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「……御願い、私も連れて行って。ーーーー」
*
此処は魔都ーーヨコハマから少し離れた西部に位置する、地図にも載らぬ名もなき街。この街では今まさにギャング達による抗争が始まっていた。
かつては移民が混在しながらも賑わっていたその土地は"荒廃"という言葉が似つかわしい程度には荒れ果てていた。
倒壊した建物はもはや見る影もなく、タダの瓦礫と化している。唯一原形を留めていた建物も今しがた投げられた爆薬によってガラガラと大きな音を立てて崩れ始めた。
銃の連射音、人間の叫び声が絶えず飛び交うその場所に男は立っていた。
男は灼熱を表現したような髪を靡かせ、 先程爆音があった方角を渋い顔で睨んでいる。
「こりゃマズいかもなァ」
その周りを守護する形で並んでいる屈強な男達の一人が話し始めた。
「中原幹部。今の爆発で数十名が負傷、うち数名が戦闘不能です」
「見りゃあ分かる。それより補給物資はまだか」
「あと2日は掛かると連絡が……」
「チッ2日も遅れられたらたまったもんじゃねぇぞ」
最初こそ優勢だったものの、度重なる悪天候、地の利を理解した地元民に警備の穴を突かれ、それに加えて兵糧攻めときた。戦況は一変し、あまり善いとは言えなかった。
潰しても潰しても新勢力が台頭をなし、湧いて出てくる虫の如く一向に終わる気配が見えやしない。
悪名高い天下のポートマフィアが、こんな名もしれない田舎街のギャングにしてやられただなんてとんだ笑い話だ。
自分の異能力を使う事も考えたが、何分数が多すぎる。"汚濁"ならば確実に有効だろうが、あの技はもう使えない。
原因になった裏切り者の顔が脳裏に浮かび益々眉間に皺が寄る。
そんな時だった。
「中也」
戦場に似つかわしくない派手な赤い外套、それと打って変わって鈍く輝く白銀色の髪、足を膝下まで覆い隠す真っ黒なブーツには少しだけヒールが。
どれを取ってもこの荒れ果てた街では浮いて見える。だがその巫山戯た格好の女はこの街の住人でも無ければ、戦場に巻き込まれた一般人でもなく、男と同じマフィアの一員だった。
「私が行こうか」
「手前は俺のサポートって命だろうが」
「それも何もせず報告書をただ書くだけのね」
「分かってるなら手出しすんな」
「私が取りに行こうか」
「聞いてたか。コレは俺の仕事内だ」
「中也の仕事に対する堅実ぶりは評価するけど、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないよ」
ほら、と言って今にも突破されそうなバリケードを指す
「あーとりあえず、俺の異能で何とかするから手前は……」
「もっと善い最適解があるじゃない」
「許可が下りてねえ」
「私の飼い主は中也でしょ?」
見詰めあう
3秒
その言い方はやめろっつただろ……
「……分かった。行って来い」
「うん」
女は己の喉に巻きついたチョーカーのような形をした黒い首枷に触れながら唱えた
「異能力”絶歌”」
「…"この場にいるポートマフィアにあだなす人間は全て死んだ"」
女の声が終わると共にバタバタとなぎ倒れていく敵対勢力。
女はそれを一瞥すると、手近にある死体から手当り次第に懐から出した短刀で切りつけていく。
異能力"絶歌"ーーー
能力者の口から発せられた言葉が全てそのまま現実になる能力。言霊と言い換えても善い。能力自体は強力だが能力者の死と共に効力は切れる。即ち、有効するのは生前まで。
つまりだ。無いところから出現させた物は死後共に消えるし、この能力で殺した人間は能力者の死後、死はリセットされ再び蘇る。
即ち、絶歌の能力だけでは完全に死を齎すことは出来ないのだ。
一心不乱に倒れた敵の喉元も切り裂いている女に向けて爆薬を片手に持った男が云う
「…杏奴!こいつのが手っ取り早ェだろ。退いてろ」
「杏奴!」
尚も此方を向こうとしない女の腕を取って立ち上がらせる。それからやっと男を認識したかのように琥珀色の瞳と目が合った。
「…ごめん。ぼうとしてた」
「…血がついてるぞ」
「ああ、本当だ」
その言葉に釣られるように手で自分の頬を触るが付着を確認するだけ、拭おうともしない女を見て中也は溜め息を吐く
「…貸せ。拭ってやる」
捲った袖を伸ばして見せると、素直に顔を差し出してくる名前に少しだけ口元が笑んだ。
「よし、大人くしてろよ」
「犬じゃないんだけど」
「同じようなモンだろ」
飼い主だし
「同じじゃない、というか痛い」
「うるせえ。文句あるなら自分でやれ」
「…別に。これくらいどうってことないもの」
「ったく、手前は女なんだからちっとは気を使えよ」
粗方落ちたのを確認して手を戻そうとすると、今度は自分の肩にに頭を置いて寄りかかってきた。その様子にいつもと違うものを感じて声をかける。
「どうした」
「中也の肩ちょっと低いね」
「あ”ぁ”?」
先程といい、今といい、心配損している様な気分になったが自分の肩に添えられた手がぎゅっと外套握り締めているのを見て、その考えも消えた。
「云いたくないか?」
「…………」
暫く待っても何も答えないでいる小さな頭を見つめて、それからぽんぽんと撫でてやる
「疲れたろ。送ってやるからもう休んどけ」
頭を撫でる傍ら、もう片方の手で内ポケットにある愛車のキーをまさぐっていると
「…帰りたくない」
「何かいったか」
「……ううん、何でもないよ」
「帰ろう、ホームへ」
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