ペリドットとアンバー短編集
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「ん? 確かここに…」
お目当ての物が見つからず、赤井の手は自分の胸元やジャケットのポケットをポンポンと叩く。
しかしいつも触れるはずの感触がそこには無い。
「おかしいな……確か昨日使ってポケットに入れたはずだが」
口元に手を当て記憶をたどった。
探し物の携帯灰皿は、以前りおがお土産で買ってきてくれたものだ。
組織の指令でK国へ行き、その後成田で缶詰めになった時にショッピングモールで購入したと言っていた。
もっとも――その話は成田から帰宅後、だいぶ経ってから聞いたのだが。
(第2章と番外編《2DAYS》)
とにかく、そのりおからもらった携帯灰皿が現在行方不明だ。
シルバーの弾丸のような形をしたシンプルな灰皿で、フタの部分にはペリドットが埋め込まれている。赤井のお気に入りの一つであり、大切に使っていた。
今日は朝食をとった後に身支度を終え、残るは変装のみ。その前に昨日の吸い殻を捨てようとポケットに手を入れたのだが、そこには何も入っていなかった。
「さて…どこへ置いたんだ?」
ヘビースモーカーの赤井にとって、喫煙はもはや無意識の領域だ。
ポケットからタバコを取り出すのも、火をつけるのも、そして灰皿をポケットに仕舞うのも。ほとんど無意識の行動になっている。
灰皿を手にした記憶自体が、一体いつのものなのかも定かでは無かった。
「その辺に置くわけが無いし……。上着を脱いだ時にでも落としたのだろうか」
もしリビングにでも落としていて、りおが先に見つけたとしたら――。怒りはしないだろうが、良い気持ちはしないだろう。
「りおより先に見つけねばな」
赤井はリビングへと急いだ。
リビングに入ると、幸いりおはいない。朝食の洗い物を終えて、ついでに掃除でもしているようだ。
赤井はソファーの下やシェルフの周りをくまなく探す。だが、お目当ての物は無い。
「困ったな……」
探せるところは全て探した。赤井は「うーむ」と考え込んだ。
「あれ? まだ変装していないんですか?」
キッチンの掃除を終えたりおが、ひょっこりリビングに顔を出した。りおの声で赤井の心臓はドキリと跳ねる。
「あ、ああ。一服してから変装をしようと思ってね」
少し声がうわずってしまったが、りおは気が付かなかったようだ。
「そうなんですね。あ! そうだ。秀一さん! あなたの――」
「そ、そろそろ変装してくるよ。探偵団が来るかもしれないしな」
りおが何か言いかけたので、それにかぶせるように赤井は声をかけ、足早にリビングを出ていく。
「? どうしたんだろ…秀一さん…」
なんだか焦っていたような…?
いつもと違う様子に、りおは不思議そうに小首を傾げた。
「ふ~~~。やれやれ。何でりおから逃げ回らなきゃならないんだ」
パタンと洗面所のドアを閉めると、赤井はため息交じりにつぶやいた。
思わず『一服』という言葉を使ってしまったので、りおに灰皿の事を言われる前に逃げるように出てきてしまった。
「と、とりあえず変装だな」
探偵団が来るかもしれないのは事実。
いつまでも探し物はしていられない。
赤井は気乗りしないまま、道具箱に手を伸ばした。
いつも通り変装を終え、道具を片付けながら昴はもう一度昨日の記憶を辿る。
「昨日の午前中は……確かキャメルから報告が来ていた小学校近くの空き店舗を偵察に行って……どこかで一服したな…」
哀の生活圏内の安全確認は赤井にとって必須の仕事。組織の者がいつ彼女を《シェリー》だと気付くか分からないからだ。
昨日も、先週から空き店舗になった店の周辺を自分の目で確認に行っていた。
「あの時は……確かコンビニの喫煙スペースで吸ったから、携帯灰皿は使わなかった」
(じゃあどこで使ったんだ? そもそも俺は昨日何本吸ったんだったか……)
ほとんど無意識に行っている喫煙行動がこんなところで仇になるとは。昴は参ったとばかりに頭を抱えた。
その後も昨日の行動については明確にたどれるのだが、喫煙に至っては全てうろ覚え。携帯灰皿の所在には結びつかない。
「あとは…もう一度自分の部屋を探して無かったら――素直に謝ろう…」
重いため息をついて顔を上げると、鏡には情けない顔をした自分が映っていた。
普段より長く居座った洗面所を出て、昴は自室に戻るとベッドの下やクローゼットの中、サイドテーブルの周りも確認した。しかし携帯灰皿を見つけることは出来なかった。
(これはもう、謝るしかないな…)
昴は覚悟を決めてリビングへと向かった。
リビングに入ると、りおはソファーに座って本を読んでいた。ドアが開いた音で昴の方へ顔を向ける。
「あれ……昴さん、どうしたの? 暗い顔をして」
「あ…。いや…その…」
一瞬だけりおの顔を見た昴は、またすぐに下を向く。心配そうに見つめるりお顔は、さらに心の痛みを強くした。
(なんて切り出すか…)
昴は唇を噛んだ。
「あの…りお……じ、実は……」
「あ、そうだ。コレ。キレイにしておきましたよ」
意を決して謝ろうと思った時、りおが急に立ち上がって昴に近づいた。
「え?」
はい、といってりおが手渡してきた物は、朝から必死に探していたあの携帯灰皿だった。
「な、なぜこれを?!」
驚いた昴は、思わず大きな声で問いかけた。
「えっ!? あ、ああ……これ……昨日、あなたのジャケットのボタンが取れかかっていたから縫い付けたの。その時に左のポケットに入ってたから…。大事に持っていてくれてるんだって嬉しくなって。見たら吸い殻がたくさん入っていたからキレイにしておいたの。中も洗っておいたわ」
りおはニッコリほほ笑むと、嬉しそうに説明した。
「え?」
「さっき渡そうと思ったら、秀一さん慌てて変装に行っちゃったから渡しそびれちゃって…」
「ええ??」
理解が追いつかない昴の頭は軽くパニックに陥る。
「つ、つまり…私が落としたり失くしたりしたわけでは無く、りおがキレイにして預かってくれていた…という事ですか?」
「へ? 失くしたと思っていたの?」
昴の言葉に、今度はりおが目を見開いた。
「え、ええ。今朝ポケットに無かったので、てっきり失くしてしまったと思っていました。朝からずっと探していたんです。失くしたと知ったら、あなたが悲しむと思って…」
昴は拍子抜けしたような顔をしている。
(ああ、なるほど。それであんなにソワソワと……)
りおは先ほどの昴の様子に合点がいった。
「よ、良かった…。大事にしていたんです。あなたから貰った初めてのプレゼントですから」
ホッとした顔を向けて、昴は灰皿を受け取る。
「ご、ごめんなさい。私が勝手な事をしたばかりに……」
まさか、そんな大事になっているとは露知らず、りおは申し訳なさそうに下を向いた。
「りお、そんな顔しないで。キレイにしておいてくれたのでしょう? 私もすぐに言わなかったのがいけなかった」
りおから灰皿を受け取り、昴はそれを大事そうに見つめる。そっとポケットにしまうとりおを抱きしめた。
「ああ、良かった! ホッとしたらあなたとキスがしたくなりました。今しても良いですか?」
満面の笑みで昴はりおの顔を見る。
「き、キスで終わるんだったら……。そ、それ以上はダメだからね! まだ午前中なん…」
「はいはい。善処しますよ」
りおが言い終わらないうちに軽く返事をして、昴はりおにキスをする。
唇が触れ合うとすぐに、ぬるりと舌が唇を割って入ってきた。今朝から1本もタバコを吸っていない昴の舌は、いつもより甘い。
何度も角度を変え、そのたびに みだらな水音がリビングに響く。
(ちょ、全然キスで終わらせる気ないでしょっ!!)
しつこい程に弱い所をくすぐって来て、いつもの(絶対そのまま寝室行きになるような濃厚な)キスをしてくる。りおの頭を完全ホールドして離す気配は無い。
「ふふ」
キスをしながら昴が小さく笑う。
「ん…なあに? 急…に…」
ディープキスからバードキスに変わりりおが昴に問いかける。
「お前から貰ったもの一つ失くしただけで、自分がこんなに余裕を無くして…それが見つかっただけでこんなに嬉しいなんて…」
唇を離し、声は昴のまま赤井の口調で話しかける。
ピ!
「俺はよほど…お前が好きらしい」
その時だけ変声機の電源をオフにして、りおの耳元でささやく。
(ああ、もう!)
りおは心の中でツッコミを入れた。
私も好きって伝えたらそのままベッド行きかな――などと考えながら、昴の耳元に唇を寄せる。
『Me too/私もよ』
お目当ての物が見つからず、赤井の手は自分の胸元やジャケットのポケットをポンポンと叩く。
しかしいつも触れるはずの感触がそこには無い。
「おかしいな……確か昨日使ってポケットに入れたはずだが」
口元に手を当て記憶をたどった。
探し物の携帯灰皿は、以前りおがお土産で買ってきてくれたものだ。
組織の指令でK国へ行き、その後成田で缶詰めになった時にショッピングモールで購入したと言っていた。
もっとも――その話は成田から帰宅後、だいぶ経ってから聞いたのだが。
(第2章と番外編《2DAYS》)
とにかく、そのりおからもらった携帯灰皿が現在行方不明だ。
シルバーの弾丸のような形をしたシンプルな灰皿で、フタの部分にはペリドットが埋め込まれている。赤井のお気に入りの一つであり、大切に使っていた。
今日は朝食をとった後に身支度を終え、残るは変装のみ。その前に昨日の吸い殻を捨てようとポケットに手を入れたのだが、そこには何も入っていなかった。
「さて…どこへ置いたんだ?」
ヘビースモーカーの赤井にとって、喫煙はもはや無意識の領域だ。
ポケットからタバコを取り出すのも、火をつけるのも、そして灰皿をポケットに仕舞うのも。ほとんど無意識の行動になっている。
灰皿を手にした記憶自体が、一体いつのものなのかも定かでは無かった。
「その辺に置くわけが無いし……。上着を脱いだ時にでも落としたのだろうか」
もしリビングにでも落としていて、りおが先に見つけたとしたら――。怒りはしないだろうが、良い気持ちはしないだろう。
「りおより先に見つけねばな」
赤井はリビングへと急いだ。
リビングに入ると、幸いりおはいない。朝食の洗い物を終えて、ついでに掃除でもしているようだ。
赤井はソファーの下やシェルフの周りをくまなく探す。だが、お目当ての物は無い。
「困ったな……」
探せるところは全て探した。赤井は「うーむ」と考え込んだ。
「あれ? まだ変装していないんですか?」
キッチンの掃除を終えたりおが、ひょっこりリビングに顔を出した。りおの声で赤井の心臓はドキリと跳ねる。
「あ、ああ。一服してから変装をしようと思ってね」
少し声がうわずってしまったが、りおは気が付かなかったようだ。
「そうなんですね。あ! そうだ。秀一さん! あなたの――」
「そ、そろそろ変装してくるよ。探偵団が来るかもしれないしな」
りおが何か言いかけたので、それにかぶせるように赤井は声をかけ、足早にリビングを出ていく。
「? どうしたんだろ…秀一さん…」
なんだか焦っていたような…?
いつもと違う様子に、りおは不思議そうに小首を傾げた。
「ふ~~~。やれやれ。何でりおから逃げ回らなきゃならないんだ」
パタンと洗面所のドアを閉めると、赤井はため息交じりにつぶやいた。
思わず『一服』という言葉を使ってしまったので、りおに灰皿の事を言われる前に逃げるように出てきてしまった。
「と、とりあえず変装だな」
探偵団が来るかもしれないのは事実。
いつまでも探し物はしていられない。
赤井は気乗りしないまま、道具箱に手を伸ばした。
いつも通り変装を終え、道具を片付けながら昴はもう一度昨日の記憶を辿る。
「昨日の午前中は……確かキャメルから報告が来ていた小学校近くの空き店舗を偵察に行って……どこかで一服したな…」
哀の生活圏内の安全確認は赤井にとって必須の仕事。組織の者がいつ彼女を《シェリー》だと気付くか分からないからだ。
昨日も、先週から空き店舗になった店の周辺を自分の目で確認に行っていた。
「あの時は……確かコンビニの喫煙スペースで吸ったから、携帯灰皿は使わなかった」
(じゃあどこで使ったんだ? そもそも俺は昨日何本吸ったんだったか……)
ほとんど無意識に行っている喫煙行動がこんなところで仇になるとは。昴は参ったとばかりに頭を抱えた。
その後も昨日の行動については明確にたどれるのだが、喫煙に至っては全てうろ覚え。携帯灰皿の所在には結びつかない。
「あとは…もう一度自分の部屋を探して無かったら――素直に謝ろう…」
重いため息をついて顔を上げると、鏡には情けない顔をした自分が映っていた。
普段より長く居座った洗面所を出て、昴は自室に戻るとベッドの下やクローゼットの中、サイドテーブルの周りも確認した。しかし携帯灰皿を見つけることは出来なかった。
(これはもう、謝るしかないな…)
昴は覚悟を決めてリビングへと向かった。
リビングに入ると、りおはソファーに座って本を読んでいた。ドアが開いた音で昴の方へ顔を向ける。
「あれ……昴さん、どうしたの? 暗い顔をして」
「あ…。いや…その…」
一瞬だけりおの顔を見た昴は、またすぐに下を向く。心配そうに見つめるりお顔は、さらに心の痛みを強くした。
(なんて切り出すか…)
昴は唇を噛んだ。
「あの…りお……じ、実は……」
「あ、そうだ。コレ。キレイにしておきましたよ」
意を決して謝ろうと思った時、りおが急に立ち上がって昴に近づいた。
「え?」
はい、といってりおが手渡してきた物は、朝から必死に探していたあの携帯灰皿だった。
「な、なぜこれを?!」
驚いた昴は、思わず大きな声で問いかけた。
「えっ!? あ、ああ……これ……昨日、あなたのジャケットのボタンが取れかかっていたから縫い付けたの。その時に左のポケットに入ってたから…。大事に持っていてくれてるんだって嬉しくなって。見たら吸い殻がたくさん入っていたからキレイにしておいたの。中も洗っておいたわ」
りおはニッコリほほ笑むと、嬉しそうに説明した。
「え?」
「さっき渡そうと思ったら、秀一さん慌てて変装に行っちゃったから渡しそびれちゃって…」
「ええ??」
理解が追いつかない昴の頭は軽くパニックに陥る。
「つ、つまり…私が落としたり失くしたりしたわけでは無く、りおがキレイにして預かってくれていた…という事ですか?」
「へ? 失くしたと思っていたの?」
昴の言葉に、今度はりおが目を見開いた。
「え、ええ。今朝ポケットに無かったので、てっきり失くしてしまったと思っていました。朝からずっと探していたんです。失くしたと知ったら、あなたが悲しむと思って…」
昴は拍子抜けしたような顔をしている。
(ああ、なるほど。それであんなにソワソワと……)
りおは先ほどの昴の様子に合点がいった。
「よ、良かった…。大事にしていたんです。あなたから貰った初めてのプレゼントですから」
ホッとした顔を向けて、昴は灰皿を受け取る。
「ご、ごめんなさい。私が勝手な事をしたばかりに……」
まさか、そんな大事になっているとは露知らず、りおは申し訳なさそうに下を向いた。
「りお、そんな顔しないで。キレイにしておいてくれたのでしょう? 私もすぐに言わなかったのがいけなかった」
りおから灰皿を受け取り、昴はそれを大事そうに見つめる。そっとポケットにしまうとりおを抱きしめた。
「ああ、良かった! ホッとしたらあなたとキスがしたくなりました。今しても良いですか?」
満面の笑みで昴はりおの顔を見る。
「き、キスで終わるんだったら……。そ、それ以上はダメだからね! まだ午前中なん…」
「はいはい。善処しますよ」
りおが言い終わらないうちに軽く返事をして、昴はりおにキスをする。
唇が触れ合うとすぐに、ぬるりと舌が唇を割って入ってきた。今朝から1本もタバコを吸っていない昴の舌は、いつもより甘い。
何度も角度を変え、そのたびに みだらな水音がリビングに響く。
(ちょ、全然キスで終わらせる気ないでしょっ!!)
しつこい程に弱い所をくすぐって来て、いつもの(絶対そのまま寝室行きになるような濃厚な)キスをしてくる。りおの頭を完全ホールドして離す気配は無い。
「ふふ」
キスをしながら昴が小さく笑う。
「ん…なあに? 急…に…」
ディープキスからバードキスに変わりりおが昴に問いかける。
「お前から貰ったもの一つ失くしただけで、自分がこんなに余裕を無くして…それが見つかっただけでこんなに嬉しいなんて…」
唇を離し、声は昴のまま赤井の口調で話しかける。
ピ!
「俺はよほど…お前が好きらしい」
その時だけ変声機の電源をオフにして、りおの耳元でささやく。
(ああ、もう!)
りおは心の中でツッコミを入れた。
私も好きって伝えたらそのままベッド行きかな――などと考えながら、昴の耳元に唇を寄せる。
『Me too/私もよ』