短編
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何やら外が騒がしい。
机を拭いていた手を止めて、外へ意識を向けていると階段から誰かが降りてくる音がする。
階段に繋がっているのはこの店だけなので当然、目的地は此処という事になるのだろう。
まだ開店時間ではないというのに一体誰が何の用だというのだろう。
これから来る人物が気になってドアに目を集中させる。
目に映ったのは意外な人物だった。
「あら、太宰じゃない」
そこには常連客の男が立って居た。
「こんな時間にどうしたの」
私は長椅子に座ったまま問いかけた。
「ちょっと追われていてね。匿ってもらえないかな」
眉を下げていかにも”困っているのだ"という顔をされてしまえば断るに断れない。
幸い他に客もいない。
開店準備に追われるボーイと私がいるだけだ。
「それは構わないけど…」
此処には隠れられそうな場所はない。
何処に隠れるつもりだ、そう問いかけようとした。
太宰は私の着ている裾の長いボリュームドレスをチラリと見やると、そのまま伸びてきた腕がドレスを捲り上げる。
「では、お邪魔するね」
一体何を考えているのか。
私のドレスを捲り上げると脚の間に割り込むように入ってきた。
「ちょ、ちょっと!何を考えているの」
【どこだー!どに行った太宰ー!!】
太宰を探しているという刑事のものだと思わしき声に私の声が掻き消される。結構近くまで来ているようだ。
「あの刑事が居なくなるまで此処に隠れさせてよ」
「なにもこんな処じゃなくてもいいでしょう!」
"退く" "退かない"と一向に退く気のない太宰と無意味な応酬を繰り広げていると再び誰かが階段を下りてくる足音が聞こえてくる。
カランカラン
「いらっしゃい」
ごく自然に努めて平坦な歓迎の挨拶を口にする。
「…」
刑事は私の挨拶に返答しようともせず店内を見回す。男はいかにも、といった物々しい出で立ちで不躾に棚の陰や机の下を物色し始める。
一通り探索し終わると満足したのか私に近付いてきた。
「黒髪で、長身の男を見なかったか」
何でもないかのように机を拭いたまま答える。
「…いいえ。見ての通りまだ開店前ですから」
刑事は私の顔をじっと、数秒の間見つめてそれからなぞるように順に首、胸、腰…視線が足元で止まった。
じわり、とこめかみから汗が出る。
男の凍てつくような視線が足元に刺さって、痛い。
何も言えずにいると、まるでそれを嗜めるかのようにスカートの中の手がするすると太ももを撫でてきた。
「きゃッ」
思わず飛び退きそうになるが、脚が固定されて動くにも動けない。
「どうした」
「な、何かしら…猫が足元に来たみたい」
どうにか笑顔を作る。尚、太ももは未だ撫でられたままだ。
「……まあいい」
男は依然不信そうな顔をしたままだったが、一息をついて諦めたようにもと来た道に帰っていった。
「もういいわよ」
足音が聞こえなくなったのを見計らってスカートの中にいる太宰に声を掛ける。
出て来ない。
「いつまで隠れてるつもりよ!」
スカートを捲り上げて、そこから出るよう促す
「うふふ。ごめんね。居心地が良くて、つい長居したくなってしまった。」
「殺す」
持っていた雑巾を顔に投げつけて今度こそ出てくように足蹴にしてやった。
あの"困った顔"を見てももう二度と助けよう等と思うものか!、この時ばかりはそう誓ったのに私はまたあの顔に、その言葉に絆されてしまうのだろう。
嗚呼、惚れてしまうが負けとはこの事を云うのだろふか。