the girl has cursed
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「龍之介、進歩はどう?」
「はッ名前さん」
電話の相手はいつも通り平坦な口調だ
「虎を特定し、居場所を掴みましたので作戦通り先行した樋口がまずターゲットを誘き寄せ、獲物が罠に掛かり次第、僕が合流。捕獲する所存です。」
「そう…」
既に作戦を実行してるなら捕獲後に逃がすのが手っ取り早い。
「じゃあ罠に掛かったら私にも教えてね」
「御意」
そう言ったのに。
連絡も無ければ合流場所には人影も無い。
何か手違いでもあって作戦を変更したのだろうか。
「2人とも独断専行の気があるからなぁ……」
どちらも部下を持つまでには成長したものの、まだまだ手の掛かる弟弟子達だ。
きっともう始まってる。
急がなくては。
「芥川先輩ッ!!」
人虎生け捕り作戦で標的を誘い込む予定だった路地の屋上にたどり着くと、案の定戦闘は始まっていた。
虎の唸り声に続けて壁が破壊される音、樋口の悲鳴、銃声が順に聞こえてくる。
急いで下を見やると、虎と芥川達による音通りの過激な戦闘が繰り広げていた。先ほど聞いた壁が破壊される音は芥川が壁に吹き飛んだ時の音だったようだ。
「おのれェェェェェ!!!」
樋口は虎に向かって左手のサブマシンガンを連射するが、銃撃が効いていないのか釈然と虎は芥川から樋口を獲物に変更し飛び掛ろうとする「ひ…!」が寸前で樋口に牙が届くことは無かった
「羅生門ーーーー顎!」
芥川の背面から突如として黒い刃面が出現し、虎の巨体を前後二つに切断される「敦…!」
「ゴホッゴホッ生け捕りのはずが…」
マッ二つにされた虎はみるみる姿を消していく
周囲には雪が舞っている
「幻覚の異能…!」
どうやら芥川の方も気付いたようで背後の橙髪の男の子に向き直る
背後に実体の虎が現れた
「まずいわ…」
なかなかの接線だ。生け捕りの手筈だがこの様子ではどちらかが死ぬまで終わりそうもない。
どうしたものかと思案する私をよそに、懇親の一撃を今まさに繰り出そうとする二人ーーーーーーの間に路地の入り口から見覚えのある蓬髪の男が飛び出してきた。
「はーい、そこまで!」
その男は両手を水平にあげ左右に伸ばした。その掌で両者の攻撃を受け止めるがの如く、突き出した指に触れた瞬間、羅生門も、虎の巨体も消失した。
「なッ…」
「あなたは探偵社の…何故ここに?」
「美人さんの行動は気になっちゃう性質でねーー…こっそり聞かせてもらった」
樋口と芥川を前にその男はチラリと視線だけをこちらに向けてきた。
私がいるのは屋上。それも死角だ。この角度で距離もあるというのに…
「本当、勘の良さは相変わらず一流ね。太宰」
嘆嗟なのか感嘆なのか、どちらとも取れる言葉を溜め息まじりに零すと、尻を突き出して倒れている少年の方を見やる。
少年は先ほどまでの激戦が嘘かのように緊張感もなく寝こけていた。太宰に頭を数回叩かれても起きる気配は無い。
数年ぶりに見る弟はやや痩せこけている印象を受けるも、体つきはもう立派な青少年のそれで。多少なり流れた時間の長さを感じた。
いつの間にか会話を終えたらしい芥川と樋口が路地から去っていくのを見届けると「そろそろ出てきてもいいと思うよ」と下から太宰の声が掛かった。
屋上から身を乗り出す。と誰が隠れていたのか最初から分かっていたとでも言うようにその男は私の名前を呼んだ。
「やあ名前ちゃん」
「よく分かったね太宰。屋上も。死角だったでしょうに」
「言ったろ。美人さんの行動は気になっちゃう性質で、名前ちゃんに関しては盗聴器がなくとも分かるさ」
なんて言いながら飛び込め、とばかりに両腕を大きく広げるからその包帯だらけの腕とは全く離れたところに向かって飛び降りてやった。
「ええ~~ここは久方ぶりに会う恋人の広げた腕に向かって飛び込んで来る感動の再会シーンだろう」
「恋人じゃないし、そもそも太宰の細腕じゃ無理だよ」
不服そうに文句を垂れる太宰にバッサリと言い放つ。
こんなやり取りも何年ぶりだろうか。
そう思うと少し頬がゆるんだ。
「…久しぶりだね。、と言っても私に会いに来てくれた訳じゃないんだろう?」
そういって太宰が指した方向には、
「敦!」
屋上からはよく見えなかったが、どうやら本当に大した傷はないようだった。
「…良かった」
「ありがとう、太宰」
太宰に向き直って感謝の言葉を伝える。すると彼はそんなものは不要だ、とばかりに手の平を私の前にやった。
「なーに、これも仕事の一貫さ。感謝なんて不要だよ」
あまりにも大げさな身振りで思わず苦笑する。が太宰が先ほどと同じような話しぶりで続けるのでそれもすぐ消えた。
「ーーーそれに、言ったろ?」
「”私が名前ちゃんの味方になってやるよ”って。」
「…あんな何年も前の約束、忘れてるかと思ったのに…」
私達は今や敵対組織に所属する者同士。
それなのに、昔と変わらず私の味方で居ると言った目の前の男の顔がうまく見れなかった。
太宰は今も私との約束を守ろうとしてくれている、
その事実を理解した途端、視界がどんどん滲んでいく。
「泣かないで」という言葉には従えなかった。
ねえ織田作、今度は一人じゃなかったよ。