ペリドットとアンバー短編集
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「あれ? 元太のヤツ今日休みか?」
学校に登校したコナンは、元太の席が空いている事に気付いた。
「ええ。そうみたいですよ。昨日ずいぶん咳をしていましたからね」
マスクをした光彦が、ランドセルを下ろしながら応える。
ここ数日、帝丹小学校では風邪が流行っており、学校を休む者が後を絶たない。
「朝晩は寒くなってきたし気を付けないと」
そういって自席についた哀も、マスクをしている。
「まずは予防が大切よ。江戸川君もマスクした方が良いわ」
「あ、ああ。そういえば歩美は? 昨日休んでいたよな?」
「吉田さんなら今日もお休み。まだ熱が下がらないんですって」
いつもは元気な少年探偵団も、流行りものの風邪には敵わないようだ。
「そういえば元太のヤツ、昨日咳しながら昴さんのところに行ってたよな……」
風邪を引いていても腹は減るらしく、昴の所へカレーを食べに押しかけていた。
「今回の風邪、子どもより大人の方がひどくなりやすいみたいだから。昴さんにうつしてなければ良いけどね」
哀は机に頬杖を突きながらつぶやいた。
ゴホッゴホッゴホッ!
昴は捜査資料をいくつか机に並べ、読み始めたものの咳が止まらない。
今日はタバコも不味く感じ、朝1本吸っただけだ。
「昨日元太君が咳をしていたな……。風邪を貰ったか…」
とはいっても、今のところのどの痛みと咳だけで体調にはさほど変化はない。
大人は子どもほど酷くはならないし、自分は鍛えているので咳だけで済むだろうと、この時は軽く考えていた。
いよいよおかしいと思い始めたのは、昼前だった。頭はガンガンしてくるし、読んでいる資料も霞んで見えない。
これはマズイな、と思って書斎のイスから立ち上がった時、酷いめまいに襲われた。
デスクに手をついたものの力が入らず、上下の感覚も分からなくなった。
「う…ッ…」
ドサッ!
そのまま崩れるように倒れた。ハァハァと自分の呼吸がうるさい。
なんとか目を開けると、グラグラと回る視界の中に自分の手が見える。その指先を動かすことも億劫だ。当然、起き上がる事も出来ない。
「しくじったな…」
まさかこんなに急激に悪くなるとは思わなかった。今この家には自分一人しかいない。スマホはデスクの上だ。助けを呼ぶことも叶わない。
仕方がない。落ち着くまで、このままここで寝てしまおう。
(こんな時、りおが居ればな……)
昴はそんなことを考えながら、目を閉じた。
「さ……さ…ん…すば…さ…」
「?」
遠くで自分を呼ぶ声がして、昴は重いまぶたを開ける。
「昴さんッ! しっかりして!」
目の前には必死の形相のりおがいた。
「りお……? な…んで…」
今日は木曜日。りおが来るのは明日だ。日付が変わるほど寝ていたのか?
昴は回らない頭で考えた。
「コナンくんから元太君が風邪で休んでるってお昼にメールがあったの。
昨日元太君が工藤邸に遊びに行ってたから、一応昴さんに連絡してみてって。
それで何度かメールしたり電話したけど反応が無いし、心配で来てみたら……」
りおはそう言いながら昴の額に手を当てる。
「すごい熱! 博士を呼んですぐ寝室に運ぶから。ちょっと待ってて」
りおはスマホを出すとすぐに博士と連絡を取った。
博士と話すりおの声が、ぼんやりと遠くに聞こえる。声が聞こえる距離に居ると思うだけで安心した。
思わず昴は、声のする方へ手を伸ばした。
電話をしながら、りおはその手を握る。
冷たい彼女の手が心地良い。
相変わらず頭がガンガンして天井がゆらゆらと揺れるようなめまいはあるが、心は満たされていく。
そのまま闇に吸い込まれるように、昴は意識を手放した。
二時間後——。
赤井の部屋にタオルをすすぐ音が響く。
変装を解き、ベッドで眠る赤井はハァハァと荒い呼吸を繰り返している。
りおは絞ったタオルでそっと顔の汗を拭うと、それを額に乗せた。
昴の意識が無くなった後、駆けつけた博士と相談して昴の変装を解き、新出先生に電話をした。
ヘタに変装がバレた方が面倒だからだ。
とりあえず先生には、りおの親戚だと説明した。
診察の結果、やはり元太から感染したらしい。連日猛威を振るっている風邪で間違いないと言われた。
「私の時も、きっとこんな気持ちでずっとそばに居てくれたのね……」
数か月前の事を思い出し、それを懐かしむ様にりおは赤井の顔を見つめる。
「…ん…」
小さな声を発して、赤井の目が薄っすらと開いた。
「秀一さん?」
優しく名を呼んで顔を覗き込んだ。
「りお?」
いつもより弱々しい小さな声で、りおの名を呼ぶ。
「気分はどう?」
「ん…めまいは…少し治まった…かな…」
部屋の中を見回し、赤井は応えた。
ふわふわした感じはあったが、上下感覚が分からなくなるような強烈なめまいは無い。
「良かった……。少し水分を取れるかしら? 体を起こせる?」
りおが赤井の背中に腕を差し入れ、起こそうとする。だが、すぐに赤井の表情が歪んだ。
「だ、ダメだ。くらくらする…」
「やっぱりムリか……。じゃあ、仕方ない。昴さん方式で飲ませますか」
「え? すば…?」
りおはペットボトルのフタをパキッと開けると、自分の口の中に水を流し込んだ。
ペットボトルをベッドサイドに置き、赤井の唇に自身の唇を押し付ける。
ゆっくりと赤井の口の中へ水を注いだ。
「んっ…ん…ん…」
初めは驚いた赤井だったが高熱で水分を失った体は、りおから与えられる水分を貪欲に欲した。
何度か繰り返すうちに赤井のめまいも落ち着く。
「脱水もあったから、めまいが酷かったのかもね」
りおはそう微笑むと、再びタオルを氷水ですすいで赤井の額に乗せた。
「今更だが……口移しで俺に水を飲ませて…お前にまで風邪がうつってしまうぞ」
赤井は腫れぼったい目でりおを心配そうに見つめる。
「いいよ。秀一さんからの風邪なら私が引き受けるから。そしたら秀一さんが看病してね」
りおは気にしない、とでも言うようにニッコリ微笑む。その笑顔を見て赤井は嬉しい反面、少し切なくなった。
(この笑顔がずっとそばにあれば良いのに…)
でもそれは自分のわがままだと知っている。
今日はまだ木曜だ。りおはまだ仕事がある。今日会えただけでも良かったじゃないか。
あと一日我慢すれば…。明日の夜にはまた会える。
赤井はそう自分に言い聞かせて、りおの方へ顔を向けた。
『今日はもう大丈夫。お前は大学に戻れ』
そう声をかけるつもりだった。
それよりわずかに早く、りおが口を開く。
「さあ少し眠って? ずっとそばにいるから」
りおの言葉を聞いて赤井は驚いた。
「そばに…居てくれるのか? だが仕事は?」
目を見開き、心配そうにりおを見る。
「大丈夫よ。このまま…ここにいるわ」
りおはそっと赤井の頬に触れた。高熱でかなり熱い。
りおの手が冷たくて気持ち良いのか、赤井はその手に自分の手を重ね目を閉じる。
「りお……ずっと…そば…に……」
そう言いかけて、赤井はスーッと眠りに落ちた。
学校に登校したコナンは、元太の席が空いている事に気付いた。
「ええ。そうみたいですよ。昨日ずいぶん咳をしていましたからね」
マスクをした光彦が、ランドセルを下ろしながら応える。
ここ数日、帝丹小学校では風邪が流行っており、学校を休む者が後を絶たない。
「朝晩は寒くなってきたし気を付けないと」
そういって自席についた哀も、マスクをしている。
「まずは予防が大切よ。江戸川君もマスクした方が良いわ」
「あ、ああ。そういえば歩美は? 昨日休んでいたよな?」
「吉田さんなら今日もお休み。まだ熱が下がらないんですって」
いつもは元気な少年探偵団も、流行りものの風邪には敵わないようだ。
「そういえば元太のヤツ、昨日咳しながら昴さんのところに行ってたよな……」
風邪を引いていても腹は減るらしく、昴の所へカレーを食べに押しかけていた。
「今回の風邪、子どもより大人の方がひどくなりやすいみたいだから。昴さんにうつしてなければ良いけどね」
哀は机に頬杖を突きながらつぶやいた。
ゴホッゴホッゴホッ!
昴は捜査資料をいくつか机に並べ、読み始めたものの咳が止まらない。
今日はタバコも不味く感じ、朝1本吸っただけだ。
「昨日元太君が咳をしていたな……。風邪を貰ったか…」
とはいっても、今のところのどの痛みと咳だけで体調にはさほど変化はない。
大人は子どもほど酷くはならないし、自分は鍛えているので咳だけで済むだろうと、この時は軽く考えていた。
いよいよおかしいと思い始めたのは、昼前だった。頭はガンガンしてくるし、読んでいる資料も霞んで見えない。
これはマズイな、と思って書斎のイスから立ち上がった時、酷いめまいに襲われた。
デスクに手をついたものの力が入らず、上下の感覚も分からなくなった。
「う…ッ…」
ドサッ!
そのまま崩れるように倒れた。ハァハァと自分の呼吸がうるさい。
なんとか目を開けると、グラグラと回る視界の中に自分の手が見える。その指先を動かすことも億劫だ。当然、起き上がる事も出来ない。
「しくじったな…」
まさかこんなに急激に悪くなるとは思わなかった。今この家には自分一人しかいない。スマホはデスクの上だ。助けを呼ぶことも叶わない。
仕方がない。落ち着くまで、このままここで寝てしまおう。
(こんな時、りおが居ればな……)
昴はそんなことを考えながら、目を閉じた。
「さ……さ…ん…すば…さ…」
「?」
遠くで自分を呼ぶ声がして、昴は重いまぶたを開ける。
「昴さんッ! しっかりして!」
目の前には必死の形相のりおがいた。
「りお……? な…んで…」
今日は木曜日。りおが来るのは明日だ。日付が変わるほど寝ていたのか?
昴は回らない頭で考えた。
「コナンくんから元太君が風邪で休んでるってお昼にメールがあったの。
昨日元太君が工藤邸に遊びに行ってたから、一応昴さんに連絡してみてって。
それで何度かメールしたり電話したけど反応が無いし、心配で来てみたら……」
りおはそう言いながら昴の額に手を当てる。
「すごい熱! 博士を呼んですぐ寝室に運ぶから。ちょっと待ってて」
りおはスマホを出すとすぐに博士と連絡を取った。
博士と話すりおの声が、ぼんやりと遠くに聞こえる。声が聞こえる距離に居ると思うだけで安心した。
思わず昴は、声のする方へ手を伸ばした。
電話をしながら、りおはその手を握る。
冷たい彼女の手が心地良い。
相変わらず頭がガンガンして天井がゆらゆらと揺れるようなめまいはあるが、心は満たされていく。
そのまま闇に吸い込まれるように、昴は意識を手放した。
二時間後——。
赤井の部屋にタオルをすすぐ音が響く。
変装を解き、ベッドで眠る赤井はハァハァと荒い呼吸を繰り返している。
りおは絞ったタオルでそっと顔の汗を拭うと、それを額に乗せた。
昴の意識が無くなった後、駆けつけた博士と相談して昴の変装を解き、新出先生に電話をした。
ヘタに変装がバレた方が面倒だからだ。
とりあえず先生には、りおの親戚だと説明した。
診察の結果、やはり元太から感染したらしい。連日猛威を振るっている風邪で間違いないと言われた。
「私の時も、きっとこんな気持ちでずっとそばに居てくれたのね……」
数か月前の事を思い出し、それを懐かしむ様にりおは赤井の顔を見つめる。
「…ん…」
小さな声を発して、赤井の目が薄っすらと開いた。
「秀一さん?」
優しく名を呼んで顔を覗き込んだ。
「りお?」
いつもより弱々しい小さな声で、りおの名を呼ぶ。
「気分はどう?」
「ん…めまいは…少し治まった…かな…」
部屋の中を見回し、赤井は応えた。
ふわふわした感じはあったが、上下感覚が分からなくなるような強烈なめまいは無い。
「良かった……。少し水分を取れるかしら? 体を起こせる?」
りおが赤井の背中に腕を差し入れ、起こそうとする。だが、すぐに赤井の表情が歪んだ。
「だ、ダメだ。くらくらする…」
「やっぱりムリか……。じゃあ、仕方ない。昴さん方式で飲ませますか」
「え? すば…?」
りおはペットボトルのフタをパキッと開けると、自分の口の中に水を流し込んだ。
ペットボトルをベッドサイドに置き、赤井の唇に自身の唇を押し付ける。
ゆっくりと赤井の口の中へ水を注いだ。
「んっ…ん…ん…」
初めは驚いた赤井だったが高熱で水分を失った体は、りおから与えられる水分を貪欲に欲した。
何度か繰り返すうちに赤井のめまいも落ち着く。
「脱水もあったから、めまいが酷かったのかもね」
りおはそう微笑むと、再びタオルを氷水ですすいで赤井の額に乗せた。
「今更だが……口移しで俺に水を飲ませて…お前にまで風邪がうつってしまうぞ」
赤井は腫れぼったい目でりおを心配そうに見つめる。
「いいよ。秀一さんからの風邪なら私が引き受けるから。そしたら秀一さんが看病してね」
りおは気にしない、とでも言うようにニッコリ微笑む。その笑顔を見て赤井は嬉しい反面、少し切なくなった。
(この笑顔がずっとそばにあれば良いのに…)
でもそれは自分のわがままだと知っている。
今日はまだ木曜だ。りおはまだ仕事がある。今日会えただけでも良かったじゃないか。
あと一日我慢すれば…。明日の夜にはまた会える。
赤井はそう自分に言い聞かせて、りおの方へ顔を向けた。
『今日はもう大丈夫。お前は大学に戻れ』
そう声をかけるつもりだった。
それよりわずかに早く、りおが口を開く。
「さあ少し眠って? ずっとそばにいるから」
りおの言葉を聞いて赤井は驚いた。
「そばに…居てくれるのか? だが仕事は?」
目を見開き、心配そうにりおを見る。
「大丈夫よ。このまま…ここにいるわ」
りおはそっと赤井の頬に触れた。高熱でかなり熱い。
りおの手が冷たくて気持ち良いのか、赤井はその手に自分の手を重ね目を閉じる。
「りお……ずっと…そば…に……」
そう言いかけて、赤井はスーッと眠りに落ちた。