ペリドットとアンバー短編集
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工藤邸を出て4日後、ラスティーは久しぶりに組織の自分の部屋を訪れた。
部屋でPCを立ち上げ、デスクの片付けをしているとドアのノックが聞こえた。
「俺だ。入るぞ」
そう声が聞こえると、入ってきたのはジンだった。
「やっと戻ってきたか…。体調はどうなんだ?」
ラスティーの顔色を伺うように声をかける。
「おかげさまですっかり元通りよ」
視線だけジンの方へ向け、笑顔で答えた。
「私がいない間にずいぶん動きがあったようね、ジン。あなたもお疲れのようじゃない」
疲れた顔をした相手に、ラスティーはあえて話を振ってみる。
「お前がいないのは痛手だったよ。ポンコツな親子と、あのマッドサイエンティストのせいで大事な計画がパァだ」
苦虫を潰したような顔でジンは吐き捨てるように言った。
「ところでラスティー…」
名を呼んでジンが近づく。普段より距離が近い。ラスティーは一瞬息を飲んだ。
ジンはそんなことに構うことなく、スッとラスティーの首元に顔を寄せる。
「お前の近くに喫煙者がいたのか?」
ラスティーはドキリとした。だが、そんな素振りは見せず、
「ええ。お世話になった精神科医はヘビースモーカーだったわ。あと、ここへ来る前に久しぶりに大学に顔を出したら、目当ての教授が喫煙室にいたから…そのせいかしら」
「なるほど。その匂いか…。だがお前にタバコの匂いは似合わない。次は気をつけるんだな」
耳元に唇を寄せ、吐息がかかる距離で言われる。ピクッと肩が揺れた。
「なんだ、お前もそんな可愛い反応が出来るのか。なんなら抱いてやってもいいぜ」
反応に気をよくしたジンがニヤリと笑う。
「馬鹿言わないで。ビジネスパートナーと寝る趣味はないわ。それより今回の騒動、詳細を分かるようにしておいて。どうせまだ後処理が全部終わっていないんでしょう?
ウォッカが一緒じゃないところを見ると、彼…今頃死にそうな顔でやってるんじゃない?」
そう強い口調で言うと、ジンは目を丸くした。
「ふッ…はははは。こりゃウォッカも形無しだな。そこまで読んでいるとは。
お前の言う通りだよ。お前が戻ってきて一番喜んでいるのはアイツだろうよ」
口角を上げて心底楽しそうに笑う。
「あとで資料を届けさせる。頼んだぞ」
それだけ言うとジンはクルリと向きを変え、部屋を出て行った。
ラスティーはすぐさま盗聴器の類が仕掛けられていないか、部屋を確認した。
幸い仕掛けられていたものは無かったが…。
「これ…どうするのよ…」
ジンに耳元で囁かれた時に付けられたキスマーク。
ラスティーはジンのお気に入りとよく言われるが、今まではどちらかというと『妹分』のように扱われていた気がする。
今回のような色を含んだ発言など皆無だった。
ジンの態度が少し変わったことに警戒心を抱く。
(あの男の洞察力は桁外れ。注意してしすぎる事は無さそうね。
タバコの匂いも気を付けないと…)
ラスティーはひとつため息をついた。
「週末までに消えるかなぁ…」
鏡を覗き込んでつけられたキスマークを見る。赤井の顔が浮かんだ。
週末、りおは工藤邸へと向かった。
工藤邸を出てから初めての訪問…。
一週間ぶりに昴と顔を合わせた。
「りお、体調に変わりは無いですか?」
昴は、カフェオレの入ったカップをりおの前に置きながら訊ねた。
「ええ。問題ないですよ。昴さんは? 右肩のケガはもう良いの?」
本社ビルに潜入した際、少年に殴られたところは、骨折こそしていなかったものの酷い打撲だった。
「痛みはだいぶ引きましたよ」
そう答えると昴はにっこり微笑んだ。
「今週は大学と、組織の方にも顔を出したのでしょう? どうでした?」
「大学は特に問題なく。森教授の方も風見さんが時々連絡を入れてくれていたので、『良かったな』と労っていただきました」
森教授は公安の協力者でもあり、理事官とも旧知の仲だ。麻薬についてもある程度知識があるため、今回公安でもだいぶお世話になったようだった。
「組織の方は? ジンとは会いましたか?」
「会いましたよ。私がいなかったのは痛手だったと言っていました。後処理がまだ終わっていないので、こちらにも回ってきそうです」
「特に何か疑ったりしていませんでしたか?」
昴は幾分顔を強ばらせる。わずかに声が低くなった。
「ええ。大丈夫です。ただ…」
「ただ?」
「私からタバコの匂いがすると言われました」
カフェオレを一口飲んでりおは続ける。
「直前に大学で森教授の頼まれ物を届けに喫煙室に入ったので、そのせいだと思うのだけど…。ちょっとドキッとしました」
りおは自身の胸に手を当て、ふぅ…と小さく息を吐く。
「そうですか…。私もりおの前では吸わないようにしないと…」
昴は心配そうにりおの顔を見つめた。
「ん? りお。右の首の所どうしました?」
「え?」
ドキリとりおの心臓が跳ねた。
「?」
右耳近くにうっすら小さな赤い跡。
「こ、これ? あ、あ~なんだったかなぁ…」右の首を押さえ、りおの目が泳ぐ。
「ぶ、ぶつけた? かも?」
「何をそんなに動揺しているんです」
「ど、ど、動揺なんてしていませんよ」
「…明らかにしてますよね…」
ガタッと席を立った昴は、りおへと近づく。右の首筋に顔を寄せた。
「キスマーク…ですか?」
先ほどよりももっと声が低くなった。
それ以上何も言わず、冷たい視線でキスマークを凝視する。
「じ、ジンがタバコの匂いがするって、私に近づいて…首筋の匂いを嗅いだの。その時に…」
ちゅくっ
「ッ!」
同じところに昴が吸い付く。そのまま耳たぶまで甘噛みされた。
「ッんぁっ…」
予想もしない事が起きて、りおは思わず声が出てしまった。
「そんな色っぽい声もジンに聞かせたのですか?」
「そ、そんなわけないでしょッ!」
りおは手で耳を覆う。顔を赤くして抗議した。
「昴さんだって、高校生のコスプレしたジョディにキスマーク付けられてきたでしょ。園子ちゃんから聞いたわ」
「ッ! そ、それは…!」
まさか今その事を持ち出されるとは思わず、昴も動揺した。
「わかってる。不可抗力でしょ? こちらにその気が無くても、相手がイタズラ心でつけたんでしょう。だから意地悪言わないで」
そう言われてしまうとぐうの音も出ない。
「意地悪する昴さんにはお仕置きよ!」
りおはニヤリと笑うと背伸びをして、昴の左首筋に唇を寄せる。
ちゅっ
「ッ!」
温かなりおの唇が肌に触れたと思ったら、チクリとわずかな痛みを感じる。
すぐにリップ音が聞こえ、りおの体が離れていった。
たったそれだけで、少し寂しいと思ってしまうなんて。自分はかなり重症なようだ。
昴は無言でりおの顔を見つめる。
「ふふふ。お揃いになったね」
昴の気持ちなんてまったく知らず、りおはニッコリ微笑んだ。
(俺にとってはご褒美になるって事に、気付いていないか…)
昴もつられて微笑むと、ご満悦のりおを見つめたのだった。
=おまけ=
「この後少年探偵団が遊びに来ると言っていました。どうしましょうか…このキスマーク」
「ゲッ!! 早く言ってよ昴さん!!」
「りお。かわいい顔して『ゲッ!』は無いでしょう…」
「だって、それ(キスマーク)見たら、絶対光彦君や、哀ちゃんが何か言うよね? 誰が付けたのとか、いつ付けたのとか…」
「もちろん、私は『あなたにさっき付けられた』と言うでしょうね」
「だから『ゲッ!』なんだって!!」
「他の女性に付けられたって言ったら、もっと『ゲッ!』ってなるでしょう」
「あ……確かに…それもそうね……」
「じゃあ、『あなたがさっき付けた』って事で良いですね」
「あ……うん…そう…だね」
(りお…ちょろい…。ちょろすぎて…逆に心配になるな…)
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赤井さんの前では…りおは盲目なのです(笑)