名前漢字表記、カタカナ表記と別れているので
読者様がより楽しめるよう
お手数ですがそれぞれ入力をお願い致します
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「フラム……!」
ここ最近で、こんなにも心臓を激しく動かしたことがあっただろうか。胸騒ぎは痛みに変わり、背筋に悪寒が走った。
駆け寄り、抱き抱えたフラムの体は燃えるほど熱い。冷たい廊下に身を預けていたにも関わらず。額には汗が滲み、頬は赤く息も荒い。
恐らく、風邪の症状だろう。
ふと、フラムが持ってきた箱が目に入った。包装紙に白い花が咲いている。白い……百合。私の脳内には、忘れもしないあの光景が浮かんでいた。確かに腕の中にいるはずなのに、時間と共に冷たくなっていく彼女の体……。
その私の記憶を否定するフラムの熱い体温に、自分でも驚くほど安堵した。
解熱薬ならば、すぐに作れるだけの材料はあったはず。
フラムをソファまで運び、着ていたローブをブランケットの代わりにかけた。これだけ動かしても目を開かないのは、酷く衰弱しているせいか。
直ちに薬を服用させなければならない。その焦りとは裏腹に、薬の調合を終えてもフラムは目を覚まさなかった。
「起きろ、フラム。このままでは薬も飲めんぞ」
未だ意識を失ったままのフラムは、口を薄く開いて浅い呼吸を繰り返していた。
このままでは症状が悪化する一方だ。しかし、この状態のフラムを病棟へ連れて行くのも気が引ける。まだディナーの最中である今、動けば道中で多くの生徒に目撃されるだろう。
そうなれば、あらぬ噂が光の速さで校内を駆け回る。奇異の目を向けられるのは勘弁願いたい。
最善の策を取るならば、今ここで、フラムが回復して何事もなく部屋を出て行けば良いのだ。
しばらく葛藤したが、背に腹は代えられぬ。この方法しかないだろう。
薬が入ったゴブレットを、自身の口元で傾ける。冷たくドロリとした薬液は苦みを多く含んでいるが、唾液と混ざり合う部分はわずかに甘い。
フラムの苦しんでいる顔をこちらに向かせ、口付けた。
口を開かせるために唇の間に舌を滑り込ませ、少しずつ薬を流し込んでいく。フラムの後頭部を抱え少し持ち上げると、角度がついて飲みやすくなったのかフラムののどが数回動いた。
ほとんど飲み干したことを確認した時、不意に熱く溶けそうな舌に触れた。力の入っていないそれは柔らかく、官能的な心地良さに胸の辺りがふわりと軽くなる。一瞬意識が飛び、気付いた時には行為を堪能していた。
小さな唇は女性特有の柔らかさを彷彿とさせ、舌を吸い上げればわずかにフラムの体がピクリと動いた。その反応が、私の感情を高ぶらせる。
しょせん私も本能に抗うことなどできない、ただの男だったということか。
貪るように、慈しむように、手放したくないとすがるように……。
薬は飲ませたのだ、もう離れていい。
しかし、胸の内から熱くわき上がるものがそれを許さない。
今だけだ、フラムの意識がない、今だけ。捨てるべき感情に名は不要だろう。
認めはしない、認めはしないが。今だけは、自分を許そう。
愚かで情けなく、向き合うことさえできない臆病な私を許してくれ、ナエ。