かわいいみよこちゃんのかわいくない友だち
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みよこちゃんはかわいい。そんなの皆知ってることだ。いっしょのピアノ教室に通っているみよこちゃんは前髪ぱっつんのかわいい子で、コンクールに出るときのドレスもよく似合う。ドレスに着られてしまうようなわたしとはちがって着こなしてるって感じがする。髪ゴムがつけられないぐらいにさらさらの髪の毛をばっちりセットして、頭にあるお花の飾りもかすんじゃうくらいにかわいいみよこちゃん。かわいいばっかり言っているけれど、実際一秒ごとにかわいさがあふれているのは事実なのです。そんなみよこちゃんが、結果発表が終わってすぐにわたしのところに来てくれたものだから、わたしは『天にものぼるような気持ち』になっちゃった。でれでれしそうになった顔をがんばって引きしめていたら、みよこちゃんがちょっぴり眉を寄せつつお祝いしてくれた。
「一位オメデト。今回だけはアナタにゆずってあげる」
「今回だけじゃないもん。次もみよこちゃんに勝つからね!」
「はー!? 百年早いんだケド!」
ピアノの上手なみよこちゃんより上の賞をもらえるなんて思ってもみなかった。自信のついちゃった私なら、ピアニストになるのも夢じゃないかもしれない。たった一回表しょうされただけで調子に乗っちゃうのは私の悪いところだ。ずっとニヤニヤしてる私を見て、みよこちゃんはこてんと首をかしげた。
「そんなにうれしかった?」
「うん! お父さんにもこの花束見せてあげなきゃ」
小さい規模のコンクールとはいえ、地元の新聞にのったりもする。さっきステージ上でパシャパシャとられてたから私もついに紙面にのるんだ! 写真を撮られることは好きじゃないけど、がんばってるんだからやっぱり褒められたいし、家族とか友達以外からもすごいねって言われたい。うちでは新聞をとってないから今回だけお母さんに買ってもらおう。
「みよこちゃんは新聞慣れしてるもんねえ。いいなあ」
「……別に」
別に、だって! 同い年なのにクールなみよこちゃんかっこいい! かわいいだけじゃなくてかっこいいみよこちゃんは本当にすごい。友達になれたことがうれしいな、と思ったらまたほっぺたがゆるゆるになってきた。みよこちゃんはそんな私を見ても呆れたりしないで、少しだけ笑った。
「おめでとう」
*****
放課後になったとき、何人かのクラスメイトが私を教室のすみに呼んだ。なんで声を小さくしてるんだろう、と思いながら近付くと、一人の手に新聞があった。そういえば、コンクールの記事がのってる新聞はお母さんが買ってきてくれると言っていたのでまだ読めていない。
「ねえちょっと、見た?」
「何を?」
「新聞の写真! ほらこれ!」
ばさりと広げた新聞に、モノクロのみよこちゃんが大きく写っていた。横に見切れているのが私なのだけど、気付く人はあまりいないだろう。全体をうつした写真ものっているが、私の顔すら分からない。せっかくきれいなドレスを着ていたのだからカラー写真のみよこちゃんが見たかったなあと記事を読んでいく。私の名前にさらりと触れただけで終わったその記事を、クラスメイトがありえない、と言い切った。
「一位になったのはあんたなのになんで千代田さんの写真がのってるの? 記事も千代田さんの方が多く書いてあるし」
「それに、コンクールの写真って毎回千代田さんじゃん」
「みよこちゃんはよく賞とってるから……」
新聞の写真だとなんか肌ががさがさして見える。本物のみよこちゃんはもっときめ細やかな肌で長いまつげもばさばさ!って感じなのに、この写真じゃよく分からない。かわいいことは伝わるけど、実物のみよこちゃんはもっとかわいい。写真の画質をもっと良くしてくれたらみよこちゃんの真のかわいさも伝わるはずなんだけど。
「賞もらえたのも顔がかわいいからなんじゃないの」
「てかさ、千代田さん調子乗ってない?」
「ちょっとかわいいからって特別扱いされ過ぎだよね」
「コンクールで選ばれたのだって実力じゃないでしょ」
「実力だよ。みよこちゃんはピアノ上手だよ」
思わず口を出した私に、空気よめよ、という顔をした子がいた。かわいそうなものを見る目で見てきた子が、小さい子どもに教えるように話しかけてきた。
「庇わなくたっていいんだよ。どうせ引き立て役ぐらいにしか思ってないよ、あの子」
「そう……なのかな」
確かに私が隣にいればみよこちゃんがかわいく見えると思う。でもそんなことしなくても十分かわいいんじゃないかなとも思う。そうだよ、と流れに組みこもうとしたクラスメイトを置いて、私はみよこちゃんを探しに教室を出た。みよこちゃんはすぐに見つかった。ろう下にたたずんで、ぷるぷると震えていた。静かな教室で話していたから、もしかしたら聞こえていたのかもしれない。内容が分かっているなら話も早い。私は疑問をそのままみよこちゃんにぶつけた。
「私って引き立て役なの?」
「そんな訳ないでしょっ!」
「だよね!」
そりゃそうだ。みよこちゃんはそんなことする必要なんてない。一人で立ってるだけで、汚いろう下の雰囲気も花が咲いてるみたいに明るくなるんだから。あっさり肯定した私をぽかんとした顔で見つめるみよこちゃん。かわいい。いっしょに帰ろうと誘うと、こくんとうなずいてくれた。今日は何の話をして帰ろう。泣きそうな顔をしたみよこちゃんを笑わせられる話にしようかな。
「一位オメデト。今回だけはアナタにゆずってあげる」
「今回だけじゃないもん。次もみよこちゃんに勝つからね!」
「はー!? 百年早いんだケド!」
ピアノの上手なみよこちゃんより上の賞をもらえるなんて思ってもみなかった。自信のついちゃった私なら、ピアニストになるのも夢じゃないかもしれない。たった一回表しょうされただけで調子に乗っちゃうのは私の悪いところだ。ずっとニヤニヤしてる私を見て、みよこちゃんはこてんと首をかしげた。
「そんなにうれしかった?」
「うん! お父さんにもこの花束見せてあげなきゃ」
小さい規模のコンクールとはいえ、地元の新聞にのったりもする。さっきステージ上でパシャパシャとられてたから私もついに紙面にのるんだ! 写真を撮られることは好きじゃないけど、がんばってるんだからやっぱり褒められたいし、家族とか友達以外からもすごいねって言われたい。うちでは新聞をとってないから今回だけお母さんに買ってもらおう。
「みよこちゃんは新聞慣れしてるもんねえ。いいなあ」
「……別に」
別に、だって! 同い年なのにクールなみよこちゃんかっこいい! かわいいだけじゃなくてかっこいいみよこちゃんは本当にすごい。友達になれたことがうれしいな、と思ったらまたほっぺたがゆるゆるになってきた。みよこちゃんはそんな私を見ても呆れたりしないで、少しだけ笑った。
「おめでとう」
*****
放課後になったとき、何人かのクラスメイトが私を教室のすみに呼んだ。なんで声を小さくしてるんだろう、と思いながら近付くと、一人の手に新聞があった。そういえば、コンクールの記事がのってる新聞はお母さんが買ってきてくれると言っていたのでまだ読めていない。
「ねえちょっと、見た?」
「何を?」
「新聞の写真! ほらこれ!」
ばさりと広げた新聞に、モノクロのみよこちゃんが大きく写っていた。横に見切れているのが私なのだけど、気付く人はあまりいないだろう。全体をうつした写真ものっているが、私の顔すら分からない。せっかくきれいなドレスを着ていたのだからカラー写真のみよこちゃんが見たかったなあと記事を読んでいく。私の名前にさらりと触れただけで終わったその記事を、クラスメイトがありえない、と言い切った。
「一位になったのはあんたなのになんで千代田さんの写真がのってるの? 記事も千代田さんの方が多く書いてあるし」
「それに、コンクールの写真って毎回千代田さんじゃん」
「みよこちゃんはよく賞とってるから……」
新聞の写真だとなんか肌ががさがさして見える。本物のみよこちゃんはもっときめ細やかな肌で長いまつげもばさばさ!って感じなのに、この写真じゃよく分からない。かわいいことは伝わるけど、実物のみよこちゃんはもっとかわいい。写真の画質をもっと良くしてくれたらみよこちゃんの真のかわいさも伝わるはずなんだけど。
「賞もらえたのも顔がかわいいからなんじゃないの」
「てかさ、千代田さん調子乗ってない?」
「ちょっとかわいいからって特別扱いされ過ぎだよね」
「コンクールで選ばれたのだって実力じゃないでしょ」
「実力だよ。みよこちゃんはピアノ上手だよ」
思わず口を出した私に、空気よめよ、という顔をした子がいた。かわいそうなものを見る目で見てきた子が、小さい子どもに教えるように話しかけてきた。
「庇わなくたっていいんだよ。どうせ引き立て役ぐらいにしか思ってないよ、あの子」
「そう……なのかな」
確かに私が隣にいればみよこちゃんがかわいく見えると思う。でもそんなことしなくても十分かわいいんじゃないかなとも思う。そうだよ、と流れに組みこもうとしたクラスメイトを置いて、私はみよこちゃんを探しに教室を出た。みよこちゃんはすぐに見つかった。ろう下にたたずんで、ぷるぷると震えていた。静かな教室で話していたから、もしかしたら聞こえていたのかもしれない。内容が分かっているなら話も早い。私は疑問をそのままみよこちゃんにぶつけた。
「私って引き立て役なの?」
「そんな訳ないでしょっ!」
「だよね!」
そりゃそうだ。みよこちゃんはそんなことする必要なんてない。一人で立ってるだけで、汚いろう下の雰囲気も花が咲いてるみたいに明るくなるんだから。あっさり肯定した私をぽかんとした顔で見つめるみよこちゃん。かわいい。いっしょに帰ろうと誘うと、こくんとうなずいてくれた。今日は何の話をして帰ろう。泣きそうな顔をしたみよこちゃんを笑わせられる話にしようかな。
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