ペリドットとアンバー短編集
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金曜夕方
さくらは大学が終わると工藤邸ではなく、ポアロへと向かっていた。今日は仕事が早く終わる予定だったので、蘭と会う約束をしていた。
彼女に借りていた本を読み終えたので、それを返そうと思っていたのだ。
ポアロで待ち合わせ、程なくしてやってきた蘭と1時間程カフェオレを飲みながら女子会よろしく本の話で盛り上がる。二人は楽しい時間を過ごした。
「じゃあ、私そろそろ帰るね」と言ってさくらが席を立ったのが4時53分。
お会計をした際に安室から「夕方から雨が降ると昼の天気予報で言ってました。歩きでしたら寄り道をしない方が良さそうですよ」と言われ、「は~い」と言って店を出たのが5時ちょっと前だった。
ポアロを出て工藤邸へと向かっていると、大通りの反対側を歩く歩美の姿を見つけた。
『あれ? 歩美ちゃんちってこの辺だったかしら?』
不思議に思い、立ち止まって歩美の様子を伺い見る。どうやら何かを探しているようだった。
さっきまで晴れていた空は少しずつ雲が増え、風も湿り気を帯びていた。
「安室さんの言う通り、雨が降りそうね。
何を探しているのかしら?」
歩美の表情が暗いことも気になり、さくらは青になった横断歩道を急いで渡った。
「歩美ちゃん! こんなところでどうしたの?」
声を掛けられた歩美は今にも泣きそうな顔で振り向いた。
「さくらお姉さんッ!」
さくらの顔を見るなり、慌てて抱きついてきた。
「歩美ちゃんどうしたの? 何かあった?」
「カギを……家のカギを落としちゃって…」
そう言った歩美の目からは一粒の涙が零れ落ちた。
「ええっ! それは大変! 私も一緒に探すわ」
さくらが言うと、歩美はホッとした表情を浮かべ、「うん!」と嬉しそうに返事をした。
二人で歩美が歩いてきた道を戻りつつ、側溝や草陰などを注意深く見回しカギを探す。
やがてポツポツと雨が降り始めた。
さくらは着ていた上着を脱ぐと、歩美の頭にそっと掛けた。
「濡れると風邪ひいちゃうよ。それ頭からかけていてね」
「でも、お姉さんが……」
歩美は心配そうにさくらを見上げる。
「私は平気よ。カギもきっと見つかるから。
大丈夫、心配しないでね」
さくらは笑顔を向け歩美に声を掛けた。
『お姉さんに【大丈夫】って言ってもらうと、なんだかホッとする…なんでかな…』
雨に濡れながらも一生懸命カギを探し、優しい言葉を掛けてくれる。
そんなさくらを見て、歩美はさっきまでの不安がどこかへ行ってしまったことに気付く。
『お姉さんが風邪ひかないように、早く見つけなくちゃ』
そっとさくらの手を握りながら、歩美は懸命にカギを探した。
『遅いな……雨も降ってきたのに』
昴は工藤邸の窓から降りしきる雨を見上げた。
今日は早く大学が終わると連絡があった。
帰りに蘭に会うと言ってはいたが……。
『女同士でおしゃべりに花でも咲かせているか』
それにしてもこの雨だ。朝の予報では雨マークはついていなかった。傘を持って出た可能性は低い。
昴は車のキーを手にすると、玄関へと向かった。
探偵事務所前に車を停めると、ちょうど蘭がポアロで会計をしているのが見えた。
カランコロン
昴は車から降り、店の中へ声を掛ける。
「スミマセン。さくらはまだいますか?」
レジを打っていた安室と支払いをしていた蘭が声の方へ振り向いた。
「え? さくらさんならずいぶん前に帰りましたよ」
蘭が不思議そうに答えた。
「それはどれくらい前ですか?」
「え~っと…あ、そういえば、さくらさんが出てすぐに園子からメールが来たから……1時間以上前ですね」
蘭がスマホを見て確認してくれた。
「雨が降りそうだから真っすぐ帰るように彼女には伝えたのですが……。『はい』と言っていたので、てっきりそのまま帰ったと思っていましたけど」
安室も先ほどのやり取りを思い出す。
他に用事でも思いついたのだろうか。行き先が分からないので、これ以上は探しようもない。ましてさくらは大人なのだし、干渉しすぎるのもいかがなものか。
「そうですか。この雨ですし、じきに連絡が来るかもしれません。少し待たせてもらっても良いですか?」
昴は安室に向かって問いかける。
「もちろ――」
「もちろん良いですよ」
安室が返事をする前に、梓がカウンター越しににこやかに答えた。
昴は礼を言うといったん店を出て車を駐車スペースに停め、窓際の席へと座る。
頼んだコーヒーを待ちながらザーザーと降りしきる雨を眺めていた。
「無いね……」
同じ道を行ったり来たりしながら、さくらと歩美は見落としたところは無いかと目を凝らした。
さくらの髪はぐっしょりと濡れ、顔は雨の雫が幾筋も流れていた。歩美も上着をかぶっているものの、前髪から雫が垂れている。
『友達の家を出て、鍵を持っていることを確認した。手に持っていた物が無くなるって事は、何かに気を取られた……ってことかな?』
さくらはさっき聞いた歩美の行動を一つずつ頭の中でシミュレーションする。
「歩美ちゃん。ここを歩いている時、何かを見たり聞いたりして立ち止まったりしなかった?」
「見たり聞いたり?」
歩美は探すのをやめ、しばらく考えた。
「そういえば、途中でワンちゃんの声が聞こえて『どこだろう?』って立ち止まったかも。そしたら、橋の近くでカッパを着てお散歩しているワンちゃんをみつけて、慌ててそっちに走ったよ」
「え? じゃあ、そのワンちゃんの声が聞こえて走っていったところはどこ?」
「えっとね、あそこ!」
川沿いに延びた道。道の端は緩く傾斜のついた、コンクリート製の土手になっていた。
その道の先にある橋で散歩中のワンちゃんをみつけたようだ。
先ほどまで探していたエリアからは外れていたので、歩美と二人で土手沿いをゆっくり歩きながらカギを探した。
すると、土手のコンクリートの隙間に、かわいいキーホルダーの付いたカギがあるのを見つけた。
「あ! あったよ!」
歩美が走り出す。落ちていたカギを拾い上げた。どうやら犬に気を取られ、手からスルリと抜け落ちたことに気付かなかったらしい。
ようやく見つかったとあって、歩美が歓声をあげた。
そこへ、傘を差しながら進む自転車が歩美の方へ猛烈なスピードで突っ込んでくるのが見えた。
「歩美ちゃん! 危ない!!」
とっさにさくらは歩美の体を抱き、自転車を避けるように横へ飛んだ。
傘を目深にさしていた自転車は二人には気付かず、颯爽と走り去っていく。
さくらは横に飛んだ勢いで、歩美を抱きかかえたまま土手を転がっていった。
『いくらなんでも遅くないか?』
雨雲のせいもあってか、辺りは次第に暗くなってきた。昴はだんだん心配になる。
雨で帰れないのであれば、連絡があるはず。スマホに何度かかけたが繋がらない。
これは何かあったと考えるべきだろう。
落ち着きを無くした昴の姿を見て、安室が近づいた。
「これを使いましょう」
そう言って小ぶりのタブレットを差し出す。
「彼女が使っているスマホは公安が支給している物です。捜査をしている者の安否確認の為に、スマホには専用のGPSが仕込まれています。この端末を使えば、彼女が今どこにいるか分かりますよ。もちろん電源が入っていれば、ですが……」
梓が休憩に入ったタイミングだったこともあり、安室は人目を憚らずに端末を操作すると、画面に出た地図を見せてくれた。
「ここから直線で400m? そんなに遠くない。そんなところで一体何を?」
GPSが示した場所を見て安室は小首をかしげる。
昴はコーヒー代をテーブルに置くと、安室に礼を言ってすぐに店を出て行った。
さくらは大学が終わると工藤邸ではなく、ポアロへと向かっていた。今日は仕事が早く終わる予定だったので、蘭と会う約束をしていた。
彼女に借りていた本を読み終えたので、それを返そうと思っていたのだ。
ポアロで待ち合わせ、程なくしてやってきた蘭と1時間程カフェオレを飲みながら女子会よろしく本の話で盛り上がる。二人は楽しい時間を過ごした。
「じゃあ、私そろそろ帰るね」と言ってさくらが席を立ったのが4時53分。
お会計をした際に安室から「夕方から雨が降ると昼の天気予報で言ってました。歩きでしたら寄り道をしない方が良さそうですよ」と言われ、「は~い」と言って店を出たのが5時ちょっと前だった。
ポアロを出て工藤邸へと向かっていると、大通りの反対側を歩く歩美の姿を見つけた。
『あれ? 歩美ちゃんちってこの辺だったかしら?』
不思議に思い、立ち止まって歩美の様子を伺い見る。どうやら何かを探しているようだった。
さっきまで晴れていた空は少しずつ雲が増え、風も湿り気を帯びていた。
「安室さんの言う通り、雨が降りそうね。
何を探しているのかしら?」
歩美の表情が暗いことも気になり、さくらは青になった横断歩道を急いで渡った。
「歩美ちゃん! こんなところでどうしたの?」
声を掛けられた歩美は今にも泣きそうな顔で振り向いた。
「さくらお姉さんッ!」
さくらの顔を見るなり、慌てて抱きついてきた。
「歩美ちゃんどうしたの? 何かあった?」
「カギを……家のカギを落としちゃって…」
そう言った歩美の目からは一粒の涙が零れ落ちた。
「ええっ! それは大変! 私も一緒に探すわ」
さくらが言うと、歩美はホッとした表情を浮かべ、「うん!」と嬉しそうに返事をした。
二人で歩美が歩いてきた道を戻りつつ、側溝や草陰などを注意深く見回しカギを探す。
やがてポツポツと雨が降り始めた。
さくらは着ていた上着を脱ぐと、歩美の頭にそっと掛けた。
「濡れると風邪ひいちゃうよ。それ頭からかけていてね」
「でも、お姉さんが……」
歩美は心配そうにさくらを見上げる。
「私は平気よ。カギもきっと見つかるから。
大丈夫、心配しないでね」
さくらは笑顔を向け歩美に声を掛けた。
『お姉さんに【大丈夫】って言ってもらうと、なんだかホッとする…なんでかな…』
雨に濡れながらも一生懸命カギを探し、優しい言葉を掛けてくれる。
そんなさくらを見て、歩美はさっきまでの不安がどこかへ行ってしまったことに気付く。
『お姉さんが風邪ひかないように、早く見つけなくちゃ』
そっとさくらの手を握りながら、歩美は懸命にカギを探した。
『遅いな……雨も降ってきたのに』
昴は工藤邸の窓から降りしきる雨を見上げた。
今日は早く大学が終わると連絡があった。
帰りに蘭に会うと言ってはいたが……。
『女同士でおしゃべりに花でも咲かせているか』
それにしてもこの雨だ。朝の予報では雨マークはついていなかった。傘を持って出た可能性は低い。
昴は車のキーを手にすると、玄関へと向かった。
探偵事務所前に車を停めると、ちょうど蘭がポアロで会計をしているのが見えた。
カランコロン
昴は車から降り、店の中へ声を掛ける。
「スミマセン。さくらはまだいますか?」
レジを打っていた安室と支払いをしていた蘭が声の方へ振り向いた。
「え? さくらさんならずいぶん前に帰りましたよ」
蘭が不思議そうに答えた。
「それはどれくらい前ですか?」
「え~っと…あ、そういえば、さくらさんが出てすぐに園子からメールが来たから……1時間以上前ですね」
蘭がスマホを見て確認してくれた。
「雨が降りそうだから真っすぐ帰るように彼女には伝えたのですが……。『はい』と言っていたので、てっきりそのまま帰ったと思っていましたけど」
安室も先ほどのやり取りを思い出す。
他に用事でも思いついたのだろうか。行き先が分からないので、これ以上は探しようもない。ましてさくらは大人なのだし、干渉しすぎるのもいかがなものか。
「そうですか。この雨ですし、じきに連絡が来るかもしれません。少し待たせてもらっても良いですか?」
昴は安室に向かって問いかける。
「もちろ――」
「もちろん良いですよ」
安室が返事をする前に、梓がカウンター越しににこやかに答えた。
昴は礼を言うといったん店を出て車を駐車スペースに停め、窓際の席へと座る。
頼んだコーヒーを待ちながらザーザーと降りしきる雨を眺めていた。
「無いね……」
同じ道を行ったり来たりしながら、さくらと歩美は見落としたところは無いかと目を凝らした。
さくらの髪はぐっしょりと濡れ、顔は雨の雫が幾筋も流れていた。歩美も上着をかぶっているものの、前髪から雫が垂れている。
『友達の家を出て、鍵を持っていることを確認した。手に持っていた物が無くなるって事は、何かに気を取られた……ってことかな?』
さくらはさっき聞いた歩美の行動を一つずつ頭の中でシミュレーションする。
「歩美ちゃん。ここを歩いている時、何かを見たり聞いたりして立ち止まったりしなかった?」
「見たり聞いたり?」
歩美は探すのをやめ、しばらく考えた。
「そういえば、途中でワンちゃんの声が聞こえて『どこだろう?』って立ち止まったかも。そしたら、橋の近くでカッパを着てお散歩しているワンちゃんをみつけて、慌ててそっちに走ったよ」
「え? じゃあ、そのワンちゃんの声が聞こえて走っていったところはどこ?」
「えっとね、あそこ!」
川沿いに延びた道。道の端は緩く傾斜のついた、コンクリート製の土手になっていた。
その道の先にある橋で散歩中のワンちゃんをみつけたようだ。
先ほどまで探していたエリアからは外れていたので、歩美と二人で土手沿いをゆっくり歩きながらカギを探した。
すると、土手のコンクリートの隙間に、かわいいキーホルダーの付いたカギがあるのを見つけた。
「あ! あったよ!」
歩美が走り出す。落ちていたカギを拾い上げた。どうやら犬に気を取られ、手からスルリと抜け落ちたことに気付かなかったらしい。
ようやく見つかったとあって、歩美が歓声をあげた。
そこへ、傘を差しながら進む自転車が歩美の方へ猛烈なスピードで突っ込んでくるのが見えた。
「歩美ちゃん! 危ない!!」
とっさにさくらは歩美の体を抱き、自転車を避けるように横へ飛んだ。
傘を目深にさしていた自転車は二人には気付かず、颯爽と走り去っていく。
さくらは横に飛んだ勢いで、歩美を抱きかかえたまま土手を転がっていった。
『いくらなんでも遅くないか?』
雨雲のせいもあってか、辺りは次第に暗くなってきた。昴はだんだん心配になる。
雨で帰れないのであれば、連絡があるはず。スマホに何度かかけたが繋がらない。
これは何かあったと考えるべきだろう。
落ち着きを無くした昴の姿を見て、安室が近づいた。
「これを使いましょう」
そう言って小ぶりのタブレットを差し出す。
「彼女が使っているスマホは公安が支給している物です。捜査をしている者の安否確認の為に、スマホには専用のGPSが仕込まれています。この端末を使えば、彼女が今どこにいるか分かりますよ。もちろん電源が入っていれば、ですが……」
梓が休憩に入ったタイミングだったこともあり、安室は人目を憚らずに端末を操作すると、画面に出た地図を見せてくれた。
「ここから直線で400m? そんなに遠くない。そんなところで一体何を?」
GPSが示した場所を見て安室は小首をかしげる。
昴はコーヒー代をテーブルに置くと、安室に礼を言ってすぐに店を出て行った。