the girl has cursed
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ドタバタと複数の男のものと思われる足が床を揺らしている。
何かを探しているのか、その足音達は同じ場所を行ったりきたりしていた。
「どこだ!どこにいる!」
「あのガキ、これで何回目だ!」
「今日という今日は許さねえ!」
「探せ!!」
「とにかく探せ!」
私はポートマフィアに入ってすぐ、自分と敦に関する資料を全て燃やした。あの時弟には手を出さないと約束させたが、いつまた私達を売ったあの職員と結託して裏切るか分かったものではない。
数年も一緒に過ごした教員がそうだったのだ、ポートマフィアなんて人間を信用出来るはずが無い。
はやく、早く、あんな処から敦を連れ出さなければ。
自分を探す男達の怒声が遠くなったのを確認して、隠れていた物陰から出ようとするも足が思うように動かない。
度重なる逃亡、任務放棄。
捕まる度に全身を鞭で折檻され、私の脚は醜く赤く腫れ上がっていた。
それでも何とか脚を動かしていると、聞き覚えのある男の声が頭上から聞こえた。
「どうした」
出来るだけ早くこの男から離れる為に未だうまく動かない脚に鞭を打ち、歩く速度をあげる。
「どこか行くのか」
この男は、自分を見た瞬間踵を返した人間を見て、それが相手からの”話しかけるな”という無言のメッセージになるとは考えないのだろうか。
このままでは答えるまでついてきそうだ。
無言のまま押し通すことを諦めて私は口を開いた。
「…別に関係ないでしょ」
「また逃げ出したのか」
その言葉に反応するように後ろの男をバッと振り向く。
「だとしたら何、私を捕まえ…何してるの!」
最後まで言い終えるより先に、いつの間にか回っていた男の腕に抱きかかえられてしまった。
「怪我をしている」
「こんなの別に…」
「女の子だろ、傷は残したらダメだ」
「来い。医者に連れてってやる。」
私をこんな場所に連れてきた張本人が何を言っている。
そう抗議を口にしようとするが戻ってきた複数の足音が耳に入り、口を噤んだ。
「いたぞ!」
「クソッそんな処にいたか!」
ああ、見つかってしまった…。
今回の罰は何だろう。また鞭に打たれるのだろうか、それとも縄で吊るされて何日も放置されるのだろうか。
これから自分の身に起こるであろう事をどこか他人事のようにあれこれと予想する。
無意識に私の右手は男の外套を握っていた。
「織田さん!そのガキを放してください!そいつは…
「折檻はもう十分だろ」
そういうが否や男は私を抱えたまま歩き始めてしまった。
私を追いかけてきた黒服達の姿も見えなくなって、本部ビルとは別の駐車場に着く間近。
ようやく私の口から出た言葉は”下ろして”でも”ありがとう”という言葉でもなかった
「助けてなんて言ってない…」
「…ああ、邪魔してすまなかった」
この男のこういう処が大嫌いだ。
私を連れてきたのは自分のクセに、こうして時折私を助けるような真似をする。助けてなんて言っていないのに、助けようとする。
ーーーだからポートマフィアの人間なんて信用ならないんだ。
私の握った淡黄色の外套の皺は先ほどより濃くなっていた
*
本部とそう遠くない場所に位置するこじんまりとした診療所は今日も閑散としていて本当に営業しているのか疑わしくなる。
まあ、マフィア御用達の診療所だ。
一般人が近寄りたくないのも分かる気がする。
「森先生」
慣れた手つきで診察室の扉を開けるとそこには此の診療所の主とこのあたりでは見ない顔の子供が向かい合うように座っていた。
「おや名前ちゃん…てええっどうしたんだいその傷!?」
「また逃げ出そうとしたら捕まって鞭で叩かれたの」
「…こんないたいけな少女に…なんと酷い」
私がこれくらいの傷を作ってくるのはいつものことなのに、来る度に私の傷を見ては嘆く先生になんだか胸の辺りがかゆくなる。
「これくらいどうってことないよ」
「善くないよ、君は私の娘なんだ。娘が傷ついたら親は悲しいものだよ」
「…とにかくここに座って。太宰君、悪いけど退いてもらえるかな」
「はーい」
太宰と呼ばれた少年は素直にスツールから足をおろして、後ろの医療用寝台に腰掛けなおした。
「太宰?」
「ああ、名前ちゃんはまだ会ったこと無かったね。こないだ急患で運ばれてきた子で、どうやら身よりも無いから診療所で預かっているんだ。」
「ふうん…。じゃあこの子も森先生の子供?」
「うーんちょっと違うかな」
「ちょっとも何も…違うでしょ。いいから早く治してあげなよ森さん」
「ああそうだった」
私は促されるまま空けて貰ったスツールに腰をかけ、ちらりと盗み見るようにその少年を見た。
こないだ、という割には自分と負けず劣らず傷だらけのその少年のことがなんだがとても気になったのだ。