そうして場所は変わって倉庫内｡






私は今、治くんの隣に座っています。

もちろん治くんはあの愛読書を読んでいます。
真剣に読んでいる本はあれだけど、相変わらず横顔はとても綺麗である。







「ねぇ詩織｡電気コードの導線を体に貼り付けて睡眠薬を飲んで待つだけで死ねる感電自殺があるよ！こんなのどう？」

「だからやらないってば。ていうかまだその話続いてたの？」

「当たり前じゃないか！私と詩織の将来のことなんだよ！」

「そう云われてもなぁ」


ていうかそんなのも本に書いてあるんだ････











「あ、あの！本当にここに現れるんですか？」

「本当だよ」



不安な表情を浮かべて叫ぶ敦くんに治くんは心配いらないと笑みを返す｡






「虎が現れても私達の敵じゃないよ。こう見えても『武装探偵社』の一員だ」




「ははっ･･･凄いですね。自身のある人は｡僕なんか孤児院を追い出されてずっと駄目な奴って

言われててーーーその上今日の寝床も、明日の食い扶持も知れない身でーーー

こんな奴が何処で野垂れ死んだって、いやいっそ死んだほうがーーー」







その想いを聞いた瞬間目に涙が溜まった。私は歯を食い縛って泣かないようにするだけで必死だった｡

これから治くんが救ってくれるのは分かってはいるけれど、先に私の感情が溢れそうだった｡

何か云ってあげたいけど、それは同情にしかならないから云えない｡









せめて今すぐ駆け寄って抱きしめてあげたいけど、治くんの腕が私の肩に回っているからそれも出来ない。



自分が何もしてあげられないのが悔しくて、私は無意識に治くんのコートを握りしめていた。




不意に治くんがこちらを見た気がしたけど、直ぐに視線を空へと移してこう告げる｡








「却説ーー そろそろかなーーー」








その言葉だけで周りの空気が変わる気がした｡

否、変わったのだ｡現に敦くんは虎化を始めようとしていたのだから｡