ペリドットとアンバー短編集
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「さくら、次は何を飲みますか?」
昴は自身の2杯目が間もなく終わるというタイミングだったので、グラスが空になったさくらに声を掛けた。
「う~ん。何が良いかな…。昴さんのお勧めは何ですか?」
「私のお勧めですか? う~ん…それなら、サイドカーなんてどうでしょう? とてもフレッシュなカクテルですよ」
「じゃあ、それお願いします」
バーテンに声をかけてオーダーをすると、昴はジッとさくらを見つめる。
「ん? どうしたんですか?」
「いえ。特にどうということも無いのですが…。
酔ったさくらがどう変わるのか…と興味がありまして」
「まだ変わってないでしょ?」
「ええ。ホントに酔うと変わるのですか?」
「友人から『あなた絶対一人で飲みに行っちゃだめ』と言われるくらいには」
「はあ…」
いったいどうなってしまうのか。
泣き上戸? それとも笑う方か?
まったく想像が出来ない。
「昔ケンバリに行く前、単発の潜入があったの。テロリストのアジトだったバーへ潜入して情報を伝え、その日のうちに一斉検挙。その時にやらかしちゃったのよね」
一体何をやらかしたんだ? そんな話を聞いて昴は一瞬不安になった。
そこへ「お待たせしました」
オーダーしたサイドカーがさくらの前に置かれた。
「さっきのラスティー・ネイルがアルコール度数37度以上…。このカクテルは約20~30度ってところかしら。
おそらくこれを飲み終わった頃、私は変身するかもよ?」
さくらは興味と不安とで複雑な顔をした昴を見て、ニヤリと笑った。
その後も楽しくおしゃべりをしながら、さくらは時折カクテルに口をつける。
顔もうっすら赤みが差し、酔ってきているように見えた。
大きな変化が見えたのは、グラスの半分以上飲み終わった時だった。
さくらはテーブルの上に置かれていた昴の左手を突然握ってきた。
「?!」
昴の左手を自分の右手に乗せ、両手でモミモミと何やらマッサージをするように揉んでいる。
「さくら? 突然どうしたのですか?」
「ん~」
昴の質問には答えず揉み続ける。
モミモミモミモミ………
そのうち昴の左手の指に自分の右手の指を絡ませた。いわゆる恋人繋ぎという状態だ。
「えっ、ちょ、さくらっ」
そのまま昴の左手の甲を自分の頬まで持ってくると、目を閉じて愛おしそうに頬ずりをした。
驚きと照れくささで昴が固まる。
「あはっ! 昴さん固まっちゃった。
私ね、酔うと人の手を触りたくなるの。この手でどんな仕事をしてるのかな~とか考えてね。モミモミしたくなっちゃうんだ~」
上機嫌で昴の手を揉んでいる姿を見て、単発の潜入捜査がどうなったのか昴は心配になった。
「さくら…。もしかして…潜入時もそれやったのですか?」
「うん! もちろん! そしたらね~、そこのボスがね~私を気に入っちゃってね♪
バーの中の音はすべて私が持ってた盗聴器で外の捜査員に丸聞こえだったから、ボスが私のところにピッタリくっついていることを確認した所で、捜査員が突入したんだよ~」
さくらの話に昴は口が開いたままだ。
「手を繋いでモミモミしながら『これ私からのプレゼント♪』ってボスに手錠をかけてあげたら、一瞬何かのプレイかと思ったらしくて喜んじゃって。
本物の手錠だと分かった時の顔ったらなかったわぁ~」
きゃははと笑いながら話すさくらとは対照的に、昴は血の気が引いた顔をしていた。
「さくら、お店出ますよ」
「え、でもまだサイドカー残ってる…」
「私の手、いくらでも揉ませますから」
「んじゃ行く」
左手をずっと揉んでいるので、仕方なくカードで支払いを済ます。
手を繋いだまま通りに出ると、昴はタクシーを拾った。
工藤邸に戻り、ふらふらと千鳥足のりおを連れてリビングまでたどり着いた。
ソファーに二人で腰を下ろす。
酔ってぽあ~っとしているりおをそのまま抱きしめた。
「とんだ酒癖の悪さだ。テロリストのボスにまで…何やってるんだお前…」
「だから…それ以来、お酒飲んでないよ…今日はホントに久しぶり…昴さんと一緒…だったから…」
抱きしめられたままりおは答えた。
「だって、一緒にいてくれるんでしょ?
だから《サイドカー》を勧めたんだと思ったんだけど…?」
「気付いていたのか?」
「うん…」
☆★サイドカー★☆
ブランデーとホワイトキュラソー、フレッシュレモンで作られ、ややアルコール度数が高い。
《サイドカー》とはバイクのサイドカーのこと。
本体であるバイクに連結されていることから、カクテルの言葉は『いつもふたりで』
「嬉しかった…」
「え?」
「ありがとう。秀一…さん…」
そのままスースーと寝息を立てていた。
はぁぁああ…。
昴は大きなため息をつく。
『一緒に酒を飲むのは家だけにしよう…。
他の客にまでアレをやられたら…こちらの心臓がもたない…』
眠るりおを抱きしめたまま、赤井はそう心に誓ったのだった。