短編
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何処からか聞こえる烏の声に促されるようにうっすらと意識が浮上する。
カーテンの隙間からチラチラとのぞく光は容赦なく瞼を照らす。まぶしくてかなわない。
たまらず日光を遮断しようと布団を顔まで上げて頭の天辺まで隠すように潜ってみるが数秒もしないうちに顔から退けてしまう。
息苦しさに耐えかねて起き上がると隣で寝ていたはずの彼の人はそこにいなかった。
「お姉さん」
後ろから聞こえる声に応えるように振り返る。
彼は既に身支度を終えていたようですっかり昨晩会った時と同じ格好にもどっていた。
「もう起きられていたのですね」
「うん。貴女が隣にいてくれたおかげでゆっくり眠れたよーーー泊めてくれてありがとう、お姉さん」
そう告げるが先かそそくさと出て行かれてしまった。
ドアの閉まる音が聞こえるのと同時にひとつ溜め息をこぼす。
「もう少しゆっくりしていってくれたっていいじゃない」
彼の人とこうして夜を共にするのは何も初めてではない。
片手で数えるのを超えてしまうぐらいには会っているはずだ。
だがそのどの夜もゆっくり過ごした覚えは無く。口早に言ってしまえば、やる事やって、朝鳥が鳴くのを合図に彼の人は去ってしまうのだ。
私が知っているのも「太宰」という名前ぐらいで下の名前も職業も住んでいる場所すら知らない。
何度も聞こうとは思ったのだが、聞いてしまえば最後、彼の人が二度と此の家の敷居を跨いでくれないような気がして今日まで聞けずにいる。
そもそも本名なのか偽名なのかも定かではない。こんな行きずりに女を引っ掛けてきた男なのだ。偽名だとしてもおかしくは無いし、きっと他にも女がいるに違いない。その証拠に一度だって名前を呼ばれた覚えが無い。呼ぶ時は、そう、”お姉さん”とだけ。
ーーーーーーーーーーー
「やぁ、お姉さん。お一人かい?」
「一人だけど…やだわ軟派かしら。」
「美しい女性を見かけたら口説くのが私の信条でして」
「あら随分面倒な信条をお持ちなのね。でも私、もうお姉さんって年ではないのよ。」
「では、名前をお伺いしても?」
「うふふ。呼んでくれるの?私の名前はねーーーーーーーーー
カアーーー
カアー
カアー
否応なしに意識が呼び戻される。
そこで私の回想は終わってしまった。
「嗚呼、全く。五月蝿く囀る朝鳥ね。」
ようやっと重い腰を上げる気になって今度こそ立ち上がる。
もう一度眠る気にはとてもではないがなれなかったのだ。
すっかり目も覚めたことだし、朝餉の支度でもしようかしらと台所へ向かう。
徐に取り出した包丁に映った自分は、今にでも泣き出してしまいそうな酷い顔をしていた。目は赤く、端には涙が溜まっている。
そんな私を嘲笑うかのように烏は再び鳴き始めた。
もし、
もしも、私があの烏を殺せたなら、
貴方は一緒に朝寝をしてくれますでしょうか。
【三千世界の烏を殺してあなたと朝寝がしてみたい。】
カーテンの隙間からチラチラとのぞく光は容赦なく瞼を照らす。まぶしくてかなわない。
たまらず日光を遮断しようと布団を顔まで上げて頭の天辺まで隠すように潜ってみるが数秒もしないうちに顔から退けてしまう。
息苦しさに耐えかねて起き上がると隣で寝ていたはずの彼の人はそこにいなかった。
「お姉さん」
後ろから聞こえる声に応えるように振り返る。
彼は既に身支度を終えていたようですっかり昨晩会った時と同じ格好にもどっていた。
「もう起きられていたのですね」
「うん。貴女が隣にいてくれたおかげでゆっくり眠れたよーーー泊めてくれてありがとう、お姉さん」
そう告げるが先かそそくさと出て行かれてしまった。
ドアの閉まる音が聞こえるのと同時にひとつ溜め息をこぼす。
「もう少しゆっくりしていってくれたっていいじゃない」
彼の人とこうして夜を共にするのは何も初めてではない。
片手で数えるのを超えてしまうぐらいには会っているはずだ。
だがそのどの夜もゆっくり過ごした覚えは無く。口早に言ってしまえば、やる事やって、朝鳥が鳴くのを合図に彼の人は去ってしまうのだ。
私が知っているのも「太宰」という名前ぐらいで下の名前も職業も住んでいる場所すら知らない。
何度も聞こうとは思ったのだが、聞いてしまえば最後、彼の人が二度と此の家の敷居を跨いでくれないような気がして今日まで聞けずにいる。
そもそも本名なのか偽名なのかも定かではない。こんな行きずりに女を引っ掛けてきた男なのだ。偽名だとしてもおかしくは無いし、きっと他にも女がいるに違いない。その証拠に一度だって名前を呼ばれた覚えが無い。呼ぶ時は、そう、”お姉さん”とだけ。
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「やぁ、お姉さん。お一人かい?」
「一人だけど…やだわ軟派かしら。」
「美しい女性を見かけたら口説くのが私の信条でして」
「あら随分面倒な信条をお持ちなのね。でも私、もうお姉さんって年ではないのよ。」
「では、名前をお伺いしても?」
「うふふ。呼んでくれるの?私の名前はねーーーーーーーーー
カアーーー
カアー
カアー
否応なしに意識が呼び戻される。
そこで私の回想は終わってしまった。
「嗚呼、全く。五月蝿く囀る朝鳥ね。」
ようやっと重い腰を上げる気になって今度こそ立ち上がる。
もう一度眠る気にはとてもではないがなれなかったのだ。
すっかり目も覚めたことだし、朝餉の支度でもしようかしらと台所へ向かう。
徐に取り出した包丁に映った自分は、今にでも泣き出してしまいそうな酷い顔をしていた。目は赤く、端には涙が溜まっている。
そんな私を嘲笑うかのように烏は再び鳴き始めた。
もし、
もしも、私があの烏を殺せたなら、
貴方は一緒に朝寝をしてくれますでしょうか。
【三千世界の烏を殺してあなたと朝寝がしてみたい。】
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