ペリドットとアンバー短編集
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とある月曜の早朝——河川敷。
さくらはハロを連れて散歩をしていた。天気が良く空気は少し冷たい。
「は~っ」と吐く息は少し白かった。
「ふ~。朝はだいぶ寒くなったわね~。ハロは寒くないの?」
足元を歩く今日の相棒は「アン!」と元気に返事をして軽快に歩く。
「ふふ。ハロはいつでも元気ね!」
さくらは彼の後姿を見ながら微笑んだ。
すると突然、土手の下から「さくらさん!」と声をかけられた。
声のする方へ視線を移すと、スポーツウェアを着て首にタオルをかけたキャメル捜査官が土手を駆け上ってきた。
「おはようございます、キャメルさん。これから小学校ですか?」
「ええ、そうです」
キャメルは体づくりのため、毎日ランニングをしている。朝は哀の警護がてら、通学路を走るのが日課だ。
「いつもこんな所まで走り込んでいるのですか?」
「いいえ、昨日ちょっと美味いものを食べ過ぎてしまって。それをチャラにするために、今日は少し長い距離をと思いまして」
キャメルは少し照れくさそうに、頭を掻きながら答えた。
「さくらさんこそ、ご自宅でワンちゃん飼っているのですか?」
足元で嬉しそうにしっぽを振るハロを興味津々で見る。
「ううん。私の子じゃなくて、知り合いのワンちゃんなの。仕事で今家を空けているから、代わりにお世話を頼まれてね」
そうなんですね~、としばらく他愛もない話をしていた。
「あ、そうだ。キャメルさん。ちょうどよかった」
さくらは突然そう言うと、キャメルにコソコソと耳打ちをした。
***
小学校周辺のランニングを終え、キャメルは一旦工藤邸へと顔を出した。
「今日も異常はありません。ただ、通学路の途中でビルの解体が始まるようです。
不特定の業者が出入りするようになりますから、しばらくは登下校時に注意が必要かと」
「分かった。ジョディにも伝えておいてくれ」
昴の姿をしているが、チョーカーの電源を切り、赤井の声で答えた。
「了解です」
キャメルはそう返事をすると、チラリと昴の顔を見た。
「ん? どうしたキャメル。俺の顔に何かついているか?」
「あ、いえ」
キャメルは慌てて姿勢を正した。
「その業者の事も一応ジョディに調べてもらってくれ。あと、しばらくは毎日報告を頼む」
「分かりました」
そう返事をして、キャメルは工藤邸を後にした。
その日の午前中にジョディは業者の事を調べ、キャメルもまた現場へと足を運んだ。
業者に紛れ、何か良からぬことを起こすことが可能かどうか、工事現場周辺を念入りに調べる。
現場で記入したメモとジョディからの報告書を持ち、キャメルが再び工藤邸を訪れたのは昼頃だった。
「キャメル、ご苦労だったな。ちょうど昼飯時だ。良かったら一緒にどうだ?」
資料を受け取った昴は、キャメルをダイニングへ行くよう促した。
「え? 私も良いんですか?」
昴(赤井)からの突然のお誘いに恐縮してしまう。
「まあ、お前が好きな肉物はあまりないが…味は保証するよ」
ダイニングのテーブルに並べられた食事を見て、キャメルは驚いた。
「こ、これ…全部赤井さんが…?」
野菜を中心に鶏肉や卵など、たんぱく質や脂質、ミネラルなどがバランスよく取れるよう、工夫されたメニューばかりだった。
「いいや、残念ながら作ったのはさくらだよ。
日曜日に作り置きをしていってくれるんだ。
煮込み料理ばかりじゃ水溶性のビタミンは取れないし、同じ調理法では栄養が偏るとか言ってな」
皿に取り分けてもらい、赤井と一緒に昼食を頂く。美味しそうに食べる昴の姿は、以前の赤井を知るキャメルにとって意外だった。
(こんなに食事を楽しむ人だったかな……)
自分が知っている赤井はタバコと酒、コーヒー、そしてバランス栄養食——食事は楽しむものというよりは《義務》のようだった。
(さくらさんの影響力…ハンパないな…)
変われば変わるものだと一人で感心していた。
木曜日。
連日報告に来ているキャメルは、昴の昼食の変化に気付く。
(今日はずいぶん質素だな)
ご飯に味噌汁、目玉焼きにレタスとトマトだった。
「すまんなキャメル。作り置きが底をついたから、今日は正真正銘俺の手作りだ」
「あ、赤井さんの手作り……」
それはそれで尊い。
キャメルは感動しながら昼食を食べた。
その日の夕方——
哀の帰宅を確認した後、昴は駅前でジョディと会った。
「はいこれ。調べた業者の追加分。今のところ特に怪しい事は無かったけど。一応目を通しておいて」
「ああ、分かった。助かるよ」
封筒から資料を取り出すと、ザッと文字を目で追う。そんな昴の横でジョディが声をかけた。
「ところで…。最近キャメルの様子がおかしいんだけど。何か知ってる?」
「キャメルが?」
ジョディの言葉に昴は驚いた表情を見せた。
「その様子だと、何にも気付いていなかったようね」
ジョディはあきれたようにため息をつく。
「それがね、コソコソと連絡を取っている人が居るようなの。なんか嬉しそうに話をしているんだけど…」
「コソコソ?」
昴は顎に手を当てて考えた。
「ええ。最近一人で出ることも多くて…。ジェームズが『いよいよ彼にも春が来たか』って嬉しそうに言うし…」
「ふーん」
ジョディの話を聞きながら、昴はキャメルの最近の様子を思い出す。
特に気になる事は無かったが……。
(キャメルに好きな女が…。まあアイツもいい年をした男だ。大切な存在が居ると言う事は悪いことでは無い)
ジェームズが嬉々としてジョディに話をする様が容易に想像できて、思わず昴の口元が緩む。
「まあ、良いんじゃないか。そういう相手が出来たなら、俺たちも応援してやろう」
ジョディに笑いかけると、じゃあなと言ってその場を立ち去った。
ジョディと別れてしばらくすると、昴は駅のバスターミナルでガタイの良い男の後姿を見つけた。
「ん? あれは…キャメルか?」
よく見ると、間違いなく自分の同僚だった。
そわそわしていて、明らかに誰かを待っているようだ。
(待ち合わせか? もしかしてキャメルの好きな女と?)
今しがた聞いたばかりの情報だ。会うヤツの顔くらい拝んでやろうと、昴はとっさに身を隠し様子を伺った。
しばらくすると、バスの待合に女性がやってきた。ワンピースを着て、可愛らしいニット帽をかぶっていた。帽子をかぶっているせいもあり、遠いので顔までは分からない。
キャメルは表情を緩め、心なしか顔が赤い。
さらに様子を伺っていると、待合のベンチに座って二人で何やら話し込んでいる。女性はメモ帳らしきものを出して、キャメルからの話をメモっているようだった。
(おいおい…まさか情報を横流ししているのではあるまいな)
キャメルがハニトラに掛かっているのでは、と急に心配になった。
金曜日。
いつも通り、報告をしに工藤邸にキャメルが来ると、昴は報告を聞きながらキャメルの様子を伺っていた。
なにやらしきりに時間を気にしている。
「キャメル。この後何かあるのか?」
「えっ? い、いえ。特には」
「ではなぜそんなに時間を気にしている?」
昴の指摘にキャメルはギクリと体を揺らす。
「そ、そんなことはありません。赤井さんの気のせいですよ」
「…。そうか。なら良いんだ」
昴はそれ以上は追及しなかった。一方のキャメルは——額から嫌な汗が出るのを感じた。
すでに恒例となった昼食を二人で食べ、キャメルは工藤邸を出た。
(この後、昨日の女性に会うつもりだな。一体何者だ? ハニトラに引っかかっているとは考えたくはないが…万が一の事もある。
正体を暴いた方が良さそうだ)
昴はキャメルが通りに出たことを確認すると、そっとあとを付けた。
今日は米花町の図書館に向かっているようだ。キャメルに気付かれぬよう、一定の距離を保ち尾行する。
鼻歌を歌いながら歩く彼の姿は、浮かれているように見えた。
(やれやれ…すっかり骨抜きにされているのか…)
昴は小さくため息をついた。
図書館の前にある公園に着くと、キャメルは園内のベンチに腰を下ろした。
昴は図書館の陰に隠れ、様子を伺う。
やがて昨日と同じ女性が現れた。だが、その女性を見て昴は驚く。
(な、なに?! あれは……りおじゃないか!)
キャメルとりおは並んでベンチに座ると、楽しそうに会話を始めた。
りおは、穏やかな表情で時折相槌を打ちながら話を聞いている。
キャメルは僅かに頬を赤くして、照れ笑いをしながら何かを伝えているようだった。
(まさか! キャメルが惚れた女って…りおなのか?!)
同僚が自分の恋人に恋?! ——な状況に昴は動揺を隠せない。
しかもそれを利用して、公安のさくらがFBIの情報を聞き出しているのか?
とりあえず、今ここで出て言ったら自分は何を口走るか分からない。
冷静になるために、一旦現場を離れることにした。
さくらはハロを連れて散歩をしていた。天気が良く空気は少し冷たい。
「は~っ」と吐く息は少し白かった。
「ふ~。朝はだいぶ寒くなったわね~。ハロは寒くないの?」
足元を歩く今日の相棒は「アン!」と元気に返事をして軽快に歩く。
「ふふ。ハロはいつでも元気ね!」
さくらは彼の後姿を見ながら微笑んだ。
すると突然、土手の下から「さくらさん!」と声をかけられた。
声のする方へ視線を移すと、スポーツウェアを着て首にタオルをかけたキャメル捜査官が土手を駆け上ってきた。
「おはようございます、キャメルさん。これから小学校ですか?」
「ええ、そうです」
キャメルは体づくりのため、毎日ランニングをしている。朝は哀の警護がてら、通学路を走るのが日課だ。
「いつもこんな所まで走り込んでいるのですか?」
「いいえ、昨日ちょっと美味いものを食べ過ぎてしまって。それをチャラにするために、今日は少し長い距離をと思いまして」
キャメルは少し照れくさそうに、頭を掻きながら答えた。
「さくらさんこそ、ご自宅でワンちゃん飼っているのですか?」
足元で嬉しそうにしっぽを振るハロを興味津々で見る。
「ううん。私の子じゃなくて、知り合いのワンちゃんなの。仕事で今家を空けているから、代わりにお世話を頼まれてね」
そうなんですね~、としばらく他愛もない話をしていた。
「あ、そうだ。キャメルさん。ちょうどよかった」
さくらは突然そう言うと、キャメルにコソコソと耳打ちをした。
***
小学校周辺のランニングを終え、キャメルは一旦工藤邸へと顔を出した。
「今日も異常はありません。ただ、通学路の途中でビルの解体が始まるようです。
不特定の業者が出入りするようになりますから、しばらくは登下校時に注意が必要かと」
「分かった。ジョディにも伝えておいてくれ」
昴の姿をしているが、チョーカーの電源を切り、赤井の声で答えた。
「了解です」
キャメルはそう返事をすると、チラリと昴の顔を見た。
「ん? どうしたキャメル。俺の顔に何かついているか?」
「あ、いえ」
キャメルは慌てて姿勢を正した。
「その業者の事も一応ジョディに調べてもらってくれ。あと、しばらくは毎日報告を頼む」
「分かりました」
そう返事をして、キャメルは工藤邸を後にした。
その日の午前中にジョディは業者の事を調べ、キャメルもまた現場へと足を運んだ。
業者に紛れ、何か良からぬことを起こすことが可能かどうか、工事現場周辺を念入りに調べる。
現場で記入したメモとジョディからの報告書を持ち、キャメルが再び工藤邸を訪れたのは昼頃だった。
「キャメル、ご苦労だったな。ちょうど昼飯時だ。良かったら一緒にどうだ?」
資料を受け取った昴は、キャメルをダイニングへ行くよう促した。
「え? 私も良いんですか?」
昴(赤井)からの突然のお誘いに恐縮してしまう。
「まあ、お前が好きな肉物はあまりないが…味は保証するよ」
ダイニングのテーブルに並べられた食事を見て、キャメルは驚いた。
「こ、これ…全部赤井さんが…?」
野菜を中心に鶏肉や卵など、たんぱく質や脂質、ミネラルなどがバランスよく取れるよう、工夫されたメニューばかりだった。
「いいや、残念ながら作ったのはさくらだよ。
日曜日に作り置きをしていってくれるんだ。
煮込み料理ばかりじゃ水溶性のビタミンは取れないし、同じ調理法では栄養が偏るとか言ってな」
皿に取り分けてもらい、赤井と一緒に昼食を頂く。美味しそうに食べる昴の姿は、以前の赤井を知るキャメルにとって意外だった。
(こんなに食事を楽しむ人だったかな……)
自分が知っている赤井はタバコと酒、コーヒー、そしてバランス栄養食——食事は楽しむものというよりは《義務》のようだった。
(さくらさんの影響力…ハンパないな…)
変われば変わるものだと一人で感心していた。
木曜日。
連日報告に来ているキャメルは、昴の昼食の変化に気付く。
(今日はずいぶん質素だな)
ご飯に味噌汁、目玉焼きにレタスとトマトだった。
「すまんなキャメル。作り置きが底をついたから、今日は正真正銘俺の手作りだ」
「あ、赤井さんの手作り……」
それはそれで尊い。
キャメルは感動しながら昼食を食べた。
その日の夕方——
哀の帰宅を確認した後、昴は駅前でジョディと会った。
「はいこれ。調べた業者の追加分。今のところ特に怪しい事は無かったけど。一応目を通しておいて」
「ああ、分かった。助かるよ」
封筒から資料を取り出すと、ザッと文字を目で追う。そんな昴の横でジョディが声をかけた。
「ところで…。最近キャメルの様子がおかしいんだけど。何か知ってる?」
「キャメルが?」
ジョディの言葉に昴は驚いた表情を見せた。
「その様子だと、何にも気付いていなかったようね」
ジョディはあきれたようにため息をつく。
「それがね、コソコソと連絡を取っている人が居るようなの。なんか嬉しそうに話をしているんだけど…」
「コソコソ?」
昴は顎に手を当てて考えた。
「ええ。最近一人で出ることも多くて…。ジェームズが『いよいよ彼にも春が来たか』って嬉しそうに言うし…」
「ふーん」
ジョディの話を聞きながら、昴はキャメルの最近の様子を思い出す。
特に気になる事は無かったが……。
(キャメルに好きな女が…。まあアイツもいい年をした男だ。大切な存在が居ると言う事は悪いことでは無い)
ジェームズが嬉々としてジョディに話をする様が容易に想像できて、思わず昴の口元が緩む。
「まあ、良いんじゃないか。そういう相手が出来たなら、俺たちも応援してやろう」
ジョディに笑いかけると、じゃあなと言ってその場を立ち去った。
ジョディと別れてしばらくすると、昴は駅のバスターミナルでガタイの良い男の後姿を見つけた。
「ん? あれは…キャメルか?」
よく見ると、間違いなく自分の同僚だった。
そわそわしていて、明らかに誰かを待っているようだ。
(待ち合わせか? もしかしてキャメルの好きな女と?)
今しがた聞いたばかりの情報だ。会うヤツの顔くらい拝んでやろうと、昴はとっさに身を隠し様子を伺った。
しばらくすると、バスの待合に女性がやってきた。ワンピースを着て、可愛らしいニット帽をかぶっていた。帽子をかぶっているせいもあり、遠いので顔までは分からない。
キャメルは表情を緩め、心なしか顔が赤い。
さらに様子を伺っていると、待合のベンチに座って二人で何やら話し込んでいる。女性はメモ帳らしきものを出して、キャメルからの話をメモっているようだった。
(おいおい…まさか情報を横流ししているのではあるまいな)
キャメルがハニトラに掛かっているのでは、と急に心配になった。
金曜日。
いつも通り、報告をしに工藤邸にキャメルが来ると、昴は報告を聞きながらキャメルの様子を伺っていた。
なにやらしきりに時間を気にしている。
「キャメル。この後何かあるのか?」
「えっ? い、いえ。特には」
「ではなぜそんなに時間を気にしている?」
昴の指摘にキャメルはギクリと体を揺らす。
「そ、そんなことはありません。赤井さんの気のせいですよ」
「…。そうか。なら良いんだ」
昴はそれ以上は追及しなかった。一方のキャメルは——額から嫌な汗が出るのを感じた。
すでに恒例となった昼食を二人で食べ、キャメルは工藤邸を出た。
(この後、昨日の女性に会うつもりだな。一体何者だ? ハニトラに引っかかっているとは考えたくはないが…万が一の事もある。
正体を暴いた方が良さそうだ)
昴はキャメルが通りに出たことを確認すると、そっとあとを付けた。
今日は米花町の図書館に向かっているようだ。キャメルに気付かれぬよう、一定の距離を保ち尾行する。
鼻歌を歌いながら歩く彼の姿は、浮かれているように見えた。
(やれやれ…すっかり骨抜きにされているのか…)
昴は小さくため息をついた。
図書館の前にある公園に着くと、キャメルは園内のベンチに腰を下ろした。
昴は図書館の陰に隠れ、様子を伺う。
やがて昨日と同じ女性が現れた。だが、その女性を見て昴は驚く。
(な、なに?! あれは……りおじゃないか!)
キャメルとりおは並んでベンチに座ると、楽しそうに会話を始めた。
りおは、穏やかな表情で時折相槌を打ちながら話を聞いている。
キャメルは僅かに頬を赤くして、照れ笑いをしながら何かを伝えているようだった。
(まさか! キャメルが惚れた女って…りおなのか?!)
同僚が自分の恋人に恋?! ——な状況に昴は動揺を隠せない。
しかもそれを利用して、公安のさくらがFBIの情報を聞き出しているのか?
とりあえず、今ここで出て言ったら自分は何を口走るか分からない。
冷静になるために、一旦現場を離れることにした。