ペリドットとアンバー短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大学の図書館で、さくらは教授の資料を作っていた。先日打ち合わせをした時に取ったメモを確認しながら、PCに打ち込んでいく。
カタカタとキーボードを叩く音が、切れ目なく聞こえていた。
そんなさくらの様子を一人の男がジッと見つめていた。
「蘭~! 今日はカフェでも寄って行かない? もうお腹すいちゃって~」
「園子ったら、ランチも結構食べてたじゃない。大丈夫なの?」
「平気平気! ホラ、最近リニューアルした駅前のカフェ行ってみようよ~」
「ホント園子の胃は底無しね…」
親友の食欲に蘭は苦笑いした。
下校を知らせるチャイムが鳴ると、蘭と園子は連れ立って駅前のカフェへと向かった。
目的のカフェに着くと、さすがはリニューアルしたてのカフェ。すでに行列ができている。
「ちょっと待つけど…これくらいならおしゃべりしているうちに入れちゃうね」
「まあ、そうね。メニューも出てるからゆっくり決められるわ。蘭は何にする?」
二人は行列の最後尾に並ぶ。
外に掲示してあるメニューを覗き込み、あれこれと相談していた。
「ん? ねえ…園子…あそこにいるの…さくらさんじゃない?」
「え? さくらさん?」
蘭は駅前の広場に立つ、さくらに似た姿を見つけた。
どうやら誰かと待ち合わせをしているようだ。
「昴さんとデートかな?」
蘭はわずかに頬を赤くしながら園子に声をかける。
「わお! 仕事上がりに駅で待ち合わせてデート? 今夜は二人でディナーかしら。大人って感じ~。
ん? でも待って。それなら大学で待ち合わせれば良いんじゃないの?」
「あ、そういえばそうよね。大学の方が新一の家からも近いし…」
「じゃあ、待ち合わせは昴さんじゃないのかな?」
二人でそんな会話をしている時だった。
さくらは一人の男性の姿を見つけると、笑顔で手を振った。
相手の男もさくらの姿を見つけると、小走りに近づいた。
二人は向かい合うと楽し気に会話をしている。
やがて男はさくらの肩に手を掛けて歩き出した。
「ね、ねえねえねえ! もしかしてすごい現場を目撃しちゃった? 私達!?」
「う、うん。あ、いやでも、前回の事があるから、さくらさんの友人とか、ご親戚とかかもしれないよ」
「それにしたって肩に手を掛けるって! 親密過ぎない? ちょっと蘭、追いかけるわよ!」
「え? 追いかける? カフェはどうするのよ?」
「そんなもん、明日でも良いわよ。ほら、行くよ!」
二人はカフェの行列から抜け出ると、さくらの後を追いかけて行った。
近づきすぎず、離れすぎず。二人はさくらを尾行する。
「そうだ。写真撮っておこう」
園子はスマホをカバンから取り出すと、親密そうに歩くさくらと男を撮影した。
「後ろ姿だけど…どう見てもさくらさんだよね」
「うん。それは間違いないと思うけど…」
「男は何者なんだろう?」
「若いよね。20代半ばってところ? 昴さんより年下っぽい」
二人は『まさかさくらさんが…』と内心ドキドキしていた。さくらが男とどこへ向かっているのか不安になる。
やがてさくらと男は公園に着くと、ベンチに座った。
何やら楽しくおしゃべりをしているようだった。
「やっぱりただの知り合いじゃないの?」
「う~ん。…そうは見えないけど…」
蘭と園子は公園の植え込みに隠れ、遠巻きに二人の様子を伺う。
すると男がさくらの頬に手を伸ばした。
「え?! ま、まさか…」
園子はスマホを二人に向ける。
カシャ カシャ カシャ
連続で撮った写真は、男がさくらの頬に触れているシーンと、二人の唇が重なる直前と、二人がキスをしているシーンが撮れた。
「ね、ねえ…キス…してたよね?」
「う、う、うん。し、してた」
「これは…決定ね。この写真、証拠として昴さんに送るわ」
「え、ちょ、園子! それはまずいって!」
蘭の制止も聞かず、園子は今撮ったばかりのさくらの『キス写真』を昴に送信した。
ブーッブーッ
昴のスマホが着信を知らせた。
「園子さんから? 珍しい。どうしたんだ?」
昴はメールのアプリをタップした。
「?!」
『目撃しちゃいました』という件名と共に添付された写真を見て驚いた。
さくらが見知らぬ相手とキスをしている。
「公安の潜入か?」
仕事でハニートラップを仕掛ける場面も無いわけでは無い。
しかしそれにしたって…。
それを知り合いに目撃されているとはどういうことだ…。
当然こんな現場を見せられて、さすがの昴も良い気持ちがするはずがない。
写真の背景から、駅近くの公園だということはすぐに分かった。
居ても立っても居られず、昴は工藤邸を飛び出していった。
***
(まずいな…蘭ちゃんたちがつけて来てる…。
写真撮ってたみたいだし……これは秀一さんにバレたな…)
さくらは、男とおしゃべりをしながら蘭と園子の動向を探っていた。
恐らく先ほど撮られた写真はメールで送られただろう。とすると、秀一さん…いや今は昴さんの事だ…絶対ココに来る…。
さくらはため息をついた。
「ん? どうしたの? 僕とのおしゃべりはつまらない?」
男が心配そうに声を掛けてきた。
「ううん。そんなことないわ。
そうだ! ちょっと移動しない? 私良い所知ってるの」
「良い所? それって…。き、期待…しちゃって良いのかな?」
男は膝をすり合わせてモジモジしていた。
(あ~…いよいよ本性を現してきたかな)
さくらはニッコリ微笑む。
「ええ。期待して…良いわよ」
二人は立ち上がる。
さくらは男の腕に自分の腕を絡ませた。
「ね、ねえ! 腕組んでまたどこかに行くみたい。蘭、行くよ!」
「う、うん」
曖昧な返事をして蘭は園子についていく。
(さくらさんッ! 昴さんがいるのに何やってるのよ!)
蘭は心の中で怒りをぶちまけた。
二人が向かった先はホテル街。
「ちょ、ちょっと園子! これ以上はまずいわよ」
蘭が園子に声を掛ける。
「私達制服だし。こんな所をうろうろしているなんて学校にバレたら…」
「確かにそうね。仕方がない…昴さんを呼ぶわ」
園子は自分たちがいる所を昴に知らせた。
すでに近くまで来ていた昴は、ほどなくして蘭たちと合流する。
園子は二人がホテルに入っていくところを写真に撮っていたので、ホテル街の外で見せた。
「ッ!」
写真を見た昴は何も言わなかったが、かなりショックを受けているようだった。
「す、昴さん…」
蘭は彼にかける言葉が見つからない。
園子も押し黙ってしまった。
「と、とにかくお二人はお帰り下さい。
こんなところにいると、またあらぬ疑いがかかってしまいます」
「わ、分かりました。でも昴さんはどうするんですか?」
「私は…ホテルの出入り口でさくらを待ちます」
「「ッ!」」
昴の言葉を聞いて、二人は顔を見合わせる。
それはそれで、かなりの修羅場になることは容易に想像できてしまう。
しかし昴の悲痛な表情に、二人はそれ以上何も言えなかった。
蘭と園子を見送った後、昴はさくらが入っていったホテルまで移動する。
入り口で建物を見上げた。
(今頃、さくらは何をやっているんだ…)
彼女の性格から考えて、浮気をしているとは思えない。
おそらく組織か公安の潜入で、ハニートラップを仕掛けているのだろうというのは想像できる。
だがそれを受け流せるほど、広い心は持ち合わせてはいない。
昴はギリッと奥歯を噛みしめた。
しばらくすると、遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
(どこかで事件か?)
近づいてくるサイレンの音を、昴は他人事のように聞いていた。
やがてサイレンを鳴らしたパトカーが数台、ホテルの通りに姿を現す。
(ホテルの入り口に居たせいで通報された?!)
昴は一瞬焦った。
ホテルの出入口で仁王立ちする男が一人。
よく考えればかなり怪しい。
どう見たってホテルに入ったカップルを待ち伏せしているストーカーだ。
キキッ!!
パトカーはさくらが入っていったホテルの前で止まる。
いよいよ逃げた方が良いと思った時、ドアを開けて車内から出てきたのは——
なんと風見刑事だった。
「ッ! 沖矢さん! あなたこんな所で何を…」
昴の姿を見つけた風見は、驚いたように声を掛けた。
「えっ! な、何を…と言われましても…。風見さんこそ、どうして…」
明らかに挙動不審な昴の姿に、風見はピンときた。
「私は通報があって来たんです。どうやらあなたも関係者のようだから、一緒に来てもらいましょうか」
「は?」
《関係者》と言われて、まったく何のことだか分からない。
そんな事はお構いなしに、風見に誘導されて昴はホテルの中へと入った。