ペリドットとアンバー短編集
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「いたたたた…」
さくらはゆっくりと体を起こす。
色々痛みがあるが、どうやら歩美は無事なようだ。
自転車を避けて緩やかな傾斜を転がり、その先の段差の手前で止まるつもりだった。しかしコンクリート上は雨で滑って止まり切れず。
仕方なく体勢だけ変え、歩美を抱えたまま数メートルの高さがある段差から飛び降りたのだ。
「歩美ちゃん、大丈夫?」
「歩美は大丈夫。お姉さんが守ってくれたから……。ッ‼ お姉さん! 血が出てるよ!」
歩美が心配そうに指さした。歩美が指示したところ――さくらの腕は擦過傷と雨のせいで真っ赤に染まっていた。
だがそれよりも、無理やり着地した時にどうやら足首を捻ったらしい。ちょっと動かしただけで左足に激痛が走った。
「コンクリートで擦れちゃっただけだから大丈夫。それよりカギ見つかって良かったね」
歩美が不安にならないように、努めて笑顔で話しかけた。
『さて、どうやってここから上がろう…』
増水に備えて深く作られている段差は、それなりに高さがある。人が上り下りするためのはしごはここから見る限り見当たらない。
その上この足では歩美を抱えて登るのは不可能だ。
『仕方がない。昴さんを呼ぶか……』
雨が降っているので彼のメイクが心配だ、などと思いながらスマホを取り出そうとした時に気付いた。
『スマホの入ったバッグ…土手を転がっている間に落とした…』
どうやら転がっている間にバッグは体から離れてしまったらしい。つまり、土手のどこかに落ちているはずだ。
『参ったな。どうしよっかな』
雨は止む気配は無い。それどころか先ほどより強くなっている。雨に濡れた体は体温を奪われ、かなり寒い。時間的な猶予はなさそうだ。
だが連絡方法も無く、上に上がる手段も無い。
どうしたものかと考えている時だった。
「お姉さん…水が…!!」
「!?」
上流では豪雨となっているのか、川の水がどんどん増していた。さくら達のいるコンクリートの部分にまで、水が流れてくる。
それが見る見るうちに増えていった。
「この流れの速さだと数十センチでも足元をすくわれる可能性がある。流されたら……まずいわね」
さくらの顔に焦りの色がにじんだ。
「確かこの辺りだったが…」
タブレットに記された場所に到着した昴は、周辺をくまなく探した。だが、人影はなく雨はますます強く降り、街全体が煙っているようだ。
「こんな所でりおは何をしていたんだ?」
大通りからも外れているし、彼女の興味を引くような店も無い。
昴は注意深くあたりを見回しながら、ゆっくりと車を走らせた。
辛抱強く、もう何度目か土手沿いの道を走らせていた時だった。昴はコンクリートの土手に見慣れたバッグがあるのを発見する。
車から降りバッグを手に取ると、それは間違いなくさくらのバッグだった。
辺りを見回すと、土手の先は段差になっているようだった。
慌てて近づき、段差の下を覗き込む。
「さくらっ! 歩美ちゃんも!?」
見るとびしょ濡れのさくらは、ごうごうと流れる川の中で膝まで水に浸かって歩美を抱き、下流に向かって歩こうとしていた。
「昴さんっ! どうしてここが?」
「説明は後です。すぐ助けますから」
昴は車まで戻ると、車内にあったショルダーバッグ用のストラップ(肩ひも)を手にする。それを最大限まで伸ばし、さくらの元へと下ろした。
さくらはそれを歩美の体に巻き付ける。
無事に歩美は段差の上まで引き上げられた。
「さくら、大丈夫ですか?」
昴はさくらに声をかける。だが、さくらはふらふらと体を揺らし今にも流されそうだ。
「お姉さん、足をケガしてるの。もしかしたら痛みで踏ん張れないんじゃ……」
「なにッ!?」
慌ててストラップを下ろすと、昴の視界に上流から大きな木が流されてくるのが見えた。
「さくら! 早く掴まるんだ!」
「ッ!!」
下ろされたストラップを掴み、壁に右足をかける。左足に体重がかかり、ズキリと痛んだ。
「3つ数えたら一気に引き上げます」
「分かりました…」
1、2、3!
タイミングを合わせ、昴は一気にストラップを引く。さくらは壁に掛けた右足に力を込めた。
体がグッと上がったところで、昴は右手を差し出す。さくらの伸ばした右手を掴むとそのまま力強く引き上げた。
その直後。
流れてきた大きな木が、ちょうどさくらが立っていた段差の壁に激突した。
「さくらっ! 大丈夫か?」
昴は、はぁはぁと荒い呼吸をするさくらの両肩に手をかけ、顔を覗き込む。
視線を上げたさくらと目が合うと、その姿に思わずドキリとした。
雨に濡れ、おくれ毛のはりついた顔は、どこか彼女を抱いた時の事を思い起こさせる。
良く見ると彼女の服も当然びしょ濡れで、僅かではあるが肌が透けていた。
なんとも色っぽい姿に、昴は動揺を隠せない。
『な、何をしているんだ俺は!』
雑念を追い払うように頭を振った。
「お姉さん! 大丈夫?!」
「うん。大丈夫だよ。歩美ちゃんも大丈夫?
でも良かった…昴さんが来てくれて」
歩美とさくらの会話を聞いて、昴は二人を直視できなくなる。
お互いの無事を確かめ合う二人の前で、自分はいったい何をやっているんだ、と大きなため息をついた。
その後二人は昴に連れられ、新出医院を訪れた。
「歩美ちゃんはケガしていないようだね。
さくらさんはひじと腕に擦過傷。左足の捻挫。まあ、こんなもので済んだのは奇跡だけど」
ハイ終わり。と言われてさくらはお礼を言った。
「数メートルの高さから、女の子抱えて飛び降りるなんて。ヘタすりゃ捻挫どころじゃなく、骨折していたかもしれないよ」
新出先生は、治療で使った道具を片付けながら声をかけた。
「ははは。雨で摩擦も少なくて……土手をかなりのスピードで転がったせいで段差の手前でどうしても止まれなくて……」
さくらはバツが悪そうに答えた。
「それにしたって、無茶しすぎです。その上その足で1㎞先の段差が少ないところまで歩くつもりでいたですって?! 無茶にもほどがあるでしょう!」
昴は眉を吊り上げて怒っていた。
「だ、だって…スマホも上だし、助けを呼んでも濁流で聞こえないみたいで……。増水していたから時間の猶予も無かったし……」
確かに状況的にはそれしか方法は無かっただろう。
「歩美がカギを無くしたからいけなかったの。お兄さん、さくらお姉さんを怒らないであげて」
歩美にも懇願され、さすがにこれ以上は言えず昴は口をつぐんだ。
昴に怒られたさくらは、新出先生から借りたタオルを首にかけ、しょんぼりしていた。
「ま、まあ…今回はあなたに落ち度があったわけでは無いですし…私も言い過ぎました」
昴も冷静さを欠いていたことを謝った。
そんな二人の姿を見て先生も安堵のため息をつく。
「とにかく、二人とも無事でよかったね」
新出先生は3人の顔をゆっくり見回すと、ニッコリ微笑んだ。
歩美を自宅まで送り、昴とりおはようやく工藤邸に帰り着く。
昴の肩を借り、りおはリビングのソファーまでなんとか自力で歩いた。
「着替えをしないといけませんね。タオルで拭いたとはいえ、服も髪もびしょ濡れだ」
「ふ…ふぇっくしょ~ん!」
「……その前にお風呂の方が良さそうですね。待っててください。すぐ用意します」
昴がリビングを出ようと、りおに背を向けた。
「あ、あのッ……昴さん!」
「?」
「まだ……怒ってる?」
突然の問いかけに昴は踵を返すと、りおに近づいた。
「なぜそう思うのですか?」
「だ、だって……帰ってきてもハグ、してくれないから……」
寂しそうに呟く姿を見て昴は膝をつき、りおと目の高さを合わせる。
「なぜハグをしないか……教えましょうか」
昴の言葉を聞き、りおは不安げに顔を上げた。
雨で冷えたせいか、りおの顔は少し青白い。
それがかえって彼女を儚げに見せた。
「雨で服も髪も濡れて……こんなに色っぽいあなたを今抱きしめたら……きっと自制が効きません。それではあなたに風邪を引かせてしまいます」
「えっ!?」
「私なりに我慢しているんです。察してください」
ニコッと微笑んで立ち上がると、昴はリビングを出て行った。
「え?」
「ええっっ!?」
後には顔を真っ赤にしたりおがリビングに残されたのだった。
さくらはゆっくりと体を起こす。
色々痛みがあるが、どうやら歩美は無事なようだ。
自転車を避けて緩やかな傾斜を転がり、その先の段差の手前で止まるつもりだった。しかしコンクリート上は雨で滑って止まり切れず。
仕方なく体勢だけ変え、歩美を抱えたまま数メートルの高さがある段差から飛び降りたのだ。
「歩美ちゃん、大丈夫?」
「歩美は大丈夫。お姉さんが守ってくれたから……。ッ‼ お姉さん! 血が出てるよ!」
歩美が心配そうに指さした。歩美が指示したところ――さくらの腕は擦過傷と雨のせいで真っ赤に染まっていた。
だがそれよりも、無理やり着地した時にどうやら足首を捻ったらしい。ちょっと動かしただけで左足に激痛が走った。
「コンクリートで擦れちゃっただけだから大丈夫。それよりカギ見つかって良かったね」
歩美が不安にならないように、努めて笑顔で話しかけた。
『さて、どうやってここから上がろう…』
増水に備えて深く作られている段差は、それなりに高さがある。人が上り下りするためのはしごはここから見る限り見当たらない。
その上この足では歩美を抱えて登るのは不可能だ。
『仕方がない。昴さんを呼ぶか……』
雨が降っているので彼のメイクが心配だ、などと思いながらスマホを取り出そうとした時に気付いた。
『スマホの入ったバッグ…土手を転がっている間に落とした…』
どうやら転がっている間にバッグは体から離れてしまったらしい。つまり、土手のどこかに落ちているはずだ。
『参ったな。どうしよっかな』
雨は止む気配は無い。それどころか先ほどより強くなっている。雨に濡れた体は体温を奪われ、かなり寒い。時間的な猶予はなさそうだ。
だが連絡方法も無く、上に上がる手段も無い。
どうしたものかと考えている時だった。
「お姉さん…水が…!!」
「!?」
上流では豪雨となっているのか、川の水がどんどん増していた。さくら達のいるコンクリートの部分にまで、水が流れてくる。
それが見る見るうちに増えていった。
「この流れの速さだと数十センチでも足元をすくわれる可能性がある。流されたら……まずいわね」
さくらの顔に焦りの色がにじんだ。
「確かこの辺りだったが…」
タブレットに記された場所に到着した昴は、周辺をくまなく探した。だが、人影はなく雨はますます強く降り、街全体が煙っているようだ。
「こんな所でりおは何をしていたんだ?」
大通りからも外れているし、彼女の興味を引くような店も無い。
昴は注意深くあたりを見回しながら、ゆっくりと車を走らせた。
辛抱強く、もう何度目か土手沿いの道を走らせていた時だった。昴はコンクリートの土手に見慣れたバッグがあるのを発見する。
車から降りバッグを手に取ると、それは間違いなくさくらのバッグだった。
辺りを見回すと、土手の先は段差になっているようだった。
慌てて近づき、段差の下を覗き込む。
「さくらっ! 歩美ちゃんも!?」
見るとびしょ濡れのさくらは、ごうごうと流れる川の中で膝まで水に浸かって歩美を抱き、下流に向かって歩こうとしていた。
「昴さんっ! どうしてここが?」
「説明は後です。すぐ助けますから」
昴は車まで戻ると、車内にあったショルダーバッグ用のストラップ(肩ひも)を手にする。それを最大限まで伸ばし、さくらの元へと下ろした。
さくらはそれを歩美の体に巻き付ける。
無事に歩美は段差の上まで引き上げられた。
「さくら、大丈夫ですか?」
昴はさくらに声をかける。だが、さくらはふらふらと体を揺らし今にも流されそうだ。
「お姉さん、足をケガしてるの。もしかしたら痛みで踏ん張れないんじゃ……」
「なにッ!?」
慌ててストラップを下ろすと、昴の視界に上流から大きな木が流されてくるのが見えた。
「さくら! 早く掴まるんだ!」
「ッ!!」
下ろされたストラップを掴み、壁に右足をかける。左足に体重がかかり、ズキリと痛んだ。
「3つ数えたら一気に引き上げます」
「分かりました…」
1、2、3!
タイミングを合わせ、昴は一気にストラップを引く。さくらは壁に掛けた右足に力を込めた。
体がグッと上がったところで、昴は右手を差し出す。さくらの伸ばした右手を掴むとそのまま力強く引き上げた。
その直後。
流れてきた大きな木が、ちょうどさくらが立っていた段差の壁に激突した。
「さくらっ! 大丈夫か?」
昴は、はぁはぁと荒い呼吸をするさくらの両肩に手をかけ、顔を覗き込む。
視線を上げたさくらと目が合うと、その姿に思わずドキリとした。
雨に濡れ、おくれ毛のはりついた顔は、どこか彼女を抱いた時の事を思い起こさせる。
良く見ると彼女の服も当然びしょ濡れで、僅かではあるが肌が透けていた。
なんとも色っぽい姿に、昴は動揺を隠せない。
『な、何をしているんだ俺は!』
雑念を追い払うように頭を振った。
「お姉さん! 大丈夫?!」
「うん。大丈夫だよ。歩美ちゃんも大丈夫?
でも良かった…昴さんが来てくれて」
歩美とさくらの会話を聞いて、昴は二人を直視できなくなる。
お互いの無事を確かめ合う二人の前で、自分はいったい何をやっているんだ、と大きなため息をついた。
その後二人は昴に連れられ、新出医院を訪れた。
「歩美ちゃんはケガしていないようだね。
さくらさんはひじと腕に擦過傷。左足の捻挫。まあ、こんなもので済んだのは奇跡だけど」
ハイ終わり。と言われてさくらはお礼を言った。
「数メートルの高さから、女の子抱えて飛び降りるなんて。ヘタすりゃ捻挫どころじゃなく、骨折していたかもしれないよ」
新出先生は、治療で使った道具を片付けながら声をかけた。
「ははは。雨で摩擦も少なくて……土手をかなりのスピードで転がったせいで段差の手前でどうしても止まれなくて……」
さくらはバツが悪そうに答えた。
「それにしたって、無茶しすぎです。その上その足で1㎞先の段差が少ないところまで歩くつもりでいたですって?! 無茶にもほどがあるでしょう!」
昴は眉を吊り上げて怒っていた。
「だ、だって…スマホも上だし、助けを呼んでも濁流で聞こえないみたいで……。増水していたから時間の猶予も無かったし……」
確かに状況的にはそれしか方法は無かっただろう。
「歩美がカギを無くしたからいけなかったの。お兄さん、さくらお姉さんを怒らないであげて」
歩美にも懇願され、さすがにこれ以上は言えず昴は口をつぐんだ。
昴に怒られたさくらは、新出先生から借りたタオルを首にかけ、しょんぼりしていた。
「ま、まあ…今回はあなたに落ち度があったわけでは無いですし…私も言い過ぎました」
昴も冷静さを欠いていたことを謝った。
そんな二人の姿を見て先生も安堵のため息をつく。
「とにかく、二人とも無事でよかったね」
新出先生は3人の顔をゆっくり見回すと、ニッコリ微笑んだ。
歩美を自宅まで送り、昴とりおはようやく工藤邸に帰り着く。
昴の肩を借り、りおはリビングのソファーまでなんとか自力で歩いた。
「着替えをしないといけませんね。タオルで拭いたとはいえ、服も髪もびしょ濡れだ」
「ふ…ふぇっくしょ~ん!」
「……その前にお風呂の方が良さそうですね。待っててください。すぐ用意します」
昴がリビングを出ようと、りおに背を向けた。
「あ、あのッ……昴さん!」
「?」
「まだ……怒ってる?」
突然の問いかけに昴は踵を返すと、りおに近づいた。
「なぜそう思うのですか?」
「だ、だって……帰ってきてもハグ、してくれないから……」
寂しそうに呟く姿を見て昴は膝をつき、りおと目の高さを合わせる。
「なぜハグをしないか……教えましょうか」
昴の言葉を聞き、りおは不安げに顔を上げた。
雨で冷えたせいか、りおの顔は少し青白い。
それがかえって彼女を儚げに見せた。
「雨で服も髪も濡れて……こんなに色っぽいあなたを今抱きしめたら……きっと自制が効きません。それではあなたに風邪を引かせてしまいます」
「えっ!?」
「私なりに我慢しているんです。察してください」
ニコッと微笑んで立ち上がると、昴はリビングを出て行った。
「え?」
「ええっっ!?」
後には顔を真っ赤にしたりおがリビングに残されたのだった。