ペリドットとアンバー短編集
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今日は公安とFBIによる日米合同訓練が予定されている。
1週間後に控えた、アメリカ要人の来日に備えて急きょ企画された。つい先日もジェームズと赤井が連れ立って、来日初日に通るコースの安全確認をしたばかりだ。
《短編集『いつか…』より》
今回は新人が多い公安の為に、要人を狙う狙撃手がいるという設定で訓練を行う事になっていた。
実際狙撃手が何を考えてどう動くか。
実戦さながらの訓練の為、狙撃手役には赤井が抜擢された。
FBIの責任者にはジェームズ。来日予定の要人役には背格好が要人と似ているということで、FBI捜査官のブライアンが選ばれた。
「よし! では各自持ち場について待機。要人が大使館を出る時刻まであと1時間。首相と極秘会談するホテルまでは車でおよそ20分。その間に狙撃手の身柄確保、または狙撃の阻止が今回のミッションだ。みんな準備は良いか?」
警視庁の会議室に設置されたモニターの前で、降谷はマイクに向かって語りかける。
『A班準備完了』
『B班準備完了』
『C班準備完了』
『D班……』
次々と部下達から返事が返ってくる。
『風見・広瀬班準備完了』
最後に風見の声が聞こえた。
「風見、広瀬は?」
『隣に居ます』
「今回は新人の訓練としての意味合いもある。お前たちは少し手を抜けよ」
『了解です』
「じゃあ始めるぞ」
降谷はそう言うと、近くに居たジェームズと視線を合わせうなずいた。それを見たジェームズもうなずくと、手にしていたスマホを耳に当てる。
「赤井くんスタートだ」
***
「さてと……しばらく私たちはお休みですね」
「ああ」
ベテラン二人は状況が緊迫するまで手を出すなと指示されている。風見とりおは持ち場から一番近いカフェへと入った。飲み物を手にりおは地図を広げる。
「狙撃ポイントは《乗車時》《走行時》《降車時》の3つ。乗車は大使館内なので管轄外ですし、そもそも大使館は狙撃するには不利になるよう建てられていますから、ここはポイントから外します」
りおは地図上の大使館の場所を指さした。
「一番可能性が有るのは《降車時》だな」
風見は極秘会談が行われるホテルを指さす。
「ええ。ホテルの造りは狙撃を想定していませんしね。ただホテルの入口はロータリーになっていて、大きな屋根がありますから高い位置からは狙えない。そもそも要人が正面玄関から入るかどうかも狙撃手は分からない……とすれば——」
「《走行時》を狙う…か? だがそれはかなりの難易度だぞ。走行中の車は時速40~50キロメートル。ビルから車の側面を狙うにしても通り過ぎるのは一瞬だ。いくら狙撃に長けていても成功率は低い。かといって、正面から狙おうとすれば歩道橋や陸橋から狙うしかない。大使館からホテルまでのルートでこれらがあるのは2か所。すぐに居場所がバレる」
風見は険しい顔でりおを見る。
「ええ。普通に狙うんだったら、そうなりますね。でも《彼》なら……」
りおは顔を上げると風見を見てニッと笑った。
その頃赤井は…———。
(ったく、ジョディのヤツめ……なんだこの衣装は! 膝がスースーして落ち着かないぞ)
心の中でひとつ舌打ちをする。
赤井だとバレてしまっては訓練にならないので、当然今日も変装をしているのだが、生憎慣れ親しんだ沖矢昴の姿ではない。
黒のダメージジーンズにTシャツ、オーバーサイズ気味のややハデなブルゾン。全てジョディのコーディネートだ。
さらにサングラスに黒いキャップ。キャップの下にはセミロングのウィッグまで付けるという念の入れようである。
太もものあたりではジャラジャラとチェーンが音を立てていた。
ジョディ曰く、『世界を股に掛けるラッパー』風なのだそうだが、良いように遊ばれた気もしなくもない。
オフィスが多いこの界隈でさすがに目立つのではと思ったが、人通りの多い真昼間。様々な格好をした人々が往来しているため違和感は無かった。
(やれやれ…)
赤井はため息をつきつつ道を歩く。
そうこうするうち、むこうから二人組が歩いてくるのが見えた。
ラフな格好をしているが、表情を見ればかなり緊張している。間違いなく公安の刑事だろう。
赤井はブルゾンのポケットに手を入れたまま歩き続ける。
「……」
二人が赤井の横をすり抜けた。
どうやら怪しまれなかったようだ。赤井は耳に差し込んだ通信機器をONにする。
「ポイントα通過」
その声はジェームズにだけ聞こえていた。
「まだ誰も赤井に職質をかけていないのか!?」
『はい…ダミーの捜査官には何度か声をかけていますが、肝心の赤井捜査官にはまだ……。スターリング捜査官に職質したC班は、逆におしゃべりに捕まって動けず——』
降谷は動きの悪い部下達に苛立ちを募らせた。
今回別のFBI捜査官も赤井のダミーとして数名送り込んでいる。
(赤井が一番怪しそうな雰囲気を出していそうだが……。さすがにそう簡単にシッポは掴ませてもらえないか)
新人たちはヘトヘトになりながら、犯人確保の為に足を使って捜査している。それも大事な事ではあるのだが。
(もっと先読みをしないと。相手が何を考え、どう動くか——。狙撃手の行動パターンを解析して動かなければ、広い東都でたった一人の狙撃手を捕まえるなんて到底ムリだ)
降谷は大きなため息をついた。
***
その頃——。りおはタブレットを出し、ストリートビューを見ていた。
「要人を乗せた車が通るルートは極秘。ホテルを特定できたとして、そのルートを事前に手に入れる事は難しい。しかもこの辺りは背の高いオフィスビルばかり。セキュリティーも万全な上、安易に忍び込めば目立ってしまう。とすれば……」
建物を見ながらりおは考える。
「後部座席の要人を狙えるくらいの少し低いビル。出来れば古くて雑然とした…セキュリティーが厳しくなさそうな……。そして、どのルートを通っても必ず通るホテル近くの……」
タブレットをフリックしながら建物を確認していった。
「ッ! ここだわ!」
「なっ!?…」
りおが想定していた通りのビルを見つけると、風見は驚いたようにりおを見た。
「おそらく《彼》は職質には引っかからないでしょうね」
カフェオレを一口飲むと、りおは窓の外を見る。
「なぜそう思う?」
その横顔を見ながら風見は不思議そうに訊ねた。
「きっと公安のみんな、狙撃手は大きなバッグを背負っていると思っているわ。ありがちなギターケースとか……。でもきっと彼が持っているのは、ボストンバッグくらいの小さいもの。
低いビルから対向車線の車を撃つなら、有効射程距離は500mもあれば十分。長距離を狙うAlL96A1なんてライフルは使わない。今回使うのは…カービンライフルだと思います。
アメリカのコルトカービンの全長は850mm程度。ストックを最大限まで縮めれば760mm まで短くなります。ギターケースに隠すほど大きくありません」
ニッコリ笑うりおの顔は確信しているようだった。
敵わんな、と風見は苦笑いをする。
「さて、イヤホンからはイライラした降谷さんの声しか聞こえないし、そろそろ出番かな」
「ああ。行くか」
二人は飲み終わったカップを手に取ると静かに立ち上がった。
キ———……
ビル屋上のドアが開く。赤井は周りを見回し、誰もいない事を確認した。
そのまま手すり近くまで進み、手に持っていたボストンバッグを置くとファスナーを開ける。最大限まで小さくしたM4A1カービンライフルを取り出そうと、バッグ内に手を伸ばした。
「ッ!」
殺気を感じ、とっさに体を低くする。
ヒュッ!
蹴りが頭をかすめる。
そのままキャップとウィッグが弾き飛ばされた。すぐに連続で蹴りが来る。
膝を地面につけたまま、それを左手一本で弾いた。相手はすぐに間合いを取り、攻撃の体勢に入る。
「りお!」
蹴りを仕掛けてきた張本人の名を叫ぶと赤井はニヤリと笑って素早く立ち上がり、サングラスを投げ捨て左手でりおの首元を狙った。
「ッ!」
りおは両手をクロスして赤井の攻撃を受け止めた。そのまま腕をガッチリ挟んで赤井の動きを封じる。
「チッ!」
赤井は舌打ちをして、取られた腕を大きく反対に振り上げた。
振られた赤井の腕と同じ方向を向いたりおの死角から、間髪入れず蹴りを仕掛ける。
(ッ! そうくるか!)
りおはとっさに赤井の腕を離し、頭を低くして蹴りを回避。次々放たれる攻撃をかわし、再び赤井から距離を取った。
「さすがだな。俺の動きを読んだのか」
「ええ。あなたのスナイプの腕とホテルの立地、環境を考えればココしかないとッ!」
「ッ!」
おしゃべりの合間にも二人は距離を詰め、手刀や蹴りを繰り返す。訓練とはいえ真剣勝負。殺気は本物だ。
ヒュオッ!
りおの回し蹴りが赤井の顔の前で空を切った。
(持久力は無いとは言え、このキレ…油断は禁物だ)
攻撃を避けながら冷静に相手を分析する。
赤井が睨んだ通り、連続で放たれたりおの攻撃はスピードが乗り、避けるだけで精一杯。反撃の余地を与えてくれない。
やがて要人役のブライアンが乗った車が、交差点を曲がりビルの通りに入ってくる。
(くッ! 来たか!)
赤井は一瞬のスキを突いて、手刀を仕掛けたりおの腕を掴み、そのまま背負い投げのようにして投げた。
りおは身を翻して着地するが、勢いあまってそのまま受け身を取るようにコンクリート地面を一回転した。
その間に赤井はバッグからライフルを取り出し構える。
スコープを覗けば車がこちらに向かってくるのが見えた。トリガーに指をかける。
ガッ!
次の瞬間、見えていた車が視界から消えた。
りおがライフルを狙って蹴り上げたのだ。
ライフルは宙を舞い、コンクリート地面にハデな音を立てて落ちた。
「くそッ!」
赤井はライフルに向かって飛び出し、銃身を掴むと一回転して体勢を整え銃口をりおに向ける。
りおも同じように走り寄ると銃口をスルリと避け、体を低くして赤井の懐に飛び込んだ。
ガシッ!!
りおがライフルの銃身を掴むと二人の顔が近付く。
アンバーとペリドット。互いの鋭い瞳がかち合った。
その間に要人(ブライアン)の乗った車はビルの前を通り過ぎていった。
「俺の負けだ」
赤井が表情を緩め微笑んだ。
「いえ…。私が銃身を掴む前にあなたの指はトリガーにかかっていた。本気で撃つ気があれば、私は今頃死んでいた」
りおも表情を緩め、悔しそうに赤井を見た。
「降谷さん、こちら風見・広瀬班。狙撃の阻止には成功しましたが、警察官一人殉職です」
りおは悪戯っぽく通信機に語りかける。
『広瀬やめてくれ! 冗談でも笑えない!』
イヤホンからは降谷の怒鳴り声が聞こえた。
「いや……お前はまだ殉職していないよ」
「え?」
「俺の後ろを見てみろ」
赤井の言葉に、りおは体を傾けてその背後を見る。
そこには赤井に向けて銃を構えている風見がいた。
「おい。俺の存在を忘れるなよ」
やや怒ったように風見がつぶやいた。
「俺がライフルのトリガーを引く前に、彼の銃弾が俺の頭を打ち抜いていたさ。お前は死なないよ」
「……私はあなたが死ぬのはイヤよ」
りおは眉を下げ、泣きそうな顔をする。
「それは風見くん次第だな」
「広瀬に恨まれたくないから殺しませんよ……」
「それは感謝せねば」
微笑む赤井を見ながら風見は一つ大きく息を吐くと、銃を懐のホルダーに仕舞った。
先程までの緊張の糸がフッと解けていく。
「さあ二人とも、降谷くんの所へ戻れ。きっと新人くん達は大目玉だぞ。助け舟を出してやった方が良い」
「あ~…そうだね。行きましょう、風見さん!」
「ああ!」
りおと風見は連れ立って屋上を後にする。
二人を見送った赤井はライフルを仕舞うと、「やっぱり俺を見つけられるのはりおだけだな」とボソリとつぶやき、笑顔になった。
その後…——
公安の反省会では降谷のお小言が1時間程続いたそうな。
~おまけ~
その日の夜——
「風呂空いたぞ~」
赤井がタオルで髪を拭きながらリビングに入る。しかし返事は無い。
「りお?」
ソファーを覗き込むと、りおが眠っていた。
(やっぱり疲れたんだな……)
スースーと気持ち良さそうな寝息が聞こえる。体調は良くなったとはいえ、持久力や耐久力はまだ無い。にも関わらず、赤井相手にあれだけの立ち回りをしたのだ。疲れていない方がおかしい。
「りお。風邪引くぞ」
そっと頭を撫でて赤井がもう一度声を掛けると、りおはゆっくり目を開けた。
「あ…私、寝ちゃってた…?」
ふあ~と大きなあくびをするりおを見て、赤井はため息をつく。
「今日は久々に動いたから疲れたんじゃないのか? 早く寝た方が良いぞ」
「あ~うん。そうだね。降谷さんのお小言聞いてるだけですっごい疲れちゃった。ホントねっちねっちねっちねっち…しつこいったら……とても助け舟を出せる雰囲気じゃなかったよ。
風見さんなんて、途中から自分が言われている気になっちゃって。青い顔してゲッソリしてたもん」
「あ~…疲れたのはそっちか…」
上司のお小言程嫌なものは無い。ましてやそれが降谷ならなおさら……。その場に居なくて本当に良かったと思う赤井だった。
1週間後に控えた、アメリカ要人の来日に備えて急きょ企画された。つい先日もジェームズと赤井が連れ立って、来日初日に通るコースの安全確認をしたばかりだ。
《短編集『いつか…』より》
今回は新人が多い公安の為に、要人を狙う狙撃手がいるという設定で訓練を行う事になっていた。
実際狙撃手が何を考えてどう動くか。
実戦さながらの訓練の為、狙撃手役には赤井が抜擢された。
FBIの責任者にはジェームズ。来日予定の要人役には背格好が要人と似ているということで、FBI捜査官のブライアンが選ばれた。
「よし! では各自持ち場について待機。要人が大使館を出る時刻まであと1時間。首相と極秘会談するホテルまでは車でおよそ20分。その間に狙撃手の身柄確保、または狙撃の阻止が今回のミッションだ。みんな準備は良いか?」
警視庁の会議室に設置されたモニターの前で、降谷はマイクに向かって語りかける。
『A班準備完了』
『B班準備完了』
『C班準備完了』
『D班……』
次々と部下達から返事が返ってくる。
『風見・広瀬班準備完了』
最後に風見の声が聞こえた。
「風見、広瀬は?」
『隣に居ます』
「今回は新人の訓練としての意味合いもある。お前たちは少し手を抜けよ」
『了解です』
「じゃあ始めるぞ」
降谷はそう言うと、近くに居たジェームズと視線を合わせうなずいた。それを見たジェームズもうなずくと、手にしていたスマホを耳に当てる。
「赤井くんスタートだ」
***
「さてと……しばらく私たちはお休みですね」
「ああ」
ベテラン二人は状況が緊迫するまで手を出すなと指示されている。風見とりおは持ち場から一番近いカフェへと入った。飲み物を手にりおは地図を広げる。
「狙撃ポイントは《乗車時》《走行時》《降車時》の3つ。乗車は大使館内なので管轄外ですし、そもそも大使館は狙撃するには不利になるよう建てられていますから、ここはポイントから外します」
りおは地図上の大使館の場所を指さした。
「一番可能性が有るのは《降車時》だな」
風見は極秘会談が行われるホテルを指さす。
「ええ。ホテルの造りは狙撃を想定していませんしね。ただホテルの入口はロータリーになっていて、大きな屋根がありますから高い位置からは狙えない。そもそも要人が正面玄関から入るかどうかも狙撃手は分からない……とすれば——」
「《走行時》を狙う…か? だがそれはかなりの難易度だぞ。走行中の車は時速40~50キロメートル。ビルから車の側面を狙うにしても通り過ぎるのは一瞬だ。いくら狙撃に長けていても成功率は低い。かといって、正面から狙おうとすれば歩道橋や陸橋から狙うしかない。大使館からホテルまでのルートでこれらがあるのは2か所。すぐに居場所がバレる」
風見は険しい顔でりおを見る。
「ええ。普通に狙うんだったら、そうなりますね。でも《彼》なら……」
りおは顔を上げると風見を見てニッと笑った。
その頃赤井は…———。
(ったく、ジョディのヤツめ……なんだこの衣装は! 膝がスースーして落ち着かないぞ)
心の中でひとつ舌打ちをする。
赤井だとバレてしまっては訓練にならないので、当然今日も変装をしているのだが、生憎慣れ親しんだ沖矢昴の姿ではない。
黒のダメージジーンズにTシャツ、オーバーサイズ気味のややハデなブルゾン。全てジョディのコーディネートだ。
さらにサングラスに黒いキャップ。キャップの下にはセミロングのウィッグまで付けるという念の入れようである。
太もものあたりではジャラジャラとチェーンが音を立てていた。
ジョディ曰く、『世界を股に掛けるラッパー』風なのだそうだが、良いように遊ばれた気もしなくもない。
オフィスが多いこの界隈でさすがに目立つのではと思ったが、人通りの多い真昼間。様々な格好をした人々が往来しているため違和感は無かった。
(やれやれ…)
赤井はため息をつきつつ道を歩く。
そうこうするうち、むこうから二人組が歩いてくるのが見えた。
ラフな格好をしているが、表情を見ればかなり緊張している。間違いなく公安の刑事だろう。
赤井はブルゾンのポケットに手を入れたまま歩き続ける。
「……」
二人が赤井の横をすり抜けた。
どうやら怪しまれなかったようだ。赤井は耳に差し込んだ通信機器をONにする。
「ポイントα通過」
その声はジェームズにだけ聞こえていた。
「まだ誰も赤井に職質をかけていないのか!?」
『はい…ダミーの捜査官には何度か声をかけていますが、肝心の赤井捜査官にはまだ……。スターリング捜査官に職質したC班は、逆におしゃべりに捕まって動けず——』
降谷は動きの悪い部下達に苛立ちを募らせた。
今回別のFBI捜査官も赤井のダミーとして数名送り込んでいる。
(赤井が一番怪しそうな雰囲気を出していそうだが……。さすがにそう簡単にシッポは掴ませてもらえないか)
新人たちはヘトヘトになりながら、犯人確保の為に足を使って捜査している。それも大事な事ではあるのだが。
(もっと先読みをしないと。相手が何を考え、どう動くか——。狙撃手の行動パターンを解析して動かなければ、広い東都でたった一人の狙撃手を捕まえるなんて到底ムリだ)
降谷は大きなため息をついた。
***
その頃——。りおはタブレットを出し、ストリートビューを見ていた。
「要人を乗せた車が通るルートは極秘。ホテルを特定できたとして、そのルートを事前に手に入れる事は難しい。しかもこの辺りは背の高いオフィスビルばかり。セキュリティーも万全な上、安易に忍び込めば目立ってしまう。とすれば……」
建物を見ながらりおは考える。
「後部座席の要人を狙えるくらいの少し低いビル。出来れば古くて雑然とした…セキュリティーが厳しくなさそうな……。そして、どのルートを通っても必ず通るホテル近くの……」
タブレットをフリックしながら建物を確認していった。
「ッ! ここだわ!」
「なっ!?…」
りおが想定していた通りのビルを見つけると、風見は驚いたようにりおを見た。
「おそらく《彼》は職質には引っかからないでしょうね」
カフェオレを一口飲むと、りおは窓の外を見る。
「なぜそう思う?」
その横顔を見ながら風見は不思議そうに訊ねた。
「きっと公安のみんな、狙撃手は大きなバッグを背負っていると思っているわ。ありがちなギターケースとか……。でもきっと彼が持っているのは、ボストンバッグくらいの小さいもの。
低いビルから対向車線の車を撃つなら、有効射程距離は500mもあれば十分。長距離を狙うAlL96A1なんてライフルは使わない。今回使うのは…カービンライフルだと思います。
アメリカのコルトカービンの全長は850mm程度。ストックを最大限まで縮めれば760mm まで短くなります。ギターケースに隠すほど大きくありません」
ニッコリ笑うりおの顔は確信しているようだった。
敵わんな、と風見は苦笑いをする。
「さて、イヤホンからはイライラした降谷さんの声しか聞こえないし、そろそろ出番かな」
「ああ。行くか」
二人は飲み終わったカップを手に取ると静かに立ち上がった。
キ———……
ビル屋上のドアが開く。赤井は周りを見回し、誰もいない事を確認した。
そのまま手すり近くまで進み、手に持っていたボストンバッグを置くとファスナーを開ける。最大限まで小さくしたM4A1カービンライフルを取り出そうと、バッグ内に手を伸ばした。
「ッ!」
殺気を感じ、とっさに体を低くする。
ヒュッ!
蹴りが頭をかすめる。
そのままキャップとウィッグが弾き飛ばされた。すぐに連続で蹴りが来る。
膝を地面につけたまま、それを左手一本で弾いた。相手はすぐに間合いを取り、攻撃の体勢に入る。
「りお!」
蹴りを仕掛けてきた張本人の名を叫ぶと赤井はニヤリと笑って素早く立ち上がり、サングラスを投げ捨て左手でりおの首元を狙った。
「ッ!」
りおは両手をクロスして赤井の攻撃を受け止めた。そのまま腕をガッチリ挟んで赤井の動きを封じる。
「チッ!」
赤井は舌打ちをして、取られた腕を大きく反対に振り上げた。
振られた赤井の腕と同じ方向を向いたりおの死角から、間髪入れず蹴りを仕掛ける。
(ッ! そうくるか!)
りおはとっさに赤井の腕を離し、頭を低くして蹴りを回避。次々放たれる攻撃をかわし、再び赤井から距離を取った。
「さすがだな。俺の動きを読んだのか」
「ええ。あなたのスナイプの腕とホテルの立地、環境を考えればココしかないとッ!」
「ッ!」
おしゃべりの合間にも二人は距離を詰め、手刀や蹴りを繰り返す。訓練とはいえ真剣勝負。殺気は本物だ。
ヒュオッ!
りおの回し蹴りが赤井の顔の前で空を切った。
(持久力は無いとは言え、このキレ…油断は禁物だ)
攻撃を避けながら冷静に相手を分析する。
赤井が睨んだ通り、連続で放たれたりおの攻撃はスピードが乗り、避けるだけで精一杯。反撃の余地を与えてくれない。
やがて要人役のブライアンが乗った車が、交差点を曲がりビルの通りに入ってくる。
(くッ! 来たか!)
赤井は一瞬のスキを突いて、手刀を仕掛けたりおの腕を掴み、そのまま背負い投げのようにして投げた。
りおは身を翻して着地するが、勢いあまってそのまま受け身を取るようにコンクリート地面を一回転した。
その間に赤井はバッグからライフルを取り出し構える。
スコープを覗けば車がこちらに向かってくるのが見えた。トリガーに指をかける。
ガッ!
次の瞬間、見えていた車が視界から消えた。
りおがライフルを狙って蹴り上げたのだ。
ライフルは宙を舞い、コンクリート地面にハデな音を立てて落ちた。
「くそッ!」
赤井はライフルに向かって飛び出し、銃身を掴むと一回転して体勢を整え銃口をりおに向ける。
りおも同じように走り寄ると銃口をスルリと避け、体を低くして赤井の懐に飛び込んだ。
ガシッ!!
りおがライフルの銃身を掴むと二人の顔が近付く。
アンバーとペリドット。互いの鋭い瞳がかち合った。
その間に要人(ブライアン)の乗った車はビルの前を通り過ぎていった。
「俺の負けだ」
赤井が表情を緩め微笑んだ。
「いえ…。私が銃身を掴む前にあなたの指はトリガーにかかっていた。本気で撃つ気があれば、私は今頃死んでいた」
りおも表情を緩め、悔しそうに赤井を見た。
「降谷さん、こちら風見・広瀬班。狙撃の阻止には成功しましたが、警察官一人殉職です」
りおは悪戯っぽく通信機に語りかける。
『広瀬やめてくれ! 冗談でも笑えない!』
イヤホンからは降谷の怒鳴り声が聞こえた。
「いや……お前はまだ殉職していないよ」
「え?」
「俺の後ろを見てみろ」
赤井の言葉に、りおは体を傾けてその背後を見る。
そこには赤井に向けて銃を構えている風見がいた。
「おい。俺の存在を忘れるなよ」
やや怒ったように風見がつぶやいた。
「俺がライフルのトリガーを引く前に、彼の銃弾が俺の頭を打ち抜いていたさ。お前は死なないよ」
「……私はあなたが死ぬのはイヤよ」
りおは眉を下げ、泣きそうな顔をする。
「それは風見くん次第だな」
「広瀬に恨まれたくないから殺しませんよ……」
「それは感謝せねば」
微笑む赤井を見ながら風見は一つ大きく息を吐くと、銃を懐のホルダーに仕舞った。
先程までの緊張の糸がフッと解けていく。
「さあ二人とも、降谷くんの所へ戻れ。きっと新人くん達は大目玉だぞ。助け舟を出してやった方が良い」
「あ~…そうだね。行きましょう、風見さん!」
「ああ!」
りおと風見は連れ立って屋上を後にする。
二人を見送った赤井はライフルを仕舞うと、「やっぱり俺を見つけられるのはりおだけだな」とボソリとつぶやき、笑顔になった。
その後…——
公安の反省会では降谷のお小言が1時間程続いたそうな。
~おまけ~
その日の夜——
「風呂空いたぞ~」
赤井がタオルで髪を拭きながらリビングに入る。しかし返事は無い。
「りお?」
ソファーを覗き込むと、りおが眠っていた。
(やっぱり疲れたんだな……)
スースーと気持ち良さそうな寝息が聞こえる。体調は良くなったとはいえ、持久力や耐久力はまだ無い。にも関わらず、赤井相手にあれだけの立ち回りをしたのだ。疲れていない方がおかしい。
「りお。風邪引くぞ」
そっと頭を撫でて赤井がもう一度声を掛けると、りおはゆっくり目を開けた。
「あ…私、寝ちゃってた…?」
ふあ~と大きなあくびをするりおを見て、赤井はため息をつく。
「今日は久々に動いたから疲れたんじゃないのか? 早く寝た方が良いぞ」
「あ~うん。そうだね。降谷さんのお小言聞いてるだけですっごい疲れちゃった。ホントねっちねっちねっちねっち…しつこいったら……とても助け舟を出せる雰囲気じゃなかったよ。
風見さんなんて、途中から自分が言われている気になっちゃって。青い顔してゲッソリしてたもん」
「あ~…疲れたのはそっちか…」
上司のお小言程嫌なものは無い。ましてやそれが降谷ならなおさら……。その場に居なくて本当に良かったと思う赤井だった。