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*砂のように落ちる
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……部屋を出て彼女と共に、二人きりで僕は庭に来た。
目元の事は聞かれたけれども、適当に悔しい試合があったと言って誤魔化した。
庭に着くとそこは季節の花々で美しく飾られ、所々に装飾の美しいキャンドルランプが置いてある。その光は彼女を怪しく美しく魅せている。
「ふふ、エマちゃんがすっごく腕によりをかけて作っていたんです」
凄いですよね、と彼女は言う。確かに凄い。僕の語彙力ではこのぐらいしか感想がまともに出てはこないが本当にそうとしか思えない出来栄えなのだ。
これは硝子細工という物だろうか?
そう考えていると不意に彼女に手を握られた。僕の中指と人差し指を小さな手が掬《すく》いとった。
「こっちですよ、クレスさん」
彼女はそう言うと僕の手を握ったままどんどんと庭の奥に歩いてゆく。
……夢なのではないか? 僕はあのまま泣き疲れてまだ扉の前で座り込んで寝ているのでは?
ふと頭にそうよぎる。だが、それを許さんと言わんばかりに棘のついた葉が僕の頬を撫でる。
しっかりとした痛みが頬から脳へと伝わる。
これは夢ではないんだ。
「さあ、着きましたよ」
彼女の柔らかな声ではっとする。
庭の奥には小さなティーテーブルに椅子が二席。
紅茶が入っているティーポットとティーカップが二つそれぞれ置いてあり、中央には菓子の乗った三段のティースタンドが置いてある。
ティーポットに入ったアプリコットティーの香りが、本当に二人きりの空間なのだと僕にさえわかる様に告げている。
彼女が僕の為に用意してくれたのか?
そうならば、浮かれても良いのかもしれない。
「……僕の為に用意してくれたのか?」
つい気になって彼女にそう問う。
彼女はランプの光が淡く照らす中嬉しそうに、照れくさそうに頬を赤らめ
「そうです」
と、答えた。
僕らは席に着き二人だけのお茶会を始めた。キャンドルのちりちりと燃える微かな音がする中、僕達は【会話】している。
彼女はずっと嬉しそうにしている。
僕のことを。試合のことを。荘園のことを。
ずっと話している。
僕はほとんど頷き聞くことしか出来ていない。それでも、確かな幸せがある時間だ。ささやかなひと時だ。
嗚呼まだ。
まだ、僕は僕だけの陽だまりの中で微睡んでいてもいいのだろうか。