ペリドットとアンバー短編集
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とある金曜日の夜。
「…秀一さん、髪伸びたね」
お風呂から上がってきた赤井を見て、りおがぼそりとつぶやいた。
「ああ。さすがに変装しないで街中に散髪へは行けないからな」
死んだはずの人間が街中をうろうろして、しかも髪を切っているなど組織に見つかれば一大事だ。
「私が切ってあげましょうか?」
「りお、カットが出来るのか?」
「まあ…人並みにハサミは使えますよ。最近は幼稚園児でも上手に使いますから」
「おいおい」
赤井が勘弁してくれという顔をしたので、
「ウソウソ。ケンバリにいた頃は仲間の髪をカットした事があるわよ」
フフフと笑いながら答えた。
ちょっと心配にはなったが、赤井はりおにお願いすることにした。
首にタオルを巻き、ヘアカット用のケープをふわりと掛けた。
風呂上がりで濡れていた髪をくしでとかす。
「じゃあ始めますよ」
ヘアクリップでいくつかにブロッキングすると、チョキチョキと軽快なハサミの音が聞こえてきた。
「ライの時…すごく長くてキレイな髪だなって思っていたのよね」
昔を懐かしむ様にりおは微笑んだ。
「そうか? 特に手入れをしていたわけでは無いんだが…」
「そうなの? それであんなにキレイだったの? ある意味腹が立つわね」
りおは手を動かしながら憎まれ口をきくように言う。
「俺はりおの髪好きだが」
「え~…そう? 秀一さんみたいにキレイじゃないよ。黒というより栗色に近いし。クセもあるからすぐうねる」
「あ~それは分かるな。俺もくせ毛だから雨の日はまとまらん」
いつもニット帽かウィッグをかぶっているのに、まとまらないとか気にするのか…、と思ったがりおは黙っていた。
「そういえば、世良さんもくせ毛ね」
夏休みに恋バナをしに来た時の事を思い出す。
「母親がくせ毛なんだ。兄弟3人ともその遺伝子を貰ったらしい」
言われてみれば太閤名人も毛足が長いせいで二人ほどではないが、髪が跳ねている。
「くせ毛は優性遺伝。全員もれなくお母様から頂いたのね」
りおは最後のヘアクリップを外しながらクスクスと笑っていた。
チョキチョキチョキチョキ…
「はい、こんな感じでどうですか?」
りおは赤井に鏡を手渡す。
「りお、お前上手いな」
「でしょ~。専属のヘアメイクさんとして雇ってくれても良いわよ」
道具を片付けながらりおは冗談半分に言った。
「そりゃあ良い考えだ。ぜひこのまま雇ってしまおう。では今回の報酬は何が良い?」
ホントに? と、りおは驚いた顔をする。
赤井はどうやら本気のようで、りおが何をおねだりしてくるのかと嬉しそうな笑顔を見せていた。
りおは「そうね…」と言って考え込んだ。
「カット一回につき、デートっていうのはどう?」
「デート?」
「そ。私のやりたいことに付き合うの」
「分かった。良いだろう。で、今回は何がしたいんだ?」
「へへへ~」
りおはいたずらっ子のように微笑んだ。
次の日の夜———
昴とりおはバーにいた。
「バーボンをロックで」
「私はラスティー・ネイルを」
「かしこまりました」
二人のオーダを聞くと、バーテンは手際よく準備を始めた。
最初にスコッチウィスキーのボトルキャップを美しい所作で開け、氷の入ったロックグラスに注ぐ。
続いてドランブイを注ぎ、軽くステアした。
そのまま流れるようにバーボンウイスキーを氷の入ったロックグラスに注ぐと、二人の前に店の名が入ったコースターを置く。
その上にグラスを静かに置き「お待たせしました」と声をかけた。
二人はグラスを手に取ると、ニッコリ微笑んでそのグラスを目の高さまで軽く持ち上げる。
一口カクテルを味わった。
「さくらから『飲みに行こう』と誘われるとは。驚きましたよ」
「ふふふ。そうね。一度昴さんと来てみたかったの。こういうお店」
「普段は飲まないじゃないですか。てっきり飲めないのかと思っていました」
「いや、飲めなくは…ないんだけど…」
「けど、なんです?」
「それは…今夜昴さんが見て確かめて」
さくらは昴の質問をひらりとかわした。
「ほ~。まだ私の知らないさくらの顔があるというのですね。それは楽しみだ」
昴はテーブルに右肘で頬杖を突くと、さくらの顔を見て微笑んだ。
「昴さんは普段から飲んでいるし、飲んでもあまり変わらないわよね」
「まあ、そうですね。」
「ベロベロの昴さんとか見たことが無いわ」
「ベロベロに酔わせたいんですか?」
「見てみたい。面白そうだなって」
「今度家でなら…それくらいに酔うまで飲んでみましょうか?」
「なんか家中酒瓶だらけになりそうね…」
さくらは想像して笑う。
「さすがにそんなことにはならないと思いますが…抑制が効かなくなるので…さくらは逃げた方が良いかと」
「えっ?」
「私に襲われるという意味で」
「ええっ!!」
さくらは顔を赤くして心底驚いた顔をした。
「ウソですよ」
「もう! 昴さん! 本気にするでしょ!」
コロコロと表情を変えるさくらを見て、昴は嬉しそうに笑う。
「ホント、さくらはカワイイですね」
思ったことが素直に口をついて出た。
「昴さん、もう酔っているの?」
照れた顔を隠すように、さくらはそっぽを向く。
その姿もまたカワイイのだが。
昴はフッと笑って再びロックに口を付けた。