ペリドットとアンバー短編集
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「昴さん、ただいま~」
「お帰りなさい、りお」
いつも通り大学での仕事を終えたりおは、週末工藤邸へとやってきた。
「ん~。良いにおい……。今日はおでん?」
「正解です」
ふふっと昴が笑う。
「今日は夕食の前に入浴を済ませてくださいね」
「え? お風呂が先? どうしてですか?」
今までにない提案に、りおは不思議そうに訊ねる。
「今日は一緒に飲みませんか? 今までりおはお酒が飲めないと思っていましたけど、どうやら飲めるようですし」
そういえば赤井の髪を切った報酬に、バーへ連れて行ってもらったことがある。
《短編『ヘアカット(カクテル)』より》
りおはその時の事を思い出し、思わず顔を赤くした。
「また昴さんの手をモミモミするかもよ」
恥ずかしそうに目を泳がせた。
「他人の手は困りますが、私の手ならいくらでも揉ませますよ」
対照的に昴は嬉しそうに微笑んだ。
「ただ、あなた酔うと眠くなるでしょう? 前回バーから帰宅してお風呂に入ったまま…大変なことになったでしょ」
「あはは…そういえば…そうでした」
前回二人でバーに行き、酔って帰宅してソファーでほんの少し寝落ちして……。
そのあと昴が止めるのも聞かずお風呂に入り、そのまま湯船で寝てしまっていた。
お風呂に入ったまま音沙汰が無くなり、心配した昴が浴室のドアを開けた瞬間——。
気配を察したりおは、すぐさま目を開けたのだが、寝ぼけていたせいもあって彼に盛大にお湯をぶっかけたのだった。
「酔っていても公安の精鋭。部屋の侵入者にすぐさま目を覚ますのはさすがですが、あんなにお湯をぶっかけなくても…。おかげで一気に酔いがさめました」
「ご、ごめんね……」
りおは体を小さくして謝った。
「ま、今回は平和に飲みたいので。先に入浴を済ませましょう」
「ははは…了解デス……」
りおはバツが悪そうに答える。昴に促され、すぐにバスルームへと向かった。
二人とも入浴を済ませ、いつもより早く変装を解いた赤井は、ダイニングテーブルにおでんの鍋を置いた。
先に入浴を済ませていたりおは、小鉢を一品と軽めのおつまみを用意していた。
「今日実は、博士から日本酒を戴いたんだ」
そう言って赤井は一升瓶を持ってきた。
「おでんの具を色々入れたら、本当にすごい量になってしまって…。今回は真面目にお裾分けに行ったんだよ」
『真面目にお裾分け…』普段のお裾分けが口実だと白状しているようで、思わずりおは笑う。
「あ~……。博士は哀ちゃんに《飲酒》止められているもんね」
博士の健康管理を一手に引き受けるツワモノがそばに居るので、博士はだいぶ好きなものを我慢している。
徹底したカロリー計算と運動管理。さすが理系女子である。
「ここにあっても目の毒だからと言ってね」
グラスを2つ用意しながら、赤井は上機嫌だ。
「おでんと日本酒だなんて、屋台みたいね」
りおはドラマで観るような、小さな屋台を想像して笑う。
トクトクとグラスに日本酒をつぐと、二人で小さく『乾杯』とグラスを突き合わせた。
一口日本酒を味わう。
「ん! これは…美味いな…」
赤井は目を丸くした。
「ホント! すっきりしていて…でも繊細で…」
りおもあまりの美味しさにため息が出た。日本酒に詳しいわけでは無いが、すっきりと後味が良く、芳醇でいくらでも飲めそうだ。
次に、りおは鍋からおでんを取り分けると、一口大根を食べた。
「わ! 美味しい…。秀一さん、お店出せるわよ」
「そうか? じゃあ、FBIをクビになったら考えるとするか」
りおに褒めてもらって、嬉しそうに赤井は答えた。
それからふたりはおでんをつつきながら、楽しくおしゃべりをした。
思いのほかお酒も進む。
特に赤井は日本酒が気に入ったらしく、結構なペースで飲んでいた。
「それで、元太君がね……」
少年探偵団の話をしている時だった。
ふと赤井の顔を見てりおは驚いた。
「えっ?! 秀一さん…酔ってる?」
赤井の目がトロンとしていることに気付いた。
「ん~~。酔った…かな? でも、日本酒って…ウィスキーより…度数…低いんだろ?」
心なしか赤井のおしゃべりもゆっくりだ。
「確かにそうだけど…。口当たりが良いからたくさん飲めちゃうのよ。量を飲めば、そりゃ酔っぱらうでしょう?」
赤井に声をかけながら、一升瓶を手に取る。
「え? もうこんなに? 結構飲んでるよね?!」
「あれ…? そうだっけか? 美味いし、りおと話してると楽しいし…気付かなかったな…」
赤井はすでにベロベロのようだ。
「だ、大丈夫?」
りおは赤井の肩に手をかけ、顔を覗き込んだ。
「大丈夫じゃ…ないな…」
体をゆらゆらと揺らしながら、赤井はりおを見る。酔っているせいか、ペリドットの瞳がわずかに潤んでいた。
「だって…《りお》不足だ」
そういってりおの肩に頭をつける。子どものように甘える赤井の体を、りおはそっと抱きしめた。
「私不足?」
「ん……。りおが居ないのは…寂しい。俺が毎日寂しい思いをしてるの……お前知らないだろ」
酔って自制が効かないらしく、いつもは決して口にしない赤井の本音が飛び出した。
「秀一さん…私が居なくて寂しいの?」
りおは赤井の本音を聞ける、またとないチャンスだと思った。
「……寂しくない…」
「え? どっちなの……」
「うそ。寂しい。すごく。お前がここを出ていって…一人ってこんなに寂しかったのかって思い知ったんだ」
りおが赤井の顔を覗き込む。赤井は視線を落とし、伏し目がちに話した。長いまつげが酔った目元を隠す。
そんな赤井の姿を、りおは真剣に見つめる。
「でも、お前の気持ちもすごーく分かるから。これで良いんだよ」
赤井はりおの顔を見て、ニッと微笑んだ。
「秀一さん…!」
思わずりおは赤井を強く抱きしめた。そのまま目を閉じる。
「お! りおが甘えて来たぞ」
顔は見えないが嬉しそうな声だった。りおはそっと顔を上げ、赤井を見る。
ふにゃっと、いつもなら絶対しないような柔らかい笑顔をりおに向けた。
そんな笑顔を見て、なんて声をかけて良いのか分からない。
(私の気持ちを最優先して…自分の本音は二の次で……)
りおは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「そんな顔…するな…」
「え?」
「俺は…お前に笑ってて欲しいんだ…」
今度は赤井が、ぎゅぅっと強くりおの体を抱きしめた。
「あ~~。俺…酔ってるな~~」
「うん。ベロベロの秀一さん、初めて見たよ」
「見たかったんだろう?」
赤井は上機嫌な様子でふふっと笑った。
りおは少し切ない気持ちになって、思わずその顔に触れた。
「りお…俺にもっと触って?」
「え?」
「お前に触れられたところ…気持ちいい…」
アルコールで火照った体に、体温の低いりおの手は心地よかった。
今度は赤井がりおの頬に触れる。そのままその手をりおの後頭部へと滑らせると、唇を合わせる。
「…ん…ぁ…ッん」
いつもより熱く性急なキスに、りおの体も反応した。
「ベロベロに酔うと…抑制が効かなくなると…言ったよな…」
「あれって…本当だったの?」
バーで交わした言葉。
ウソだって言ってたくせに。
「ふふ。お前に関してだけは…本当…」
りおの耳元でそっとつぶやく。そのまま首筋に強く吸い付いた。
「あっ…」
明らかに色のある声に、赤井はゾクリとした。再び強く抱きしめる。
「…りお……りお…ッ…俺の…りお…」
「!」
赤井が小さくつぶやいた言葉に、りおは目を見開く。
「私は…とっくにあなたのもの…よ」
「?!」
そっと赤井の耳元でささやいた。
「りお」
「ん?」
「ダメだ」
「え?」
「我慢できない」
「へ?」
「このままここでお前を抱く」
「ええっ!! ちょ、ちょっと待った! せめてベッドに……」
「やだ」
「やだって…こ、子どもじゃないんだから…」
りおの制止も聞かず、ちゅっちゅっと顔や首にキスをしてくる。
(ベロベロになると普段抑制している分、素直になるというか…ブレーキが効かなくなるというか…子どもみたいね)
キス魔になった恋人を見て、りおは愛おしそうに頭を撫でた。
「分かったわ。今日はうんとあなたを甘やかしてあげるから。だから…続きはベッドで」
洗いたての髪を優しくすきながら、声をかけた。それを聞いて赤井の動きが止まる。
「りお。ベッド行こ」
フラフラと立ち上がり、りおの手を引いた。
「ふふふ。素直でよろしい」
二人で手をつないで、ベッドルームへ向かった。
翌朝——。
「…ん~…」
赤井は痛む頭を押さえて起き上がった。
「ッ! ぃたた…! 夕べの日本酒…さすがに飲み過ぎたか…」
二日酔いになるほど飲んだのは久しぶりだな、とひとり言を言いながら辺りを見回した。
隣で眠るりおを見て、夕べのやり取りを断片的に思い出す。
「?!」
サ~ッと血の気が引いた。
「ん……あれ、秀一さん…おはよ」
りおも目を覚ました。赤井はりおの体を見て、ギョッとする。
「あ~…りお。それ全部…俺…だよな?」
「秀一さんじゃなかったら、大問題よね?」
体中につけられたキスマークを見て、りおはクスクスと笑う。
「長男って甘え慣れていないのかしら?
あんなカワイイ秀一さん…初めて見たわよ」
「え? いや…その……カワイイ?」
記憶が断片的にしかない赤井は、訳が分からずしどろもどろになる。
「大丈夫。私しか知らないから」
りおはそう言って赤井の頬にキスをした。
「さて! シャワー浴びて、ダイニング片付けて朝食にしましょう」
りおはシャツだけ羽織ると、ベッドから抜け出し、立ち上がった。「え? え? カワイイって? どういうことだ? いや、記憶にあるような…無いような…。
ちょ…ちょっとりお…。詳しく聞かせ……」
「聞いたら後悔するかもよ~」
「…俺はいったいどんな醜態をさらしたんだ…?」
日本酒の怖さを知った赤井だった。
==おまけ==
「なあ、俺はお前の前では《かっこいい男》でいたいんだよ…」
「うん。秀一さんはかっこいいよ。時々カワイイ!」
「いや、だから…カワイイって言うのやめて欲し……」
「ベロベロになるとすっごい甘えたになるのね~。もう『りお~りお~』ってずっと…」
「!!!」
「あ、動揺しすぎて布団かぶっちゃった。まるで貝ね…」
「もう俺…今日は布団から出ない…」
「え~~…そうなの? これからりおさんが飛び切り美味しい朝食を作りますけど…秀一さん、食べますか?」
「……食べる……」
(そういうところがカワイイって言ったら、今度こそ布団から出てこないな…)