the beginning of a story
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「首領、名前です。召集に応じ、参上致しました」
ポートマフィア本部ビルの最上階、首領室。
見せびらかすように堂々と武装した黒服の横、閉じられたドアに声を掛ける。一拍置いて入りなさい、と声がしてやっと入室が許された。
「失礼します」
「ああ、待っていたよ」
私は中也に本部まで送ってもらい、その後すぐ報告書を纏め直し此処にいる。
日付けも変わって
夜中の長距離運転が堪えたのか、中也は車の中で就寝中だろう。
早朝だというのに首領は手元の資料を忙しそうに捲っている。その脇には既に目を通し終わったであろう書類が積み上げられていた。
「西部はどうだったかい」
「粗方片付けは終わりましたが、なかなか連中がしぶとく、第二、第三と新勢力が出てきましたが、中原が尽力して前ほどではないです。」
「さすが中原くんだ」
「こちらが報告書です。」
「ありがとう」
「…それにしても久方ぶりの親子の再会なんだ。もっと軽くていいのに」
「首領は首領ですから」
「固いなあ…」
私の声に呼応するように資料から顔を上げた首領ーーその表情を見て背筋がこわばるのを感じた。
エリス嬢のことを話している時とは打って変わって首領の顔には一切の笑みも見えない。酷く冷徹で、その瞳には慈悲も慈愛もないのだと言われているような気分になる。
この人の、こういう時の雰囲気は先代を思い出すから苦手だ。
「じゃあ、仕事の話をしようか」
資料から手を離した首領はそれを合図に椅子から立ち上がって話し始めた。
「海外のとある組織から依頼が入った。報酬は70億だそうだ」
「随分払いがいいですね…それだけ面倒な依頼、ということでしょうか」
「いや、それが唯の人の捕獲なんだ。まあ異能力者ではあるけど」
「異能力者ですか」
「人虎」
「人虎の能力者だ」
「人虎……」
「おや、心当たりでも或るのかな?」
「…いいえ」
少し声が上擦った気がする
首領は私の真意を探るかのようにじっと私の目を見て、それから少し間を置いて答えた。
「そうかい」
「私はその人虎とやらの捜索をすればいいのでしょうか」
「いや…この件は芥川君に一任していてね。名前ちゃんは彼のサポートを頼むよ」
「畏まりました」
「ああ、それから名前ちゃん。君はこのまま本部待機だ。西部も大方キリはついたんだろう?あとは中原くんに任せればいいーーーそれに、君に死なれたら困るからね」
そう言って首領は私の首に枷のように巻きつけられたチョーカーに触れようとして、止めた
「あー!中年がセクハラしてる~!!」
いつの間にか開かれた扉のすぐ傍で、先程まで見当たらなかった金髪の少女がこちらを咎める様に人差し指を向けて叫んでいた。
「強制わいせつ罪ーーー!!!」
「ちょ、エリスちゃ~~ん!?」
「若しくは痴漢!ヘンタイ!ロリコーン!!」
「最後の言葉は否定し難い!!というか何処で覚えてきたんだいそんな言葉~」
「うるさい中年!近寄るな~~!」
こうなると私はもう居るも居ないも同じような存在で。2人は私がいるのもお構いナシに部屋中を駆けまわっている。
始まってしまったコントのようないつもどおりの日常風景にこっそりと張り詰めていた胸から緊張を解くように息を吐いた。
…きっと首領は私の嘘を見抜いていた。
見抜いた上で私も作戦に追加させた。
それでも問いたださないでいてくれるのは有難い。
とは言ってもあの人のことだ、予想ぐらいはついてるのだろうが。
「そういう訳だから、私はこのまま本部に残るね」
「おーおー相変わらず過保護なこって」
首領から伝えられた決定事項をそのまま伝えるべく掛けた電話の相手はもちろん中也だ。
電話越しに聞くその声は少し弾んでいて、私の話を聞いて笑ってるようだった。それに少しむっとして私は言い返した。
「過保護って…、私もう22なんだけど」
「おーそういえば同い年だったっけか」
「…ちょっと。」
「そんだけ手前のことが可愛いってっ事だろ。拗ねんなよ。」
…そういう訳じゃないって知ってるだろうに。
肯定も否定も出来ずに黙り込んでいると話は終わりだとばかりに中也は通話を切る間際の挨拶を告げてくる
「じゃあ俺はもう仕事戻るから」
「あ、うん。ごめんね最後まで手伝えなくて…」
「手前が手伝ってくれたからここまで片付いたんだろ。後始末ぐらい俺にやらせろよ」
「うん…任せた」
「おう。それじゃあまたな、お姫様」
携帯電話から表示された名前が消えていくのを眺めながら苦く笑う。
お姫様、だなんて。
中也にしては随分な皮肉だ。
彼がマフィアじゃなかったら、さぞかし良い詩人になっただろう。
城から自分の意思では出られないお姫様、その通りじゃないか。
携帯電話を寝台の端に投げやるように置いてその横の枕に自分の顔を押し付けるように寝転がった。
目を伏せると今朝の首領の言葉が頭の中で反芻する。
ーーーー”人虎捕獲”
ううん、させない。
そんな事させたりはしない。
「…織田作。貴方が守ってくれたあの子を、今度は私が守りきってみせるよ」
例え、私一人でも。