ペリドットとアンバー短編集
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最近赤井はりおのことで悩んでいた。
彼女が無茶をするとか、言い出したら聞かないとか、そういうことでは無い。
まあ、それも悩みのタネではあるが。
今絶賛悩んでいるのは、彼女が最近『秀一さん』と呼んでくれないことだ。昴の姿でいるのだから当然といえば当然だが。
でも、自分は『さくら』と『りお』を使い分けている。
二人きりの時は『りお』と呼んでいるし、誰かがいたり、外にいる時は『さくら』と呼んでいる。
二人きりの時くらい呼んで欲しいと思うのはわがままだろうか…。
「はぁぁ…」
自分がこんなことで悩むことになろうとは。
広瀬りおという女性はなかなか罪作りだ。
これも惚れた弱みというものか…。
「昴さ~~ん! ちょっとお願い~!」
ほらまただ。いや、確かに今の姿は昴だけども。
「はい……どうしました?」
しょうがない。昴と呼ばれれば、返事をしない理由もない。
「あれ? どうしたんです? 明らかに今イヤ~な顔しましたよね?」
「い~え。そんな事ありませんよ」
「なに、その投げやりな言い方…。どうしたんです? 具合でも悪い?」
こういうところ…彼女はニブイ。
「別に。なんでもないです」
「あ、絶対なんかご機嫌損ねたでしょ? 私何かした?」
大の大人が『名前で呼んで欲しい』なんて、さすがに恥ずかしくて言えない。できれば察してほしいのだが…。
りおはまだしつこく「どうしたの?」を繰り返すが、昴は無視を決め込んだ。
そんな赤井の様子を見て、りおは「ん~~」と悩む。
(これはもしかして、もしかするかも)
りおにも思い当たる事があった。
赤井は時々『沖矢昴』に嫉妬することがある…という事を。
そして最近はサカモトビルへの潜入を目前に控え、体調を整えるためにりおは昴が入浴する前にベッドに入っている。
つまり『赤井秀一』に会えていない。
(よ、よ~~し…。ちょっと恥ずかしいけど、カマかけてみようかな)
悪戯心も手伝って、りおはそっとソファーに座る昴に近づき、彼の首元に腕を絡ませる。
昴の左耳に唇を寄せてつぶやいた。
「秀一…何怒ってるの?」
すると昴の体が盛大にビクッと跳ねた。
その反応に気を良くしたりおは、さらに耳元でつぶやく。
「私が愛しているのは秀一…あなただけなのに」
そう言って昴の耳に「チュッ」とキスをした。
真っ赤になった耳を見て、(ふふふ! してやったり!)と思ったのもつかの間、りおは両肩を掴まれ、あっという間に押し倒された。
昴を見上げると、そこにはウィッグを外し8割くらい赤井戻った、余裕のない顔の『秀一』がいた。
「ッ! りお!」
顔を赤くして眉が下がっている。いつものクールな赤井秀一はどこにもいない。
りおはニッコリ笑って、両腕を彼に伸ばすと、「秀一さん抱きしめて」とお願いした。
すぐに赤井は抱きしめてくれた。
しばらく抱き合っていると、赤井は小さくつぶやいた。
「時々でいいから、名前…呼んでくれないか?昴の姿をしていても…本名を…」
拗ねてた原因はそれですか…。
りおは合点がいった。
「あなたも私のこと、呼び分けてくれているものね…。
じゃあ、あなたが私をりおって呼ぶとき、私も秀一さんって呼んでいい?」
りおの提案に昴が…いや、秀一がうなずいた。
「じゃあ、秀一さん、お願いがあるの」
「…」
「?…どうしたの?」
「き、キャラを迷ってしまう…」
「はい?」
「昴で返事をしたらいいのか、秀一ですべきか…」
どうやら耳元で『秀一』と呼び捨てにしたのは相当の効果があったらしい。
体を離して顔を見ると、頭から湯気が出ていそうなくらい照れていた。
あなた、アメリカ人ですよね?
本国で絶対呼び捨てされてたよね? ジョディとかに。
そうツッコミたかったが、可哀想なのでやめておいた。
「えっと、8割くらい秀一さんになっているので、秀一さんで良いと思うけど…」
「あ、ああ…そ、そうか…。ウィッグ…外したから…」
驚くほどしどろもどろだった。
なに、このかわいい人は…。
りおは初めて見る赤井の様子に興味津々だ。
これは時々呼び捨てで攻めてみようと、心に決めたのだった。
==おまけ==
「りお、やっぱり昴の姿の時は『昴さん』でいい」
あれから3日ほどして、突然赤井がりおに向かって言った。
「え? どうして?」
本名で呼んで欲しいと言ったのは赤井本人だ。それがまだ3日しか経っていないというのに…。
「き、キャラが崩壊しそうだ。他に誰かがいる時でも、ふと思い出してしまって昴になり切れなくなる…」
意外過ぎる理由にりおはあっけにとられた。
「『秀一』って呼び捨てにされたの、嫌だった?」
悪いことしちゃったかなと思い、訊ねた。
「わっ!バカッ! お、お前に『秀一』って言われるとめちゃくちゃ照れるんだッ!」
真っ赤になった赤井はフィッとりおから顔を背けた。
「ええ~。もっと呼んであげようと思ったのになぁ」
さも残念そうにりおが言うと——
「……襲うぞ」
「え?」
顔を背けたまま赤井がつぶやく。
「今度呼び捨てにしたら、襲うからな」
「ええ~~?!」
真っ赤な顔してオオカミ宣言をする赤井に対し、なんとも理不尽だと思うりおだった。