ペリドットとアンバー短編集
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「昴のお兄さんこんにちは~」
少年探偵団の5人が工藤邸へとやってきた。
平日の学校帰り。さくらはいない。
ひとり暮らしとなった昴が寂しくないように…との名目で、時々顔を出してくれるようになったのだが、今では昴との謎解きやおしゃべり目的でやってくることが多い。
「お兄さん!聞いて~! 今日歩美ねぇ~」
「おう! 兄ちゃん! この前のカレーすっごい旨かった。まだあるか?」
「昴さん! 僕この前この本読んだんですけど、すごく面白くて…」
玄関を入るなり、子どもたちは昴を囲んで各々好きなことを話し出す。
昴は嫌な顔一つしないで一人一人に対応していた。
その姿を見てコナンはため息をこぼす。
「あれじゃあ昴さんが可哀想だ…」
「そんな事ないんじゃない? 彼、なんだかんだで楽しそうよ」
後ろから哀が反論した。
まあ、確かに嫌ではないんだろうなとは思う。だが中身はあのクールな赤井だと思うと、目の前の光景がなんだか嘘のようだ。
「そうそう。今日はね、お兄さんに相談があるんだ~」
一通り昴に話を聞いてもらってようやく落ち着いた頃、歩美が声を掛けた。
「相談…ですか? なんでしょう?」
また博士の謎解きのお誘いかなと、昴は思った。
「実は皆でさくらお姉さんに《サプライズ》を仕掛けたいの」
「サプライズ?」
「うん。秋になって最近雨の日が多いでしょう? 一人暮らしになったから、きっと寂しい思いをしてるんじゃないかと思って」
さくらが『雨の日が苦手』だということをコナンから何となく聞いた子どもたち。
雨を晴れには出来ないけれど、さくらをほんの少しでも元気にしたい。そんな気持ちから、今回のサプライズ話が持ち上がったようだ。
「なるほど。分かりました。きっと喜ぶと思います。
で、どんなサプライズを仕掛けますか?」
昴は子どもたちに問いかけた。
「まず、雨の日に姉ちゃんの後をつけて、皆で脅かすってのはどうだ?」
「元太くん、それじゃあストーカーですよ。しかも脅かしてどうするんですか?」
「え? サプライズって脅かすんじゃねえのか?」
「《脅かす》のではなく《驚かす》方ですね。元太君はちょっと勘違いしてます…」
光彦はため息交じりに説明をした。
「もう! マジメにやってよ。お姉さん雨の日は寂しい気持ちになっちゃうんだって。
だから気持ちが明るくなるようにしてあげなくっちゃ」
歩美にもたしなめられて、元太はしゅんとしてしまった。
「今度の金曜日も雨の予報が出ているわ。この日はちょうどさくらさんもここに来る日だし、皆で集まってサプライズパーティーみたいなのはどう?」
「パーティー?!」
哀の提案に、さっきまでしょげていた元太の表情も一変した。
もちろん美味しい食事を想像したからだ。
「学校がある日だから、凝った料理は出来ないんじゃないか?」
コナンはちょっと心配顔だ。
「材料だけ用意して、皆で作りながら食べられる物なら良いと思うわ。
手巻き寿司とか、クレープとかなら、事前に作らなくても良いでしょう?」
「なるほど。良い案ですね。ただ一つ心配があります」
哀の提案に賛同しつつも、昴が口を開く。
「さくらはいつも夕方6時過ぎには帰ってくるのですが、たまに4時頃に帰ってくることもあるんですよ。教授のご都合だと思うのですが…。
次の金曜日は確か早く来れそうだと言っていました。そのままさくらがここに到着してしまっては、準備が間に合わずサプライズになりません」
「確かに4時ではいくら何でも間に合わないわ」
哀の表情が曇った。
「じゃ、じゃあ僕たちで足止めしてはどうですか?」
光彦が閃いた! と言わんばかりに大きな声で提案した。
「足止め?」
歩美は不思議そうに光彦を見ている。
「はい。大学の前で待ち伏せして、さくらさんと合流した後、あっちこっちへ引っ張り回すんですよ。それで時間稼ぎをすれば…」
「足止めって言ったってどこ連れて行くんだよ。灰原と歩美ちゃん、博士、昴さんに会場や食事の準備をお願いするとなると、足止め要因はオレ、元太、光彦の3人だぞ」
「何か無くした事にして探すとか」
「雨降ってるのにか? 皆風邪ひいちまうだろ」
コナンと光彦が意見を出すが、なかなか話がまとまらない。
「では、私が足止め要因として行きましょうか?」
昴が助け船を出した。
「会場の準備ならコナンくんと博士がいれば、家の中の事は私でなくても分かりますし。
適当に理由をつけてスーパーにでも誘えば、ついでに足りないものの買い出しもできますしね」
「それは名案ね」
珍しく哀が笑顔で賛同した。
「じゃあ、決まりですね! 昴さんお願いします」
光彦も笑顔になった。
その他の役割分担もどんどん決まった。
「じゃあ、金曜日!」
「うん! 予定通りね!」
子どもたちは笑顔で帰宅した。
そしてサプライズ当日——
朝、光彦は学校で皆を集めた。
「どうしたんだよ光彦。今日は予報通り朝から雨だし、サプライズは決行だろ?」
突然の招集にコナンは不思議そうだ。
「えへへ。実は僕良い事考えちゃったんですよ。実は…」
ごにょごにょごにょ……
「ええ?! マジでか?」
「まあ、もしやれそうだったら…ですよ」
「歩美見たいかも~♪」
「さくらさん、怒るんじゃない?」
反応は様々だ。
どうなるか…オレは知らないぞ…。
コナンはやれやれ…とため息をついた。
学校のチャイムと同時に学校を飛び出した少年探偵団の面々。5人が工藤邸に到着したのは3:15だった。
食材の用意は博士と昴のおかげで、午前中にだいぶ進んでいた。哀と歩美と博士で盛り付けなど準備を始める。
コナン、光彦、元太はイスやテーブルを運び、会場の準備も滞りなく進む。
「じゃあ、私はこれで大学へ向かいます。何か必要なものが有ったらメールください」
「うん。分かった」
後を頼んで昴は傘をさし、大学へと向かった。
3:45頃大学の正門に到着した。
しばらく門の前で待っていると、構内から傘をさして歩くさくらの姿を見つける。
昴が立っている事に気付いたさくらは慌てて駆け寄った。
「昴さん! どうしたんですか? こんな雨の中…」
さくらは息を切らして昴に訊ねた。
「買いたいものがあったので、このまま一緒にお店に行こうかと思いまして」
「買いたいもの? なんですか?」
「えっと…卵を。土日にさくらのスパニッシュオムレツが食べたくなって」
「スパニッシュオムレツ? 良いですよ。じゃあスーパーに寄りましょうか」
特に疑うことなく、さくらはスーパーへと体の向きを変えた。
雨が降っていたせいか表情は暗かったが、昴と会ってほんの少し頬に赤みがさした。
スーパーに着くとカートを用意して、二人で並んで歩く。土日に使う他の食材も、相談しながらカゴへと入れていった。
途中トイレに行くと言って昴はさくらから離れ、メールを確認した。
「え? こんなに?」
メールに書かれていたのは大量のお菓子やジュース。量が多すぎてパーティーだとバレてしまいそうだ。
慌ててコナンに電話をした。
「ごめん。昴さん。ちょっと目を離したスキに元太が送ったんだよ。全部無視してくれて良い。お菓子は博士も用意してくれたから」
「そうですか」
昴はホッと胸をなでおろす。
手巻き寿司用の海苔が足りなそうなので、それだけ買ってくるように言われた。
さくらと合流し買い物を続ける。
海苔のコーナーは難なく見つけることが出来た。が、困ったことが発生した。
(海苔ってこんなに種類があるのか…)
乾燥海苔、焼き海苔、味付き海苔。
サイズもいろいろだ。
(さて、どうしたものか…)
昴は海苔売り場で立ち止まると、そのまま石のように動かなくなってしまった。
「昴さん、どうしたんですか? 海苔? 海苔食べたいんですか?」
いつもは素通りしてしまうコーナー。そこで難しい顔をしている昴を見て、さくらは驚いたように声をかけた。
「え? ああ…手巻き寿司を食べたことが無くて…。一度食べてみたいと思ったんです」
「手巻き寿司? 巻き寿司ではなく?」
「?」
二人の頭に「?」が浮かぶ。
「手巻き寿司と巻き寿司は違うんですか?」
「ええ。まあ形が違うだけと言えばそうなんですけど…。手巻きの方が、自分で好きな具をのせて食べるってイメージがありますね」
「あ、それです。それ食べてみたい」
「じゃあ、この海苔で良いと思います」
さくらは「ふふっ」と笑ってカゴに入れた。
「手巻き寿司なら…お刺身も買っていきましょうか?」
流れ的には当然の提案だが昴は焦った。お刺身は博士が山ほど用意したからだ。
「え…。いえ。それは大丈夫です」
「お刺身のない手巻き寿司?」
「あ…いえ…とりあえず今回じゃなくても…」
「海苔だけ? 用意しておくのですか?」
「おにぎりに使っても良いじゃないですか」
「まあ、そうですけど…」
何となく合点がいかないという顔をしながらも、さくらはそれ以上突っ込んでこなかった。
(危ない危ない。慣れないものを買うもんじゃないな…)
昴は小さくため息をついた。