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*砂のように落ちる
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私がこの荘園に現れて約二ヶ月。
今この荘園はお祭りムードになり皆浮かれきっている。サバイバー、ハンター関係ナシにだ。
ナイチンゲールに聞けばなんと明日からと『周年祭』が行われるらしい。
荘園の二周年を祝うパーティーがもうすぐある。本来だとおめでたい日なのだろうが、こんな荘園なので全然おめでたくない。それでも皆にとっては喜ばしいのだろう。酒が飲みたいだけの飲んだくれもいるみたいだが……。
そうこう考えながら廊下の掲示板に貼られた浮かれたビラを眺めているとふと、一つの文が目に飛び込んでくる。
「……ダンス?」
思わずマジかよと口から出る。苦笑いと共にだ。
ダンス……学校の授業で何度かやったがホントに得意ではない。踊るぐらいなら死んだ方がマシなぐらいだ。
一人掲示板の前で頭を抱えていると誰かが近づいてきた。
「なんだ?どうかしたのか」
そう声をかけてきたのは【傭兵】ことナワーブだ。少し心配そうな顔をして。少し小馬鹿にしているかのような顔をして彼はこちらを見ている。
最近なぜか仲良くなった。性格上絶対に仲良くなんてならないと思っていたが案外仲良くやっている。彼が私より歳上で大人なのもあるだろう。
「いや、なんでもないの……」
「んなわけあるか、ひでぇ顔してるぜ。……んふふ」
「おいコラ」
まったくこの男は……。人が出来ないことを嘲笑う趣味でもあるのだろうか。
だが、こんな所も彼の良いところなのかもしれない。この荘園で過ごすには彼のように試合との切り替えがしっかりとできる人の方が向いているのだろう。
たったの二ヶ月だがひしひしとそんな事を感じている。
「いやぁ……ダンスかぁ、と」
「……なんだ苦手なのか?」
この人ホントに周りをよく見てるな…。
私は苦笑いをしながら
「そうなの」
と、だけ答えた。
彼は私を見て愉快そうにひと笑いすると、
「別に強制じゃないんだ。ゆるりといこうぜ」
と、戯けてみせた。
強制じゃない……。その一言で心が少し和らいだ。ふうと息を吐いて安堵している自分がいる。
「…踊りたかったか?」
私のそんな様子を見てナワーブが声をかけてきた。すぐに首を横に振り違うと告げる。
……彼は少し残念そうな顔をして、
「そうか……」
とのみ呟いた。
私にはこの時彼がどうして悲しそうで寂しそうな顔をしたのか理解できなかった。
そんなに風に彼と談話していると、急に袖が後ろに引かれた。振り向くとそこには【墓守】クレスさんが佇んでいる。
少し不安そうな、泣きそうな顔をしている。
「クレスさん? どうかしましたか……」
私がそう声をかけると彼はちょっとだけ嬉しそうにした後、私の袖を強く掴みながら口を開いた。
「あ、あのだな。もうすぐある周年祭のダンスに」
彼がそこまで言いかけると私の体が後ろに思いっきり引っ張られた。
驚いて後ろを振り向くとナワーブが私の腰を強く抱きかかえるような形で佇んでいた。
「すまない墓守。ダンスは俺と踊るんだ」
彼はクレスさんを睨むように見る。クレスさんはすっかり恐縮してしまっている。まるで蛇に睨まれた蛙のように見えて可哀想に思えた。
そしてナワーブはそれだけ言うと私の腰を抱えたままどこかに連れていこうとしていた。振りほどこうと彼の手に力を込める。
しかし私の力では【傭兵】の彼に力で敵うはずもなく、ずるずると何処かへと連れてゆかれる。
「ちょっと、ナワーブ!」
私はクレスさんを横目に、ナワーブに何処かへと引き摺られて行った。