これは、彼女が事故に遭い転生する前のifの物語であるーーーーーー。



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男は一人、片目から見える景色に只々その光景に驚愕していた。





｢何処だ････此処は、｣






確か自分は首領から呼び出しを受け、重い腰を仕方なく上げて幼馴染である詩織と泪を流しながら別れ、首領の部屋の扉を開けた筈だった。

それなのに、今自分の前には見覚えのない景色が広がっている。

建ち並ぶのは今までに見た事もない高層ビル。そして溢れんばかりの人並み。

その光景の全てが、初めて目にする光景だった。



取り敢えず、この人混みから抜け出す為に
その辺の信号機を渡って路地裏を見つけると、そのまま其処へ入り込む。

少し落ち着きを取り戻した太宰は今自分が置かれている状況を軽く整理することにした。



先ず、この状況を引き起こした原因は異能力ではなく、自分では分からない何かの力が引き起こしたこと。

そして、持っている携帯を見てみたが電波は圏外になっており、首領とも連絡が取れないこと。


先刻歩いている最中に確認したが、看板には''横浜''と表記されていたが、景色などが全く異なる事から、此処は自分の識る横浜ではないこと。


帰る方法も考えなければならないが、太宰の中で一番気掛かりだったのは何より詩織の事だ。

幼馴染を溺愛している故に、逢えるどころか連絡すら取れない事実が太宰にとっては本当に苦痛であった。


詩織を見れる方法があるとすれば、現時点では隠し撮りしている写真のみ。
所詮は使えぬ通話機械。然しどんなに使い物にならない携帯でも、彼女を目に出来るこの機械は太宰にとってみれば現状持ちうる物の中で最高に使える物になるのだ。
其の携帯を少し大事そうに仕舞って、再び歩き始めた時、何かを視界に入れた太宰は手をこれでもかと云う程に目を開かせた。







「ねぇこのキャラカッコよくない？」

「えー。こっちの方がカッコいいじゃん！詩織はどのキャラが好きなの？」

「私はやっぱり、太宰さんかな」

「出た〜！あんたは冒険しないタイプだよね」

「一途なのはいい事でしょ！いい？太宰さんはねーーー」







驚愕する太宰の瞳に映ったのは、紛れも無い今先程まで頭で浮かんでいた少女であったからだーーー。
その少女は自分の存在に気付くことなく、通り過ぎて行ってしまった。


間違いない。あれは自身が今欲していた人物本人だ。彼女の幼馴染として見ても、確実に彼女であると断言出来る。


だが然しｰｰｰ今ある現象に悩みは尽きない。
此処が自分の識る土地ではない事。
異能力の聞かない自分が此処に居ることも不思議である。

其れに、自分を見た彼女のあの反応。何時もなら花が咲くような可愛らしく優しげな愛らしい顔をして振り向きながら、綺麗な安らぐ鈴の様な声で名を呼び掛けてくれる筈なのに、自分の存在に気付くこと無く、まるで無反応だった。彼女は幼馴染である自分の存在を知らないらしい。




「確かめてみるしかなさそうだね」


そう太宰は呟き空に浮かぶ夕焼け雲を見つめた。