ペリドットとアンバー短編集
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(ふふふ。子どもみたい)
先ほどよりは幾分穏やかに眠る赤井の顔を見て、りおもようやくホッと息をついた。
コナンからメールを貰い、その後何度か連絡をしたが一向に通じず、心配で工藤邸までタクシーを飛ばしてきた。
書斎で倒れている昴を見た時は心臓が止まるかと思った。
もしコナンから連絡が無ければ、自分が工藤邸に来るのは翌日。それまで昴が倒れたままだったら——。考えただけでゾッとする。
連絡をくれたコナンには感謝しかない。
慌てて駆け寄った時、高熱でうなされていた昴はずっとりおの名を呼んでいた。
(自分がそばに居ればこんなことには……)
この時初めて、りおは工藤邸を出たことを後悔した。
(ごめんね、秀一さん。良くなるまでずっとそばにいるよ)
りおはそっと赤井の頬にキスを落とした。
***
赤井の熱はなかなか下がらない。
ハァハァと呼吸も荒く苦しそうだ。時々口移しで水分を取らせる以外、ほとんど眠っている。
りおはその宣言通り、ずっと赤井のそばにいた。
氷水ですすいだタオルを何度となく替え、水分を取らせ、手を握る。
途中、自身の着替えをするためにシャワーを浴びた以外はほとんど眠らず、食事もとらず、赤井のそばから離れなかった。
金曜の夕方、再び新出先生が往診に来てくれた。
薬が効いてきているので、明日辺りには熱も下がると言われ、ホッと胸を撫で下ろす。
「さくらさん、ずっと看病されているのですか? 寝てないでしょう。あなたが倒れてしまいますよ」
新出先生がさくらの顔を見て、心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですよ。私もだいぶ体力付きましたから」
さくらはニッコリ微笑んで応えた。
「まあ、あまり無理しないように。そういえば、この男性……今思い出しましたけど、前にお会いした事がありましたよね。
確か、さくらさんが認知行動療法で3日ほど目を覚まさなかった時に。
沖矢さんと朝晩交代で付き添っていらっしゃった。その時、さくらさんの遠縁の方だとおっしゃっていましたね」
(あ~…確かに以前昏睡から覚めた時、昴さんではなく、秀一さんがベッドサイドにいたなぁ…)
さくらはその時の事を思い出した。
さっきは慌てていたので、何も考えず《親戚》と言ってしまったが、伝えた情報が以前とさほどズレていなかったことに、ひとまず安堵した。
「それはそうと、沖矢さんはどうされたのですか?」
いつもいる昴がおらず、遠縁だという男性が工藤邸で寝込んでいる。
先生が不思議がるのも当然だ。
「あ~…彼はご実家に…。たまには顔見せに来いってご両親に言われたみたいで。
それで、久しぶりに会わないかって、親戚の彼が訪ねて来たんですけど、そのまま倒れてしまって……」
さくらは目を泳がせながら、適当に取り繕った。
「そうですか。彼が居なくて幸か不幸か……。
あなたがこの男性を寝ないで看病しているなんて知ったら、沖矢さんかなり嫉妬しますよ」
「は…ははは…」
(その沖矢さんが、この寝込んでる男性なんだけどね…)
さくらは心の中でつぶやいた。
「でもまあ、ご親戚ならヘンに疑わないか……」
先生はずいぶん彼の嫉妬を心配していた。
(先生の中で昴さん、どんなイメージなのよ)
さくらは半目になって笑うしかなかった。
土曜日明け方早く
赤井はベッドの上で上半身を起こしていた。
ベッドサイドではりおがスツールに座ったまま、ベッドに突っ伏して眠っている。
彼女の手はまるでしもやけを作ったように赤くなっていた。
「ホントに…ずっとそばにいてくれたのか…」
手を伸ばし、そっとりおの頭に触れる。
優しく撫でると「ぅん…」と声が聞こえた。
パチリ
りおの目が勢いよく開いた。
「あ、寝ちゃった…」
慌てて体を起こすと、優しく微笑む赤井と目が合った。
「あ…秀一…さん」
「おはよう、りお」
クスクスと笑いながら赤井は声をかけた。
「熱…下がったの?」
「ああ。お前のおかげですっかり良くなったよ」
「良かった…!」
そうつぶやいたりおの目には、涙がにじんでいた。
「何か食べられそう? おかゆ作ってきましょうか?」
「ああ。頼むよ。土鍋で作ったヤツ。前に食べた時すごく美味かった」
「ふふふ。ケガして熱出した時ね。分かったわ。すぐ作ってくるから」
そう言ってりおは立ち上がり、赤井の部屋から出て行った。
その後、赤井はりおが作ったお粥を食べ、
シャワーを浴びるとダイニングへと顔を出した。
食器を洗い終わったりおが、赤井の顔を見て微笑む。
「ふふ。すっきりした顔してる。でも油断禁物よ。
ベッドのシーツ替えておいたわ。もう少し横になっていたら?」
「ベッドに横になるなら、りおも一緒がいい。お前だってずっと寝ないで、看病してくれていたんだろう?」
赤井はりおに近づくとそっとその体を抱き
しめた。
「ッ!? お前…熱くないか?」
赤井は慌てて体を離し、りおを見る。熱があるのかりおの顔がかなり赤い。
「え? そうかな? 寝不足のせいじゃない?」
「寝不足だけでこんなに熱い訳ないだろう!」
そういうが早いか、そのままりおの手を引き、部屋へと連れ込んだ。
「一緒に寝るぞ」
「え?」
「今度は俺が看病する。だが俺もまだ本調子じゃない。まずは一緒に寝る」
ベッドに二人で潜り込んだ。
「やはりうつしてしまったな。すまない」
「ううん。気にしないで。結局私、何も出来なかったの。ひたすら冷やして…手を握ってあげることしか出来なかったわ」
熱で火照ったりおの手が、赤井の顔に触れる。
「良いんだ。それが何より……」
「え?」
「あ、いや…なんでもない」
赤井はりおの手に自分の手を重ねた。
(お前がずっとそばにいてくれたという事実が、どれほど俺を喜ばせているか…お前は知らないだろう…)
そばにいてくれとは言えなかった。
りおを困らせたくは無かったから。
でも・・・りおはいてくれた。
それだけで……それだけで心が満たされる。
赤井はりおを抱きしめると、二人はくっついたまま眠った。
午前中こそ、りおは38℃以上の熱があったが、夕方には37度台前半まで落ち着いた。
沢山眠って汗をかいた為、りおはシャワーを浴びる。
すっきりした顔でリビングへと戻ってきた。
「不思議ね~。秀一さんはだいぶ酷かったのに、私はもうこのまま治っちゃいそうよ」
冷えたミネラルウォーターを飲みながら、りおは赤井に話しかけた。
「りお……。怒らないで聞いてくれるか?」
「ん? なあに?」
美味しそうに水を飲むりおに、赤井はバツが悪そうに声をかける。
「今回の風邪、子どもより大人の方が酷くなる傾向があるらしいぞ。つまり俺は大人だったから酷くなったが…。りおは…子どもだったって事かな」
そこまで言うとニヤニヤと笑い出す。
「えぇっ!?」
目をテンにして驚いているりおの顔を見て、赤井は大笑いした。
「小学1年生の歩美ちゃんですら、二日も学校休んだらしい。それより軽く済んだお前は…いったいいくつなんだろうな」
「秀一さん、ひど~い!」
頬を膨らませて怒るりおを見て、赤井はさらに笑った。
後日——
赤井と同じことを少年探偵団の皆に言われ、
少々自信を無くしたりおだった。
===おまけ===
「でも、考えようによっては、『若い』って事じゃない? 秀一さんは『年寄り』って事だよ」
「お前のそのポジティブな考え方、嫌いじゃないが。俺を年寄り扱いするのは如何なものか……」
「さくらさん。自分を『若い』って言ってる時点でアウトなんじゃ……」
「ん? コナンくん。何か言ったかな?」
「ひぇ! な、何でもナイ…デス…」
「ボウヤ、29歳はデリケートなお年頃だ。言葉には気を付けた方が良い」
「秀一さぁ~ん…何か言いました~ぁ??」
「しまった。さくらを怒らせてしまった。あ、あ~あ……。マズイ。また熱が出てきたようだ……」
「赤井さん……早く謝っちゃいなよ」
先ほどよりは幾分穏やかに眠る赤井の顔を見て、りおもようやくホッと息をついた。
コナンからメールを貰い、その後何度か連絡をしたが一向に通じず、心配で工藤邸までタクシーを飛ばしてきた。
書斎で倒れている昴を見た時は心臓が止まるかと思った。
もしコナンから連絡が無ければ、自分が工藤邸に来るのは翌日。それまで昴が倒れたままだったら——。考えただけでゾッとする。
連絡をくれたコナンには感謝しかない。
慌てて駆け寄った時、高熱でうなされていた昴はずっとりおの名を呼んでいた。
(自分がそばに居ればこんなことには……)
この時初めて、りおは工藤邸を出たことを後悔した。
(ごめんね、秀一さん。良くなるまでずっとそばにいるよ)
りおはそっと赤井の頬にキスを落とした。
***
赤井の熱はなかなか下がらない。
ハァハァと呼吸も荒く苦しそうだ。時々口移しで水分を取らせる以外、ほとんど眠っている。
りおはその宣言通り、ずっと赤井のそばにいた。
氷水ですすいだタオルを何度となく替え、水分を取らせ、手を握る。
途中、自身の着替えをするためにシャワーを浴びた以外はほとんど眠らず、食事もとらず、赤井のそばから離れなかった。
金曜の夕方、再び新出先生が往診に来てくれた。
薬が効いてきているので、明日辺りには熱も下がると言われ、ホッと胸を撫で下ろす。
「さくらさん、ずっと看病されているのですか? 寝てないでしょう。あなたが倒れてしまいますよ」
新出先生がさくらの顔を見て、心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですよ。私もだいぶ体力付きましたから」
さくらはニッコリ微笑んで応えた。
「まあ、あまり無理しないように。そういえば、この男性……今思い出しましたけど、前にお会いした事がありましたよね。
確か、さくらさんが認知行動療法で3日ほど目を覚まさなかった時に。
沖矢さんと朝晩交代で付き添っていらっしゃった。その時、さくらさんの遠縁の方だとおっしゃっていましたね」
(あ~…確かに以前昏睡から覚めた時、昴さんではなく、秀一さんがベッドサイドにいたなぁ…)
さくらはその時の事を思い出した。
さっきは慌てていたので、何も考えず《親戚》と言ってしまったが、伝えた情報が以前とさほどズレていなかったことに、ひとまず安堵した。
「それはそうと、沖矢さんはどうされたのですか?」
いつもいる昴がおらず、遠縁だという男性が工藤邸で寝込んでいる。
先生が不思議がるのも当然だ。
「あ~…彼はご実家に…。たまには顔見せに来いってご両親に言われたみたいで。
それで、久しぶりに会わないかって、親戚の彼が訪ねて来たんですけど、そのまま倒れてしまって……」
さくらは目を泳がせながら、適当に取り繕った。
「そうですか。彼が居なくて幸か不幸か……。
あなたがこの男性を寝ないで看病しているなんて知ったら、沖矢さんかなり嫉妬しますよ」
「は…ははは…」
(その沖矢さんが、この寝込んでる男性なんだけどね…)
さくらは心の中でつぶやいた。
「でもまあ、ご親戚ならヘンに疑わないか……」
先生はずいぶん彼の嫉妬を心配していた。
(先生の中で昴さん、どんなイメージなのよ)
さくらは半目になって笑うしかなかった。
土曜日明け方早く
赤井はベッドの上で上半身を起こしていた。
ベッドサイドではりおがスツールに座ったまま、ベッドに突っ伏して眠っている。
彼女の手はまるでしもやけを作ったように赤くなっていた。
「ホントに…ずっとそばにいてくれたのか…」
手を伸ばし、そっとりおの頭に触れる。
優しく撫でると「ぅん…」と声が聞こえた。
パチリ
りおの目が勢いよく開いた。
「あ、寝ちゃった…」
慌てて体を起こすと、優しく微笑む赤井と目が合った。
「あ…秀一…さん」
「おはよう、りお」
クスクスと笑いながら赤井は声をかけた。
「熱…下がったの?」
「ああ。お前のおかげですっかり良くなったよ」
「良かった…!」
そうつぶやいたりおの目には、涙がにじんでいた。
「何か食べられそう? おかゆ作ってきましょうか?」
「ああ。頼むよ。土鍋で作ったヤツ。前に食べた時すごく美味かった」
「ふふふ。ケガして熱出した時ね。分かったわ。すぐ作ってくるから」
そう言ってりおは立ち上がり、赤井の部屋から出て行った。
その後、赤井はりおが作ったお粥を食べ、
シャワーを浴びるとダイニングへと顔を出した。
食器を洗い終わったりおが、赤井の顔を見て微笑む。
「ふふ。すっきりした顔してる。でも油断禁物よ。
ベッドのシーツ替えておいたわ。もう少し横になっていたら?」
「ベッドに横になるなら、りおも一緒がいい。お前だってずっと寝ないで、看病してくれていたんだろう?」
赤井はりおに近づくとそっとその体を抱き
しめた。
「ッ!? お前…熱くないか?」
赤井は慌てて体を離し、りおを見る。熱があるのかりおの顔がかなり赤い。
「え? そうかな? 寝不足のせいじゃない?」
「寝不足だけでこんなに熱い訳ないだろう!」
そういうが早いか、そのままりおの手を引き、部屋へと連れ込んだ。
「一緒に寝るぞ」
「え?」
「今度は俺が看病する。だが俺もまだ本調子じゃない。まずは一緒に寝る」
ベッドに二人で潜り込んだ。
「やはりうつしてしまったな。すまない」
「ううん。気にしないで。結局私、何も出来なかったの。ひたすら冷やして…手を握ってあげることしか出来なかったわ」
熱で火照ったりおの手が、赤井の顔に触れる。
「良いんだ。それが何より……」
「え?」
「あ、いや…なんでもない」
赤井はりおの手に自分の手を重ねた。
(お前がずっとそばにいてくれたという事実が、どれほど俺を喜ばせているか…お前は知らないだろう…)
そばにいてくれとは言えなかった。
りおを困らせたくは無かったから。
でも・・・りおはいてくれた。
それだけで……それだけで心が満たされる。
赤井はりおを抱きしめると、二人はくっついたまま眠った。
午前中こそ、りおは38℃以上の熱があったが、夕方には37度台前半まで落ち着いた。
沢山眠って汗をかいた為、りおはシャワーを浴びる。
すっきりした顔でリビングへと戻ってきた。
「不思議ね~。秀一さんはだいぶ酷かったのに、私はもうこのまま治っちゃいそうよ」
冷えたミネラルウォーターを飲みながら、りおは赤井に話しかけた。
「りお……。怒らないで聞いてくれるか?」
「ん? なあに?」
美味しそうに水を飲むりおに、赤井はバツが悪そうに声をかける。
「今回の風邪、子どもより大人の方が酷くなる傾向があるらしいぞ。つまり俺は大人だったから酷くなったが…。りおは…子どもだったって事かな」
そこまで言うとニヤニヤと笑い出す。
「えぇっ!?」
目をテンにして驚いているりおの顔を見て、赤井は大笑いした。
「小学1年生の歩美ちゃんですら、二日も学校休んだらしい。それより軽く済んだお前は…いったいいくつなんだろうな」
「秀一さん、ひど~い!」
頬を膨らませて怒るりおを見て、赤井はさらに笑った。
後日——
赤井と同じことを少年探偵団の皆に言われ、
少々自信を無くしたりおだった。
===おまけ===
「でも、考えようによっては、『若い』って事じゃない? 秀一さんは『年寄り』って事だよ」
「お前のそのポジティブな考え方、嫌いじゃないが。俺を年寄り扱いするのは如何なものか……」
「さくらさん。自分を『若い』って言ってる時点でアウトなんじゃ……」
「ん? コナンくん。何か言ったかな?」
「ひぇ! な、何でもナイ…デス…」
「ボウヤ、29歳はデリケートなお年頃だ。言葉には気を付けた方が良い」
「秀一さぁ~ん…何か言いました~ぁ??」
「しまった。さくらを怒らせてしまった。あ、あ~あ……。マズイ。また熱が出てきたようだ……」
「赤井さん……早く謝っちゃいなよ」