ペリドットとアンバー短編集
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Day0
エッジオブオーシャンにある総合病院の救命外来では、ドクターやナースたちが慌ただしく駆け回っている。居合わせた客の中にケガ人はいなかったが、極度の緊張を強いられたために体調不良を訴える者が多数出ていた。
入れ替わり立ち代わり、忙しなく人が出入りする救命の一番奥の部屋では——
今回、唯一のケガ人である昴が診察を受けていた。
レントゲンを撮った際に首元の変声機は外してある。姿は昴だが声は赤井の状態でドクターによるケガの説明を受けていた。
「どうやら胸部に強い衝撃を受けたようで肋骨にヒビが入っていますね。幸い、そんなにひどくはないですからバストバンドなどの固定具は必要ありません。この後処置室で痛み止めの湿布をして、包帯で固定しましょう」
じゃあご案内して、とドクターがナースに視線を送る。
「……ありがとうございました」
ドクターの説明などほとんど耳に入らぬまま、昴はナースに促され診察室を出た。
処置室で湿布を貼り、痛みが和らぐようにと厚手の包帯を少しきつめに巻かれた。処方された痛み止めと水の入った紙コップを手渡される。
「今はまだ、無理して服を着なくてもいいですよ。薬が効いて痛みが落ち着いてからで大丈夫です。手助けが必要でしたら声をかけてくださいね」
『頓服』と書かれた薬袋を昴に手渡し、ナースは寒くないようにとジャケットだけ肩にかけてくれた。
「ありがとう…ございます」
昴は礼だけ言うと痛み止めを口の中に入れ水で流し込んだ。
トントントン
ナースが昴から紙コップを受け取った時、処置室のドアをノックする音が響いた。ナースがドアを開ける。
「はい」
「警察の者です。こちらに沖矢昴さんはいらっしゃいますか? 事件のことを詳しくお聞きしたいのですが……」
ケガの処置が終わったのを見計らい、警察官が昴を呼びに来たのだ。
「はい、すぐに行きます」
昴は立ち上がるとナースに礼を言って処置室を後にした。
事件の関係者でごった返す救急外来の片隅で、昴は警察からの事情聴取に応じた。
正体を晒すわけにもいかないので、多少のウソは致し方ない。
なぜスンホを追って船に来たのか。どういう経緯でスンホと拳を交えることになったのか。
昴は真実とウソをうまく使い分け、その場を取り繕った。
やがて事情聴取は、りおが海に落ちた時のことに及ぶ。
「それで……星川さんが爆弾男によって羽交い絞めにされた時、あなたはどこにいましたか?」
「男から食らった突きで膝をついていたので、二人から4~5メートルといったところでしょうか」
「男と星川さんはどのように落ちたのでしょうか?」
「……男が爆弾のスイッチを取り出してロックをはずそうとした時、突然さくらが体を揺らして男に体当たりしたんです」
「それで手すりを越えて二人とも落ちた?」
「……はい……」
昴の脳裏に当時の記憶が蘇る。思わず表情が歪み、下を向いた。
「お辛いことを訊いて申し訳ありません。が、最後にもう一つ……二人が海に落ちてから爆弾が爆発するまで、時間にしてどれくらいありましたか?」
「……二人が船から転落して、私は慌てて立ち上がり、手すりまで駆け寄りました。 爆発はその直後でしたから……時間にすれば5秒から10秒程度だったと思います」
警察官は手帳に「5秒から10秒……」と、声に出しながらメモを取る。
「ご協力ありがとうございました。お連れの女性は今、私たちの仲間が全力で探しています。どうか、気を落とされずに」
警察官はそう言うと昴に一礼して去っていった。
(気を落とすな……か……)
好きな女が爆弾男と海に落ち、直後に爆発。気を落とすなという方が無理だろう。昴はぼんやりと床を見つめ、小さくため息をついた。
「あか……沖矢さん!」
突然、聞き覚えのある声で呼ばれ、昴は一瞬だけ声の方へ顔を向けた。険しい顔をした安室が近づいてくる。彼は昴のそばまで来ると、強張った声で問いかけた。
「さくらさんが行方不明だと聞きました」
「ああ……俺の…目の前で……」
何度も何度も、あの時の光景がフラッシュバックする。目を開けても、閉じても、浮かぶのはスンホとさくらが手すりを越える瞬間と大きな水柱、そして轟音。
昴は奥歯を噛みしめ、きつく目を閉じる。
そんな昴の気持ちを察してか、安室はそれ以上、さくらのことを訊ねてこなかった
「ケガは? 帰りはどうしますか?」
「……ケガはたいしたこと無い。近くに車もある。大丈夫だ」
これしきのケガで動けなくなるほどヤワじゃないし、安室の手を煩わせることもない。昴は毅然とした声で答えた。
しっかりと受け答えできていることに安堵したのか、安室は「そうか」とため息交じりにつぶやく。
「あなたは家でおとなしく待っててください。必ずさくらさんをあなたの元に連れて帰ります」
「ッ!」
安室なりの優しさなのだろう。その言葉にどれほど救われたか。
足早に病院を後にする安室を見送りながら、昴は「頼んだぞ」と心の中で念じた。
エッジオブオーシャンにある総合病院の救命外来では、ドクターやナースたちが慌ただしく駆け回っている。居合わせた客の中にケガ人はいなかったが、極度の緊張を強いられたために体調不良を訴える者が多数出ていた。
入れ替わり立ち代わり、忙しなく人が出入りする救命の一番奥の部屋では——
今回、唯一のケガ人である昴が診察を受けていた。
レントゲンを撮った際に首元の変声機は外してある。姿は昴だが声は赤井の状態でドクターによるケガの説明を受けていた。
「どうやら胸部に強い衝撃を受けたようで肋骨にヒビが入っていますね。幸い、そんなにひどくはないですからバストバンドなどの固定具は必要ありません。この後処置室で痛み止めの湿布をして、包帯で固定しましょう」
じゃあご案内して、とドクターがナースに視線を送る。
「……ありがとうございました」
ドクターの説明などほとんど耳に入らぬまま、昴はナースに促され診察室を出た。
処置室で湿布を貼り、痛みが和らぐようにと厚手の包帯を少しきつめに巻かれた。処方された痛み止めと水の入った紙コップを手渡される。
「今はまだ、無理して服を着なくてもいいですよ。薬が効いて痛みが落ち着いてからで大丈夫です。手助けが必要でしたら声をかけてくださいね」
『頓服』と書かれた薬袋を昴に手渡し、ナースは寒くないようにとジャケットだけ肩にかけてくれた。
「ありがとう…ございます」
昴は礼だけ言うと痛み止めを口の中に入れ水で流し込んだ。
トントントン
ナースが昴から紙コップを受け取った時、処置室のドアをノックする音が響いた。ナースがドアを開ける。
「はい」
「警察の者です。こちらに沖矢昴さんはいらっしゃいますか? 事件のことを詳しくお聞きしたいのですが……」
ケガの処置が終わったのを見計らい、警察官が昴を呼びに来たのだ。
「はい、すぐに行きます」
昴は立ち上がるとナースに礼を言って処置室を後にした。
事件の関係者でごった返す救急外来の片隅で、昴は警察からの事情聴取に応じた。
正体を晒すわけにもいかないので、多少のウソは致し方ない。
なぜスンホを追って船に来たのか。どういう経緯でスンホと拳を交えることになったのか。
昴は真実とウソをうまく使い分け、その場を取り繕った。
やがて事情聴取は、りおが海に落ちた時のことに及ぶ。
「それで……星川さんが爆弾男によって羽交い絞めにされた時、あなたはどこにいましたか?」
「男から食らった突きで膝をついていたので、二人から4~5メートルといったところでしょうか」
「男と星川さんはどのように落ちたのでしょうか?」
「……男が爆弾のスイッチを取り出してロックをはずそうとした時、突然さくらが体を揺らして男に体当たりしたんです」
「それで手すりを越えて二人とも落ちた?」
「……はい……」
昴の脳裏に当時の記憶が蘇る。思わず表情が歪み、下を向いた。
「お辛いことを訊いて申し訳ありません。が、最後にもう一つ……二人が海に落ちてから爆弾が爆発するまで、時間にしてどれくらいありましたか?」
「……二人が船から転落して、私は慌てて立ち上がり、手すりまで駆け寄りました。 爆発はその直後でしたから……時間にすれば5秒から10秒程度だったと思います」
警察官は手帳に「5秒から10秒……」と、声に出しながらメモを取る。
「ご協力ありがとうございました。お連れの女性は今、私たちの仲間が全力で探しています。どうか、気を落とされずに」
警察官はそう言うと昴に一礼して去っていった。
(気を落とすな……か……)
好きな女が爆弾男と海に落ち、直後に爆発。気を落とすなという方が無理だろう。昴はぼんやりと床を見つめ、小さくため息をついた。
「あか……沖矢さん!」
突然、聞き覚えのある声で呼ばれ、昴は一瞬だけ声の方へ顔を向けた。険しい顔をした安室が近づいてくる。彼は昴のそばまで来ると、強張った声で問いかけた。
「さくらさんが行方不明だと聞きました」
「ああ……俺の…目の前で……」
何度も何度も、あの時の光景がフラッシュバックする。目を開けても、閉じても、浮かぶのはスンホとさくらが手すりを越える瞬間と大きな水柱、そして轟音。
昴は奥歯を噛みしめ、きつく目を閉じる。
そんな昴の気持ちを察してか、安室はそれ以上、さくらのことを訊ねてこなかった
「ケガは? 帰りはどうしますか?」
「……ケガはたいしたこと無い。近くに車もある。大丈夫だ」
これしきのケガで動けなくなるほどヤワじゃないし、安室の手を煩わせることもない。昴は毅然とした声で答えた。
しっかりと受け答えできていることに安堵したのか、安室は「そうか」とため息交じりにつぶやく。
「あなたは家でおとなしく待っててください。必ずさくらさんをあなたの元に連れて帰ります」
「ッ!」
安室なりの優しさなのだろう。その言葉にどれほど救われたか。
足早に病院を後にする安室を見送りながら、昴は「頼んだぞ」と心の中で念じた。