ペリドットとアンバー短編集
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金曜日。時計の針は15時を回ったところだ。りおから「これから買い物をして帰ります」というメールを貰ってから約1時間が過ぎていた———
リンゴーン
工藤邸の呼び鈴が鳴った。
昴はインターホンには出ず、そのまま玄関へと向かう。
ガチャリとドアを開けると、そこには買い物袋を持ったりおが居た。
「おかえりなさい」
そう言って、背の高い昴はりおの顔を覗き込む。
「ただいま」
返事をするとりおが顔を上げた。
「ッ!?」
「?」
りおの顔を見た瞬間、昴の動きが止まる。
急に動かなくなった昴を見て、りおは不思議そうに小首を傾げた。
「どうしたの? 目、開いちゃってるけど」
いつもは細めている目が完全に開き、キレイなペリドットの瞳がりおを凝視している。
「えっ!? あ…いえ……なんでもありません」
我に返ったようにハッとした昴は、左手でメガネを押し上げると再び目を細めた。
「今日は早かったですね」
玄関で帰宅のハグをして、りおの買い物袋を持った昴がリビングへと向かいながら声をかけた。
「うん。教授の資料も上手く出来上がったし、愛妻弁当を作ってもらった教授が機嫌よくて。今日は早く上がっていいよ~って」
「なるほど」
話を聞きながら、さりげなく昴はりおの唇を見つめる。
(いつもと違う口紅……)
つややかでぷっくりとした唇から、目が離せない。しかしそのことに、りおは気付いていないようだった。
りおは自室へ一旦荷物を置きに戻り、昴はリビングに買い物袋を置くと、ダイニングへ行ってコーヒーを淹れる準備をした。
カチャカチャとサーバーやドリッパーを出し、コーヒー豆を挽き始める。
(今日はあのメイクで大学に行ったのか? 目立つのは嫌だと言いながら、あれはダメだろう……)
ただでさえ容姿端麗で男子学生の憧れの的だ。本人はちっとも気付いていないが。
やれやれ。いろいろ心配事を持ってくるな……、と昴はため息をついた。
リビングにコーヒーを持っていくと、自室から戻ったりおが買い物袋から購入した日用品と一緒にチョコレートを取り出した。
「へへ~。買って来ちゃった。カカオ70%のチョコ。コーヒーと一緒にどう?」
「良いですね」
さっそく封を切り、二人で食べられるようにテーブルに置いた。
りおは湯気の立つカフェオレを「ふ~」っと嬉しそうに一口飲んだ後、チョコレートを一つつまむ。
昴はそのチョコレートの行く先を目で追った。
いつもと違う彩を見せる唇が薄く開き、ころんと口の中にチョコレートが入ると、ゆっくり閉じる。
ただチョコレートを食べているだけなのに、なんとも官能的でドキドキする。動揺がバレないように昴はコーヒーをすすった。
「あちっ!」
「どうしたの? 昴さん大丈夫?」
動揺のせいで啜る量を完全に間違えた。昴は口元を手で押さえ、カップをテーブルに戻す。
「ええ……大したことありません。テ、テレビでも付けましょうか? カレーもほぼ出来ていますし、夕食の準備にはちょっと早いですしね」
昴はごまかすようにテレビをつけた。
《…家中の汚れがこれ1本で…!》
《お部屋すっきり!………》
テレビがつくと、ちょうどCMが流れていた。
特に見たい番組があるわけでもないのでチャンネルはそのまま。昴はリモコンを置いてチョコレートに手を伸ばす。
りおもCMを眺めつつ、カップを手に取った。
一口、二口とカフェオレを飲んだ時、テレビに映ったCMを見て「ん?」と顔を上げる。
《秋の新色…あなたの唇に彩を………》
(これ、蘭ちゃんに貰った口紅の……)
まさに今つけている口紅のCMだった。
(この色、新色だったんだね)
紹介されている新色3つのうちの一つだったようだ。
カフェオレを飲みつつ、そのままぼんやり眺めていると、キレイな女優さんがセクシーなドレスを着て振り向いた。つややかな唇がわずかに開き、なんとも大人な雰囲気のCMだ。
《セクシーな唇で彼を誘惑……》
「ぶっ!」
聞こえてきたナレーションに思わずりおが吹いた。
《この唇も…私も…奪いに来て…》
追い打ちをかけるように、女優さんが流し目でつぶやいたセリフを聞いて、りおは真っ赤になってむせた。
「ごッ、ごほっ! ごほっ!」
(ら、蘭ちゃんっ! まさかっ!?)
ようやく蘭の《頑張って》の意味が分かった気がした。
「りお! 大丈夫ですか?」
驚いた昴が半分立ち上がった。
「だ、大丈夫! ちょっとむせただけ……」
りおが大丈夫だとジェスチャーも加えて伝えたので、昴はそのままソファーに腰かけた。
顔を赤くして、まだ咳をしているりおを横目に、昴は今の反応で何となくピーンときた。
(さっきのCM…もしかして…)
りおの反応からして、おそらくそれと知らずにその口紅をつけたらしい事は予想がついた。
(こんな罪作りな口紅を、知らなかったとはいえ一日つけていたとは……お仕置きが必要だな)
昴のメガネがキラリと光り、その表情は良く読み取れない。ただ口元には悪い笑みを浮かべていた。
夕食も済み、昴とりおはリビングで談笑していた。ふと昴は何かを思い出したように、りおに話をふる。
「そいういえば園子さん達って、未だに私たちがキス止まりだと思っているんですよね?」
「ぶッ! ごほっ! ごほっ!」
突然色恋沙汰の話をふられて、りおがむせた。本日2回目だ。
「きゅ、急にどうしたの?」
りおは頬を赤くして昴に訊ねた。こういう話をふってくる時、決まって自分は分が悪い。今日は負けないぞ、と良く分からない気合を入れる。
「いや、いい大人の恋人同士がいつまでもそれで良いのかと……」
「別に事実はそれ以上の関係なんだし、他人にはそれで良いじゃない」
りおがそう答えると、昴は意外そうな顔をした。
「驚きました…。あなたの口からそんな言葉が出るなんて…」
《それ以上の関係》発言によほど驚いたようだ。
「今日は昴さんの《そういう話》に流されないし、負けないから」
りおは強がりを言いながら、不敵に笑って見せる。
「ほ~。そうですか。それは楽しみですね」
昴はふふっと愉快そうに笑う。
「それなら……他人にはキス止まりになっているわけですし。そのキスについて伺っても良いですか?」
「な、なあに?」
余裕の表情を見せる昴に負けてなるものかと強がるものの、りおの声はわずかに上ずる。
例の口紅によって妖しい魅力を振りまく唇も、わずかに震えているように見えた。
「あなたとキスする時、そっと唇が触れるだけのキスや、ついばむようなキスをしますよね? そういったいわゆる《ソフトキス》と……」
そこまで言うと昴は席を立ち、りおに近づいた。りおが座るソファーの背もたれに手を掛けると、顔を近づけジッとりおの瞳を見つめる。
「ッ! ち、近いよ…昴さん…」
「あなたの唇を舌先でノックした後、あなたの感じるところを全てなぞって…そのあと舌を絡めてあなたの口内をゆっくり味わう…
いわゆる《ディープキス》と…どちらが好きですか?」
瞳を見つめたまま、いつもより低い声で囁かれ、思わず体がビクッと跳ねた。
「おや。言葉だけで感じちゃいました?」
昴は片目だけ開けると、ニヤリと笑う。
「す、昴さ…、ダメ…それ以上は恥ずかしくて…死にそう…」
りおは顔を真っ赤にして自分の両耳を押さえた。そんなりおの様子を、昴は薄く笑みを浮かべながら眺め、りおの手を取ると耳から引き離す。
「私達…表向きはキスだけの関係ですし…あなたの好きな方のキス…今してあげますよ」
昴はりおの耳元に唇を寄せて囁いた。
「今日は特に…ステキな色の口紅…つけていますしね…なんならこのまま…奪って…良いんでしょ?」
「えっ」
帰って来てから一言も口紅の事に触れなかったので、てっきり気付いていないのかと思っていた。
(まさかっ! CMにも気付いて…!?)
「さあ、どちらが良いですか?」
今度は唇が触れるか触れないかの距離で、昴は問いかける。その顔は完全に勝ち誇った顔だ。
りおは顔を紅潮させ、呼吸が少し速い。
「あなたとのキスは…」
りおが震える声で呟く。
「あなたとのキスは…どんなキスでも気持ちが良いの」
「!?」
「だから…どっちのキスも私は好き。あなたと触れ合えるなら…どっちでも…」
そう言うと、りおは掴まれたままの両手で昴の頬に触れ、唇を重ねてきた。
唇と唇がそっと触れるだけのキス。
発色の良い口紅はまだりおの唇に残っており、つややかで柔らかい唇をさらに妖艶に見せた。
思わず昴は食むように唇を動かす。
「…ん…」
たったそれだけなのに、りおは気持ち良さそうに吐息をもらし、目を閉じた。
「ッ! そ、その顔は反則ですよッ!」
先ほどまでの余裕など、どこかへ吹き飛んでしまった。
今度は噛みつくようにりおの唇に口づけた。
「…んッ…す…ぅん…」
「…ん…りお…」
片膝をソファーに乗せ、そこに座るりおに覆いかぶさる。
昴の左手はりおの後頭部を優しく押さえ、 右手はりおの体を抱きしめた。
昴の舌先がりおの弱い部分をなぞると、その体は何度も跳ねた。
くちゅ…くちゅ…
舌を絡ませ合うと卑猥な水音が響く。
唾液に濡れ柔らかなりおの唇は、昴をさらに追い込む。飲み込み切れなかった唾液がつぅっと銀の糸を引いて落ちた。
深く口づけた後は一度唇を離し、じゃれるように優しく触れ合わせる。次第に舌を絡ませ、再び深いキスへと変わっていく。
深く浅く何度も繰り返し、お互いに呼吸も忘れるほどの長いキス。
酸欠と快感で頭がクラクラした。
「りおッ…このまま抱いて良いか?」
ハァハァと荒い呼吸のまま昴が赤井の口調で訊ねた。
「だ、だめ…私を抱いて良いのは…秀一さん…だけ…」
蕩けた顔で昴を拒絶する。
その昴のキスでこんなにも乱れているというのに。
「…頑なだな…」
昴はりおの首筋に唇を寄せるとキツく吸い付く。シーグラスのペンダントがチャリ…と音を立てた。
「ぃたッ…す、すば…」
りおの抗議を塞ぐように再び口づける。
何度か唇を食むと今度は頬に、耳に、軽くキスをしながら移動していく。
「…耳…ダメ…ぅんッ」
軽く歯を当てただけで息を詰めた。
つぅーっと耳のふちを舐めあげると、りおはもう声を押さえることが出来ない。
「あぁッ……やめっ…ふ…ぅ…」
その声に、昴はゾクゾクと何かが這い上がるのを感じた。
「くそっ」
昴は表情を歪ませると乱暴にウィッグを外し、メガネを投げ捨て、シャツの首元を開けてチョーカーを外した。
その瞬間。
りおは赤井の胸元のシャツを掴み、自分の元へと手繰り寄せる。
「!?」
何が起こったのか分からず、動きを止めた赤井の首筋にりおが吸い付く。
チクリと痛みが走った。
「ッ!」
「ふふふ。《昴》さん、キスだけでは済まなくなった?」
「そんな蕩けた顔で何を言ってる? 俺もお前も…もう限界…だろ?」
はぁはぁと苦しげに息をしながらも、ニヤリと笑みを浮かべて赤井は問いかけた。
「初めから言ったじゃない。あなた(秀一さん)とは、それ以上の関係だって。あなたにはすべてを差し出しているのよ。どういう意味か分かるでしょ?」
うっすらと汗を浮かべ、蕩けた顔でわずかに強がるりおを見て、赤井はフッと笑う。
「ああ、わかっているさ。俺も同じだよ。
もうお前無しではいられない」
赤井が右手でそっとりおの頬に触れると、艶めかしい濡れた唇がニコリと微笑む。
「ちゃんと言ってくれないと分からないわ」
赤井の手に自分の手を重ねながら、りおは呟いた。
「愛してるよ。りお」
「私も愛してるわ」
りおがそう呟いた直後、二人の唇は再び重なった。
リンゴーン
工藤邸の呼び鈴が鳴った。
昴はインターホンには出ず、そのまま玄関へと向かう。
ガチャリとドアを開けると、そこには買い物袋を持ったりおが居た。
「おかえりなさい」
そう言って、背の高い昴はりおの顔を覗き込む。
「ただいま」
返事をするとりおが顔を上げた。
「ッ!?」
「?」
りおの顔を見た瞬間、昴の動きが止まる。
急に動かなくなった昴を見て、りおは不思議そうに小首を傾げた。
「どうしたの? 目、開いちゃってるけど」
いつもは細めている目が完全に開き、キレイなペリドットの瞳がりおを凝視している。
「えっ!? あ…いえ……なんでもありません」
我に返ったようにハッとした昴は、左手でメガネを押し上げると再び目を細めた。
「今日は早かったですね」
玄関で帰宅のハグをして、りおの買い物袋を持った昴がリビングへと向かいながら声をかけた。
「うん。教授の資料も上手く出来上がったし、愛妻弁当を作ってもらった教授が機嫌よくて。今日は早く上がっていいよ~って」
「なるほど」
話を聞きながら、さりげなく昴はりおの唇を見つめる。
(いつもと違う口紅……)
つややかでぷっくりとした唇から、目が離せない。しかしそのことに、りおは気付いていないようだった。
りおは自室へ一旦荷物を置きに戻り、昴はリビングに買い物袋を置くと、ダイニングへ行ってコーヒーを淹れる準備をした。
カチャカチャとサーバーやドリッパーを出し、コーヒー豆を挽き始める。
(今日はあのメイクで大学に行ったのか? 目立つのは嫌だと言いながら、あれはダメだろう……)
ただでさえ容姿端麗で男子学生の憧れの的だ。本人はちっとも気付いていないが。
やれやれ。いろいろ心配事を持ってくるな……、と昴はため息をついた。
リビングにコーヒーを持っていくと、自室から戻ったりおが買い物袋から購入した日用品と一緒にチョコレートを取り出した。
「へへ~。買って来ちゃった。カカオ70%のチョコ。コーヒーと一緒にどう?」
「良いですね」
さっそく封を切り、二人で食べられるようにテーブルに置いた。
りおは湯気の立つカフェオレを「ふ~」っと嬉しそうに一口飲んだ後、チョコレートを一つつまむ。
昴はそのチョコレートの行く先を目で追った。
いつもと違う彩を見せる唇が薄く開き、ころんと口の中にチョコレートが入ると、ゆっくり閉じる。
ただチョコレートを食べているだけなのに、なんとも官能的でドキドキする。動揺がバレないように昴はコーヒーをすすった。
「あちっ!」
「どうしたの? 昴さん大丈夫?」
動揺のせいで啜る量を完全に間違えた。昴は口元を手で押さえ、カップをテーブルに戻す。
「ええ……大したことありません。テ、テレビでも付けましょうか? カレーもほぼ出来ていますし、夕食の準備にはちょっと早いですしね」
昴はごまかすようにテレビをつけた。
《…家中の汚れがこれ1本で…!》
《お部屋すっきり!………》
テレビがつくと、ちょうどCMが流れていた。
特に見たい番組があるわけでもないのでチャンネルはそのまま。昴はリモコンを置いてチョコレートに手を伸ばす。
りおもCMを眺めつつ、カップを手に取った。
一口、二口とカフェオレを飲んだ時、テレビに映ったCMを見て「ん?」と顔を上げる。
《秋の新色…あなたの唇に彩を………》
(これ、蘭ちゃんに貰った口紅の……)
まさに今つけている口紅のCMだった。
(この色、新色だったんだね)
紹介されている新色3つのうちの一つだったようだ。
カフェオレを飲みつつ、そのままぼんやり眺めていると、キレイな女優さんがセクシーなドレスを着て振り向いた。つややかな唇がわずかに開き、なんとも大人な雰囲気のCMだ。
《セクシーな唇で彼を誘惑……》
「ぶっ!」
聞こえてきたナレーションに思わずりおが吹いた。
《この唇も…私も…奪いに来て…》
追い打ちをかけるように、女優さんが流し目でつぶやいたセリフを聞いて、りおは真っ赤になってむせた。
「ごッ、ごほっ! ごほっ!」
(ら、蘭ちゃんっ! まさかっ!?)
ようやく蘭の《頑張って》の意味が分かった気がした。
「りお! 大丈夫ですか?」
驚いた昴が半分立ち上がった。
「だ、大丈夫! ちょっとむせただけ……」
りおが大丈夫だとジェスチャーも加えて伝えたので、昴はそのままソファーに腰かけた。
顔を赤くして、まだ咳をしているりおを横目に、昴は今の反応で何となくピーンときた。
(さっきのCM…もしかして…)
りおの反応からして、おそらくそれと知らずにその口紅をつけたらしい事は予想がついた。
(こんな罪作りな口紅を、知らなかったとはいえ一日つけていたとは……お仕置きが必要だな)
昴のメガネがキラリと光り、その表情は良く読み取れない。ただ口元には悪い笑みを浮かべていた。
夕食も済み、昴とりおはリビングで談笑していた。ふと昴は何かを思い出したように、りおに話をふる。
「そいういえば園子さん達って、未だに私たちがキス止まりだと思っているんですよね?」
「ぶッ! ごほっ! ごほっ!」
突然色恋沙汰の話をふられて、りおがむせた。本日2回目だ。
「きゅ、急にどうしたの?」
りおは頬を赤くして昴に訊ねた。こういう話をふってくる時、決まって自分は分が悪い。今日は負けないぞ、と良く分からない気合を入れる。
「いや、いい大人の恋人同士がいつまでもそれで良いのかと……」
「別に事実はそれ以上の関係なんだし、他人にはそれで良いじゃない」
りおがそう答えると、昴は意外そうな顔をした。
「驚きました…。あなたの口からそんな言葉が出るなんて…」
《それ以上の関係》発言によほど驚いたようだ。
「今日は昴さんの《そういう話》に流されないし、負けないから」
りおは強がりを言いながら、不敵に笑って見せる。
「ほ~。そうですか。それは楽しみですね」
昴はふふっと愉快そうに笑う。
「それなら……他人にはキス止まりになっているわけですし。そのキスについて伺っても良いですか?」
「な、なあに?」
余裕の表情を見せる昴に負けてなるものかと強がるものの、りおの声はわずかに上ずる。
例の口紅によって妖しい魅力を振りまく唇も、わずかに震えているように見えた。
「あなたとキスする時、そっと唇が触れるだけのキスや、ついばむようなキスをしますよね? そういったいわゆる《ソフトキス》と……」
そこまで言うと昴は席を立ち、りおに近づいた。りおが座るソファーの背もたれに手を掛けると、顔を近づけジッとりおの瞳を見つめる。
「ッ! ち、近いよ…昴さん…」
「あなたの唇を舌先でノックした後、あなたの感じるところを全てなぞって…そのあと舌を絡めてあなたの口内をゆっくり味わう…
いわゆる《ディープキス》と…どちらが好きですか?」
瞳を見つめたまま、いつもより低い声で囁かれ、思わず体がビクッと跳ねた。
「おや。言葉だけで感じちゃいました?」
昴は片目だけ開けると、ニヤリと笑う。
「す、昴さ…、ダメ…それ以上は恥ずかしくて…死にそう…」
りおは顔を真っ赤にして自分の両耳を押さえた。そんなりおの様子を、昴は薄く笑みを浮かべながら眺め、りおの手を取ると耳から引き離す。
「私達…表向きはキスだけの関係ですし…あなたの好きな方のキス…今してあげますよ」
昴はりおの耳元に唇を寄せて囁いた。
「今日は特に…ステキな色の口紅…つけていますしね…なんならこのまま…奪って…良いんでしょ?」
「えっ」
帰って来てから一言も口紅の事に触れなかったので、てっきり気付いていないのかと思っていた。
(まさかっ! CMにも気付いて…!?)
「さあ、どちらが良いですか?」
今度は唇が触れるか触れないかの距離で、昴は問いかける。その顔は完全に勝ち誇った顔だ。
りおは顔を紅潮させ、呼吸が少し速い。
「あなたとのキスは…」
りおが震える声で呟く。
「あなたとのキスは…どんなキスでも気持ちが良いの」
「!?」
「だから…どっちのキスも私は好き。あなたと触れ合えるなら…どっちでも…」
そう言うと、りおは掴まれたままの両手で昴の頬に触れ、唇を重ねてきた。
唇と唇がそっと触れるだけのキス。
発色の良い口紅はまだりおの唇に残っており、つややかで柔らかい唇をさらに妖艶に見せた。
思わず昴は食むように唇を動かす。
「…ん…」
たったそれだけなのに、りおは気持ち良さそうに吐息をもらし、目を閉じた。
「ッ! そ、その顔は反則ですよッ!」
先ほどまでの余裕など、どこかへ吹き飛んでしまった。
今度は噛みつくようにりおの唇に口づけた。
「…んッ…す…ぅん…」
「…ん…りお…」
片膝をソファーに乗せ、そこに座るりおに覆いかぶさる。
昴の左手はりおの後頭部を優しく押さえ、 右手はりおの体を抱きしめた。
昴の舌先がりおの弱い部分をなぞると、その体は何度も跳ねた。
くちゅ…くちゅ…
舌を絡ませ合うと卑猥な水音が響く。
唾液に濡れ柔らかなりおの唇は、昴をさらに追い込む。飲み込み切れなかった唾液がつぅっと銀の糸を引いて落ちた。
深く口づけた後は一度唇を離し、じゃれるように優しく触れ合わせる。次第に舌を絡ませ、再び深いキスへと変わっていく。
深く浅く何度も繰り返し、お互いに呼吸も忘れるほどの長いキス。
酸欠と快感で頭がクラクラした。
「りおッ…このまま抱いて良いか?」
ハァハァと荒い呼吸のまま昴が赤井の口調で訊ねた。
「だ、だめ…私を抱いて良いのは…秀一さん…だけ…」
蕩けた顔で昴を拒絶する。
その昴のキスでこんなにも乱れているというのに。
「…頑なだな…」
昴はりおの首筋に唇を寄せるとキツく吸い付く。シーグラスのペンダントがチャリ…と音を立てた。
「ぃたッ…す、すば…」
りおの抗議を塞ぐように再び口づける。
何度か唇を食むと今度は頬に、耳に、軽くキスをしながら移動していく。
「…耳…ダメ…ぅんッ」
軽く歯を当てただけで息を詰めた。
つぅーっと耳のふちを舐めあげると、りおはもう声を押さえることが出来ない。
「あぁッ……やめっ…ふ…ぅ…」
その声に、昴はゾクゾクと何かが這い上がるのを感じた。
「くそっ」
昴は表情を歪ませると乱暴にウィッグを外し、メガネを投げ捨て、シャツの首元を開けてチョーカーを外した。
その瞬間。
りおは赤井の胸元のシャツを掴み、自分の元へと手繰り寄せる。
「!?」
何が起こったのか分からず、動きを止めた赤井の首筋にりおが吸い付く。
チクリと痛みが走った。
「ッ!」
「ふふふ。《昴》さん、キスだけでは済まなくなった?」
「そんな蕩けた顔で何を言ってる? 俺もお前も…もう限界…だろ?」
はぁはぁと苦しげに息をしながらも、ニヤリと笑みを浮かべて赤井は問いかけた。
「初めから言ったじゃない。あなた(秀一さん)とは、それ以上の関係だって。あなたにはすべてを差し出しているのよ。どういう意味か分かるでしょ?」
うっすらと汗を浮かべ、蕩けた顔でわずかに強がるりおを見て、赤井はフッと笑う。
「ああ、わかっているさ。俺も同じだよ。
もうお前無しではいられない」
赤井が右手でそっとりおの頬に触れると、艶めかしい濡れた唇がニコリと微笑む。
「ちゃんと言ってくれないと分からないわ」
赤井の手に自分の手を重ねながら、りおは呟いた。
「愛してるよ。りお」
「私も愛してるわ」
りおがそう呟いた直後、二人の唇は再び重なった。