ペリドットとアンバー短編集
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事件から2日目、昼。
帽子を目深にかぶった初老の男が一人、工藤邸の前に立つ。
リンゴ~ン……
チャイムを鳴らすが反応は無い。
「……ふぅ」
男は小さく息をつく。ポケットからスマホを取り出し、慣れた手つきでメールを打つ。すると間もなく、玄関のドアが音もなく開いた。
男は何も言わずに、スッと家の中に入り込んだ。
玄関ドアが閉まったのを確認して、男は声を発した。
「赤井くん。ずいぶん……疲れた顔をしているね」
帽子を取った男には見慣れた口ひげと眼鏡。その眼鏡の奥の瞳は、悲し気に赤井を見ていた。
「ジェームズ。まさか、あなたが直々にお出ましとは……」
青い顔をした赤井は目を丸くする。
「ジョディくんたちも来たがっていたんだが、みんなで押し寄せては迷惑かと思ってね。まずは上司である私が様子を見に来たんだ」
上がらせてもらうよ、と言ってジェームズは靴を脱ぐ。
「はぁ……」
赤井はなんとも曖昧な返事をして、彼の後に続いた。
廊下を進み、リビングのドアを開けたジェームズは部屋の様子に目を見開く。
テーブルにはノートパソコンが広げられ、そのそばにはタバコの吸い殻でいっぱいになった灰皿。
飲みっぱなしのウイスキーグラス、エッジオブオーシャン付近の地図、そして潮の流れを示す海洋資料が散乱している。
ソファーには薄い毛布が一枚乱雑に置かれていた。
「赤井くん……君…一日中ここで?」
部屋の様子からは、赤井がここで何をしていたか容易に想像できた。
「はい……海では海上保安庁が、陸では地元警察がりおの行方を捜しています。私に出来ることといったら彼女の思考を読み、潮の流れやその他の条件を考え、ケガをしたりおがどこにいるか推理するくらいで……」
ジェームズの横を通り抜け、散乱した資料を整えながら赤井は説明する。
黙々とテーブルの上を片付ける様を見て「そうか……」とジェームズは黙り込んだ。ふと視線を上げれば、赤井の顔にはうっすら無精ひげが生え、げっそりと頬がこけていた。
「君の辛さはよく分かる。だが、体を壊してしまっては元も子もない。おいしいと評判のデリで買って来たんだ。少しでもいいから食べなさい」
そう言って、空いたテーブルのスペースにジェームズは買って来たばかりのサンドイッチや軽食を広げる。
「ありがとうございます……」
赤井は少しかすれた声でジェームズに礼を言った。
「そうか……日本警察からは何も連絡が無いのか……」
赤井とジェームズは軽食を囲みながら、現在分かっていることについて話した。
「はい。昼夜を通して捜索しているようですが、未だに……」
あれから2日。人命救助のタイムリミットとされる《72時間》まで、残された時間はあと1日。爆発でケガをしている可能性もあるため、一刻も早い救助が求められる。
タイムリミットが迫る中、赤井に限らずりおの無事を祈る者たちは皆、焦りの色を濃くしていた。
「赤井くん……こう言っては何だが、彼女は公安警察官。しかも第一線を任された潜入捜査官だ。もし、彼女の安否が分かったとしても、その知らせが君のところまで来るかどうか……」
「ッ!」
ジェームズの言葉に、赤井はハッと顔を上げた。
かつて同志だった冴島とジェームズが20年もの間音信不通であった事は記憶に新しい。そしてその理由は、冴島が公安警察官だったからだ。
冴島は広瀬夫妻の死に責任を感じ、公安を去った。しかし、その後も秘密保持のために検察庁の監視下に置かれ、当時の連絡手段は全て奪われていた。
「特に最近は彼女の体調も思わしくなかった。今回の事件を機に、彼女を第一線から外すという判断が下される可能性もあり得る。そうなれば、彼女の存在そのものを消す、という工作が行われるかもしれない。
彼女が無事だとしても、そうではなかったとしても、公安がその安否を君に伝えてくれるかは……正直分からない」
「た、確かに……」
家族であれば、その生死は何らかの形で伝えられるだろう。
諸伏の死も、降谷の同期(伊達)の死によって時期は遅れてしまったが、肉親にそれとなく伝えられた、と以前りおから聞いている。
しかし、赤井とりおは恋人同士とはいえ、法律的には【他人】だ。上が『全て内密に処理する』と判断すれば、彼女の安否は赤井には伝えられない。
「そんな……俺は……」
生きているのか、死んでいるのかも分からず、このまま二度と会えないのか——父と同じように——
深い闇の中に突き落とされたような絶望感が赤井を襲う。
「いや、すまない。これはあくまでも仮説として言ったまでだ。君とりおくんの仲は降谷くんも知っている。必ずや、何らかの形で教えてくれるはずだ。そんなに気を落とさんでくれ。まずは彼女の無事を祈ろう」
「はい……」
赤井は返事をしたものの、ジェームズの仮説が決してあり得ないことではないと感じていた。
帽子を目深にかぶった初老の男が一人、工藤邸の前に立つ。
リンゴ~ン……
チャイムを鳴らすが反応は無い。
「……ふぅ」
男は小さく息をつく。ポケットからスマホを取り出し、慣れた手つきでメールを打つ。すると間もなく、玄関のドアが音もなく開いた。
男は何も言わずに、スッと家の中に入り込んだ。
玄関ドアが閉まったのを確認して、男は声を発した。
「赤井くん。ずいぶん……疲れた顔をしているね」
帽子を取った男には見慣れた口ひげと眼鏡。その眼鏡の奥の瞳は、悲し気に赤井を見ていた。
「ジェームズ。まさか、あなたが直々にお出ましとは……」
青い顔をした赤井は目を丸くする。
「ジョディくんたちも来たがっていたんだが、みんなで押し寄せては迷惑かと思ってね。まずは上司である私が様子を見に来たんだ」
上がらせてもらうよ、と言ってジェームズは靴を脱ぐ。
「はぁ……」
赤井はなんとも曖昧な返事をして、彼の後に続いた。
廊下を進み、リビングのドアを開けたジェームズは部屋の様子に目を見開く。
テーブルにはノートパソコンが広げられ、そのそばにはタバコの吸い殻でいっぱいになった灰皿。
飲みっぱなしのウイスキーグラス、エッジオブオーシャン付近の地図、そして潮の流れを示す海洋資料が散乱している。
ソファーには薄い毛布が一枚乱雑に置かれていた。
「赤井くん……君…一日中ここで?」
部屋の様子からは、赤井がここで何をしていたか容易に想像できた。
「はい……海では海上保安庁が、陸では地元警察がりおの行方を捜しています。私に出来ることといったら彼女の思考を読み、潮の流れやその他の条件を考え、ケガをしたりおがどこにいるか推理するくらいで……」
ジェームズの横を通り抜け、散乱した資料を整えながら赤井は説明する。
黙々とテーブルの上を片付ける様を見て「そうか……」とジェームズは黙り込んだ。ふと視線を上げれば、赤井の顔にはうっすら無精ひげが生え、げっそりと頬がこけていた。
「君の辛さはよく分かる。だが、体を壊してしまっては元も子もない。おいしいと評判のデリで買って来たんだ。少しでもいいから食べなさい」
そう言って、空いたテーブルのスペースにジェームズは買って来たばかりのサンドイッチや軽食を広げる。
「ありがとうございます……」
赤井は少しかすれた声でジェームズに礼を言った。
「そうか……日本警察からは何も連絡が無いのか……」
赤井とジェームズは軽食を囲みながら、現在分かっていることについて話した。
「はい。昼夜を通して捜索しているようですが、未だに……」
あれから2日。人命救助のタイムリミットとされる《72時間》まで、残された時間はあと1日。爆発でケガをしている可能性もあるため、一刻も早い救助が求められる。
タイムリミットが迫る中、赤井に限らずりおの無事を祈る者たちは皆、焦りの色を濃くしていた。
「赤井くん……こう言っては何だが、彼女は公安警察官。しかも第一線を任された潜入捜査官だ。もし、彼女の安否が分かったとしても、その知らせが君のところまで来るかどうか……」
「ッ!」
ジェームズの言葉に、赤井はハッと顔を上げた。
かつて同志だった冴島とジェームズが20年もの間音信不通であった事は記憶に新しい。そしてその理由は、冴島が公安警察官だったからだ。
冴島は広瀬夫妻の死に責任を感じ、公安を去った。しかし、その後も秘密保持のために検察庁の監視下に置かれ、当時の連絡手段は全て奪われていた。
「特に最近は彼女の体調も思わしくなかった。今回の事件を機に、彼女を第一線から外すという判断が下される可能性もあり得る。そうなれば、彼女の存在そのものを消す、という工作が行われるかもしれない。
彼女が無事だとしても、そうではなかったとしても、公安がその安否を君に伝えてくれるかは……正直分からない」
「た、確かに……」
家族であれば、その生死は何らかの形で伝えられるだろう。
諸伏の死も、降谷の同期(伊達)の死によって時期は遅れてしまったが、肉親にそれとなく伝えられた、と以前りおから聞いている。
しかし、赤井とりおは恋人同士とはいえ、法律的には【他人】だ。上が『全て内密に処理する』と判断すれば、彼女の安否は赤井には伝えられない。
「そんな……俺は……」
生きているのか、死んでいるのかも分からず、このまま二度と会えないのか——父と同じように——
深い闇の中に突き落とされたような絶望感が赤井を襲う。
「いや、すまない。これはあくまでも仮説として言ったまでだ。君とりおくんの仲は降谷くんも知っている。必ずや、何らかの形で教えてくれるはずだ。そんなに気を落とさんでくれ。まずは彼女の無事を祈ろう」
「はい……」
赤井は返事をしたものの、ジェームズの仮説が決してあり得ないことではないと感じていた。