ペリドットとアンバー短編集
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翌日——
歩美は学校の図書館で手話の本を借りた。
「あれ、歩美ちゃん。手話の本なんてどうしたんですか?」
光彦が不思議そうに訊ねた。
「さくらお姉さん、今声が出なくて昴お兄さんと手話でお話してるの。歩美も覚えたら、お姉さんの言ってること分かるかなと思って…」
照れたように言うと、本をぎゅっと抱きしめた。
「そうだったんですね!じゃあ、みんなで一緒に覚えましょう。手話がわかる人が増えれば、さくらさんもたくさんお話できて、寂しくないじゃないですか!」
「うんッ!」
光彦の提案に、歩美は嬉しそうに返事をした。
その日の放課後、みんなで博士の家に集合した。
本を見ながら一つずつ丁寧にマネをしてみる。
「ほら~元太くん!手の向きが逆ですよ。写真の人が自分になるんだから、こうでしょ?」
光彦が元太に一生懸命説明している。
歩美は昨日昴に教わった手話を復習していたので、コナンはみんなの様子をみながら時々アドバイスをしていた。
しばらくすると博士がおやつじゃよ~と声をかける。
オレンジジュースとお菓子がテーブルに並んだ。
「ちょっと休憩にしましょう」
光彦の言葉を合図に、みんな席に着いた。
「どうじゃ?覚えられそうかな?」
博士が子ども達に訊ねた。
「うーん…。なかなか覚えられないですし、単語もたくさんあるのでキリがないですね…」
光彦は自信がなさそうだ。
ひらがなだけでも50文字。単語はそれ以上だ。手話の辞書は分厚く、それを一つずつ覚えるなんて不可能だ。
手の動きや向きを確認しても、すぐに忘れてしまう。
「それなら良い方法があるわよ」
哀がみんなの顔を見回してにっこり笑う。
「歌でおぼえるの。ダンスとか振り付けを覚えるみたいに。難しい歌じゃなくても、チューリップとかぞうさんとか、童謡を手話でやってみるの。ネットにも結構アップされてるわよ」
スマホの画面を見せながら説明する。
「なるほど! 振り付けだと思えば、覚えられるかもしれませんね!!」
ぱぁぁっと子ども達の顔が明るくなった。
おやつの後、みんなでチューリップやぞうさん、雨降りくまの子など何曲か練習した。
「おお! さすがじゃな。みんな覚えるのが早い」
博士は目を丸くした。
「なあ、もし兄ちゃんが良いって言ったら、これからオレ達の手話ダンス見せに行かねぇか?」
「賛成!! 博士~~~! 連絡取ってみて下さいよ!」
光彦たちに急かされ、
「ああ、分かった。分かった。ちょっと待っとれ」
博士は受話器を手にした。
リンゴ~ン
工藤邸のチャイムが鳴る。
ほぼ同時に子ども達の元気な声が玄関に響いた。
「いらっしゃい。さあどうぞ」
昴がすぐに出迎え、リビングに通してくれた。
「さくらお姉さん! 歩美たち手話の練習たくさんしたんだよ。
哀ちゃんが歌で覚えた方が覚えやすいって教えてくれたの。みんなで手話ダンスを覚えてきたから、見てくれる?」
そう言ってさくらの膝に抱きついた。
さくらはにっこり笑うと『楽しみだわ! ぜひ見せて!』とノートに書いて見せた。
5人で並んで音楽を流し、練習してきた童謡を次々やってみる。
表情まで付いていて完璧だ。
時々元太がワンテンポ遅れたり、手が裏表逆だったりしていたが…。
全て披露し終わると、さくらは拍手をしてくれた。
『昴さんの手話より上手かも!』とノートに書く。
「そうなの?」
歩美が意外そうな顔をした。
『昴さんは私の手話を読み取るだけだから、実際手話で話すのはほとんど出来ないの』
「じゃあ、昴お兄さんも一緒にやろうよ!」
ノートを見た歩美が昴の手を取り、5人の列に誘う。
「え? わ、私もやるんですか?」
「おう! 昴の兄ちゃんも一緒にやろうぜ!」
元太も誘う。
「昴さんが一番覚えなくてはいけないんですから」
光彦にも言われ、もう参加しないという選択肢は無いようだ。
仕方なく昴は5人の列に入る。
子ども達から動きのレクチャーを受けた。
「兄ちゃん! 手話は表情も大事なんだって!そんな仏頂面じゃダメじゃんか!」
元太のゲキが飛ぶ。
「え? こ、こうですか?」
なんだかぎこちないが、『長~い』ところを表現しているようだ。
「兄ちゃん…ヘタだなぁ…」
元太のダメ出しが出る。
「そ、そうですか?頑張ってるんですけど…」
子ども達の厳しい指導が続く。しかし子どもたちの教え方が雑過ぎて、イマイチしっくりこない。昴は悪戦苦闘だ。
「ま、こんなもんじゃねぇ?」
「え? もう練習終わりですか?」
適当に練習を切り上げられ、再び流れたぞうさん。
隣の動きを見ながら表情を作り、ワンテンポ遅れて手話ダンスを踊るレアな赤井秀一…もとい冲矢昴を見て、死ぬほど笑いを堪えたさくらだった。
もちろん、コナンも手で顔を隠して笑っていたのはナイショ。
===おまけ===
子ども達が帰ったあと、昴はソファーに座るりおの隣に腰を下ろす。
「りお」
名を呼んでもりおは下を向いたままだ。
「笑ってるでしょ」
りおは下を向いたまま首を横に振る。
「絶対笑ってる」
さらに首を横に振るが、肩が揺れているのが分かる。
「これでも一生懸命やったんですよ」
今度は首を縦に振る。
やっと顔を上げて昴と目を合わせた。
笑いすぎて、りおの目には涙が浮かんでいる。
『今度秀一さんの時もやって』
ひらひらとりおの手が動いた。
「絶対嫌です~」
『お願い~お願い~』
「ダメ! 絶対やりませんッ!」
ふたりの攻防はしばらく続いた。
この日の夜——
お風呂に入って変装を解いた後、なんだかんだ言いながらも、寝る前に1回だけ『長~い』をやってくれた。りおには甘い赤井秀一…。
(結局やったのね笑)