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*砂のように落ちる
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再び目が覚め、部屋に飾ってある時計が一時を告げる音を鳴らす。
さすがにこれ以上は寝ていてはまずい。僕は隣で眠っている彼女を起こし食堂に向かうよう促した。
のらりくらりとパジャマのまま向かっていた僕らに声がかかる。
「もう、まだ寝ていたの?」
ダイアー先生だ。
ああまた怒られてしまう。そう思っていたが別に彼女の顔は怒ってはいなかった。
「今ね二日酔いで倒れている人がいるの、ワインだったり飲まないように言ってはいるのだけれど……」
ダイアー先生はどうやらお疲れのようだ。
先生は僕に他の人を見張るように言うと、【庭師】に呼ばれ談話室へと消えていった。
※
昼食を食べ終え、私達はそれぞれの部屋に戻ることになった。
彼からもらったチェーンのネックレスが足を一歩出すたびに小さな音を鳴らす。音が鳴るたびになんだか嬉しくなってしまう。
気がつくと鼻歌をこぼしながら廊下を軽やかに歩いていた。
そして自室の前に辿り着きあるものが目に入る。
「なんだろう?」
近づいて確認してみる。
私の部屋の扉に、黄色のチューリップの花と小さく折り畳まれた手紙が挟まっている。隙間に器用に挟まれたそれを抜き取り自室に持って入った。
手紙を急いで開けると『ナワーブ』の文字が目に入る。どきりとはした。しかし、文を読むうちにそれが謝罪の手紙であることがわかりほっとし、心の荷が降りる。
私も謝罪の手紙を書かなくちゃ。
そう考えた私はすぐに机に向かって筆をとった。
……内容を悩むこと三、四時間。
なんとか手紙は完成した。彼にきちんと内容が伝わればいいけれども。私らしくないかもしれないけれども、だんだんと弱気になってしまう。
その時、ちょうど廊下から可愛いウィックの声が聞こえた。
「ポストマン‼︎」
手紙を手に取り、勢いよく扉を開ける。
【ポストマン】は勢いよく開いた扉と、私の出した大声に驚いて目を見開き尻餅をついた。
「あっ……ごめんなさい。大丈夫?」
「ん!」
声かけてを差し伸べるが彼には必要なかったらしい。彼は難なく立ち上がり軽く裾を払うとokサインを見せた。
「本当にごめんなさいね、あ。そうだ手紙の配達を頼みたいの」
少し早口になってしまったが彼に頼んでみる。ポストマンと呼ばれる彼は二つ返事で私から手紙を受け取りそのまま配達に向かっていった。
「ポストマンに何か頼んだのか?」
入れ替わるようにして反対側の廊下からアンドルーがやって来た。
「……ナワーブに謝罪の手紙を書いたの」
私がそう伝えると途端に不安そうな顔をする。見捨てられそうな子犬のような目をしている。
「彼に悪いことをしたの。なら、謝るのは当然でしょう?」
「そうか」
アンドルーはそれだけ言うと黙ってしまった。少しの沈黙が二人の間に流れる。
遠くからはまた宴が始まったのか、人の騒ぐ声が聞こえる。
「アンドルー、何か用があったわけじゃないのかしら?」
私が声をかけるとはっと、我にかえったようだった。
こちらに向き直り「着いてきてほしい」と言い腕を強く掴み引っ張り出した。拒否権はないのかと、文句の一つでも言おうと思ったが彼を見ていたらなんだか言えなくなってしまった。
これが『惚れた弱み』なのだろうか。
そうこう考えながら私はアンドルーに連行されていった。
※
彼女を引っ張りやっとの思いで自室に連れてきた。
道中。酒の入った奴らに絡まれたりとして大変だった。本当に、大変だったのだ。
連れてきた彼女は懐疑そうにこちらを見ている。彼女を先に扉の先に入れ、自分は後から入る。
「…フレーバーティー?」
先に部屋に入れた彼女が目を輝かせ僕を見る。嗚呼、そうだ。
今部屋の中で満たされているこの香りは、彼女が誘ってくれたお茶会の時のあのお茶だ。
……喜んでもらえてよかった。一人胸を撫でおろす。
「アンドルー。あれは……マカロンタワー?」
「ああそうだ。だからそんな目で見るんじゃない。」
……僕の部屋には確かに似つかわしくないカラフルな代物だ。化け物が持っているには大層不恰好な逸品で、彼女を笑い転がすには十分だった。
「そ、そんなに笑う事はないだろう……」
「ふふっ……ごめんなさい。でも、ふふ」
腹を抱えて笑い続ける彼女に顔から火が出そうになる。
「……喜んで欲しくて準備したんだ」
「わかってるよ。ありがとうアンドルーとっても嬉しいよ」
「喜んでもらえたならそれでいい」
今だにお腹を抱えた彼女に「僕らだけの周年祭のつもりだからな」と告げる。
今日も明日もまだ周年祭だ。今ぐらい二人でいても怒られないだろう。
彼女は僕の言葉に顔を赤くして動かなくなってしまった。
それをいいことに、僕は彼女を抱き抱えベットに運んだ。抵抗はなかった。
「少し寝たいんだ」
彼女の靴を雑に脱がし、シーツを被せる。
シーツだけでは肌寒いだろうか。僕も靴を脱ぎベットに横になり、彼女を腕の中に閉じこめ、足を絡め二人で目を閉じた。
部屋に訪れる濃紺の帳の中、僕たちは互いに暖をとり合って眠りに落ちていった。
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