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*砂のように落ちる
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「やあ、ナワーブ」
夜の帳《とばり》が開けはじめた頃。明け方のオレンジの彩色が窓を覗き、部屋の中に光が差し込む。
僕……いや、私が声をかけた男は太々《ふてぶて》しい態度でこちらを見た。
「なんだ、俺を笑いにきたのか?」
彼は今回の事を。自らのことを嘲笑《あざわら》うかのように鼻で笑ってみせた。
「……いいや、笑いに来たわけじゃない。」
真剣な顔でそう伝える。彼はウィリアムに殴られ腫れた顔をこちらに向けながら嫌そうにため息を吐いた。
「じゃあなんだ?」
声は冷静を保とうとしている。しかし怒りを含んでいる声でもあった。
でも、占い師の私にはわかる。わかってしまったのだ。
「……私を誰だと思っているんだい?」
「ハハッ……お見通しってわけか」
私……僕がそう話しかけると彼は眉をさげ手に持っている中身のないワイングラスを傾けた。悲しそうな、泣きそうな顔をして部屋の中で酔い潰れた人たちを眺めている。
「……いつから気がついてた?」
うっすらと瞳に涙を浮かべ僕に尋ねる。
「僕は占い師だからね。すぐに気がついたさ」
傾いた空のワイングラスを彼から取り上げ、にこっりと笑ってみせる。
オレンジの光は一度雲に隠れたのか部屋の中を薄暗くさせ、僕らを闇の中に閉じ込めた。
「なあ、イライ。俺は……どうしたらいいと思う?」
彼が不意に問いかける。完全に日が上り、他の人達は各々の部屋へと頭を抱えながら帰っていった。今僕らも、部屋に帰っている途中だ。
「まずは彼女に謝ってはどうかな? 女性に手をあげてしまった訳だし……」
「……それもそうだな」
彼は何かを考えるように手を顎に当てる。考える仕草をしているが、別に考えているわけじゃないのは短くも長い付き合いからすぐにわかった。
「ナワーブ。僕には考えていることがわかるよ」
彼は仕草をやめ苦笑いをしながらこちらを見る。
「流石にフリなんて無駄か」
「ああ…」
それだけ言うと僕は一呼吸置いてから話しかける。【占い師】という職業上何度もあった事だけれど、今だに慣れる事なんてないだろう。
「彼女に恋をしていたんだね」
僕の言葉に息を呑む音が隣で聞こえる。例え自覚していても、他人から言われる事は慣れるようなことではないだろう。
「そうだ……俺は[#nama1]《プレイヤー》に確かに“恋“をしていたんだ」
俯いてぽつりと溢す。
「敵わないってわかっていたつもりだったんだがな……どうしてだか」
彼は続けて「欲しくなったんだ」と、言葉を吐き出した。
気持ちはよくわかる。僕も『あの子』が欲しっかたから嫌でもわかってしまう。
「……わかるよ。僕だって欲しくなったことがあったからね」
「……お前は手に入れたんだろう?」
閑静な廊下で彼の皮肉が響く。
確かに、僕は彼とは違うだろう。けれどもそのもどかしさを経験したのならばわかってしまうものなのだ。
僕は彼の言ったことに挑発するように「まあね」と返しておいた。
「はぁ。本当にお前は可愛げがなくなったな」
ナワーブは盛大にため息をついてまた顎に手を当てた。