ペリドットとアンバー短編集
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ジェームズが工藤邸を訪れた翌日。
午前中のやや早い時間に、今度はジョディが赤井の元へ顔を出した。
工藤邸に来て早々部屋の換気をし、周囲をザッと片付ける。タバコで白く煙った部屋が幾分クリアーになったところで、ジョディは満足そうに部屋の窓を閉めた。
これで少しは空気がキレイなった、と安堵して振り向けば、部屋を煙だらけにした張本人はソファーに座ったまま、ぼんやりと空を見つめていた。
相変わらず日本警察から連絡は無い。安否情報のみならず、事件の詳細すらこちらには流れてこない。ジェームズの言ったことが現実味を帯び、赤井の心に陰を落としていた。
「ねえ シュウ。あなた最近、睡眠取れて無いでしょう?」
さすがに心配になったジョディが声をかけた。
「ああ……まぁ……」
ぼんやりしたままの赤井は、曖昧な返事を返す。ジョディはため息をついた。
「ほら、そうしててもしょうがないわ。一人で包帯替えるのは大変でしょ? 手伝ってあげるから服脱いで。ついでに着替えちゃいましょ」
救急箱を持ち出し、ジョディが服を脱ぐよう促す。赤井は「ああ……」と気のない返事を返し、のそのそとTシャツを脱いだ。
「ちょっ…あなた、夕べは湿布しないで寝たの?」
赤井がTシャツを脱いだ途端、ジョディが目を剥いた。
「ダメじゃない! アバラにヒビが入ってたんだし、打撲もひどいのよ?」
ジョディはすごい剣幕でまくし立てるが、赤井の耳には届かない。
「……が……い……から…」
ポロリとこぼれた本音だった。
「え……?」
声が小さかったためか、ジョディが訊き返す。
「りおが………居ない…から…」
「ッ! シュウ……あなた…」
焦点の定まらないペリドットの瞳。ジョディは言葉を失った。
りおが居ない。どこにも居ない。
毎日当たり前のようにそばに居て、当たり前のように抱き合った。
その体も、心も、声すらも、全て俺のものだ。誰にも渡さない。
そう信じて疑わなかった。
しかし、現実は——。
赤井とりおは他人同士。それ以上でも以下でもない。
ふと、つい最近コナンと交わした会話が脳裏をよぎる。
『灰原が昨日言ってたんだ。万が一何かあった時のためにも、みんなに認めてもらうための《誓い》って必要だ。
たかが紙切れ一枚かもしれないけど、相手が亡くなった時、本当の意味でその重みを知るんだって』
『確かに組織を追ってる今は無理だって気持ちも分かるけど……でも、いつ何が起こるか分からない危険な身だからこそ、二人は家族になった方が良いと思うんだ。二人が離れ離れになった時に、後悔しないようにしないと——』
彼の忠告は正しかった。
今更どんなに後悔しても、時間を遡ることはできない。もう二人の生活は戻らないかもしれない。
そう思うと、この工藤邸に残るりおの痕跡一つ一つが、辛く悲しいものとなって赤井の心を締め付ける。
「ちょっと、シュウ! しっかりして! このままじゃ体を壊すわ!」
ジョディは膝をつき、赤井と目を合わせて声をかける。しかし、赤井の表情は変わらない。
「部屋のどこにも居ないんだ……。キッチンにも、りおの部屋にも。このリビングにも。朝も、昼も、夜も。りおが居ない」
あまりの憔悴ぶりに、ジョディは唇を噛む。以前はどんなにピンチな時でも冷静さを失わず、自分や仲間たちに適切な指示を出す。頼もしい仲間であり、同僚であり、元恋人だった。
精神面でも強く『心が折れる』なんてことには無縁な男だと思っていたが、さくらと出会ってずいぶん変わった。
まるでロボットのようだった男が、良い意味で人間らしくなったと思う。
ぽつり、ぽつりと心の内を吐露する赤井に、ジョディは静かにうなずくことしかできなかった。
やがて赤井は左手で目元を覆った。堪え切れなかった涙が頬を伝う。
「シュウ……」
今、彼を慰められるのは自分じゃない。赤井にとって唯一無二の女性——広瀬りお——ただ一人なんだと、思い知らされる。
(さくら、いったい今どこで何をやっているの? シュウがあなたをこんなに恋しがっているのよ……早く帰ってきて……)
祈るような気持ちで、ジョディは赤井の涙を見つめていた。
ブー、ブー、ブー……
そこへ突然の着信。
詳細こそ知らされなかったが、赤井の様子を見るに、それが悪い知らせだとジョディは悟った。
午前中のやや早い時間に、今度はジョディが赤井の元へ顔を出した。
工藤邸に来て早々部屋の換気をし、周囲をザッと片付ける。タバコで白く煙った部屋が幾分クリアーになったところで、ジョディは満足そうに部屋の窓を閉めた。
これで少しは空気がキレイなった、と安堵して振り向けば、部屋を煙だらけにした張本人はソファーに座ったまま、ぼんやりと空を見つめていた。
相変わらず日本警察から連絡は無い。安否情報のみならず、事件の詳細すらこちらには流れてこない。ジェームズの言ったことが現実味を帯び、赤井の心に陰を落としていた。
「ねえ シュウ。あなた最近、睡眠取れて無いでしょう?」
さすがに心配になったジョディが声をかけた。
「ああ……まぁ……」
ぼんやりしたままの赤井は、曖昧な返事を返す。ジョディはため息をついた。
「ほら、そうしててもしょうがないわ。一人で包帯替えるのは大変でしょ? 手伝ってあげるから服脱いで。ついでに着替えちゃいましょ」
救急箱を持ち出し、ジョディが服を脱ぐよう促す。赤井は「ああ……」と気のない返事を返し、のそのそとTシャツを脱いだ。
「ちょっ…あなた、夕べは湿布しないで寝たの?」
赤井がTシャツを脱いだ途端、ジョディが目を剥いた。
「ダメじゃない! アバラにヒビが入ってたんだし、打撲もひどいのよ?」
ジョディはすごい剣幕でまくし立てるが、赤井の耳には届かない。
「……が……い……から…」
ポロリとこぼれた本音だった。
「え……?」
声が小さかったためか、ジョディが訊き返す。
「りおが………居ない…から…」
「ッ! シュウ……あなた…」
焦点の定まらないペリドットの瞳。ジョディは言葉を失った。
りおが居ない。どこにも居ない。
毎日当たり前のようにそばに居て、当たり前のように抱き合った。
その体も、心も、声すらも、全て俺のものだ。誰にも渡さない。
そう信じて疑わなかった。
しかし、現実は——。
赤井とりおは他人同士。それ以上でも以下でもない。
ふと、つい最近コナンと交わした会話が脳裏をよぎる。
『灰原が昨日言ってたんだ。万が一何かあった時のためにも、みんなに認めてもらうための《誓い》って必要だ。
たかが紙切れ一枚かもしれないけど、相手が亡くなった時、本当の意味でその重みを知るんだって』
『確かに組織を追ってる今は無理だって気持ちも分かるけど……でも、いつ何が起こるか分からない危険な身だからこそ、二人は家族になった方が良いと思うんだ。二人が離れ離れになった時に、後悔しないようにしないと——』
彼の忠告は正しかった。
今更どんなに後悔しても、時間を遡ることはできない。もう二人の生活は戻らないかもしれない。
そう思うと、この工藤邸に残るりおの痕跡一つ一つが、辛く悲しいものとなって赤井の心を締め付ける。
「ちょっと、シュウ! しっかりして! このままじゃ体を壊すわ!」
ジョディは膝をつき、赤井と目を合わせて声をかける。しかし、赤井の表情は変わらない。
「部屋のどこにも居ないんだ……。キッチンにも、りおの部屋にも。このリビングにも。朝も、昼も、夜も。りおが居ない」
あまりの憔悴ぶりに、ジョディは唇を噛む。以前はどんなにピンチな時でも冷静さを失わず、自分や仲間たちに適切な指示を出す。頼もしい仲間であり、同僚であり、元恋人だった。
精神面でも強く『心が折れる』なんてことには無縁な男だと思っていたが、さくらと出会ってずいぶん変わった。
まるでロボットのようだった男が、良い意味で人間らしくなったと思う。
ぽつり、ぽつりと心の内を吐露する赤井に、ジョディは静かにうなずくことしかできなかった。
やがて赤井は左手で目元を覆った。堪え切れなかった涙が頬を伝う。
「シュウ……」
今、彼を慰められるのは自分じゃない。赤井にとって唯一無二の女性——広瀬りお——ただ一人なんだと、思い知らされる。
(さくら、いったい今どこで何をやっているの? シュウがあなたをこんなに恋しがっているのよ……早く帰ってきて……)
祈るような気持ちで、ジョディは赤井の涙を見つめていた。
ブー、ブー、ブー……
そこへ突然の着信。
詳細こそ知らされなかったが、赤井の様子を見るに、それが悪い知らせだとジョディは悟った。
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