ペリドットとアンバー短編集
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ある夜——
りおは赤井からのお願いを聞いて、ポカンとしていた。
「え? ごめん、秀一さん。今、『肉が食いたい』って聞こえたんだけど」
今日の夕飯で食べたハンバーグは、肉と認識されなかったのだろうか? 昴のすぐ隣でひき肉を練っていたはずなのに。
りおは雑誌を手に持ったまま、文字通り固まっていた。
「あ、いや。肉を食いたいのは俺じゃない。夕飯のハンバーグも美味かったし、肉に飢えてるわけでもない。肉を食いたがっているのは…その…キャメルなんだ」
「え? キャメルさんが?」
極秘で組織を追っているFBIのメンバーは、ここ数か月ホテル暮らしをしている。
仕事でホテルを離れない限り、食事には困らないはずだ。好きなものを注文できるし、和食でも洋食でも中華でも何でも出てくる。
それなのに何故? そして肉?
「ホテルの食事に飽きてきたらしい。これしかないと思えば諦めもつくだろうが、アイツ、ここでお前や俺の手料理を食べただろう?
《短編:内緒話で大波乱より》
よほど美味かったらしくてね。家庭料理を食いたいらしいんだ。で、『何が食べたいんだ?』って訊いたら『肉が食いたい』って……」
「なるほど」
赤井から説明を聞いてようやく合点がいった。
確かにシェフ(プロ)が作った料理は美味しいが、それが毎日となれば飽きてくる。
やっぱり素人が作った『家庭料理』に勝るものは無いのかもしれない。
「分かったわ。じゃあ…週末にでもココに呼んで、ご馳走してあげれば良いんじゃないかな。ご期待に添えるか分からないけど、何か作るよ」
りおはニッコリと微笑み、持っていた雑誌をテーブルに置く。
「ホントか!? キャメルのヤツ喜ぶよ。俺の手料理ではあまりもてなしてやれないし……。りおに断られたらどうしようかと思ってたんだ」
赤井はりおの返事を聞いてすぐにスマホを取り出す。嬉しそうにキャメルにメールを送った。
「ふふ。秀一さんって部下思いだよね。あの時も、私の作り置きが無くなってキャメルさんに手料理ご馳走してたもんね」
本人は『朝食みたいな昼食』と言っていたけれど。卵焼きだろうと、ゆで卵だろうと、目玉焼きだろうと、その人の為に一生懸命作ったのなら、それは間違いなく《ご馳走》なのだとりおは思う。
「食事は体の基本だろ? そう俺に教えたのはお前だぞ。部下の体調管理も上司の仕事だからな」
俺ももう少しレパートリーを増やさないとな!
嬉しそうに言う赤井の顔は、驚くほど楽しそうだった。
「で? 肉料理って言っても色々あるけど。何が良いのかな?」
りおは腕を組んで考え込んだ。
肉一つとっても鶏肉に豚肉に牛肉。ラム肉だってある。『肉が食いたい』と言うからには、食べたい肉料理があるのだろうか?
「とにかく家庭料理が食べたいそうだ。後は料理人に任せる…と返信が来た」
「ん~~…じゃあ『豚の角煮』と『ささみチーズフライ』。
後は…野菜たっぷりのサラダと、具沢山の味噌汁。雑穀ご飯。それから…箸休めに甘酢漬けか何かあれば良いかな。
お肉だけじゃなくて、野菜もいっぱい摂れるよ」
肉ばかりでは体に良くない。捜査官ともなれば体が基本。バランスよく野菜も摂れるようにりおはメニューを組み立てた。
「すごいな…アイツならペロッとたいらげそうだが…。りお、大変じゃないか?」
品数もそうだがキャメルは体が大きいので量も食べる。赤井はりおの負担になるのではと心配になった。
「大丈夫だよ、これくらい。量を多く作るのもわけないし。まあ最近は二人分しか作らないから、美味しく出来るか心配だけどね」
りおは肩をすくめて楽しそうに微笑んだ。
土曜日——前日に昴と買い物をして、りおは朝から仕込みをしていた。
豚バラのブロック肉をカットしてフライパンで焦げ色を付けた後、ネギの青い部分とショウガを入れてコトコトと煮る。調味料を加えてさらに長時間煮続けると、やわらかな角煮が出来上がった。
鶏のささみはスジを引いたあと酒で臭みを取り、切れ目を入れて塩コショウをして、チーズと大葉を挟んでフライにした。
サラダはベビーリーフ、ゆで卵やスナップエンドウ、トマト、ベビーコーン、さらにモッツァレラチーズを加えてカプレーゼ風に。ドレッシングは野菜ジュースをベースにした甘いタイプのものを手作り。
キノコと根菜をたっぷり入れた味噌汁と、最後に大根と人参の甘酢和えをサッと作り終えた。
使ったツールを洗って赤井が布巾で拭き終わる頃、炊飯器がピーピーと炊き上がりを告げる。
「手際が良すぎて驚いた…。むしろ圧巻…だな」
すっかり出来上がった料理と、キレイに片付いたキッチン。一体りおの頭の中はどうなっているんだと、赤井は感嘆のため息しか出ない。
赤井の言葉を聞いてりおが嬉しそうに笑うと、工藤邸のチャイムが来客を告げる。どうやらキャメルが到着したようだ。
「これ…全部お二人で? しかも自分の為に…ですか?」
ダイニングへと入ってきた大男——キャメルが目を輝かせてテーブルを見ている。
「ああ。二人でっていうより、ほとんどりおが作ったんだ。俺は材料を洗ったり混ぜたり…後半はりおの指示に従って洗い物係をしていただけだ」
「ごめ~ん。もう最後は時間との勝負だったから……」
りおはバツが悪そうに頬を掻く。
(赤井さんが洗い物係…)
ちょっと意外過ぎて笑いそうになったが、キャメルはグッと堪えた。
「私の為にお二人でこんなに…調理担当だろうが洗い物係だろうが関係ありません。自分のためにここまで……本当にありがとうございます!」
赤井の前で思わずこぼした『またホテルの食事か…』という言葉。それを聞いた赤井が気を使ってこんなにたくさん用意してくれたのだ。
嬉しくないはずがない。失敗ばかりする自分を上司はちゃんと見てくれる。何とありがたい事か。
「そ、それでは…いただいても良いですか」
「ええ、もちろん。どうぞ食べて!」
りおは嬉しそうにキャメルを食卓へと促した。
「「「いただきま~す」」」
三人で日本式に手を合わせて挨拶をした時だった。
ピンポ~ン
またしても来客を知らせるチャイムが鳴る。
「誰だろう? 私出るから二人は食べ始めて」
りおが席を立ち、インターホンへと向かう。
「お言葉に甘えて食べ始めるとするか」
赤井がキャメルに声をかけ、皿に角煮を取り分け始めた。
「さてと…」
赤井は小皿に三人分を取り分け自分の箸を持つ。
トロトロの角煮にかぶりつこうとした時、ダイニングのドアが勢いよく開いた。
「ちょ、ちょっと! 秀一さん、キャメルさん!来て!」
血相を変えたりおがダイニングに入って叫んだ。
「「?」」
何事かと驚いた二人は、言われるまま玄関へと急いだ。
「な…!? どういうことだ?」
玄関まで来た赤井とキャメルは、目の前の光景を見て驚いた。
「はぁ~い! シュウ! キャメル! 抜け駆けはダメよ~!」
そこに居たのは——
キャメルからコッソリ話を聞いたジョディと、ジョディからさらに話を聞いたFBIの同僚たちが勢ぞろいしていた。
「ねえ…今日ってFBIご一同様がご来店予定でしたっけ?」
「いや……そんな話は聞いてないぞ…」
驚きすぎて動きが止まった赤井とりおに、キャメルが申し訳なさそうに声をかけた。
「あ、じ、実は…あんまり嬉しくて…ジョディさんに話しちゃったんです。そしたら『良いな~良いな~』って彼女羨ましがって……。内緒だって言っておいたんですけど……」
キャメルの話を聞いて、赤井はツカツカとジョディに近づく。
「お前かジョディ! みんなに言いふらしたのは!」
怖い顔をして相手を睨んだ。
「やだ、シュウ。そんな怖い顔しないで。私たちだってホテルの食事に飽き飽きしてたの。そしたら…キャメルだけ良い思いしちゃって…。味見だけでも良いから! ね?」
手土産もたくさん持って来たからと、悪びれも無くジョディは言う。
そんな態度を見て、赤井は怒りを通り越して呆れてしまった。
りおは赤井からのお願いを聞いて、ポカンとしていた。
「え? ごめん、秀一さん。今、『肉が食いたい』って聞こえたんだけど」
今日の夕飯で食べたハンバーグは、肉と認識されなかったのだろうか? 昴のすぐ隣でひき肉を練っていたはずなのに。
りおは雑誌を手に持ったまま、文字通り固まっていた。
「あ、いや。肉を食いたいのは俺じゃない。夕飯のハンバーグも美味かったし、肉に飢えてるわけでもない。肉を食いたがっているのは…その…キャメルなんだ」
「え? キャメルさんが?」
極秘で組織を追っているFBIのメンバーは、ここ数か月ホテル暮らしをしている。
仕事でホテルを離れない限り、食事には困らないはずだ。好きなものを注文できるし、和食でも洋食でも中華でも何でも出てくる。
それなのに何故? そして肉?
「ホテルの食事に飽きてきたらしい。これしかないと思えば諦めもつくだろうが、アイツ、ここでお前や俺の手料理を食べただろう?
《短編:内緒話で大波乱より》
よほど美味かったらしくてね。家庭料理を食いたいらしいんだ。で、『何が食べたいんだ?』って訊いたら『肉が食いたい』って……」
「なるほど」
赤井から説明を聞いてようやく合点がいった。
確かにシェフ(プロ)が作った料理は美味しいが、それが毎日となれば飽きてくる。
やっぱり素人が作った『家庭料理』に勝るものは無いのかもしれない。
「分かったわ。じゃあ…週末にでもココに呼んで、ご馳走してあげれば良いんじゃないかな。ご期待に添えるか分からないけど、何か作るよ」
りおはニッコリと微笑み、持っていた雑誌をテーブルに置く。
「ホントか!? キャメルのヤツ喜ぶよ。俺の手料理ではあまりもてなしてやれないし……。りおに断られたらどうしようかと思ってたんだ」
赤井はりおの返事を聞いてすぐにスマホを取り出す。嬉しそうにキャメルにメールを送った。
「ふふ。秀一さんって部下思いだよね。あの時も、私の作り置きが無くなってキャメルさんに手料理ご馳走してたもんね」
本人は『朝食みたいな昼食』と言っていたけれど。卵焼きだろうと、ゆで卵だろうと、目玉焼きだろうと、その人の為に一生懸命作ったのなら、それは間違いなく《ご馳走》なのだとりおは思う。
「食事は体の基本だろ? そう俺に教えたのはお前だぞ。部下の体調管理も上司の仕事だからな」
俺ももう少しレパートリーを増やさないとな!
嬉しそうに言う赤井の顔は、驚くほど楽しそうだった。
「で? 肉料理って言っても色々あるけど。何が良いのかな?」
りおは腕を組んで考え込んだ。
肉一つとっても鶏肉に豚肉に牛肉。ラム肉だってある。『肉が食いたい』と言うからには、食べたい肉料理があるのだろうか?
「とにかく家庭料理が食べたいそうだ。後は料理人に任せる…と返信が来た」
「ん~~…じゃあ『豚の角煮』と『ささみチーズフライ』。
後は…野菜たっぷりのサラダと、具沢山の味噌汁。雑穀ご飯。それから…箸休めに甘酢漬けか何かあれば良いかな。
お肉だけじゃなくて、野菜もいっぱい摂れるよ」
肉ばかりでは体に良くない。捜査官ともなれば体が基本。バランスよく野菜も摂れるようにりおはメニューを組み立てた。
「すごいな…アイツならペロッとたいらげそうだが…。りお、大変じゃないか?」
品数もそうだがキャメルは体が大きいので量も食べる。赤井はりおの負担になるのではと心配になった。
「大丈夫だよ、これくらい。量を多く作るのもわけないし。まあ最近は二人分しか作らないから、美味しく出来るか心配だけどね」
りおは肩をすくめて楽しそうに微笑んだ。
土曜日——前日に昴と買い物をして、りおは朝から仕込みをしていた。
豚バラのブロック肉をカットしてフライパンで焦げ色を付けた後、ネギの青い部分とショウガを入れてコトコトと煮る。調味料を加えてさらに長時間煮続けると、やわらかな角煮が出来上がった。
鶏のささみはスジを引いたあと酒で臭みを取り、切れ目を入れて塩コショウをして、チーズと大葉を挟んでフライにした。
サラダはベビーリーフ、ゆで卵やスナップエンドウ、トマト、ベビーコーン、さらにモッツァレラチーズを加えてカプレーゼ風に。ドレッシングは野菜ジュースをベースにした甘いタイプのものを手作り。
キノコと根菜をたっぷり入れた味噌汁と、最後に大根と人参の甘酢和えをサッと作り終えた。
使ったツールを洗って赤井が布巾で拭き終わる頃、炊飯器がピーピーと炊き上がりを告げる。
「手際が良すぎて驚いた…。むしろ圧巻…だな」
すっかり出来上がった料理と、キレイに片付いたキッチン。一体りおの頭の中はどうなっているんだと、赤井は感嘆のため息しか出ない。
赤井の言葉を聞いてりおが嬉しそうに笑うと、工藤邸のチャイムが来客を告げる。どうやらキャメルが到着したようだ。
「これ…全部お二人で? しかも自分の為に…ですか?」
ダイニングへと入ってきた大男——キャメルが目を輝かせてテーブルを見ている。
「ああ。二人でっていうより、ほとんどりおが作ったんだ。俺は材料を洗ったり混ぜたり…後半はりおの指示に従って洗い物係をしていただけだ」
「ごめ~ん。もう最後は時間との勝負だったから……」
りおはバツが悪そうに頬を掻く。
(赤井さんが洗い物係…)
ちょっと意外過ぎて笑いそうになったが、キャメルはグッと堪えた。
「私の為にお二人でこんなに…調理担当だろうが洗い物係だろうが関係ありません。自分のためにここまで……本当にありがとうございます!」
赤井の前で思わずこぼした『またホテルの食事か…』という言葉。それを聞いた赤井が気を使ってこんなにたくさん用意してくれたのだ。
嬉しくないはずがない。失敗ばかりする自分を上司はちゃんと見てくれる。何とありがたい事か。
「そ、それでは…いただいても良いですか」
「ええ、もちろん。どうぞ食べて!」
りおは嬉しそうにキャメルを食卓へと促した。
「「「いただきま~す」」」
三人で日本式に手を合わせて挨拶をした時だった。
ピンポ~ン
またしても来客を知らせるチャイムが鳴る。
「誰だろう? 私出るから二人は食べ始めて」
りおが席を立ち、インターホンへと向かう。
「お言葉に甘えて食べ始めるとするか」
赤井がキャメルに声をかけ、皿に角煮を取り分け始めた。
「さてと…」
赤井は小皿に三人分を取り分け自分の箸を持つ。
トロトロの角煮にかぶりつこうとした時、ダイニングのドアが勢いよく開いた。
「ちょ、ちょっと! 秀一さん、キャメルさん!来て!」
血相を変えたりおがダイニングに入って叫んだ。
「「?」」
何事かと驚いた二人は、言われるまま玄関へと急いだ。
「な…!? どういうことだ?」
玄関まで来た赤井とキャメルは、目の前の光景を見て驚いた。
「はぁ~い! シュウ! キャメル! 抜け駆けはダメよ~!」
そこに居たのは——
キャメルからコッソリ話を聞いたジョディと、ジョディからさらに話を聞いたFBIの同僚たちが勢ぞろいしていた。
「ねえ…今日ってFBIご一同様がご来店予定でしたっけ?」
「いや……そんな話は聞いてないぞ…」
驚きすぎて動きが止まった赤井とりおに、キャメルが申し訳なさそうに声をかけた。
「あ、じ、実は…あんまり嬉しくて…ジョディさんに話しちゃったんです。そしたら『良いな~良いな~』って彼女羨ましがって……。内緒だって言っておいたんですけど……」
キャメルの話を聞いて、赤井はツカツカとジョディに近づく。
「お前かジョディ! みんなに言いふらしたのは!」
怖い顔をして相手を睨んだ。
「やだ、シュウ。そんな怖い顔しないで。私たちだってホテルの食事に飽き飽きしてたの。そしたら…キャメルだけ良い思いしちゃって…。味見だけでも良いから! ね?」
手土産もたくさん持って来たからと、悪びれも無くジョディは言う。
そんな態度を見て、赤井は怒りを通り越して呆れてしまった。